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怪獣王vsレミリア編


 夏の暑い日ざしが照らしている〈幻想郷〉、その〈妖怪の森〉の入り口付近を歩いていた”楽園の素敵なシャーマン”の博麗霊夢は、鬱陶しいくらいに鳴いていたセミの声が不意に止んだのを怪訝に思う。


 「…………!!?」


 僅かな時間の静寂……鳴き声をあげて一斉に森の中から飛び立つのに不気味なものを感じてゾッとなった直後、地響きを立てて出現した”それ”に霊夢は目を見開いた。

 ゴツゴツとした黒い皮膚を持った巨体を支えるためであろう太く頑丈そうな脚と長い尻尾、そしてやはり頑丈そうな胴体にはやや不釣合いな短い両腕は実際肉食恐竜めいていた。

 そんな百メートルはあろうかという巨躯の天辺にある頭部は青みがかった銀髪にドアノブめいたピンク色のナイト・キャップを被った白い肌の少女のそれ…………と、言うかぶっちゃけ実際レミリア=サンであった。


 「なんじゃいそりゃぁぁああああああああっっっ!!!!」


 レミリア……いや、怪獣レミラの大きく開かれた口からは周囲の空気を振るわす咆哮と共に青白く光る熱線が放たれ、それが真っ直ぐに〈博麗神社〉へと向かう。

 そして大爆発を起こして神社を木っ端微塵にしてしまった。


 「アイェェェエエエエッ!!? 神社が! 私の神社がぁぁああああああああああああっっっ!!!!?」


 霊夢が悲鳴を上げるが、その彼女の声を打ち消すかのように「つか! レミラってなあんじゃぁぁああああああっっっ!!?」と二度目の咆哮と共に再び熱線も吐かれた。

 その熱線は森の入り口付近に建つ古道具屋の〈香霖堂〉を一瞬で跡形もなく吹き飛ばした。


 「……あ……?」


 店主の青年が留守だったなら良いけどと思いはしても、やってしまったものは仕方ないとそこまでは気にしない事にする。


 「……ん?」 


 その時、レミラは上空から接近して来る三機の戦闘機に気がついた。

 その戦闘機隊のリーダーであるルナサ・プリズムリバーが「リリカ! メルラン! あの怪獣にジェット・ストリームアタックを仕掛けるよっ!!」と指示を出せば、「「了解っ!!」」と力強い返事が返ってきた。

 そうして三機が一直線に並ぶというフォーメーションをとったわけだが……。


 「それじゃただの的でしょうがぁぁぁあああああっ!!!!」

 「「「アイエェェエエエエエエッッッ!!!?」」」


 ……と、次の瞬間にはレミラの放ったツッコミ熱線で三機まとめて撃破され爆発四散したのであった、インガオホーである。




 〈妖怪の山〉にある〈守矢神社〉の地下室には、巨大なモニターをはじめ様々なハイテク機器が並んでいて、実際防衛軍の司令室であった。


 「神奈子様……プリズムリバー小隊全滅しましたっ!」

 「むぅ……」


 オペレーター席の東風谷早苗からの報告に八坂神奈子が表情を険しくした、騒霊である彼女らが簡単に死ぬとも思えないのと無事を祈るしかない。


 「……レミラは〈人里〉へと移動中、まずいよ!」


 守矢諏訪子が悲鳴にも似た声を上げるが、神奈子にはあの大怪獣に対して打つ手を見出す事が出来ない。 出来るのは、「すぐに避難命令を!」と指示を出すだけであった。

 



 〈人里〉に近づくにつれてレミラには、実際ミニチュアめいた建物や大慌てで逃げ惑う里の人々の姿の光景に、自分が今怪獣になっているんだと改めて実感していた。

 レミラには別にそんなものに興味を惹かれる程のものはなくこのまま遠ざかろうと決めた、そんな事よりも早く人間になる方を探す事が急務である。


 「そうそう……早く人間になりた~い……って! 妖怪人間かぁぁぁああああああああああっっっ!!!!! つーか! わたしゃそもそも吸血鬼やぁぁあああああああああっっっ!!!!!」


 咆哮と共に放たれた先程よりもパワーはありそうなツッコミ熱線が口から放たれ〈人里〉を直撃し大爆発を引き起こし、人も家も吹き飛ばしてしまう。


 「…………あっ……」

 

 更には残った建物も次々と燃え上がり、まるで空襲を受けたような大惨事となってしまった。 

 その光景はレミラにゾッとする恐怖めいたものを感じさせていた、同時に自分では普通の事をしているだけでも人間にとっては大災害にも等しい存在である怪獣というものの異質さも実感していた 

 


 


 「神奈子様! 〈人里〉がレミラによって壊滅……!!」


 顔が蒼白になった早苗の報告に、神奈子は「……くっ! レミラめっ!!」と怒りの表情を浮かべながら強く握り締めた拳を振るわせた。 


 「神奈子……」


 不安そうな諏訪子に対して彼女はしばし無言であったが、やがて何かを決意したような表情になると、モニターに映るレミラの困惑してでもいるかのような顔を睨みつけた。


 「こうなっては危険だが……異界から”あやつ”を召喚する!」


 神奈子のその宣言に早苗と諏訪子は「「はっ!?」」と顔を見合わせた後に揃って彼女の顔を見つめる。 これから何をしようとしているのか、そしてその危険性は二人も分かってはいたが、しかし最早これしかないというのも理解してしまい反対の言葉を口にする事は出来なかった。



