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レミネコのなく頃に 散編


 「…………この私と咲夜の格差……何とかするにゃ~~~……」


 自室の天蓋付のベッドでそんな寝言を言った”ノーカリスマ・クィーン”のレミリア・スカーレットは、次の瞬間には「誰がノーカリスマだにゃぁぁあああああっ!!!!」と叫び声を上げながら目を覚ました。


 「……ったく。 まあ、あの書き手アホめ、新年早々からやめてほしいにゃ…………って、にゃ~!!?」


 レミリアが驚いたのは自分の口調である、”どういう事よ!?”と頭では言おうとしたのだが、実際に口から出た言葉は「ど、どういう事にゃ!?」であった。

 そこで口調だけでなく身体にも何か違和感を覚えて、自分の両手を見てみると。


 「に、肉球っ!!? 肉球ナンデッ!!!?」


 そこには、実際猫の手めいて変貌していた自分の手があった。 まさかと思いベッドから跳び下りると、壁に掛けられた鏡までダッシュしそして……。


 「アイェェエエエエエッ!!? 猫耳!? 尻尾っ!!!? ナンデェェェエエエエエエエエエエエッッッ!!!?」


 早朝の〈紅魔館〉に、主人である少女の絶叫が響き渡った。

 




 レミリアが猫少女化したと〈紅魔館〉は大騒ぎになった、すぐに咲夜ら主だった者が食堂に集結して対策を話し合う。


 「……何か分かりますか、パチュリー様?」

 「……まったくもってさっぱりねぇ……」


 メイド長の問いに”知識と日陰の少女”ことパチュリー・ノーレッジは首を横に振った。


 「パチュリーに分からないならどうにもならなんじゃない?」


 ”悪魔の妹”のフランドール・スカーレットの言い方は、実際どうでもよさそうに聞こえたのに、ムッとなるレミリアである。


 「……まぁ……このまま完全に猫化するという風な気配ではないから、その点は案していいわよ。 今のところはね……」

 「うううう……私って年末からろくな目にあってないにゃ……」


 本気で泣き出しそうな主人に、流石に「……お嬢様がろくな目に合わないのはいつもの事ですが?」とは思っても言い出さない咲夜だったが。


 「きゃはははっ! お姉さまがろくな目にあってないのはいつもの事じゃない~~~~~~~☆」

 「放っとくにゃ~~~~~~!!!!!!」


 血の繋がった実の妹はその点において慈悲はなかった。


 「まったく……これが悪い夢なら早く冷めてほしいにゃぁ……」


 そう言って溜息を吐いた次の瞬間に、ピコッ♪という音と同時にレミリアの頭部に激しい衝撃と痛みが走り「アイェェエエエッ!!?」と悲鳴を上げた。 

 涙目になりながらもいったい何なのかと振り返ってみれば、そこには長い銀髪の天辺にアホ毛を生やした十歳くらいの少女が自身の身長程もある大きなピコハンを手に立っていた。


 「ドーモ、レミリア=サン、”時間泥棒の魔女”のエターナです」

 「ドーモ、エターナ=サン、レミリアです……って! ニャンデッ!!!?」


 この場に絶対にいるはずのない少女の登場にレミリアは驚愕し声を上げた、一方そんな主人に対して従者である咲夜はまったく驚いた様子もなく言う。


 「こんな事もあろうかと思って彼女には来て頂いたのです。 まあ、元旦ですし特別出演という事でいいんじゃないですか、お嬢様?」

 「いいのかっ!!!? てか、あんた最近そればっかじゃにゃいっ!!!?」


 ひょっとしてこいつがここ最近の出来事を裏で全部操っているんじゃないだろうなと、そんな疑惑の眼差しで咲夜を見るが、彼女は「どうでしょうねぇ?」という風な意味深な微笑を返すだけである。


 「まぁ、それはいいとして……」

 「いいんかっ!!?」


 主人のツッコミを無視して咲夜はメイド服のポケットとからポチ袋を取りしてエターナに手渡した。


 「今日はわざわざありがとうございました、これは少ないですがお年玉でわ」

 「うん、ありがとね~~♪」


 遠慮する事無くお年玉を受け取ったエターナは、「じゃあね~バイバイ~~」と元気良く手を振りながら部屋を出て行ったのであった。



 

