レミリアの超常幻想Xファイル編
12月24日のクリスマス・イブ、時はウシミツ・アワー。 一度天辺まで上り再び下がり始めた月の光が照らしているのは、積もった雪で一面銀世界となった〈幻想郷〉である。
その白い〈幻想郷〉において紅く塗られた〈紅魔館〉はどこか異質な存在として映る、窓から漏れる明かりもなく住人のすべてが寝静まっているだろうこの屋敷の主人である吸血鬼の少女は、ふと目を覚まし自室の天蓋付きのベッドの上で上体を起こした。
「…………うにゅ~~~……てか、丑三つ時ならもう25日ちゃう……?…………っ!!!?」
その少女、レミリア・スカーレットの寝ぼけツッコミから一転して緊張したものへと変化したのは、室内に何者かの気配を感じたからだった。
「何者っ!?」
彼女の問いかけに「……むぅ? 目を覚ましてしまったか……」という男の声が返ってきた、この屋敷に男はいないので明らかに外部からの侵入者である。
「私は決して怪しい者ではない……は無理があるかな?」
「あるわね、ありすぎるわねぇ?」
真夜中の女性の部屋に無断侵入する男が怪しくないはずはないが、そこでいきなり大声で悲鳴を上げるという事はしないレミリアである……てか、そんなか弱いヒロインのような事がレミリア=サンには似合うはずもない。
「……否定はしないけど……何かムカつくわねぇ」
「は?」
「こっちの事よ、気にしないでいいわ」
言いながらキューケツキ暗視力で暗闇の中の不審者の姿を見る、そこにいるのは赤いコートを着て大きな白い袋を担いだ男だったが、”聖・夜”と刻まれたメンポをしており正確な年齢は分からない。
「…………ナンデ?」
その異様な姿に目を点にするレミリアの前で、男はパン!と手を合わせた。
「ドーモ、はじめまして。 サンタクロースです」
「……ど、ドーモ、サンタクロース=サン。 レミリアです……って!! サンタ!? サンタナンデッ!!? アイェェェエエエエエエエエッッッ!!!!?」
アイサツを返した後にサンタ・リアルショック症状を起こしてしまうレミリア、その彼女にサンタは一枚のカードを取り出して見せた。 そこには”普通サンタクロース免許”と書かれていた。
「はい? 免許っ!? ナンデッ!!!?」
サンタクロースは世界の子供達にプレゼントを配るのが仕事だがその行為は実質的な不法侵入になってしまう。 それを避けるためには、サンタの仕事の場合に限りどんな家でも無断侵入してよいというサンタの免許を取得する必要があるのだ。
無論、これも古事記に書かれている。
「書かれてるくぁぁぁああああああっ!!!! てか、つまりあんたは本物のサンタクロースっ!!!?」
信じられないという顔で大声を出すレミリアに、サンタは「うむ」と頷いた。
「ホントにマジで!?」
「ホントにマジだが?」
サンタの実在に驚くというのは彼にも分からない話でもないが、この青みがかった銀髪の少女の反応は幾らなんでも大袈裟過ぎると思えた。
「お願い! 嘘だと言ってよバー○ィ!!」
「誰だ!? てか、本当の事なのだから本当としか言えぬ!」
拝むように手を合わせて懇願するレミリアは、何が何でもサンタの存在を否定したいのである。 その理由は、今から数時間前の出来事である…………。
今年も今年で”楽園の素敵なシャーマン"こと博麗霊夢を出し抜いて〈博麗神社〉でのクリスマス・パーティーを開催していたレミリアが、珍しくクリスマス・パーティーに出席していた妹のフランドール・スカーレットとサンタクロースがいるかいないかという話になったのである。
「お姉様、サンタクロースは絶対に”い”るわよっ!」
姉妹でありながら自分とは違う金髪の妹が少しむきになって言ってくるのに、「あのねぇ……いくらここが〈幻想郷〉ていったってサンタなんているわけないでしょう?」と多少馬鹿にしたように言った。
「あなたもそう思うでしょう?」
傍に控えるメイド長の十六夜咲夜に話を振る、レミリアはもちろん自分に賛同するだろうと考えていた。
「お嬢様……サンタクロースは”い”ますよ?」
「……はい?」
だから、その予想外の返答に思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「咲夜……あんた本気で言っているの?」
「はい、本気です。 本気と書いてマジと読みます」
