最っ悪の依頼内容
ロワーさんの待つ大聖堂。
内装こそシンプルなものの、不思議な魅力や迫力を持つ大聖堂。
天井のステンドグラスには天地を創ったと言われる四柱の原初聖霊とこの世界の化身とされる一柱の神が描かれている。
そのステンドグラスを通して、暖かな光が二人を包み込んでいる。
ずらりと並んだ横長の椅子の内、最前部左側の椅子に私とロワーさんは腰掛けていた。
「サヤちゃんはシュターベンって知ってますか?」
ロワーさんの質問を聞き、私はげんなりとなる。
「詳しい事は知らないけど知ってるわ。何か人間みたいな姿だったりじゃなかったりする怪物でしょ?」
私の適当な言葉に、苦笑を見せるロワーさん。
「まぁ……そうね。シュターベン、人を襲い、殺し、その人の体を乗っ取る謎の生物。ここ数ヶ月で急に現れたのよ」
「ふーん……謎の生物、ね。何、私にもソイツをやっつけて欲しいとか?」
ロワーさんが何かを答えようとしたその時、不意に扉の開く音が来た。
「良かった、間に合った見たいね……」
「ん、誰?」
私はこの聖堂へと入ってきた人物の姿を見ようと、椅子から立ち扉の方へと目を向けた。
「な、アンタ――さっきの……」
「貴女は……また会いましたね」
其処には先ほどの女性。時渡ルミナの姿があった。
正直、此処でまた遭遇するとは思いもしてなかった。
いや、冷静になって考えれば会う可能性はゼロでは無かった。
基本的にこの世界に存在する組織の多くはロワーさん承認の元に創られ、管理される。
あのルミナの率いる魔導事件対策実行部隊とやらはそれなりの規模を持っているらしかった。
と、すればロワーさんと何らかの関係があるはずで……
単純に私が考えたくなかったので脳内から締め出していたのかもしれない。
だが、会いたくなかったのは相手も同じらしかった。
その表情がありありとその事実を知らせてくれた。
「あら……二人は知り合いなの?」
「さっき、ちょっとね……」
「先ほど、少しばかり……」
ロワーさんは私たち二人の間に漂う険悪なムードに気付いていただろう。
しかし、敢えてスルーして話を続ける。
「そう……とりあえず、ルミナちゃん。シュターベンの退治お疲れ様」
「有難う御座います」
ロワーさんの言葉に敬礼で返すルミナ。
「さて、それでは今回二人を此処に呼んだのは他でもありません」
ロワーさんは私とルミナにそれぞれ視線を送ると、一拍置いて言った。
「最近発生したシュテアベンの退治、それを貴女達二人で協力してやって欲しいの」
「ええぇえ! 二人で協力って――コイツと!?」
ルミナを指差しながら私は必死に否定の意を表す。
そんな私の様子に、むっとした表情で腕を組みながらルミナが言った。
「私も賛成出来ません。シュターベンは全て私が倒します。足手まといは必要ありません」
「何ですって!?」
「はい、喧嘩はストップ!」
「でも!」
「ですが!」
「でももですがも無し!! 言う事が聞けないのなら、サヤちゃん、私の権限で強制ボランティアです。ルミナちゃん、しばらくの謹慎処分を言い渡します。それでも構いませんか?」
『ぅ……』
ロワーさんの言葉に、私達二人は押し黙る。
強制ボランティアでこんな危険な仕事――絶対に嫌だ。
それだけは、嫌だった。
「わかりました……」
ルミナは渋々といった様子で諒承の言葉を口にする。
「仕方ないわね……」
私も渋々諒承した。
その二人の様子にロワーさんは頷くと、
「では、協力すると言う誓いの握手を、ね」
私は嫌々ながら手を差し出す。
ルミナもその手を嫌々ながら握った。
「よろしく、お願いします、ね」
「此方こそ……よろ、しく」
私は、ルミナの手を思いっきり握り返してやった。