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博麗神社のお花見宴会編

 何の変哲もない妖怪達の博麗神社でお花見の宴会風景、別に霊夢に恨みはないのだけどどうもろくな目に会わせてないなと思うこの頃……。



〈幻想郷〉に朝日が昇る、それは幾万、幾億回と繰り返された日常の風景の中で〈博霊神社〉の鳥居の前に仁王立ちした博麗霊夢は眼下に続く石段の下にいる妖怪達を険しい表情で睨みつけていた。

 その傍らに立ちそんな霊夢にやれやれと言いたげな顔を向けているは霧雨魔理沙は、桜がほぼ満開になった二日前から境内に寝袋を用意してそこで寝るという二十四時間態勢で見張りをしていたこの巫女に半ば強引に手伝わされていたのである。

 「ふふふふふふふふ、予想通りという事ね?」

 白い日傘を差した青みがかった銀髪の吸血鬼レミリア・スカーレットが愉快そうに笑うと長い赤髪の門番、紅美鈴は担いでいたレジャーシートを、メイド服を着た十六夜昨夜は両手に抱えていた重箱をそれぞれに小悪魔とパチュリー・ノーレッジに渡すと前に進み出る、明らかに強行突破しようというその態度にも霊夢は動じずに身構えた。

 取り決めで実質戦闘行為が禁止されている〈博麗神社〉ではあるが鳥居の外はまだ神社の敷地ではないという霊夢の解釈で、彼女はいかなる手段をもってしてもここで阻止するつもりでいる。 つまり逆を言えば鳥居を突破し境内にさせ侵入さえ出来ればレミリア達の勝ちであるわけだが。

 「当然よ! この〈博麗神社〉の信仰おさいせん向上のために絶対にあんた達の花見を阻止して見せるわ!!」

 ビシッとレミリアに指を突きつけて宣言する霊夢には、「……とうとう信仰と書いてお賽銭って読みやがったか」という魔理沙の声は聞こえていなかった。 レミリア達も上手くすれば霊夢が起床する前に神社の境内へと侵入出来るという算段もあったのではあろうが、先程の言葉通り七、八割方は妨害を予想していたのであろうし朝っぱらからご苦労なこったと魔理沙は思う。

 ちなみにそんな争いに興味がない様子のフランドール・スカーレットは携帯ゲームを取り出し新旧のスーパーロボット達が競演するシミュレーションゲームの最新作を始めていた、花見は花見でいいが中止になれば家に帰ってゲームをすればいいだけなのが彼女なのだ。

 「……ふぅ……ん?」

 霊夢と咲夜、美鈴は五十メートル程の距離を置いて互いの様子を伺っているがレミリアの視線はそのどちらでもなく魔理沙に向けられていた、一瞬怪訝な顔をしたがすぐにその意図に気が付く。

 僅かな時間どうするべきか迷った魔理沙だが、どうせ霊夢が勝ったところで一日中……いや、桜が散るまで見張りに付き合わされるだけだし、ここはレミリアに乗るのも悪くはないかと判断した。

 「……いくわっ!!!」

 霊夢が先制攻撃をすべく《お札》を懐から取り出し構えた瞬間に魔理沙も動いた、後ろからの攻撃をまったく疑わずに前方の咲夜達に集中している霊夢に心の中で悪いなと一応謝罪してから、左腕に嵌めた”それ”を使った。

 「【霊撃ショット】……はわっ……!!!?」

 次の瞬間に霊夢は情けない声を上げてよろめく、そしてふらふらと二、三歩後ろへ下がり転倒するとスヤスヤと寝息を立て始めた。 いきなりの事に驚き呆気にとられた咲夜が視線の先にいた魔理沙は、こんな事もあろうかと〈香霖堂〉で入手していた《腕時計型麻酔銃》を降ろして「……ふう」と大きく息を吐いた……。



 

 「……ほぼ満開、と言うところね」

 人里をのんびりと歩きながら呟くのは風見幽香、短い緑のくせっ気の髪の妖怪が指している白い日傘をくるくると回転させながらふらついているのに里の人々は特に怯えた様子もない。 むろん警戒はしてはいるが、刺激させずに普通に接していれば、少なくとも人里では滅多な事はしないと分かっているからだ。

