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幻想郷にレスキュー隊出動!?編


 八月も半ばを過ぎた〈幻想郷〉は、まだまだ暑さが続いていた。

 そんな中にあって泳げば気持ち良さそうな青い水面の広がる湖の畔にある紅い建物は、〈紅魔館〉という名の妖怪達の住まう屋敷だ。 その主人である吸血鬼の少女のレミリア・スカーレットは…………。


 「”永遠に紅く幼い月”よっっっ!!!!!!」


 廊下ですれ違った直後にいきなり大声を上げたレミリアに、妖精メイドの一人であるラーカ・イラムはビクッと身体を震わせた後に「……お、お嬢様……?」と恐る恐るという様子で尋ねる。

 最初は「してやったり」とでも言いたげな不敵な笑みだったのが、次に「しまった!?」という風なものへと変わり彼女の白い顔が赤く染まっていく。 そうしている間にラーカは今のがいつものレミリアの謎のツッコミと気が付いたが、次にどうするのが最善なのかは思いつかなかった。


 「………………」

 「………………」


 数秒間を微妙な雰囲気の沈黙が場を支配する、その沈黙を破ったのは「……コホン!」というレミリアの咳払いであった。


 「……何でもないわよ? あなたが気にする事ではないわ、分かった?」

 「……は、はい」


 ラーカが素直に頷いたのは主人と従者という関係だからという事もないではないが、いつものツッコミなら実際気にする事ないという方が主な理由なのである。

 その頃、この屋敷で唯一の人間である”完璧で瀟洒なメイド”の十六夜咲夜が地下にある部屋の扉の前に立っていたのは、この部屋の主である”悪魔の妹"ことフランドール・スカーレットのおやつを運んで来たからだった。

 羊羹と麦茶の注がれたコップの乗ったお盆を手にした彼女は部屋のドアをノックしようとして、中から怒鳴り声が響いたのに顔をしかめた。

 フランドールが某艦隊育成ゲームの夏のイベント中なのは知っているが、どうやら上手くいっていないらしいと分かるのは、頑丈そうなドアの向こうからでも感じる今にも爆発しそうな妖気を感じての事だ。


 「これは、困りましたわねぇ……」


  こういう時の彼女はナ〇ク化したニンジャス〇イヤー=サンよりも危険と知っているだけに、咲夜といえども無闇に近づきたくはなかったが、妖精メイドの誰かに押し付ける事もしたくはなかった。

 それは純粋に彼女らが気の毒というのと、仮にもこの屋敷のメイドのリーダーであるメイド長が、自分が嫌だからという理由で部下に仕事を押し付けるのは無責任だからだ。

 しばらく考え込んだ末に仕方ないという風な顔で溜息を吐くと、「……【ザ・ワールド】と呟いた次の瞬間には彼女は・・・手ぶら・・・で立って・・・・いた・・

 

「うぎゃぁああっ!!!? まだE3だってのに資源がぁああああああっ!!!? 今回の夏イベは難易度高すぎでしょうぉぉおおおおおおっっっ!!!! このまま資源とバケツを消費してたらジリー・プアだわっ!!!!!」

 ゲーム・ソフトや雑誌などがそこらに乱雑に置かれている部屋で、デスクトップのパソコンのモニターを前に両手で金髪の頭を抱えながら絶叫するフランドールは、自分のベッドの上に羊羹と麦茶の乗ったお盆がある事にはまだ気がついていなかった。

 

        



 〈人里〉のある貸本屋の〈鈴奈庵〉の本居小鈴は本を読むのが大好きな少女である事は知ってはいたが、それでもオタクと呼ばれるニンゲンが好むような薄い本とは縁遠いと二つ岩マミゾウ思っていた。


 「……ふむ? お主がそういうものを読むとは、意外じゃな……」


 だから、お客の来訪を知らせる鈴の音をさせて暖簾を潜り入店したところへ小鈴が椅子に腰掛けてそういう本を読んでいれば、思わずそんな事を言っていた。


 「あはははは……見られてしましたかぁ……」


 チリンという鈴の音にぎょっとして顔を上げて、それから照れた顔で恥ずかしそうに苦笑する小鈴は、マミゾウが”佐渡の二つ岩”の名も持つ狸の妖怪が化けているとはまだ知らない。


 「これは、その……友人からのお土産でして……」


 そう言って小鈴が表紙を見せる、そのイラストから人類と巨人との戦いを描いたアニメの薄い本と分かり、それが一般向けであるのにほっとした。 人間である彼女は当然と言うべきか見た目どおりの年齢であるから、十八歳未満お断りの本はまだ早いからである。


 「土産じゃと?」

 「はい、夏コミとか何とかというイベントのです」


 そういう事かと納得しながら、その友人とは誰かと考えてみて、稗田阿求だと思い当たった。 彼女がゲーム本編とは違いこのセカイでは、このような薄い本の執筆もしているのはマミゾウも知っている事である。


 「成程のぉ、友人からの贈り物ゆえに読まないわけにもいかぬか」

 「それもありますけど……」


 小鈴がそこで言葉を区切り右手の人差し指で自分の頬を搔いたのは、言おうか言わずにいようか僅かに迷ったのである。


 「……その……読んでみるとわりと面白いとは……思います」


 少し照れた表情でそう言った”判読眼のビブロフィリア”の少女に、マミゾウも「ほう? そうなのか?」と愉快そうな笑い顔を返して見せた。





 

