冬の寒空の下の幻想郷編
冬の曇り空の下にある紅い洋館、〈紅魔館〉という名の人ならざる者達の住まう屋敷の頂点に立つ吸血鬼の少女の名はレミリア・スカーレットという。
青みがかった銀色の髪と紅い瞳を持つ彼女は外見こそ十歳前半くらいの幼い姿をしてはいるが、”ノーカリスマ・クィーン”の名に相応しい強大な力を持ち、”永遠に紅く幼いツッコミ”や”紅色のノクターナルツッコミ”の二つ名で人々に恐れられていた。
「ザッケンナコラ~~~~!!!! そんな名前で恐れる奴がいるくぁぁあああああああっ!!!!! スッゾオラ~~~~~~~~!!!!!!」
そんなレミリアのヤクザ・スラングを含んだ叫び声は、〈紅魔館〉を文字通りに実際振るわせたのではあるが、住人達にとってはそれは日常的な光景でしかない。
「今日もお嬢様はお元気そうやなぁ……」
「そうみたいね」
廊下でバッタリと会い雑談をしていた妖精メイドのチャウ・ネーンと、この小説ではツカサの名を持つ小悪魔がそんな風に言い合っていた。
そんな事は”吸血鬼のメイド”こと十六夜咲夜が知る由もないのは、〈人里〉で買い物をしていたからであった。
「……さて、とりあえず必要なものは揃いましたわ」
買い物籠を手にし通りを歩く咲夜が誰にともなく呟く、そんな彼女に対して敵対心を向けるでもないが気軽に挨拶をしようという人もいないというのが、〈紅魔館〉のメイド長にして唯一の人間である彼女に対する里の人々の反応である。
何気なく足を止めて空を見上げてみて、肌に触れる空気の冷たさも感じながらそろそろ雪も降り始めるかしらと思った。 〈幻想郷〉の冬に雪が降って積もるとういうものが当然という感覚にはなっていても、屋根の雪下ろしなどの作業が面倒であるという事実が変わるものではなかった。
「まぁ、考えても仕方ない事ですか……」
ゲームの本編では実際無邪気で危ない破壊神な”悪魔の妹”のフランドール・スカーレットも、この小説では何をどうしたものなのか引き篭もりのゲーム・オタクになってしまっているのである。
「資源よし、バケツの貯蔵も充分……秋イベの準備は万端よ」
地下にある自室でデスクトップのパソコンの前に座り満足そうに呟く、それからマウスを操作し先程戻ってきたばかりの艦隊を再び遠征に出してからプラウザを落とした。
同じ時刻の”日陰の少女”ことパチュリー・ノーレッジの自室では、部屋の主たる紫色の髪の毛の少女もまたパソコンに向かいキーボードとマウスを操作していた。
「……予約完了っと」
彼女がしていたのは、今年の冬コミのカタログの予約であった。
「……さて、冬はどんな本が出てくるからしらねぇ?」
東方系のみならず艦こ○や今期の新作アニメなどを含めて良作を期待するパチュリーである、それは一般向けもそうだがお子様厳禁な方も含めての話だ。
「……さてと、後はどうしようかしらね?」
腕を組みながら、〈大図書館〉へ行き読書でもしようか、それともこのまま自室でネット配信されているアニメでも見ようか思案するパチュリーであった。
テレビのニュースを何気なく見ながら、「もう今年も僅かだというのに、ニンゲン達は相変わらずねぇ……」と呆れた声で言ったのは、”境界の妖怪”の八雲紫である。
しかし、個人レベルではともかくヒトの世の中という視点で見れば真に平和な世の中など人間達に創れる事など永遠にありえないだろうとは思ってはいるが。 仮にそうなる可能性がある生き物だったとしても、その前に同種族同士で無益な殺し合いをし限りある資源を消費しつくし自然環境を破壊しつくして滅ぶほうが先であろう。
それ自体は紫にはどうでもいい事ではあっても、その時にこの〈幻想郷〉にどんな影響があるかは真剣に考えなければいけない問題だった。
人間が自滅するのは勝手でも、人間なしでは存在し続けられない妖怪が迷惑を被るのは不本意ではある。 だから、少なくとも〈幻想郷〉に生きる人間達の事は守る事も考えねばならないのである。
「まぁ……十年や二十年でという事もないとは思うけどもね」
詰まらなそうな顔で言いながら、空になった湯飲みに緑茶を注いだ急須をちゃぶ台の上に戻した。
そうは言葉にしながらも、そんな事はないだろうと確信する程には人間を信用してはいない。 だがその反面で、僅かにだが心のどこかで人間を信じたいという気持ちがあるを自覚して、それは”彼女であった頃”の名残であろうとは分かった。
「……やれやれね、どこかの巫女みたいにお気楽に生きられれば楽なんだけど」
黒い髪を赤いリボンで結んだ不敵な表情の少女の顔を思い浮かべながら、そんな風に考えられる彼女は彼女らしくないわねとも思って、次の瞬間には思わず苦笑していた。
それからふと立ち上がって襖までゆっくり歩いていくと開いて空を見上げてみた。 少し速い速度で雲の流れるのを眺めながら、「〈幻想郷〉であってもすべてのエゴを受けいれられる程に大きくはない……そんな理想郷なんて存在するわけもない」と呟く。
もしも、〈幻想郷〉の妖怪達がエゴを知性で抑えられなくなり暴走すれば人間も滅び、彼女達も滅びるだろう。 つまりは彼女らがエゴをある程度抑えているのは結局は自分のためにである。
そういう考え方が出来る知性が妖怪にはあるが、〈外界〉の人間達はどうなのかしらね?と考えた。
それが分からないでいれば、いつかかならず人間は滅びる、それもこの地球という星のすべてを道連れにして。 もっとも、そういう愚かさが人間の本質であるのだから仕方のない事なのかも知れない。
「ふふふふ、悔しかったら私達妖怪があなた達人間をそうは思わなくなる程度には賢くなってみなさいな?」
空に向かい言った紫はゾッとするような邪悪な笑みを浮かべていた。
「……っ!?」
そんな事は知るはずもないであろう咲夜が、〈紅魔館〉へと向かい飛ぶ途中でが不意にその身を震わせたのは、不意の冷たい冬の強い風のためであった。
「やれやれ、今日はずいぶんと寒い日ですわね……」
それ程に高度をとってはいないが、風を遮るもののない空中では多少の寒さは我慢するしかないと分かってはいる事あっても、せめて暖かい日の光でもあればとは思いながら、太陽を隠す雲を怨めしそうに見上げたのであった。
そんなこんなで、今日も平穏な時間が過ぎていく十一月の〈幻想郷〉で……。
「書き手はとりあず、私と咲夜のこの格差をいい加減にどうにかせいやぁぁあああああああああっっっこのドクサレがぁぁぁああああああああっっっ!!!!!」
……というオジョー=サマの咆哮が響き渡った事を知る者は、〈紅魔館〉の住人以外に知る者は実際いないのであったとさ。