 魔術がダメなら次は医学であると、レミリアと咲夜は〈迷いの竹林〉にある〈永遠亭〉を訪れた。


 「…………成程、事情は分かりましたが……」


 元旦早々の厄介な患者の訪問に多少は迷惑そうな顔をした八意瑛淋ではあったが、それでも好奇心が疼き、とにかく診察をしてみる事にした。

 患者用の椅子に少し緊張した様子で腰掛けているレミリアを瑛淋がしげしげと眺めているのを、レミリアの保護者めいて彼女の後ろに立つ咲夜が心配そうに見守っている。


 「ふむ……」


 レミリアの猫耳を触ってみると生暖かい、間違いなく体温を持つそれが作り物であるとは思えない。


 「ちょっと手を見せて……」


 無言で差し出された吸血鬼少女の右手をじっと見つめた瑛淋は、次の瞬間にいきなりその手の肉球をプニプニし始めた。 


 「にゃっ!? ちょ! くすぐったい……やめるにゃ~~~!!」


 いきなりの事に驚き暴れるレミリアを、「ちょっと、あなた彼女を抑えていなさい!」と永淋に指示された咲夜が慌てて抑えた光景は、実際子供が注射を嫌がり暴れるようなものであった。


 「……この感触は、これも本物のようだけれど……」


 一見すると真面目に診察をしているという風な真剣な表情の永淋だったが、内心では「これは気持ちいいわねぇ」と実際楽しんでいた。 そして、まったく仕方ありませんねという風な表情の咲夜も、内心では永淋の行為を羨ましく思い「私もやりたいですわね」と思っていた。

 そんなこんなで診察というなのセクハラが終わった後に出た結論は……。


        ――可愛いからこのままでいいんじゃない?―― 


                 by永淋


           ――はい、そう思いますわ――

         

 

                 by咲夜 


 ……であったとさ。



 「いいわけあるかいぃぃぃいいいいいいいいいいっっっ!!!!!?」


 元旦の静かな竹林にそんなレミリアのツッコミの声が響き渡ったのに、「……?」と怪訝な顔をで首を傾げた因幡てゐだった。




 

 最後には神頼みというわけでもなかったが、レミリア達が向ったのは〈守矢神社〉であった。


 「……事情は分かりましたけど……」


 応接用の部屋でレミリア達と向かい合って座布団に正座している神社の巫女の東風谷早苗は、困惑した様子で自分の後方に座る二人の祀られる神へと顔を向けた。


 「うむ……状況から見るに何か悪いものに取り憑かれたようにも思えなくはないが、諏訪子はどう思うか?」


 外見的に母親にも見えるくらいの差がある相棒である神の問いに諏訪子は「……そうだねぇ……僕にもそう見えるかな?」と、少し慎重そうに答えた。

 二人の意見を聞いた早苗は成程という顔で立ち上がるとレミリアへの前に行く、そして彼女の頭に右の掌を翳して目を瞑る。


 「…………確かに、レミリアさんの中に何かがいる気配がありますね」


 巫女の少女の言葉に二人の神は、やはりなという風に顔を見合わせて頷く。


 「それ程に邪悪な気配はしませんが……少々厄介な相手です」


 その言葉に「どういう事でしょう?」とは咲夜だ。


 「私の力では追い出すのは困難……おそらく霊夢さんでも同じではないかと……」


 霊夢は勿論の事、この緑色の髪の少女も巫女としての力はトップ・クラスであろう、その二人でも難しいという事にレミリアの表情が絶望的なものに変わっていく。


 「ふむ……どうにもならぬか?」

 「いえ、神奈子様……手段がない事もないのですけど……」


 早苗にして歯切れの悪い言い方を神奈子は妙だと思いながらも、「それは何なのだ?」と聞いてみる。 

 その様子に、レミリアが早苗に期待を込めた視線を送っていた。

 それでもしばらく迷っていた早苗だったが、やがて意を決して口を開く。


 「その方法とは、霊力か魔力による強い衝撃をレミリアさんに与えて力尽くで追い出すんです。 これしかありません!」


 きっぱりと言い切った早苗の言葉にしばらくの沈黙の後に、「……って! なんじゃいそれはっ!!!?」とレミリアが抗議めいた声を上げた。


 「でしたら、すぐにでもやって頂ければ……」

 「て! おいこら咲夜!」

 「そうしたいのですが……問題は誰がどうやってその衝撃を与えるかなんですよ……」

 「成程……具体的にはどのくらいのパワーが必要なのですか?」


 〈紅魔館〉のメイド長の問いに、早苗は少し考えてから「そうですね、例えるならフルパワーの【エターナ・インパクト】くらいですね」と答えた。 


 「こらっ無視すんニャっ!!……つか、この後の展開分かってきたニャっ!!!!!」


 大きく開けた口に白い牙を覗かせながらレミリアが叫んだ直後に世界が一緒モノクロに染まり、そして次の瞬間にはレミリアは〈守矢神社〉の境内に植えられた木にロープで縛られていた。


 「……お分かりでしたら話が早いですわ、お嬢様?」


 そう実際悪意の欠片もない善人の笑顔で言う咲夜の隣は、いつのまに来ていたのであろうかエターナが《エターナル・ピコハン》を手に立っていたという、そんな光景がレミリアの眼前にあった。