銀髪の従者の少女の表情は真剣そのもので冗談を言って自分をからかっているとはレミリアには思えなかった、信じられないという風に彼女の顔を見つめていると「ほら、咲夜だって言ってるじゃない!」とフランドール。
「いやいやいや……あんた、サンタに会った事でもあるの?」
そのフランドールの声を無視して尋ねたが、咲夜は「うふふふふ」と意味深な笑みを浮かべただけで否定も肯定もしない。 それはレミリアにはひどく不気味に思えて唖然となってしまう。
ひょっとして本当にいるのかしらと思ってしまうが、ここでサンタ肯定派になってはマケグミみたいで格好が悪い。 だから、ここは何が何でも否定しておこうと思った。
「私は絶対にサンタなんて信じないし、はっきりといないと断言してあげるわ!」
「へ~~? じゃあさ、本当にいたらどうするのぉ?」
”悪魔の妹”との二つ名の通りに実際悪魔めいた意地の悪い笑い顔でそう問うフランドールである、いったいどこからその自信がくるのかを知りたいと思った。 そこへわって入ってきたのはパチュリー・ノーレッジだった。
「……そうね、紺色のスクール水着に猫耳&尻尾装備で〈人里〉を一周っていうのはどうかしら?」
薄い紫色の長い髪の姉の親友の言葉に、フランドールは「へ~~? 面白そうじゃん」と笑う。
「……な、何よそれ……?」
その姿を想像して声が上ずっていた、何をどうしたらそういう発想になるのだろうと思ったレミリアである。
「……単なるコスプレよ? どうせサンタはいないんでしょう? なら問題ないでしょうレミィ?」
知らぬ者にはいつのも淡々とした口調だが、長い付き合いの親友であるレミリアにはその中に挑戦的なものが含まれていると分かり、こいつもサンタ肯定派かと判断した。
「……あ、ちなみに……」
そう言って咲夜が自分のメイド服のスカートに手を突っ込みクリア・ファイルに挟まった一枚の紙を取り出した。
「こんな事もあろうかと、〈紅魔館〉の全員にアンケートを取ってあります」
「スカートの中からアンケート用紙っ!? てか、何をどうしたらこんな事もあると思うのっ!!!?」
愕然とした表情でツッコミをしながらも、その内容も見てみれば彼女らだけではなく妖精メイドも全員がサンタ肯定派であったのに言うべき言葉が見つからない。
「つまりはさ、うちで否定派はお姉様だけって事よ? どうするの? 今からでも肯定派に鞍替えする~?」
実際勝ち誇った笑いを浮かべている妹にレミリアはもう後戻りは出来ないと分かった、スカーレット家の当主の名誉にかけてここでサンタ幻想に屈するわけにはいかない。
「いいわよ! コスプレでも何でもしてあげようじゃないっ!!!!」
……と、思わず勢いで言ってしまったレミリアであったが、実際のところサンタクロースがいたとしてもその存在を示す証拠があるはずもないのだから、どう転んでもコスプレはありえないと安心していたというのが本音であった。
しかし、その日の内に本物のサンタクロースが自分の目の前に現れたのだから、これは何かの陰謀なのかと疑いたくなる。
「……くっ! こうなっては仕方ないわっ!!」
そう言ったレミリアはベッドから跳び下りるとお子様用の可愛らしいデザインのピンク色のパジャマ姿で戦闘態勢をとった、サンタの男は「むっ!?」と驚きつつも身構えた。
「あなたをここで殺してしまえばサンタクロースはこの世から消える! つまりサンタはいないってことになるわ!!」
言葉と同時にその鋭い爪で男を切り裂こうと踏み込んだレミリアの動きは、常人の目では実際捉える事も出来ない程のものであったが、サンタは何とかという様子ではったがそれを回避した。
「無茶苦茶を言うな……」
「避けた!? どうして!?」
「サンタ動体視力とサンタ反射神経だっ!」
言い返しはしても反撃はしない、子供相手に戦闘をする事はサンタの仕事ではない。
「言っておくが、サンタは私以外にも何百人といるのだぞ? 仮に私を殺してもサンタクロースが地球上から消える事はない!」
「それでも! あんたがこの屋敷に来た証拠だけでも消せばっ!!」
再び振るわれた爪の攻撃を、「駄々っ子かっ!!?」とかわす。 そもそも、数時間前の出来事を知らないサンタにしてみれば理由も分からずに殺されようとしているというとんでもなく理不尽な状況なのである。
