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スカーレット家の姉妹喧嘩編

今回はとある事が原因でレミリアとフランドールの姉妹が喧嘩をするお話、その決着は意外な?形でつきます。


                  スカーレット家の姉妹喧嘩編


 湖畔に立つ不気味な紅い洋館、〈紅魔館〉の上空では今無数の光弾が飛び交っていた。 その弾幕を黒い翼を広げたレミリア・スカーレットは縫うように潜り抜ける。

 「フランっ!! あんたって子はぁぁぁあああああああああああああっっっ!!!!!!」

 怒りを込めた叫びと共に両の手から放った白いビームの向かう先にいるのは彼女の妹であるフランドール・スカーレットだった、そのフランは直線軌道しか描けないそのビームを難なく回避し言い返す。

 「あたしがいくら使おうとお姉様には関係ないでしょうっ!!!!」

 「大有りよっ!! 私はこの〈紅魔館〉の主なのよっ!!!!!」

 姉妹は互いの低出力の光弾を広範囲に放ちつつ本命の高出力の攻撃を撃ち込んでいる、そのすべてが二人に命中する事はないが〈紅魔館〉の屋根や外壁に着弾し破壊したり、彼女らの眼下で姉妹喧嘩を止める事も出来ず、かといって心配で逃げる事も出来ない妖精メイド達を直撃していた。

 「だいたいこの外界の日本円にして五百万の請求は何なのよっ!!? どうしたらゲームで一ヶ月にこんなお金を使うのよっ!!!!」

 そう、事の発端は彼女の元に届いたこのとんでもない金額の請求だった。 スカーレット家の財産からしてみれば払えない金額ではないが、それでもフラン個人で使う額としては多すぎて看過でる事ではない。

 最近フラン関係の請求が大きくなってはいたが今月は異常すぎる。

 「しょーがないじゃないの! 今月はちょっと課金し過ぎただけよっ!!!!」

 「ちょっとって金額じゃないでしょうがぁぁぁぁあああああああああっ!!!!!」

 悪びれた様子も無い妹の態度の本気で頭にきてきた、このお馬鹿娘には事の重大さが理解出来ないのだ。 こんな軽率な行動をしていればやがてどんな悲劇を招く事になるのか想像も出来ないのだろう。

 レミリアもその事実を最初に知ったときには戦慄が走ったものだ。


 

 ……こんな事が続くと、いずれお嬢様達のお食事は三食カップ麺になってしまいますねぇ……



          ――――紅魔館メイド長・十六夜咲夜の呟きより――――



 「いいじゃないのさ~~~!!! ゲームのためならあたしはそれでもいいわよ~~~~!!!!」

 「……はぁ?……ちょっ……!?」

 妹のとんでもない言葉に呆気にとられ動きの止まったレミリアの銀の髪を弾幕が掠めた、前々からおかしい子ではったがゲームのために食事を犠牲にするというのはレミリアには理解出来る事ではない。 ちなみに、実はメイド達の給料を下げればまだどうとにでもなる事に咲夜は気がついてはいるが、その事を伏せているのをレミリアは知らない。

 しばし呆れかえっていたレミリアの脳裏に姉妹侘しくカップ麺を啜る食事風景が浮かび、次にこみ上げてきたのは怒りの感情だった。 その瞬間に彼女の頭の中で種の様なものが弾け、紅い瞳孔から輝きが失われる。

 「…………あんたって子はぁぁぁぁあああああああああああああああっ!!!!!」




 〈博麗神社〉の境内で焚き火を囲んでいた博麗霊夢が「……平和ねぇ」と誰にとも無く呟くと一緒にいた霧雨魔理沙も「平和だなぁ……」と言う。 霊夢が掃除して集めた木の葉等を燃やしているその焚き火の中にはもちろんと言うべきかサツマイモが入れられていた。

 ここしばらく寒い日が続いていて掃除の後の焼き芋でもなければやっていられないのがこの神社の巫女の考えで、その巫女の考えなどお見通しとばかりにやって来てちゃっかり相伴に預かろうというのがこの白と黒の服を着た魔法使いなのである。

 「今日も〈幻想郷〉は平穏無事だなぁ……」

 その二人を屋根の上に腰掛け眺めていた伊吹萃香は瓢箪に入った酒を煽りながら、すでに酔っているのであろう赤い顔でそう言って青い空を見上げた。




 これは本気で危ないと紅美鈴は焦り始めた、すでに〈紅魔館〉の建物にも周囲にいる妖精メイドにも被害が出ている。 それを何とかしたいと思っても美鈴の戦闘力では彼女ら姉妹を止める事は出来ない、制止しようと声をかけた瞬間には黒コゲかぼろ雑巾の様になっているだろう。

