お嬢様と謎のお茶編
真夏の太陽が照らしてる昼下がり、湖の傍に建つ紅い色をした館の〈紅魔館〉の二階テラスでは、白い日傘の下のテーブルで紅茶を楽しむ一人の少女がいた。
ピンク色の服と同じ色の帽子には赤いリボンが巻かれている、少女は優雅な仕草でティーカップを口まで運び血の色にも似た紅い唇につけ……。
「……てっ!!? これ紅茶じゃないじゃないのっ!!!?」
……と大声を上げ、「ちょっと咲夜っ!!」とメイド長である少女の名を呼んだ次の瞬間には、銀髪のサイドを編んだメイド服の少女が彼女の前に穏やかな笑みを浮かべて立っていた
「〈紅魔館〉メイド長の十六夜咲夜! お呼びとあらば即参上です!」
「……あんたはウルフのマークの連中か……それよりこれは何なの?」
この屋敷の主人にして恐るべき力を持ち”永遠に幼く紅いツッコミ”と呼ばれる吸血鬼であるレミリア・スカーレットは、少し不機嫌そうな顔で人間の従者に問いただした。
「だ~~!! ツッコミじゃなくて月だしっ! そもそも前回で瓦礫になった我が家が何で何もなかったように直ってるんじゃいっ!!?」
勢い良く立ち上がり天に向かってツッコミをするレミリアだが、咲夜にとってはそれは実際まったくもって平常運転なオジョー=サマの姿である。
「まぁ……この小説はコメディー・タグ付いてますので問題ないかと……」
そのため落ちつた様子でそう言った咲夜を、レミリアはギロリと睨みつけ「ギャグとかコメディーで言葉で片付けていいわけじゃないぞ」とツッコミを入れてから着席した。
「……で、改めて聞きけど……これは何?」
レミリアが指差した白いティーカップの中身は、彼女が普段飲んでいる琥珀色のそれではなく黒っぽい色をしていた。
「ああ、それは《眼○龍茶》ですわ、お嬢様」
「…………《○兎龍茶》……?」
その奇怪な名称に訝しげな表情になる主人に対して、「はい、《眼兎○茶》です」と有名な銘柄の茶であるかのよに自慢げに言う従者だ。
レミリアにはまったく聞きなれない名称だったが、何か記憶の片隅に引っかかるものがあったが、思い出せない。
「実は先日、買い物帰りにカラフルな体色をした宇宙人が真っ二つで倒れているのを発見しまして救助したのです」
「……いくら宇宙人たってすでに死んでないか……それ?」
宇宙人という部分には今更ツッコミはしないレミリアである。
「大丈夫ですわ、お嬢様。 首を斬られて生きている生物はいませんが、縦に真っ二つくらいでしたらどうにかなるものですわ」
「いや……どうにかならんと思うんだけど……」
常識が通用しないのが〈幻想郷〉であるが、咲夜の言ってる事はその更に上を言っているように思えた。 レミリアのそんな呆れきった表情を気にする事もなくメイド長の少女は続ける。
「そういうわけでして、後日その宇宙人からお礼の大量に頂いたのがこのお茶なのですわ」
「…………あんたは飲んだの?」
どこからツッコミをしたらいいやらと思案した上で、最初に口にした言葉がこれであった。 何というか、何故か分からないが人間を発狂させる宇宙ケシの赤い結晶体でも入ってそうな気がしたのだ。
しかし、咲夜はそんな主人の不安とは正反対に爽やかな笑顔を見せて言う。
「はい、もちろんです。 大変美味しいお茶でしたわ」
世間一般ではオーボン・キューカなこの時期は、地下室で暮らしている”悪魔の妹”ことフランドール・スカーレットにとっても特別なイベントの時期だ。
「おっしゃ~~! ニムゲット~~~♪ これでEー1突破出来るわね」
愛用のデスク・トップのパソコンのモニターに向って歓喜の声を上げるフランドールは、机の上に置いてあった飲みかけの《眼○龍茶》を飲み干して乾いた喉を潤した。
