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鉄血のハロウィン編


 よく晴れた空の下、〈博麗神社〉の境内では神社の巫女である博麗霊夢が箒を手に掃除の最中であった、その霊夢が不意に手を止めて「……明日はハロウィンか」と呟いたのは、当然と言うべきかハロウィンという外国のお祭り行事をしようというのではない。


 「……今回はレミリアがどんな手でくるのか……」


 〈紅魔館〉の吸血鬼少女のレミリア・スカーレットは、イベントの度にこの〈博麗神社〉で宴会を行おうとするのは、自身が宴会をしたいのと霊夢への嫌がらせである。

 妖怪がドンチャン騒ぎする神社だという噂が広まる事による参拝客さいせんの減少と宴会後の後片付けは、この黒い髪の巫女少女のは実際頭の痛い問題だった。


 「……ん?」


 不意に自分の週に影が差したのを不審に思い上を見上げてみれば、そこには巨大なヒトの顔があった。


 「アイェェエエエエエエエッ!!? 巨人!? 巨人ナンデェェェエエエエエエッ!!!!!?」


 それは全長六十メートルはあろうかという巨人のものであった、皮膚が存在せずに全身を筋肉が剥き出しのその巨人は、驚きにあんぐりと口を開けている霊夢の前で合掌した。


 「ドーモ、はじめまして。 進撃する巨人です」

 「……ド、ドーモ……進撃する巨人=サン、霊夢です……ってか、マジでナンデェェェエエエエエエエエッッッ!!!!!?」


 きっちりとアイサツを返しながらも、霊夢はまだいったい何が起こっているのかを把握出来ないでいた。 その巨人が何なのかは半ば理解しながらも、それが自分を見下ろしているという状況になる理由がまったく分からない。


 「あなたに恨みはないが、これもフランドール=サンからレア・アイテムを譲って貰うためなのです」


 すまなそうな巨人の言葉が理解出来ずにしばらくポカンとなった霊夢は、直後に「はっ!?」となり大声を上げた。


 「フランドールのゲーム友達っ!!? 巨人がっ!!? ナンデェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!!!?」





 「…………ほんとに何でなのかしらねぇ……?」


 十月三十一日の月夜の下の、家主不在の〈博麗神社〉の境内で呟いたのはレミリア・スカーレットである。 

 立食形式のパーティーはすでに始まっていて、集まってきた妖怪達は思い思いに飲食や談笑を楽しんでいる。 主催者であるレミリアも傍にメイド長である十六夜咲夜を連れてその中に混じってた。


 「……はい?」


 ”完璧で瀟洒なメイド”の二つ名を持つ咲夜も主人である少女の呟きの意味は理解出来ずに怪訝そうな顔をした、レミリアは「何でもないわ、気にしないで頂戴」と言ってから手に持っていたグラスの中の紅い液体を口にする。


 「……って! やっぱしトマトジュースかいぃぃいいいいいいっ!!!!!」


 賑やかな宴の中に響くレミリアのツッコミも、彼女の主催の宴会に何度も足を運んで来た妖怪達にとっては喧騒の一部に過ぎず気にする者はいなかった。 寧ろ、彼女のツッコミがないと物足りないとさえ思っているのである。 

 つまり〈幻想郷〉の妖怪達にとっては…………。


            ノーツッコミ・ノーレミリア!!


 …………なのである、もちろん古事記にも書かれている。


 「ンなわけあるくぁぁあああああっ!!!! スッゾオラ~~~~~~~~~~!!!!!!!!」


 目を吊り上げながら天に向った咆哮する親友を、パチュリー・ノーレッジはどこか可哀そうな子を見るような目で見つめていた。


 「……パーティーの最中にヤクザ・スラングなんてはしたない事をするわねぇ……」


 いつもの事といえばいつもの事ではあっても、偶には自重してもいいだろうにと思う。

 そのパチュリーの従者である小悪魔のツカサが「まぁ……お嬢様ですから」と肩を竦めてみせたのに、しょうがないわねという風にわざとらしい溜息を吐いた”動かない大図書館”の少女であった。

 その直後に、『楽しいパーティーもそこまでだっ!!』という拡声器を通した少女の声が響き渡った……が、その声に反応するものはほとんどいなかった。  しかし、主催という立場上はレミリアや咲夜は声のした神社の屋根の上を見ないわけにはいかないのである。


 『くっくっくっくっ! ドーモ、鬼人正邪です!』


 拡声器を手にした黒髪に赤と白のメッシュの少女がアイサツをする、九分九厘そうだろうと分かっていても出来れば違っていてほしいというのがレミリアの本音だ。

 その正邪の隣に立つのは猿の様な胴体にジャック・オーランタンの顔が載った怪しげな生き物であった、レミリアと咲夜はそれを知っていた。


 「咲夜、あいつって……」

 「はい、私が去年のハロウィンで倒した転生チート戦士のジャック・オランウータンですが……」


 確かに容姿はそっくりだが今現在目の前にいるそれは全身が黒い、夜間迷彩でもしているのだろうかと咲夜は思った時、その黒いジャック・オランウータンがパン!と合掌した。


 「ドーモ、はじめまして。ジャック・オランウータンMK=Ⅱです!」

 「ドーモ、ジャック・オランウータンMk=Ⅱ=サン。 咲夜です……成程、マークⅡですか」


 きっちりアイサツを返した咲夜が正邪を睨みつけると、天邪鬼の少女は「その通りだ!」と不敵な笑いで咲夜を見返した。 その彼女に宴会参加者の視線もまた集中したのは、「さて、今回はどうするのかねぇ……」と興味ありげに呟いた霧雨魔理沙と同じ理由である。