 「咲夜さん! 何とか出来ないんですかっ!?」

 すがる様な顔で傍らに立つメイド長の咲夜に向かって叫ぶ。

 「……どうやらお嬢様は【種割れ】をしてしまったようですね……ああなっては私ではお止めする事は無理でしょう……」

 「……そんな……」

 沈痛な面持ちの咲夜の答えに愕然となる美鈴は、その彼女らの後ろにいた妖精メイドのフェアが「……【種割れ】……?」と不思議そうな顔をしているのには気がついていない

 「……って、ちょ!!?」

 レミリアの右腕にすさまじい魔力が集中していくのを見た美鈴はぎょっとなる、その魔力は光となり長い棒状の形を形成していくその技を美鈴は知っていた。

 「【スピア・ザ・グー○ル】っ!!?」

 「ネットの検索サイトじゃないわぁぁぁあああああああああああっ!!!!!」

 微妙に間違った美鈴の叫びに、フランに隙を突かれるリスクを犯してまでも律儀に突っ込むのはさすがはレミリアつっこみのスカーレットたつじんである。 そのフランが驚いた顔で止まっているのは美鈴のボケに呆れたわけではなく、姉が自分に対して【スピア・ザ・グレン○ガン】を使ってきた事である。

 「天元突破でもないわっ!!! つか、レミリア・スカーレットと書いて突っ込みの達人とか読むんじゃないわよこのアホ文士がぁぁぁああああああああああっ!!!!」

 「あたしの思考を……いえ、地の文を読んで突っ込んだっ!!!?」

 その事実にフランは更に驚いた顔になる。

 「……流石はお嬢様、この状況下でも安定した突っ込みお見事です!!」

 「そこに感心するんか~~~このアホメイドぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!!!」

 両手を振り上げ背の黒い翼をピンと立てて怒鳴りつける主の仕草を可愛いなとちょっと思う咲夜は、同時にこれはチャンスだと冷静な判断もしていた、そしてすぐに実行に移す。

 「ところでお嬢様に妹様! お二人の勝負は幻想曲物語の幻想郷このカケラのルールで付けられてはいかがでしょう!!」

 いきなりの咲夜の提案にレミリアだけではなくフランも怪訝な顔になり「ルール?」と声を揃えて聞き返していた。 その姉妹に対し咲夜は「はい、ルールですよ?」とにっこり微笑んで見せる。

 その笑顔を見たレミリアが「はっ!?」となったのは、ある事に思い当たったからだ。

 「……ルールって、まさか!?」



 「……今日はいいのがないわねぇ……」

 〈香霖堂〉の書籍の棚を眺めていたパチュリー・ノーレッジは溜息を吐く、その手には偶然見つけた貴重な魔道書があるのだが本来の目的はそれではなかったので落胆せざるを得ない。 それでも多少は気になった薄い本を数冊手に取ると店主の待つカウンターへと歩き出した。


 

 地上に降りて数メートルの間隔で対峙するレミリアとフランを妖精メイド達が囲んでいる。

 「……それではこの勝負のジャッジは僭越ながらこの十六夜咲夜が勤めさせていただきますね」

 そう言いながら自分達姉妹の顔を交互に見る咲夜に頷きながら、予想通りの展開に内心で呆れていた。 リトバス方式と呼ばれるこの決闘法をメイド如きの提案と跳ね除けるのは簡単なのだが、笑顔で「このままですと〈紅魔館〉の修理費とメイド達への治療費でお嬢様方のお食事は当分カップ麺な上に電気料金も払えないので電気が止められてしまいます」と言われればレミリアもフランも逆らえない。 立場も戦闘力も下であるはずのメイド長にいいようにあしらわれている様で面白くない事実である

 そんな二人にもちろん自分メイド達の給料を下げれば何とかなるとは言わない咲夜である。

 「この決闘において自前の武器やスペルカードといった能力は一切禁止になります、お二人はメイド達が投げ入れた武器を無造作に取ってそれのみで戦っていただきます」

 「分かってるわ、咲夜。 フラン! 私が勝ったら当分は課金は禁止よ!」

 「ええ、いいわよ。 お姉様、その代わりあたしが勝ったら好き放題に課金させてもらうわよ!」

 分かってるから早くしなさいという顔で咲夜に返しながらも威嚇をするかのように互いをにらみ合っている。 その様子をやれやれという顔で見ながら咲夜は右手を上げてメイド達に合図をした、それと同時に妖精メイド達は用意していた武器を次々と投げ入れ、それをレミリア達は目を瞑り無造作に手に取った。

