妖怪でも風邪には気をつけましょう編
今日も今日で平和な〈幻想郷〉にある〈紅魔館〉は、人ならざる者達の住まう不気味なアトモスフィア漂う紅い洋館である。 その館の門の前で招かれざる客は何人たりとも立ち入らせぬという風に立つ門番こそ、この〈紅魔館〉の主にして”永遠に紅く幼いツッコミ”のレミリア・スカーレット=サンである。
「だかましいわぁぁぁあああっ!!!! つか、何でこの私が門番なんてやってるんじゃぁぁああああああああっっっ!!!!?」
そのレミリアの叫び声は、実際ティ○・レックス亜種のバインド・ボイスめいて大気を振動させるほどである。
そして、何でこの屋敷の主人たる彼女が門番なんてしているかというと、そもそもの発端は本来の門番である”中華華人”の紅美鈴をはじめ妖精メイドの半数ほどにフランドール・スカーレットまでもが風邪でダウンしてしまったために深刻な人手不足になってしまった。
いざという時のためのバイトの門番である大魔王モンバーンもスケジュールの都合で来れないため、”立ってるものはオジョー=サマでも使え”という〈紅魔館〉の掟に則りこういう事になったのである。
なので実際何の問題もない。
「ザッケンナコラァァアアッ問題しかねえだろぉぉぉおおおおっ!!!! てか、自分の家の門番するお嬢様がどこの世界におるかぁぁぁああっ!!!!!」
レミリアの場合は”お嬢様”ではなく”オジョー=サマ”なのでまったくもって実際何の問題もないのである。
「意味分からんわぁぁぁああああっっっ!!!!! スッゾオラ~~~~~~~~~~~~!!!!!」
ヤクザ・スラングを含んだレミリアの咆哮が響き渡った直後に不意に冷たい風が吹き抜けて、その幼い容姿の身体を「さぶっ!?」と振るわせたのであった。
その頃、レミリアの従者であり”完璧で瀟洒なメイド”の十六夜咲夜は〈人里〉へと買い物に来ていた。
「〈人里〉で風邪が流行っているとは聞いていましたけど……どうやら本当のようですねぇ……」
里の中の道を行き来する普段より人通りが少ないのを見てそう思う咲夜である。
風邪くらいならそれほどまで大袈裟な事にはならないだろうが、これがもしも危険なウイルスによる伝染病だと考えればゾッとする話である。
その理由は人道的なものもないではないが、人間が全滅してしまえば〈幻想郷〉という箱庭世界は成り立たないからである。 こういう考え方をする自分は人間であってもすでに妖怪側の存在であるとは自覚していた。
貸本屋である〈鈴奈庵〉に本を売りに来るお客がいるのはおかしいことではないのだが、この日やってきた老人を店の娘である本居小鈴はどこか変なお客だと感じていた。
「……何と言うか……独特の絵ですねぇ……」
老人の売りたいという本が妖怪の登場する漫画であるのは彼女にも分かるが、そのどこか不気味さの漂う絵のタッチは最近の物とは思えなかった。
「そんなもんかい?」
小鈴のその感想に、片腕しかない老人は首を傾げていたものである。
ともあれ取引は成立し老人が出て行くのと入れ違いにやって来たのは、小鈴の憧れのヒトである”取らぬ狸のディスガイザー”こと二つ岩マミゾウであった。
「……小鈴、今のお客はなんじゃ?」
マミゾウがそう尋ねたのは、その老人に何か奇妙なものを感じ取ったからだった。
彼が人間であるのは間違いないと思うのだが、漂う雰囲気にこっち側に近いものがあるように感じたのだ。
「え~と……本を売りに来たお客さんだったんですけど……」
まだ少し幼さを残す飴色の髪の少女の何か釈然としていなそうな表情を見れば、この少女も自分と同じようなものを感じとっていたのだろうと思う。 しかし、その事実は小鈴自身もまた”こっち側”へと近づいているという証拠であり、その事を素直に良い事とはマミゾウには思えなかった。
「本じゃと?」
「はい、これなんですけど……」
そのお客が自分で描いたものらしいんですけどと説明しながら少女の見せた本の表紙に描かれたイラストに、マミゾウは「……そういう事かい」と納得した。
「……向こうの世界を去った後にあやつはこっちに来ておったのか……」
人間と妖怪が共にある事を当然とするこの〈幻想郷〉にあの人間がやって来ていたというのは、とても彼らしい事だと思えた。
「どういう事なんですか!?」
一人で納得するマミゾウに小鈴が不満そうに尋ねる。
「……ん? ああ、すまぬ。 そうじゃな……どう説明したらよいか?」
片手を失うような地獄のような戦場を体験し、そして妖怪の世界を描いてきたその漫画家の事をこの少女にどう話したものかと、思案する化け狸であった。
日も暮れてようやく門番から開放されたレミリアが妹であるフランドールの部屋にやって来たのは様子を見るためである、要するに実際病人へのお見舞いである。
「フラン、入るわよ?」
そう言ってから扉を開き入るとすぐにベッドを見たのは、フランドールがその上で寝ているだろうと思っていたから当然あったが、そのベッドがもぬけの殻だったのに怪訝な顔をして部屋を見渡してみた。
「…………ってっ!!? ちょ、フランっ!! あんた何をしてるのよっ!!!!!?」
自分と違い金髪を持つ妹は、まだ熱があると分かる赤く辛そうな顔で床の上をパソコンの置いてある机に向って這いずっていた。
「……なきゃ……デ……」
何やらぶつぶつとうわ言を呟くフランドールに慌てて駆け寄るレミリア、そして助け起こそうとした時に、そのうわごとがはっきりと聞こえた。
「……デイリーしなきゃ……今日が終わっちゃう前に……デイリー任務……」
「…………はい……?」
思わず差し出そうとした手を止めてキョトンとなってしまったレミリアは、フランドールが向っている先にあるのがパソコンだと改めて気が付き、その意味するものを理解した。
「あんた……そこまでして…………?」
愕然となったレミリアのその言葉は、問いかけではなく独り言であったがフランドールは姉の方を見ることはせずに答える。
「……そうよお姉様……風邪で熱がある……くらいで……デイリーをサボる……とか……提督にあるま……じき事よ……」
それが彼女の提督としての使命感によるものとは想像もしなくても、妹がふざけているのではなく大真面目あるのは姉であるレミリアには分かる……というか分かりたくないが分かってしまった。
ポカンと口を開きしばし呆然となっていた彼女はやがてワナワナと身体を震わせ、やがて……。
「艦こ○がそんなに好きかぁぁぁあああああああああっっっ!!!!!?」
……と、実際ギム・ギン○ナム御大めいて吠えたのであった。