 「MK=Ⅱって位だから前回の奴よりは強いのよねぇ……」


 値踏みをするかのような顔でオランウータンMk=Ⅱを見据えながらも、レミリアは自分達が……というか、咲夜が負けるとは考えない。 転生チート戦士などと言っても中身は命のやり取りをした事もない平和ボケした日本人の、それも引き篭もりと呼ばれる連中ばかりなのである。

 彼らのバックにいるダーク・レイムがどういう基準で選んでいるかは知りようもないが、少なくとも本気で〈紅魔館〉を落そうとかそういう事は思っていないのではないかと最近は思うようになった。


 「私がお相手してあげてもいいですが…………」


 そう言うと咲夜は自分のスカートの中に手を入れて携帯型の無線機を取り出した、てっきり彼女が戦うと思っていたレミリアはその意外な行動を不思議に思いながらも、「スカートの中から無線機!? ナンデッ!?」とツッコミは忘れない。


 「アム! 出番ですよっ!!」


 無線機に向って咲夜が声を上げた直後に、『任務了解ぃぃいいいいいいっ!!!!』という声が頭上から聞こえたのに、レミリアが見上げてみれば巨大なレミリアが月をバックに急降下してくる。


 『ドーモ! 妖精メイドのアム・ローレイです!! あなた達の相手は私とこのレミリア・バルバトスが致しますよっ!!!!』


 レミリア・バルバトスと呼ばれたそれは、全長十八メートル程の巨大なレミリアが白いプロテクターのようなものを身に着けたような機体であった。 


 『三百年前の厄災異変で使われ、長らく〈紅魔館〉の地下で動力炉として眠っていたこの機体! レミリア・バルバトスは伊達じゃないっ!!!!!』


 ちなみにアラヤシキなシステムは搭載していなので、コクピットで嬉々とした様子で叫ぶアムが上半身裸という事はない、ちゃんとメイド服は着ている。


 「ツッコミどころ多すぎだぁぁああああっ!!!! てか、そのセリフは別の作品のもんでしょうがぁぁあああああああっっっ!!!!!!」


 スラスターの轟音にも負けないレミリアのツッコミが響く中で、レミリア・バルバトスは巨大な《メイス》を振り上げた、その狙いはもちろん正邪とジャック・オランウータンMK=Ⅱである。


 『慈悲はない! ハイクを詠め! 奇人正邪=サン!!』

 「奇人って言うなぁああああっ!!……てか! ちょ……ま……アイェェェエエエエエエエエエエエエッッッ!!!!!?」


 同クラスの機体の頑丈な装甲をも破壊する威力のある《メイス》は、〈博麗神社〉の建物ごと屋根の上の二人を実際叩き潰したのであった、ナムアミダブツ……。



 

 余談であるが、オランウータンは瓦礫の中で爆発四散したものの正邪は【ネタキャラなので絶対死なない程度の能力】により無事に生還するも、ダーク・レイムのお仕置きで実際ひどい目にあう事や、翌日に帰還した霊夢が〈博麗神社〉の惨状に愕然となった事は、実際些細な問題である。


 「「んなわけあるくぁぁぁあああああああああああああっっっ!!!!!!!」」



 

 「まったく……来年はΖジャック・オランウータンとかこないでしょうね……」


 そんなこんなでハロウィンのパーティーも無事?に終了し帰宅したレミリアは、自室の椅子に座り寛ぎながらそんな事をぼやいていた。 

 その彼女に「お嬢様、お疲れのところ申し訳ありませんが」とビニール袋に入ったお菓子の詰め合わせを渡したのは咲夜である。


 「……これは……?」

 「はい、実は妹様がハロウィンの”あれ”をやってみたいと申されまして」


 従者の言った事の意味が分からずに怪訝な顔をしたが、すぐにある事に思い至った。


 「……ああ、あれ? お菓子をくれなきゃ……ってやつ? フランが?」

 咲夜は「はい、その通りです」と頷く


 成程ねと納得しながら、自分とは違う金髪の妹の顔を思う浮かべつつ、あの子も案外子供っぽいとこがあるのねと思う。 こんな事で妹の意外な一面を知るというのは、レミリアには悪くないと思わせる事であった。


 「あ! ですが、少し日本風にアレンジしてみたとか言っていたような……」

 「アレンジ? 日本風……?」


 従者の言葉になんのこっちゃ?という風に首を傾げた時、ガチャリとドアの開く音がしたのがフランドールだと分かったのは、この館の主人の部屋にノックもなしに入ってくるのが彼女くらいだからである。

 だから、そこにハロウィンの仮装をした妹の姿があるであろうとは予想はした……。


 「…………はぁ!?」


 しかし、そこにいたのは怪しげな鬼らしき面をつけたフランドールであった、ハロウィンというには奇抜過ぎる格好に目を点にしたレミリアは、その直後に出刃包丁の切っ先を向けられてぎょっとなる。


 「わり~ごはいねぇか~~~! わり~ごはいねぇ~か~~!! お菓子をくれなきゃ刺殺イタズラしちゃうぞ☆」

 気まずい沈黙がたっぷりと一分間は部屋を支配しフランドールはあれ?という風に首を傾げた、その沈黙を破ったのは当然と言うべきかレミリアのツッコミである。

 

「……てか、そりゃ秋田のナマハゲじゃぁっ!! そんなものアレンジて言うかいっ!!!!! つか、刺殺って書いてイタズラって読むなぁぁあああああああああああああああああっっっ!!!!!!」


 静かに更けていくハロウィンの夜に、吸血鬼少女の咆哮ツッコミが響き渡るのであった…………。

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