 それを肯定するかのように幽香は穏やかな笑顔を浮かべて時折道行く人にあいさつもする彼女は、すでに目的の買い物は済ませて気まぐれにふらついているだけだったが、ふとこの様子では今日辺りに〈博麗神社〉で花見の宴会でもやるかも知れないと思いついた。

 「ふむ……無駄足になるかも知れないけど、別に急いで帰る理由もないか……」

 



 「魔理沙っ!! この獅子身中の虫がぁっ!!!!!」

 金属の鎖でグルグルに縛られた霊夢が怒りを込めて叫ぶ、その彼女に「だから悪ぃって言ってんだろ?」と言う魔理沙と、無様な姿ねとでも言わんばかりの目で愉快そうに眺めながらティーカップの紅茶を飲み干すレミリア。

 その二人を含めた”紅魔館ご一行様”は満開の桜の下に敷かれたレジャーシートの上に弁当を広げて思い思いにくつろいでいる、先日から咲夜が腕によりをかけて仕込んだ料理は絶品であるとパチュリーが褒めて、咲夜は「お粗末さまです」と感謝の意を示していた

 今はまだ彼女らだけだがじきに西行寺幽々子と魂魄妖夢も来る約束になっているし、話を聞きつけた妖怪達もどんどんと集まってくるだろう。

 「久しぶりにプリズムリバー達の演奏を聞きたいわね?」

 「……ん?……ええ、そうねお姉様……って! 何で八十パーが外れるのよ~~~~!!!?」

 一応は宴会に参加しながらもゲームをしている妹にレミリアは呆れ顔をしながらも、本人が楽しんでるならそれでいいかとそれ以上は言わない、引き篭もりの妹フランドールをこうして〈紅魔館〉の外に引っ張り出せただけでも上出来としようと思う。

 ちなみに八十パーセント当たるとは分かりやすく言うと十回撃てば八回は当たる、つまり残りの二回は外れるという理屈ではあるが、ゲームプレイヤーとはそれを頭では分かってもやはり納得いかないものであるとは、レミリアは想像もしない。

 「お嬢様……」

 その間に咲夜が空になったカップにティーポットから新しい紅茶を注いでいた、自身もそれなりに宴会を楽しみつつも主人達の世話を忘れないのを咲夜らしいと思い、その彼女に「ほらほら、もっと楽しみましょうよ」と言っているのも美鈴らしいとレミリアは感じる。   

 妖精メイド達も連れてこれれば良かったが流石にそうもいかない、ちなみに美鈴の代わりにはもはや毎度の事と言ってもよくなりつつある大魔王モンバーンを置いてきたので美鈴がいる時より安心しているくらいだ。

 そうは言っても美鈴を解雇し大魔王モンバーンを正式に雇う気はないのは、むさくるしい老人に毎日屋敷の前に立たれるのも嫌だからだろうとレミリアは自分では思っている。

 「あなたも飲むかしら魔理沙?」

 「ん? いや、あたしはこれでいいや咲夜」

 今日のところは協力者であったから一応は彼女を客人扱いしている咲夜が薦めてくるのを、持っていた杯を上げて見せて答える魔理沙。 

 「がるるるる~~~~~~~!!!!!!」

 楽しげな宴会の様子に霊夢は獣の様な唸り声を上げてジタバタと暴れているが、彼女を縛る鎖は霊力封印の方術まで施された特注品でさしもの博麗の巫女も引き千切ることは出来ないでいた、レミリアがここまで用意万端をするのは宴会のためでもあるが、やはり霊夢の悔しがる顔を見たいという理由の方が大きく、それが分かるだけに余計に悔しく腹が立つのが霊夢であった。




 「橙は行ったのにあなたは〈博麗神社〉へ行かなくて良かったのかしら藍?」

 「はい紫様、あの子もそこまで子供ではありませんので」

 太陽もだいぶ高く昇った時刻に〈八雲邸〉の庭に咲いた桜を眺めながら八雲紫と八雲藍は話をしていた、〈博麗神社〉で花見の宴会が開かれていると聞きつけた橙が二人も一緒にと誘いに来たのだが藍は今回は一人で楽しんできなさいと断った時には橙もしょんぼりとしたものだが、今頃はレミリア達との宴会を楽しんでいるだろうと藍は思っている。