 もちろん、〈守矢神社〉の三人も一緒である。


 「意味不明な急展開っ!!? ニャンデェっ!!!?」


 叫びながらジタバタと暴れるが、ニンジャのイクサにも耐えうる強度のこのロープを引きちぎるのは不可能である。 そんな主人をあやす様な優しい声で「大丈夫です、痛いと感じるのはきっと最初だけですわ」と咲夜。


 「一瞬で意識を失うからにゃっ!!!!」


 従者に言い返すレミリアは、神奈子には単なる駄々っ子にしか見えない。


 「まったくお主は……別に死ぬわけでもあるまいに、せいぜい死ぬほど痛い程度であろうし問題あるまい?」

 「それも充分に問題ありにゃぁぁあああああっ!!!!!」


 そうしている間に、早苗がエターナに注意点を説明していた。


 「いいですかエターナちゃん、角度は右斜め45度です。 これが大事ですよ?」

 「は~い♪」

 「私は昔の壊れたテレビかにゃぁぁああああああああああっ!!!!?」


 それから今度は諏訪子がエターナに話しかける。


 「掛け声は”光になれっ!”だからね?」

 「分かった~♪」

 「殺る気満々かぁぁぁあああああっ!!!!」


 レミリアの目からはすでに実際滝のような大量の涙が流れていた。 この時、彼女をの中の絶望感はイベント半ばで資材とバケツを使い切ってしまった提督並みに最悪なものであったという。


 「例えの意味分からんわぁぁぁああああああああっ!!!!!」


 どんな絶望の中でもヒトの心から光が消え去る事がないように、どんな絶望にあってもレミリアからツッコミが消え去る事はないのである。 これも当然の如く古事記に書かれている事である。


 「んなわけある……はっ!!!?」


 気が付けばエターナの顔が間近にあり、彼女は両手で握ったピコハンを大きく振り上げていた。 そのピコハンに実際レミリアを光にしても有り余ると思わせる量の魔力が一瞬にしてチャージされいくのが分かる。


 「アイェェエエエエエエッ!!!?」

 「レミリアは怖がりだな~~……あ! 一応ハイクは詠んでおく?」

 「やっぱり殺る気じゃにゃいかぁぁあああああああああっ!!!!!」


 外見的にはレミリアと対して変わらないくらい幼さないエターナの無邪気な笑顔は、この時のレミリアには残忍な死神の笑いに見えていて、少女の手に握られていた可愛らしいピコハンはトゲトゲの付いた金属製の棍棒に映っていた。

 その彼女の頭の中では、生まれてからこれまでの出来事がソーマト・リコールしていた。

 どうして私がこんな目に会うのよっ!?と心の中で叫ぶ。 思えばクリスマスからろくな目にあっておらず、強力な呪いでも誰かに掛けられたのかと思えてしまう。

 しかし、目の前の現実はムジョーである、「光になれ~~~~♪」という無邪気な掛け声と共に慈悲もなく振り下ろされたピコハンが命中した強烈な痛みに意識を失う最後の瞬間に彼女の脳裏に浮かんだ言葉は…………。


    ――ああ……ブッダよ、あなたはまだ眠っているの……?――


 …………だった。

 

 

 吸血鬼レミリア・スカーレット、2016年1月1日に幻想郷に散る……。



 「…………サ・ヨ・ナ・ラァァアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!?……って、あれ……?」


 レミリアが我に返った時に目に映った景色は、よく見慣れた自分の部屋であった。 半ば無意識に自分の両手を見て、それがいつも見ている自分の両手だと分かり、次にその両手で頭を触りそこに何も変わったものはなかった。


 「…………夢……?」


 しばし思案してその結論に思い至ったレミリアは、ベッドに上体を起こした姿勢のままほっと胸をなでおろした……が、すぐにそれがただの夢というわけではないと思い付く。


 「……って!! 初夢がこれかいぃぃぃいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!」


 天に向かい大声で叫ぶレミリアは、普段なら初夢などは気にしてもいないのだが、ここまで最悪の夢を見てしまうと元旦早々に今年ろくな事がないのではと思えてしまうのである。


 「……って! 今年も? 今年もってどういう事じゃいぃぃいいいいいいいっ!!!!」


 目を吊り上げて怒りの咆哮を上げた、その直後にトントンとノックの音が聞こえ、「誰よ!?」と言った声はつい不機嫌なものになってしまっていた。


 「咲夜です、失礼致します」


 そう言ってから主人の返事も待たずに扉を開き入ってきたのは、彼女には珍しい事であった。  その咲夜は一歩だけ室内へと足を踏み入れると、不意にパン!と手を合わせてレミリアに合掌した。

 


         ――ドーモ、あけましておめでとうございます――  

 

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