 「……これよっ!!……!!?……うふふふふ、この勝負、勝ったわよお姉様ぁ~!!!!」

 フランが手に取り自信満々にレミリアに見せ付けたのは拳銃だった、何かのアニメで見たことのあるそれが《ワルサーP=38》という名前だったとフランは思い出していた。 銃としては旧式の部類にはなるのだろうが、それでも飛び道具であるというのは強力なアドバンテージになる。

 対してレミリアの武器はどうやら剣の様だった、これはもう完全に勝ったも同然と言おうとしてその顔が凍りついたのはその黒い刀身の剣が何なのかに気がついたからだ。

 「……ってぇぇぇええええっ!!……ちょ……!?……お姉様、それってぇっ!!!?」

 「うふふふふ。 そうよ、東方とは別の世界の月の女王が創ったと言われている全力を出せば星をも砕くという魔剣よ、フラン~?」

 「そんなのありなのっ!!?……って言うか何でそんな物が〈紅魔館ここ〉にあるわけ~~~~~!!?」

 宇宙人にでも遭遇したかのように信じられないという顔で叫ぶフランにレミリアはにやりと笑みを浮かべながら「さ~ねぇ~?」と答える、もちろんこの結果は策略などではなくまったくの偶然であり、そんな自分の幸運もまんざらではないと思った。

 「……それでは勝負開始です!」

 ジャッジとして中立であろうという思いからだろう、淡々とした口調で咲夜は開始の合図をした。 その声にはっとわれに返ったフランは「こうなったらやってあげるわよぉっ!!」とやけ気味な声を上げて《ワルサーP=38》のトリガーを引くが、発せられたのは火薬の弾ける轟音ではなくカチッという小さな音だった。

 「……ぎゃ~~~弾が入ってない~~~~~~~!!!!?」

 「あらら~~? 残念ね~★」

 レミリアが妹の不運をあざ笑いながら《黒い刀身の剣》を振り上げると、その鍔の部分に施された装飾に半月の形の光が灯る。

 「ちゃんと手加減はしてあげるわよ、フランっ!……魔王っ!!」

 「ひ、ひぃぃぃいいいいっ!!? は、半月剣~~~~!!?」

 振り下ろされた《黒い刀身の剣》からレミリアの数倍もある巨大な黒い光が発射され一瞬にしてフランに迫り、防御も回避も出来ない彼女をその悲鳴ごと呑み込んでいく、そして次の瞬間に大爆発を起こした。

 「……って、しまった~~~!!!?」

 叫んだ時には遅かった、大爆発はフランのみならずギャラリーの妖精メイド達+美鈴まで吹き飛ばし、更には〈紅魔館〉を半壊させてしまった。

 ちなみに咲夜だけは【時を操る程度の能力】を使いちゃっかり安全圏まで退避していた。




     ……はぁ……お嬢様も妹様も何をしてたんでしょう……私いなくて良かったですよ……


     ――――この日、有給をとって旅行に行っていた小悪魔が射命丸文の取材に答えた時の言葉より―――― 



 「……いったい何があったの?」

 パチュリーが帰って来た時に発した第一声がそれだった、〈紅魔館〉の東半分がボロボロになりそこではレミリアとフランがトンカチを持ってシクシクと泣きながら修理らしき事をしているのである。

 「ほらほらお嬢様方、早くしないと日が暮れてしまいますよ?」

 修理用の資材を運んできた咲夜がそれらを床に置くとパンパンと手を叩くと、レミリアは「……分かってるわよ……」と情けない声を上げる。 そんな光景を見ながら下手に声をかけると面倒な事になりそうだと判断したパチュリーは、こっそりとその場を離れることにした。

 状況を見る限りでは地下の大図書館は無事に思えるが、それでも大事な魔道書や薄い本達コレクションが心配なのには変わりはない、事情は後で小悪魔にでも聞けばいいだろう。

 「……まあ、がんばってねレミィ……」

 誰にも聞こえないであろうくらいの小さな声で親友に励ましの言葉を贈ると、そっとその場を離れて大図書館へと向かうパチュリーだった。




           ……ゲームの課金も姉妹喧嘩も程々にしなさいって教訓ね……



         ――――後に事情を知ったパチュリーが呆れ顔で言った言葉より―――― 

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