 「紫様こそ……今回は確か幽々子様も参加されると聞きましたが?」

 「……そうね、久々にあの子と呑むのも悪くはないけど……今日はこうして庭の桜を眺めていたい気分なのよ」

 言いながら満開といって良い桜の花を見つめる蒼い瞳の奥で主人ゆかりが何を思うのかは藍には分からない。 彼女に仕える式として主人の考えを全部理解したいと望む反面で、この底の知れないお方の心の内など自分如きに理解しきれるものではないとも思える。

 「……ふぅ、もういい時間ね。 藍、何か軽いものを用意して頂戴、そこの縁側で一緒に花見酒といきましょう?」

 紫はこの暖かい陽気でフサフサした九尾が少し暑苦しそうにしている自分の式に微笑みながら言った。



 

 「う~~ん……いいネタが思いつかないわ~~~」

 そう言って稗田阿求はだらしなく畳みの上に寝転がった、その彼女が先程まで作業をしていた机の上にはGペンと十六夜咲夜と紅美鈴らしい人物が何やらベッドの上で絡み合っている様に見えるラフ画が書かれた四角い紙が置かれいる。

 「夏は”めーさく”で行こうとも思ったけど……”アリマリ”や”レミパチュ”もやっぱり捨てがたいのよねぇ……」

 着物姿でピンクのおかっぱ頭の十歳程度に見える少女が口にするには多少”腐”な単語が飛び出すが、彼女にしてみれば料理で何を使おうか考えながら食材の名を口にするくらいにごく普通な言葉であった。

 まだ春とは言えども時間というものはあっという間に過ぎ去り気が付けばイベント間近というのはザラにある事ではあるが、このまま煮詰まっていて作品が完成しなければそれこそ意味がない。

 だから阿求は気分転換に外に空気でも吸いに行こうかなと考えてから、そういえば今日辺り〈博麗神社〉で花見をやってないかしらと思った。




 〈紅魔館〉の長い廊下を三人の妖精メイドがモップ掛けをしている、メイドになり立ての頃はこの無駄に長い廊下の掃除と言われただけで憂鬱になったものだが何十年と繰り返せば、そんな感覚も麻痺してくるのかすっかりこれが普通と感じるようにもなる。

 それでも偶にはかったるいと思う時はあるとフェア・リーメイドは思う、それは例えば今日のようにメイド長が主人達が花見へと出掛けている時だ。 立場の違いは理解していてもそう思ってしまうのがヒトの……いや、妖精のサガなのだろう。

 「……ふぅ、後もう少しね」

 フェアが額の汗をぬぐいながら言うと仲間のラーカ・イラムとチャウ・ネーンがそうだねという風に頷く。

 「やー、しかしこの良い陽気の中でお花見とは、ほんま、美鈴はんやメイド長はんが羨ましいわ」

 チャウの妖精にしては珍しいこの喋り方を関西弁というのを二人は知っている、チャウ本人の陽気な性格もあってレミリア達にも好評だ。

 ラーカは「そうですね、私達も行きたいですよねぇ、お花見……」と同意しながら、今日の仕事が終わったらこの三人で夜桜見物にでも繰り出そうと提案してみようかなと考えるのだった。

 



 〈博麗神社〉にはルナサ・プリズムリバーのヴァイオリン、メルラン・プリズムリバーのトランペットとリリカ・プリズムリバーのキーボードによる演奏が賑やかに響き渡っていて、集まってきた妖怪達による宴会もずいぶんと盛り上がってきていた。

 その音楽に合わせてクルクルと回りながら踊っているのは赤いゴスロリ風のドレスの鍵山雛、溜め込んだ”厄”を振りまかないよう人間には気を使う彼女であっても妖怪の宴会であれば多少は羽目を外すようだ、風で舞い散る桜吹雪はそんな彼女らを彩るピンクの紙吹雪の演出だ。

