怨念、そして敗北
それから幾度かのシュターベンとの戦闘をこなし、最初は最悪だった私達二人のムードも悪くはなくなってきていた。
そんなある日の事だった。
「サヤ、シュターベンが出ました」
「はいはい、りょーかい。場所は?」
「セントラル公園地区、ですね」
「此処からすぐ近くね。さっさと行こうか」
セントラル公園地区。
豊かな緑と綺麗な小川。
様々な小型動物達も生息するセントラルのオアシス的な場所だ。
気軽に、そして安全に自然と触れ合えるスポットだ。
其処にそのシュターベンは立っていた。
スマートな体は、多くのシュターベンの例に漏れず虫のようなフォルム。
あの感じだとカミキリムシを連想する。
その背中にはトンボのような翅が生えていた。
左手が鋭く尖っており、痛そうだ。……そりゃ痛いか。
「あのシュターベン、は……」
ルミナの呟きが私の耳に届く。
普段のルミナとは違う……どころか、シュターベンを前にした時のルミナの声とも違う。
その声には明らかな敵意と憎悪が込められているのが解る。
「ルミ、ナ――」
聞かずとも解った。
それが……そのシュターベンが……ルミナの家族の仇だと言う事は。
「ルミナ!!」
私の声が届くより早く、ルミナはランチャーを手にしシュターベンへと向かっていく。
ちっ、と舌打ちをし私もその後を追いかける。
『キリュ――』
ルミナを正面から見据えるシュターベン。
ルミナが手に持ったランチャーの引き金を引く。
鋭い杭がシュターベンに向かって真っ直ぐに飛び出した。
だが、シュターベンは杭を軽く避けるとルミナの脇を通り抜け、私の方へと向かってきた。
「ちぃ――来るなら来なさい!!」
私は、素早く呪布を三枚取り出す。
すると、それを目の前に投げつけて言葉を紡ぐ。
「風よ燃えよ――そして、切り裂け!!」
私の言葉に反応し、布に内包された魔力が解き放たれる。
炎を纏った風の斬撃がシュターベン目掛けて飛翔する。
それに対しシュターベンは、左手をそっと胸元まで持ってきた。
『ゥルルルルル――』
奇妙な唸り声を上げたかと思ったら、左手に仄かな輝きが見えた。
「何を――」
『ガァ!!』
その輝きは刃となり、私の放った炎刃とぶつかり合い、消え去る。
「うっそ……シュターベンが魔術を!?」
今までの報告で魔術を使用するシュターベンとは報告されていない。
また、初期と現在でその強さが違う、と言う事は何らかの学習機能、強化機能が付いている訳で……
「厄介な事になったわね!!」
そう呟きながら、デバイスを手に取り鎧を身に纏わせる。
ずっしりとした角ばったフォルム。防御力を重視した重装形態だ。
私はもう一発、攻撃魔術を行おうと札を取り出し言葉を紡ぐ
「風より速く、鉄より硬――」
その時、私の目の前にルミナが飛び出してきた。
その手には二刀のサーベル。
「――くぅ!? ちょっとルミナ!!」
危うく呪符を解く、ルミナに攻撃魔術をぶつけてしまう所だった。
或いは、そうしていた方が良かったのかもしれなかった……
「うわぁぁぁあああああああ――!!」
ルミナはサーベルを交差させシュターベンへと突っ込んでいく。
明らかに無謀、明らかに無茶。
「ルミナ――!!!!」
私の叫びは届かない。
切りかかってきたルミナ、その単調な太刀筋を軽く交わした後、ルミナの腹部に鋭い一撃を食らわす。
「ぐぅ…………」
たまらず膝を折るルミナ。
「ちぃ――」
私は鎧の外装を剥ぎ取り、軽装形態へと変化、それから加速形態へと変わるとシュターベンを一発殴りつける。
遠巻きに援護をしていた戦闘員達も隊長の危険に姿を現す。
だが――ダメだ。
「ちょっと、アンタ達は引っ込んでなさい! ルミナは問題無いから――」
しかし、その言葉に応じる者は居ない。
「アンタ達――!」
すると、その戦闘員の内の一人が口を開いた。
「私達は隊長の指示しか受けない。私達は隊長の命令通りシュターベンを討伐する」
「何言ってんの!? アンタ達じゃ勝てない事は明白でしょう!!」
「関係無い話だ。其処まで言うのなら貴女は下がっていてください。隊長のお体も心配です。隊長を連れて安全な所で待機していてください」
「な――――」
私が返す言葉に詰まっているその間に、戦闘はもう始まっていた。
そして最後に、戦闘員が私に一言こう告げた。
「隊長をよろしくおねがいします」