二ムとはこのイベントでドロップする潜水艦の娘である、フランドールはこの娘をゲットするために三つある内の一番優しい難易度で海域を周回していたのであった。
フランドール提督の艦隊であれば、さっさと最高難易度でクリアするのも不可能ではない。 しかし、クリアしてしまうとその時の難易度で固定されてしまうのでこのような”掘り”が面倒になってしまう。
このイベントでは各海域にはゲージがあり、何度もボスを倒していく事でゲージをゼロにしてクリアとなる。
そして例えギリギリまでゲージを削ったとしてもクリア前に難易度を変更するとゲージはマックスまで戻るというシステムを利用し、最低難易度で目的の娘をゲットした後に本命の難易度で攻略するという手法なのだ。
「……とはいえ、予定より時間と資源を使っちゃったわねぇ……」
ドロップ自体は純粋に運であるため、こればかりはどうしようもない。
「まぁ、いいわ。 資源も時間もまだまだ余裕はあるものね!」
社会人であれば仕事が再開しプレイ時間が減っていく頃であるが、仕事もしてなければ学校に行ってもない彼女にはそんな悩みはまったく関係なかった。
ましてや、同時刻の二階テラスで……。
「つーか! これは東方二次小説であって艦○れ小説じゃないからなぁぁあああああああっっっ!!!!!!」
……と、レミリアが天に向かい咆哮をしている事など知る由もないのであった。
まだまだ暑い日が続いているが、それでも夕方になればだいぶ涼しくなってくるのは、自然豊かな〈幻想郷〉だからであろう。
森林が減り、大地をコンクリートで覆われた〈外界〉ではきっとこの時間でも暑くて堪らないのだろうと、〈守矢神社〉の境内で東風谷早苗はふと思った。
「……ふぅ~」
長い緑の髪にカエルと白蛇の髪飾りを付けた巫女の少女は、それも考えても仕方ない事ねと思い小さく息を吐いた。
「どうしたのだ早苗?」
その時、声を掛けて来たのは八坂神奈子であった、赤い服を纏い背中にリング状の注連縄を背負っている姿は、実際この神社に祀られる神としての威厳があった。
「いえ……少し涼んでいただけです、神奈子様」
「ふむ……八月も半ばとはいえまだまだ暑いからな、そなたも夏バテには注意しておけよ」
神らしい威厳のある喋り方をしていても、そこには人を見下したりするという風な雰囲気はまったくなく、まるで母親が娘を心配しているかのように聞こえるのは、神奈子の優しげな表情のためであろう。
「はい。 それで神奈子様はどうしてここに?」
「ん? ああ、そうであった。 諏訪子の奴が昼寝をし過ぎてな、これから急いで夕食の準備だそうだ」
相棒であるもう一人の神のドジに呆れたように言う、神であろうともたった一人の巫女にすべてを押し付ける気はなく、家事は持ち回りがこの神社のルールなのであった。
「まぁ……言ってくれれば私がやりましたのに……」
「そういかんよ。 今日はあやつが食事当番、神であっても……いや、神であるからこそルールは守らねばいかんのだ」
それが神奈子の考えであった、〈外界〉の政治家のように立場を利用し自らの利益のために平気でルール違反をしていれば、たちまち信用を失ってしまうだろう。
それは分かっていても、「神奈子様は相変わらず厳しいですね……」と苦笑する早苗である。
「まあな……っと、そういえば昼間に世間話をした天狗から花火を譲って貰ってな、後で三人でやろうと思うのだが?」
早苗は少し驚いた後に、今度はどこか子供めいた嬉しそうなりパン!と手を叩いて「それは、いいですね!」と目を輝かせた。
そんな少女と神のずっと上に広がる空は、赤から黒へとその色を変えていっていたのであった。