 「……ふう~、やっぱり妖夢の作るお弁当は美味しいわねぇ~?」

 「……そう言って頂けるのは光栄ですけど……」

 宴会という事もあり幽々子以外の妖怪達と皆で食べる事を想定して作ったにも関わらずにその大半が彼女の胃袋に納まってしまっているのに妖夢は呆れ顔である。 妖夢だけでなく、二人の傍に陣取っていたアリス・マーガトロイドと水色の作業服に緑の帽子を被った河童の少女の河城にとりは自分達の料理に口につけることも忘れて唖然と幽々子の食べっぷりを眺めていれば、「あ! 食べないならそれ、私に頂戴な?」と言ってくる始末である。

 「まったく、あれだけ食べて太らない西行寺幽々子……普通じゃないわね」

 遠目に見ていたレミリアがそう言うのに隣に座る咲夜は、同じ花見の弁当を用意した身として妖夢の心中を想像して苦笑している。

 「うふふふふ、いつもの事だけど本当に賑やかなものだね」

 桜の木の幹に寄りかかり宴会の喧騒と舞散るピンクの花びらを見物していた幽香は、少し暴れてみたい気分になりながらも自重するのは、場所が〈博麗神社〉だからというのもあるしせっかくの陽気な宴会で茶を濁すのもどうかと思う程度には理性は持っているつもりだからだ。

 理由なく他者を甚振る事をする幽香であっても、決して破壊や殺戮を楽しむだけの知性の欠片もない魔物というわけではない。

 「やっぱりやってましたねぇ~……ん? 霊夢さんはあんなところで何を……?」

 鳥居を潜って境内にやって来た阿求は宴会場から少し離れた場所で鎖に縛られて転がっている霊夢の姿を見つけて首を傾げていたが、しばらくして何かを思い付いたという風にはっとなりその顔がみるみるうちに赤くなっていく。

 「ま、まさか!? 新手の拘束プレイですか!? じゃあ相手は一体誰が……魔理沙さんかすいかさんか……まさか、レミリアさんっ!!?」

 「んなわけあるかぁぁぁぁぁあああああああああっ!!!! つか、いい加減にこれ解きなさいよぉぉぉおおおおおおおおおおっっっ!!!!!」

 妖怪達の宴会を阻止する事はおろか、せめてヤケ酒すら呑む事も出来ずに好き放題している妖怪達を見ているしかなく不快指数マックスの霊夢が絶叫する。 だが、今の彼女を自由にする事は腹を空かせた凶暴竜イビ〇ジョーを人里に放つくらいに危険なものだと全員が理解しているので誰一人霊夢に手を差し伸べようとするものはいなかった。

 幽香やレミリアなどは「無様な姿ね、博麗の巫女が……クスクス」と嘲笑う始末である。

 「……うふふふふふ、阿求も相変わらずね。 夏の新作も期待しているわよ」

 「……ひっ!!?」

 パチュリーの呟きを聞いた小悪魔がぞっとなったのは冬コミの時の悪夢を思い出し、もしかして夏にも同じ目に会うのではという予感に襲われたからだ。 だから、その予感が絶対に外れて下さいと〈博麗神社〉の神様に祈ってみる。

 「あややや、出遅れた~~~!!」

 慌てた様子で飛んで来たのは《一眼レフカメラ》を手にした鴉天狗の射命丸文、別件の取材のためにここへ来るのが遅れたのである。 花見の宴会に参加するのもそうだが自ら作成している《文々丸新聞》に載せる記事を書くべく、早速宴会場を撮影にインタビューにとせわしなく動き始めていた。

 その文に「うふふふふ、ほら、あそこにいる惨めな巫女も撮影してトップ記事に載せてあげなさいな?」と教えるのはレミリア、文がそちらを見ると頑丈そうな鎖で雁字搦めにされた霊夢が獣のような唸り声を上げながらジタバタもがいている。

 一瞬呆気に取られた顔をしながらも、すぐに特ダネを見つけた記者のそれに変わりにやりと笑う文は早速カメラを構えながら霊夢に突撃していくの。

 そうして〈博麗神社〉に響く妖怪達の賑やかな喧騒は、夜更けまで響いているのだった……。





           ……いったい霊夢は何をしているのかしら……?


  ――翌日の《文々丸新聞》の一面に載っていた写真を見て首をかしげた八雲紫の一言より――

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