今年もまた秋が終わり……編
秋も終わり段々と寒さが増してきた〈幻想郷〉にある不気味さ漂う紅い屋敷、〈紅魔館〉という名前のその屋敷にはレミリア・スカーレットという吸血鬼の少女が妹や友人、そして多くのメイドと共に暮らしている。
〈幻想郷〉の人々は湖畔に建つこの洋館を”レミリアの百合ハーレム屋敷”と呼んで…………。
「いるくぁぁあああああああああああっっっ!!!!!!!!」
静かな時間の流れる〈紅魔館〉を実際振るわた主人の怒声は、しかし住人達にとってはすっかり日常のものであり、廊下を歩きながら夕食のメニューをどうしようかと思案していた”吸血鬼のメイド”の十六夜咲夜はふと足を止めはしたが……。
「……お嬢様は今日もお変わりないですわねぇ」
……と、何でもない事のように呟いたのみであった。
こんな風に、今日もいつもと変わらぬ平穏な時間が流れる〈紅魔館〉だった。
〈人里〉にある〈鈴奈庵〉は貸本屋である、〈外界〉ではすっかり消え去った存在だがこの世界にあっては人々が本を読むためには大事な存在だ。 製本技術の水準が低く本が高価であり、里の人間も裕福とはいえない人達が大半だからである。
しかし、それも何でありないい加減なこの小説の世界観にあっては果たしてそうなのか?という疑問も浮かばないではないかも知れないが、気にしたらマケグミである。
”極めて普通のマジシャン”の霧雨魔理沙も決して貧乏しているわけではないのだが、本を読む事に関しては〈鈴奈庵〉の存在に少なからず助けられているのが実情である。 もっとも、それはこの店にはやや特殊な本が置かれているという事もあったが。
「……何だこりゃ?」
その魔理沙が素っ頓狂な声を出した理由は、彼女が棚に並べられていた妖怪の図鑑らしきもののページを捲ってみれば、およそ妖怪のイメージとかけ離れた可愛らしい妖怪のイラストが描かれていたからだった。
「それは外の世界の妖怪の図鑑らしいですよ? 割と最近な物のようですね」
この店の娘である本居小鈴が彼女の疑問に答える、飴色の髪に可愛らしい鈴の髪飾りを付けたこも”判読眼のビブロフィリア”の少女は、自分も最初に見た時は魔理沙のその反応と同じだったのを思い出した。
「やっぱり図鑑かよ……にしたってなぁ……」
ウェーブのかかった亜麻色の髪の毛を掻きながら表紙を改めて見てみると、”妖怪ウォッ○”という名前があった。
「……やっぱり妖怪……だよなぁ……」
「はい、あれじゃないですか? 外で流行っている萌え絵というかそんなものじゃないんですかね?」
小鈴の言う萌え絵という言葉は、魔理沙にはまったく意味が分からなかったが、少なくとも〈外界〉でこんな妖怪達が出没しているというオチはないだろとは分かる。
「あー、でも阿求に聞いてみれば知ってるかも」
この小説では、妖怪や異変に関する書物の執筆の傍らでオタク向けの薄い本も描いている友人の名を小鈴は出したが、彼女は最近はこの店には顔を出していない。
おそらくはこの前の異変とか、例大祭だの冬コミの本の作成にてんてこ舞いなのだろう。
「ああ、そうだな。 今度会ったら聞いといてくれや」
気にはなるが、別に大きく関心があるでもない魔理沙はそうとだけ言った。
ちょうどその頃、〈妖怪の山〉にある〈守矢神社〉の境内では、巫女である緑色の髪の少女が「……クシュンッ!」とクシャミをしていた。
「ん? 風邪か?」
その少女――東風谷早苗に声をかけたのは、”祀られる神”の八坂神奈子であった。
「神奈子様……いえ、そうではないとは思うのですけど……」
少し照れた顔の早苗は、しかし誰かが噂をしていたという古典的なパターンではないだろうと思うのは、ミコ直感力である。 同じ事をカミ直感力で神奈子も思っていたのは、早苗は知ることはない。
「ふむ……まぁ、何にしてもこれからまた寒くなる。 早苗よ、風邪には十分に注意するのだぞ?」
誰が見ても冬は寒そうな彼女の巫女装束を見ながらそう注意すると、「はい、神奈子様!」と少し嬉しそうに笑いながら返事をする早苗であった。
「……あら、ここのコンビニ潰れたのね」
〈外界〉へやって来ていた八雲紫は、どうでもよさそうに呟いた。 前にこの町に来たのがいつだったのかは忘れたが、あまりのも集客の悪そうな場所にあったので何となく記憶に残っていた程度だった。
ここにあったコンビニだけではない、外の世界の姿は〈幻想郷〉とは違い気がつけばその姿を大きく変えているものである。
変化を拒むかのような世界と常に変化を続ける世界とどっちが正しいあり方かなど、”境界の妖怪”とて分かるものではない。
そんな事を考えて、そういえば最近この国で何とかナンバーが始まったらしいというニュースを思い出した。
「ほんと、外のニンゲンはいろいろ思いつくものね」
そう言った口調は、感心しているとも呆れているとも聞こえた。
その新しい事を理解しさっそく詐欺に利用し手いる者いるの事にニンゲンの理解力とはたいしたものだと思う、その反面でそういう者は大半のニンゲンは新しい制度の事を理解していないと思うからこそ、騙されてくれるという発想があるのだろう。
少数のずる賢い者と大半の無知な者という構図は、いかにもニンゲンの世界らしいありようだと彼女は嘲笑う。
しかし、無知は決して愚かしい事ではない。
無知と自覚するからこそヒトは答えを求めて奔走する、少なくともかつての自分と親友はそうであったと紫は信じている。 無知を良しとしないから答えを求めてあちこちへ旅をしたのだろう。
だが、その結果が良かったのか悪かったのかは未だに分からないが、後悔だけはしているつもりはなかった。
「無知を良しとし、安寧としていればゆっくりと滅びるのを待つのみなのかも知れないわね」
言葉にしてみて、それは〈幻想郷〉のニンゲン達も同じなのかと気が付く。 結界に守られ外を知ることもなく、それを当然とし生きていくニンゲン達も。
彼女は〈幻想郷〉を愛していた、だからその未来は真剣に憂いでいた。
夕暮れも赤く染まった空を見上げてみて、その答えも……〈幻想郷〉の未来のありようという答えを探していこうと決めたのであった。