 〈紅魔館〉や〈人里〉の住人が平穏な時間を過ごしてた頃、〈妖怪の山〉では大変な事が起こっていた。 山中にある洞窟に入った一人の白狼天狗が突然の崩落のために中に閉じ込められてしまったのである。

 話を聞きつけて〈守矢神社〉の巫女の少女と神の二人がやって来たのだが、現場を見た途端に三人は愕然となった。


 「むぅ……これでは……」


 赤い服を身にまとい背中に背負った注連縄が神らしい威厳を醸しだしている”坂好きの神様”の八坂神奈子が険しい顔で唸る、何が原因かは知らないが入り口を塞ぐ大量の岩石や土砂は、素人にも簡単には除去出来そうにないと見えるだろう。 


 「……中の天狗さんは大丈夫なんですか?」

 「分かりません……無事であってほしいですが……」


 ”風と湖のテウルギスト”の東風谷早苗が集まっている十数人の天狗達にした質問に答えたのは、”山のテレグノシス”の犬走椛だった。 彼女らも手を拱いて見ていたくはないのだが、しかしこの状況に対し打つ手を思いつかないのである。


 「神奈子、どうする?」


 それは”両生類の神様”の洩矢諏訪子も同じである、〈外界〉から来た彼女は重機の類を使えばどうにか出来そうとは思っても、それはほぼ不可能であろうとも分かってしまう。

 だからといって簡単に諦めて見捨てる事をしたくないのは、諏訪子だけでなく神奈子や早苗も同様だった。


 「……やむを得ぬ……か……」

 「神奈子様……?」


 唐突に神奈子が言ったのに、その場の全員の期待に満ちた視線が集中する。


 「こうなってはな、彼らの力を借りるしかあるまい」


 神奈子が力強い表情でそう言ってその場の全員を見渡した。

 その十五分後の〈紅魔館〉では、中庭で高速で飛行する銀色のロケットを目撃していた。 それは飛行機が飛ぶには低空過ぎる高度に思え、一瞬にして視界から消え去り、数秒遅れてジェット音がもっとも大きく響き渡ったのがその速度の凄さを教えている。


 「…………はい?」

 「お嬢様、今のは……」 


 傍に控えている咲夜が言いかけた時に更にもう一機が現れたが、今度の機体は楕円形に近いシルエットで色はグリーンであった。 レミリアはそれが輸送機であると思ったのは形状からの判断ではなく、最近テレビで同じものを見た記憶があったからである。

 その明らかに〈幻想郷〉にあるには不釣合い過ぎるマシンが飛び去った方向を、紅い瞳を点にし口をあんぐりと開いた間抜け面で呆然と見つめるレミリア。 一方で咲夜はまるでパトカーがサイレンを鳴らしながら傍を通り過ぎたという風な何でもない様子で、「何かあったのでしょうか?」と呟く。


 「……………咲夜、あれは……何?」

 「誰がどう見ても国際的な救助隊の方々だと思いますが?」


 たっぷりと五分は硬直していたレミリアがようやく口を開くのに、律儀にそれを待っていた銀髪のサイドを編んだメイド長の少女は、見たとおりですが?という風に答える。


 「それとも、インターナショナルなレスキューと言った方がお分かりですか?」

 「言い方なんぞ、そんなのはどうでもえいわっ!!!!」


 目を吊り上げて大声を上げる主人に「……では、何が問題なのですか?」と首を傾る、そんな従者の天然ボケボケな様子にイラッとなる”紅色のノクターナルツッコミ”の吸血鬼少女だ。


 「……って!!! どさくで何を言うとんねん、この書き手ドアホぉぉおおおおおおおおっ!!!!」

 「……はぁ?」

 「……じゃなくてっ! あの連中が実在するのはこの際もう何も言わないわ、でもっ!!!! どうやって【博麗大結界】を越えて来たんっていうじゃいぃぃいいいいいいいいいいいいっっっ!!!?」


 両手を振り上げながら咆哮ツッコミをするレミリアが、咲夜ではなく天を睨みつけているのを不審とはもう思わない、そんな彼女の表情は実際幼い駄々っ子をどうあやそうかというお姉さんのそれだった。


 「まぁ……彼らの所有するハイパー・メカで何とかしたのでしょう、お嬢様」

 「何とかできてたまるかぁぁあああああああああっっっ!!!!!!」 


 周囲の空気を実際振るわすレミリアのツッコミに「いや……実際に何とかしているのですが……」と苦笑しながら、伝説上の鳥と同じ名を持つ二機の救助マシンが飛び去ったのは〈妖怪の山〉の方向だと咲夜は気がついた。

 自分達が平穏な時間を過ごしてる時にもどこかで誰かが危険な目にあっているという事実は、咲夜にしてみれば関心の薄い問題であるが、いつか我が身に降りかかるかも知れないと思えばまったくの他人事に思うわけにもいかないのであった。

 

  

 ちなみに翌日の《文々丸新聞》と《花果子念報》には、国際的な救助隊の活躍で洞窟に閉じ込められた白狼天狗の少女が無事に救助された事が大々的に報じられていたのであった。

 


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