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イベントの後の紅魔館編



 それは何の変哲もないある日の夜、〈紅魔館〉の地下にあるフランドール・スカーレットの部屋では”悪魔の妹”の名を持つ彼女は、今日も今日とてデスク・トップのパソコンのモニターとにらみ合っている理由は、艦これであった。


 「う~~~またハイパーズが道中大破……」


 次でボスマスというとこまで来ていても、ダメコンを装備していなければ、大破艦が出れば撤退を選択するのは提督の常識である。


 「まだよ! まだ終わらないわっ!」


 イベント海域攻略中のフランドールは、このためにコツコツと貯めた資源の残りやバケツにはまだ十分な余裕があるのに安心しつつ、次のチャレンジのための準備を開始しようとして、モニター下に表示された時計を見て「あっ!?」となった。


 「やば! 時間だわ!」


 慌てリモコンを取るとテレビのスイッチを入れるのとちょうど彼女の目当ての番組が始まったところだった。 

 〈外界〉の歴史にまつわる様々なエピソードを紹介するその番組は、フランドールはとりたてて興味のあるものではないのに時間を気にしていたのは、今日の内容が旧日本軍の潜水艦である伊400だからであった。


 「これがシオイのお姉ちゃんかー」


 そんな考え方が出来れば、暗い海に沈んだ鋼鉄の残骸も感慨深く思えるフランドールであり、いまのこの時間に同様のことを想っているだろう提督が全国にいるのだろうという想像は嬉しいものであった。

 しかし、血を分けた姉妹であっても同様に思うかとかといえば、そうでもないのである。

 フランドールの姉であるレミリア・スカーレットが自室で同じ番組を視ていた理由は、朝からやたらと妹が話していたから気になって視て見た程度であった。


 「……まぁ、すごいっちゃ凄い話だけどさ……」


 伊400建造にまつわる技術者のがんばり物語に対しては純粋にそうは思う、その当時最新鋭の技術の結晶は確たる戦果を挙げる事なく終戦を迎え、敵であった国に破壊処分されたという皮肉も、まぁ……話としては面白いとは言えた。

 しかし、それ以上でもそれ以下でもないのである。


 「……ふぁ~~」


 最後まで視てはみたものの、特別面白いとは言えないが適度な時間つぶしくらいにはなったという感想のレミリアは、欠伸をしながらテレビの電源を切ると椅子から立ち上がった。

 




 伊400の番組放送から二週間程たったある日の午後にレミリアは〈紅魔館じたく〉の門へとやって来た、それは単に暇だったのでちょっとした見回りという気分でだった。

 そこにいる門番の”中華小娘”の紅美鈴が居眠りでもしていれば大声で起こして驚かせてやろうという悪戯心でいた”永遠に幼く紅いツッコミ”の吸血鬼少女だったが、門の前に立っていた美鈴がレミリアに気がつくなり向けたその表情は何かを我慢しているかのように青ざめていたのに驚く。


 「……ど、どうしたのよ?……てか、”紅いツッコミ”はいい加減にせんか~~~~~!!!!」」

 「お、お嬢様、いいところに……申し訳……ありませんが、少しの間見張りをお願いします~~~!!」

 「……へ?」


 そう言うなり主人のツッコミも返事も聞かないで屋敷内へと駆け出していった美鈴、そしてその場に一人残されたレミリアは唖然としながらも、すぐにその理由に思い至った。

 そしてそれはヒトとして仕方のない事とは分かっても釈然としないのは、「……だからって、部下が主人に門番を頼むのもどーなのよ?」という事である。

 しかし、この状況ではそんなの知った事ではないと立ち去るのも無責任という気がするのである。 だから、仕方なく五分間程そうしていたところへやって来たのは、メイド長である十六夜咲夜だった。


 「……あら? お嬢様、どう致しました?」

 「どうもこうも……」


 主人から事情を聞いた銀髪のメイド少女は「あらあら?」と口元に手を当てて微笑んだ。


 「従者が主人に門番を押し付けるとかさ、問題だと思わない?」

 「いえいえ、特に問題はないかと」

 「はぁ?」


 仮にもメイド長の立場の者がいうとは思えない言葉に驚き、次にムッとした顔で「どういう事かしら?」と問う。


 「立っている者はオジョー=サマでも使えというのが、我ら〈紅魔館〉の従者一同のモットーですので」


 子供のような実際無邪気な笑顔で悪びれた様子もなく言ってのけた咲夜に、レミリアは一瞬呆気に取られた顔をし、次にワナワナと人間でいえば小学生くらいの身体を震わせた。


 「そんなんモットーにすんなぁぁああああああっ!! スッゾオラぁぁぁあああああああああああっ!!!」





 〈大図書館〉では、主人が不在であってもツカサの名を与えられた小悪魔が本の整理をしているのは珍しい光景ではない。

 しかし、一人でそれを行うには広く、また書物の数も膨大であれば「……まったく、偶にはパチュリー様も手伝ってくれればいいのに……」という愚痴が吐いて出るのも仕方ないと言える。

 ヒトの身長の数倍はあるであろう高さの本棚であっても、飛行能力を有しているツカサにとっては問題にならないが、作業が面倒だという事に変わりはない。


 「……?」


 分厚くて古めかしい魔法関係の本の間にわりと新しい薄い本が混じっているのを発見して、間違って一緒に閉まってしまっていたのかなと思いながらそれを手に取り眺めてみた。 

 その表紙に描かれているのが見覚えのないキャラクターであれば、少なくとも先日の例大祭のものでないのは分かった。

 ピンク色の魔法少女めいた衣装の女の子のそのイラストは、ツカサには十八歳未満お断りな本には思えずに、何となく興味を引かれてパラパラとページを捲ってみた。

 だが、次の瞬間にはツカサの顔がみるみる赤くなっていったのが、彼女のその予想は違っていたとはっきりと示していた。


 「あいぇぇぇええええええええええっっっ!!!!?」


 〈大図書館〉全体に響き渡るかに思える叫び声を、妖精メイドの一人であるフェア・リーメイドは聞いた。


 「……????……どうしたんでしょうか……?」


 メイド長である咲夜に言われて、三時くらいを待って差し入れの紅茶とクッキーを持って来たフェアは、叫び声の理由が分からずに首を傾げるしかなかった。





 〈妖怪の山〉の山頂にある〈守矢神社〉の境内で、何気なく空を見上げているのは、この神社に”祀られる神”の八坂神奈子だ。

 背中に背負った巨大な注連縄が神らしい威厳を醸しだしている彼女は、今年もじきに梅雨の季節がくれば、一年の半分が終わるのかと考えていた。

 気まぐれで空を何気なく見上げてみて、ふと頭に浮かんだ事だったので、どうしてそんな事を思ったのかは神奈子自身も分からない。


 「……まぁ、どうでも良い事ではあるか」


 そんな事よりも、梅雨の時期がくれば洗濯物が乾かないと早苗が困るという事の方が切実な問題だと思った。 しかし、神であっても自然を意のままに出来ようはずもなければ、どうにかしてやりたくてもどうにも出来ない。


 「結局はなるようにしかならぬ……か」


 その結論に神らしからぬ適当さであるなと神奈子は自分を笑う、そんな五月の日の午後であった……。


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