「……止むを得んな……サンタ国際条約第二条! サンタの職務中に命の危険に晒された場合に限り最低限の武力行使が認められるっ!!」
そう宣言し反撃に移ろうとしてしなかったのは、「……お嬢様、こんな時間に何の騒ぎですか?」という少女の声がしたからである。 そしてその声に動きを止めたのはレミリアも同じであった。
「さ、咲夜……?」
「……あら? お嬢様、そちらの方はどなたですか?」
流石に就寝中だっただろうがしっかりとメイド服に着替えてきたであろう咲夜は、実際不審者に思われても仕方ないサンタの方に視線を移した、流石にその瞳には警戒の色が宿ってはいた。
それも当然だと理解するサンタは、新たにやって来たサクヤと呼ばれた少女もまとまて力尽くで排除しようという愚かな選択はしない。
「ドーモ、サクヤ=サン。 サンタクロースです」
「ドーモ、サンタクロース=サン。 咲夜です。 成程、サンタクロース=サンでしたか……」
サンタは「うむ」と言いながら、証拠とばかりに先程レミリアにも見えたサンタ免許を見せた。
「成程……本物のようですわね」
「納得したっ!? てか、マジで全世界に通用するの!? あの胡散臭い免許証がっ!!!!?」
レミリアのキューケツキ思考力を上回る出来事が次から次へと起こり実際パニックに陥っていた、そんな彼女に「お嬢様……」と咲夜が声をかける。
「……何よ……?」
「ちゃんといらっしゃいましたよね? サンタクロース=サン」
穏やかに微笑む咲夜の表情は、レミリアが忘れかけた……というか、どうにかしてうやむやに終わらせようとしていた事をはっきりと自覚させた。
「アイェェェエエエエエっ!!!? さ、さささささ咲夜=サン!?」
まるで道端で赤黒の死神のニンジャに遭遇してしまったかのような怯えた顔になり後さずろうとして、転んで尻餅を付いた。 そして起き上がる事もせずにそのままの姿勢でパン!と従者であるメイド長を拝むかの手を合わせた。
「お願い! どうか、どうかこの場は何も見なかった事にして! 咲夜大明神様~~~~~~~!!!!!」
主人の必死さは、これでだめなら次は本当にドゲザでもしかねないという、そういう雰囲気であったのは、彼女にも伝わってきた。
この予想もしてなかった事態にキョトンと目を丸くする咲夜と、まったくもって何がなんだか分からないがこの少女が自分の存在を是が非でも否定したいという事に憮然となるサンタクロースである。 しかし、何やら事情があるのが漠然とだが分かり、何も言わずに成り行きを見守ろうという判断をした。
「……あーそのぉ……お嬢様がそこまでおっしゃるのであれば私は構わないのですが…………」
人差し指で頬を掻きながら咲夜がその場所を動くと、彼女の背後から紫色と金髪の二人の少女が姿を現した。
「……すでに妹様とパチュリー様もいらしていまして……」
そう言う彼女の表情は、実際本当に申し訳なさそうであるが、レミリアにはそんなメイド長はすでに見ていなかった。
「きゃはははは~お姉様~~~☆」
「……レミィ、うふふふ~★」
その少女達、”悪魔の妹”のフランドール・スカーレットと”知識と日陰の少女”のパチュリー・ノーレッジが、勝ち誇った悪役の様などす黒い笑いを浮かべてそこに立っていたのに、ニンジャに殺される寸前のカチグミ・サラリマンめいた絶望的な顔になり石像めいて固まってしまうレミリアだ。
だから、「……申し訳ありません、お嬢様……」と頭を下げる咲夜の声も、やはりまったく彼女の耳には聞こえていなかった。
「ですがお嬢様、ご安心下さい……」
しかし、そう言って肩を叩かれたのには「さ、咲夜?」と驚きと期待を込めた紅い瞳で従者の顔を見上げるレミリア。
「こんな事もあろうかと衣装はすでに発注済です、確実に年内には届きますわ」
可愛らしくウインクをしてみせた従者の言葉にしばし唖然となり、そして不意に「だぁぁぁあああああああっっっ!!!!!」と勢いよく両手を振り上げて立ち上がった。
「何がこんな事もあろうかとじゃぁぁあああああああああっっっ!!!!!!!」
静まり返った聖夜に響いたレミリアのその怒声は、夜空浮かぶ月までも実際届きそうにも思われたのであったとさ。
その空と〈紅魔館〉の間を通り過ぎながら、「つづく~の~か~~~?」と言う声を響かせたのは、”常闇の妖怪”ことルーミア=サンであった……。




