同食嫌悪
「ててて……あーもう、右手痛ぁ……」
赤くなった右手をひらひらと振りながら私はある蕎麦屋に来ていた。
とても小さな蕎麦屋でカウンター席しか存在しないが、手軽な値段と豊富なメニューで(と言っても蕎麦しか無いが)セントラルに言ったら必ず顔を出すほど好きな蕎麦屋だ。
オススメのメニューは山掛け天蕎麦。
とろろと天ぷらのバランスが絶妙だと思う。私は。
しばらくたって私の注文した山掛け天蕎麦が目の前に置かれた。
それを食べようとお箸を割った所で暖簾をくぐり誰かが入ってきた。
そして、ついさっき聞いたような声がした。
「おじちゃん、山掛け天蕎麦一つください」
私は恐る恐る声のした方を振り返る。
すると案の定、そこにあったのは時渡ルミナの姿であった。
ルミナも私の姿に気付き顔をしかめる。
更には私が食べている物を目にして、もっと嫌そうな顔をした。
「何で貴女が此処にいるんですか……」
「それはこっちの台詞よ、せっかくゆっくりと蕎麦が食べられると思ったのに」
「それこそ此方の台詞です。オマケにメニューまで被るなんて」
「うっさい、私はこれが大好物なのよ」
「――――私もですよ」
互いに食事を済ませても尚、私達の口論は続いていた。
「そんなに早く食べて味わかんの?」
「普段はもっとゆっくりです。貴女がいなければですがね」
「何よ、私のせいだって言いたいわけ」
「さぁ……」
その時、不意にルミナの懐からピリリリリと電子音が鳴った。
「――シュテアベンです。非常に不愉快ですが聖母様との約束です。貴女も来てください」
「はいはい、とっとと行くわよ」
そして私達は代金を払い、蕎麦屋を後にした。