 

 〈人里〉を壊滅させるという実際凶悪怪獣なレミラがその場から逃げるようにやって来たのは、〈紅魔館〉の傍であった。


 「……こ、こいつめ……」


 ”お前のせいだろっ!”と文句を言いたいレミラであるが、迂闊にツッコミをすると熱線を吐いてしまうので必死に堪えていた。

 何とか別のことを考えて気紛らわそうとして、自分がここにこうしているならあの〈紅魔館〉はどうなっているのだろう?と疑問が浮かんだ。 主人の不在を心配しながらもメイド長である咲夜が先頭に立ち指揮を執っているというのが、一番無難な考えである。

 その時、レミラは門の前にいる人影に気がついた。 一人には彼女の良く知る


メイド長の少女である、その少女が「お嬢様! 早く避難をっ!!」と急かしている声が聞こえたのは、レミラ聴覚の賜物である。

 その人物の服装は実際レミリアのそれであったが、その体格は幼い少女とは決して呼べないがっしりとした大人の男性のものである。 その男の顔には”代・理”と刻まれたメンポ……。


 「……はい……?」


 思わず目を点にして間抜けな声を出してしまったレミラに、その男はパン!と合掌し丁寧にオジギをする。


 「ドーモ、私がレミリア・スカーレット(代理)です!」

 「ちょっ! お嬢様、そんな事をしている場合ではっ!!」


 咲夜のその焦った口調も表情も、実際紛れもなく”レミリア”に対してのそれであり、本心からこの実際怪しすぎるレミリア(代理)を本当に”レミリア・スカーレット”と思っているのが分かった。


 「……な、なななな……なんじゃそりゃぁぁああああああああっっっ!!!!!!!!」


 しまったと思った時には遅かった、本人の意思とは無関係に放たれたツッコミ熱線は〈紅魔館〉を直撃しやはり大爆発させ、由緒ある紅い洋館を一瞬でガレキの山へと変えた……。


 「ちょ……咲夜!? フラン! パチェ!」


 長年暮らした我が家もだが、それよりもまず身内達の心配をするのが彼女であった。 慌てて駆け寄ろうとしてしなかったのは、背後から近づく不気味な足音と気配のためだった。

 警戒しつつゆっくりと振り返ると、レミラと同じくらいの黒い巨体を持った二足歩行の恐竜型の怪獣である。 すでにレミラを敵と認識しているのか睨んで威嚇するかのような鋭い目つきだ。


 「……って言うか、怪獣王!? しかもVSシリーズのヴァージョンなの!!? ナンデェェェェエエエエエッ!!?」  


 何だかんだでテレビ放送で全シリーズ視聴済みなので人目でそこまで見てとれるレミラである、それゆえにこいつの持つ戦闘力も十二分に知っていた。

 はっきり言って、所詮はパロディ・キャラであるレミラが実際勝てる相手ではない、この場は素直に逃げだすのが得策であると判断した。 相手から目を離さないようにしてゆっくりと後さずっていく、熊と遭遇した時の基本であるから果たして怪獣に通用するのかという疑問はあるのだが……。

 それでも緊張した様子で数歩下がったが、そこで怪獣王の背びれが白く輝き始めたのにギョッっとなるレミラ、その間にも背びれの輝きは増していく。


 「……ちょっ! ちょっと待って……」


 だが怪獣王に慈悲はなかった、次の瞬間にその口がカッと開かれレミラのものより数倍は威力のありそうな青白い熱線を吐き出した。 テレビの画面で視るのとは比べ物にならない迫力に回避も防御も出来ずに直撃を食らった。

 そして実際その直撃に耐えられるレミラ耐久力ではなく、「サヨナラ~~~~~~!!!!」という断末魔の叫びを残して呆気なく爆発四散したのであった…………。





 「……つか、ナンデェェエエエエエエエエッッッ!!!!?」


 絶叫と共に意識が覚醒したレミリアはしばらくの間上体を起こしたまま呆然となっていたが、やがて「……はっ!?」と我に返ると、ようやく自分が天蓋付きのベッドの上にいると気が付いた。


 「…………ゆ、夢……?」


 自分の身体を見下ろしてみると、間違いなく怪獣ではなく普段見ている少女の形をしていたのにホッと胸を撫で下ろした。 そしてベッドから降りようとしたまさにその瞬間、周囲に広がる光景に気がつき愕然となり固まってしまった。

 「…………ナンデ?」

 目の前に広がるのは見慣れた自室ではなく、まるで大災害か何かの後めいたガレキの山であったからだ。 

 だが、どうしてこういう状況になっているかというのはまったくもって想像も付かない……と言うか、実際普通に夢オチじゃ面白味も無いな程度の理由で書き手もたいして何も考えていないのであるが。


 「…………」


 レミリアは、その小柄な身体をワナワナと震わせながらベッドの天井を見上げて、実際熱線でも吐かんばかりな勢いで口を大きく開いた。


 「ザッケンナコラ~~~~!!!! 普通の夢オチでいいだろうがぁぁぁああああああっ!!!! スッゾオラ~~~~~~!!!!!」


  

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