貴女の死線
私達が到着した時には、戦闘は始まっていた。
現場へと向かう途中にルミナが指示を出していたのを聞いていたから想定の範囲内ではあったのだが。
「第弐小隊、第陸小隊は散開。私達の援護にまわりなさい」
魔導事件対策実行部隊には全部で七つの小隊が設けられている。
ルミナとその護衛三人で組織された第零小隊を初めとして各小隊四人で構成される総勢二十八人のチーム。
それが魔導事件対策実行部隊だ。
この部隊は、有志を求め作った部隊である為か人数がかなり少ない。
発足当時はもっと人数もあったらしいのだが、シュターベンとの交戦での死傷者や、仕事の危険性の大きさから脱退する人も多いという。
また、シュターベンの能力も関係しており、初期のシュターベンは比較的弱く一体五人程度で在れば容易く倒せたらしいが、ここ最近にはずば抜けて強力な固体なども現れており危険度が非常に高いらしい。
「さぁ、サヤ・イヴェルス。貴女のお手並みを拝見させてもらうわ」
「ルミナこそ、脚を引っ張らないでよね」
私達は、褐色に濡れた蝗を思わせるシュターベンへと向かって駆け出した。
ルミナの攻撃は思いのほか激しかった。
その姿には鬼気迫るものがあった。
冷たく、だが激しい。
普段でさえ冷静沈着な冷たさを持つルミナ。
しかし、今のルミナは何かが違っていた。
初めに手にしたライフル銃の弾をフルオートで斉射しながらシュターベンへと突っ込んでいく。
間合いがある程度詰まった所で、肩ににかけたランチャーをシュターベンへと向けて発射した。
『ギリゥゥゥウウウ』
シュターベンの肩にはルミナのランチャーから射出された杭が深々と突き刺さっていた。
私はルミナの戦い方に一抹の不安を抱く。
「ルミナ――あまり突っ込み過ぎたら……」
「問題ありません!」
シュターベンが苦しげに呻きながらも腕を振り上げる。
ルミナは先ほどのランチャーを射出した時の反動で動きが鈍っているようだった。
私は仕方なくシュターベンとルミナの間に入りシュターベンの腹部を腕が振り下ろされるより早く鎧を纏った拳を叩きつけた。
「ルミナ、今あぶな――」
私の言葉も聴かずにすぐさま懐から短剣を取り出し、吹っ飛ばされたシュターベンの元へと駆けた。
その意識は明らかにシュターベンにしか向けられていない。
どうして。
「なっ――ルミナ!」
ルミナは手にした短剣をヒュイとシュターベンへと投げつける。
短剣は見事シュターベンの胸に突き立ち、仄かな光を放ち始めた。
「光は熱く。穿て――」
ルミナの言葉に従うように短剣の光は一瞬で大きくなりシュターベンを消滅させた。
「任務完了……さぁサヤ、聖母様へ報告に行きましょう」
ルミナは、普段とは違った声色で私にそう告げた。
シュターベンと戦っていた間、ルミナを取り巻いていた奇妙な雰囲気。
あれは――何だったのだろうか。