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お嬢様とメイドさんの大晦日編

 〈紅魔館〉……結界で閉ざされた忘れ去られた者達が暮らす〈幻想郷〉にある不気味な血の様に紅い色をした洋館である、その屋敷の門には招かざる客は阻むぞとでも言うかのような鉄格子があり、中華風の民族衣装姿の長い赤毛の少女が守っている。

 実際ものものしい雰囲気を醸しだす鉄格子の前に立つ”中華小娘”こと紅美鈴という名の少女は「……ふぁ~~」と退屈そうにあくびなどをしているのは、もう数時間で一年が終わろうというこの大晦日の日に侵入者も来客もやって来ないからである。

 そんな呑気な門番とは違い屋敷内では妖精メイド達が大掃除やらの新年を迎える準備に慌しく動き回っていた、その妖精メイドの一人であるフェア・リーメイドがとある部屋の前を通りかかった時に、「ザッケンナ~コラ~~~~~~~!!!!!」という怒鳴り声が響いたのに驚きビクッとなりその部屋の扉へと視線を向けてしまう。

 その部屋の中では部屋の主であり、この屋敷の支配者であり幼い容姿の吸血鬼少女が不機嫌そうな顔で椅子に座っていた。

 「……いきなりヤクザ・スラングなんて下品ですわよ、お嬢様?」

 傍らに控える青と白のメイド服の少女がその青い瞳に咎めるような色を浮かべて言う、短い銀髪のサイドを編んだこの少女の名は十六夜咲夜といいこの〈紅魔館〉で唯一の人間にしてメイド長の立場にある”完全で瀟洒な従者”である。

 そして、そんな彼女がお嬢様と呼んだ事からも分かるであろうが椅子に座った紅い瞳で青みがかった銀髪を持つこの少女こそレミリア・スカーレット、その高いカリスマで”永遠に紅く幼いツッコミ”や”紅色のロリターナルデビル”の二つ名で崇められていた。

 「ザッケンナ~~~コラぁぁぁあああああっスッゾオラぁぁぁああああああああっっっ!!!!!!」

 額に血管を浮かび上がらせてあらん限りの声で天に向かい吠えたレミリアは、その直後には「ぜ~~ぜ~~……」と息を切らせて呼吸を荒くした。

 「……と言いますか、お嬢様、 どうして今回は冒頭から不機嫌でいらっしゃるのですか?」

 主人とは対照的にほんわかした笑顔の咲夜にレミリアが答えるのに数分を要したのは、呼吸が落ち着つけるための時間だった。 その間に、まあ……お嬢様は大抵は冒頭から怒鳴っているような気もしないでもないですが……と思いもしたが、それは言葉にはしない”吸血鬼のメイド”さんである。 

 「……どうしてもこうしてもないわ! いったい前回のあれはどういう事よっ!!」

 「前回と申されますと……”過去と未来、聖夜の夜に邂逅編”ですか?」

 目を吊り上げた顔で睨むのは完全に八つ当たりではあるのだが、そんな主人の少女に怯える事もなくした怪訝な顔にはどこかわざとらしく可愛さすら感じさせる従者の少女だ。

 「そうよ、咲夜! いい! 私、レミリア・スカーレットはこの文士アホのへっぽこ二次小説とはいえ仮にも主人公ヒロインなのよ、ヒ・ロ・イ・ンっ!!」

 「正確にはお嬢様と私ですが……」

 「シャ~ラップっ! そこはどうでもいいわっ! 問題なのはその私の出番がまったくないってのはどういう事なのよぉぉぉぉおおおおおおおおっ!!!!!」

 怒り心頭という様子で両手を突き上げて椅子から立ち上がりながら叫ぶ姿は実際魔人めいていた、咲夜はその様子に僅かな間呆気に取られていたが、すぐにその表情は我が子の可愛い姿を見るかのような微笑ましげな笑顔に変わる。

 「まぁ……お嬢様ですし、そこはそういう事もあるかと……」

 「ドユコトッ!!?」

 何かとんでもなく酷い事を何気ない風にさらりと言ってのけたようにも聞こえた従者の言葉に驚愕したという顔になるレミリアだったが、その問いには答えずに穏やかな笑みを浮かべ続ける咲夜であった。



 〈人里〉の人々が新年を迎えるための最後の準備で忙しない様子を、誰の家とも知れない屋根の上で少し愉快そうな表情で眺めているのは二ツ岩マミゾウである。 里に普段来る時は大抵は人間に化けている彼女ではあるが今は違った、とは言っても別に化け物じみたオドロオドロしているわけでもなく、狸の耳と尻尾以外は普通に人間の少女と大差はない。

 それでもヒトに見つかれば多少は騒ぎにもなろうが、先にも言った通りに年越しの準備に忙しないく道を行き来するニンゲンは他人の家の屋根の上など気にしてもいないようである。

 「……今年も一年が終わるか……」

 〈幻想郷〉に限れば平穏な一年ではあったとマミゾウは思う、もちろんニンゲン一人ひとりという単位で見れば辛い事や悲しい出来事もあるのは当然である、それがヒトが生きるという事なのだから。

 それでも〈幻想郷〉の妖怪達が起こす異変などよりずっと愚かしい行為を繰り返すのニンゲン達の世界に比べれば、十分に平穏と言っていいのではあるが。

 「ふむ、ずっとこうしていてもつまらんな。 寒いだけじゃい……」

 のんびり出来る立場から忙しない者らを見ているというのは多少の優越感とでも言うのか愉快な気分にもなるが、それもすぐに飽きてくるものでもある。

 このまま家に帰りまったりと年を越してもいいが、それはそれでつまらないと思えば、真っ先に思いつく事があった。

 「〈鈴奈庵〉の娘のとこへでも寄っていこうかのぉ……」

 大晦日の日であっても貸し本屋が賑わいとは思えず、のんびりと本を読みながら店番をして過ごしているであろう飴色の髪の少女の顔を思い浮かべつつ、それが一番良いかと思いながら澄んだ冬の空を見上げる”捕らぬ狸のディスガイザー”だった。

 その青空の下にある〈妖怪の山〉の山頂の〈守矢神社〉では、大掃除も初詣の参拝客も迎える準備を思えた神社の巫女、”祀られる風の少女”の東風谷早苗は居間で一人のんびりとテレビを観ていた。

 急須と湯のみが置かれたちゃぶ台の前に行儀良く正座している早苗は、「今年ももう終わりかぁ……」と小さく呟きながらその緑の瞳が見つめる先は、ブラウン管に映るアメ横の買い物風景である。

 自身では行った事はないが、子供の頃にはテレビでこの風景を見るたびに大晦日なんだなぁ……などと感じたものである。 

 「……さってと、そろそろお蕎麦の準備をしなくちゃね」

 湯飲みの中に残った緑茶を飲み干して立ち上がるのであった。



 パチュリー・ノーレッジが根城とする〈大図書館〉が薄暗いのは地下にあるためである、その膨大な書物が収められた部屋で紫の長い髪を持つ”知識と日陰の少女”は木製のテーブルで静かに読書中である。

 「……うふふふふ……今回も豊作ねぇ……」

 不気味に笑うパチュリーは実際怪しげな魔女めいている。 もっとも、その彼女の集に詰まれているのは怪しげな魔道書の類ではない、それらとは別の意味で怪しい薄い本の数々であった。

 これらの品々は年に二回東京ビックサイトで行われるコミック・マーケット購入してきたものである、そのための買出し要員ファンネルとして連れて行っている美鈴と小悪魔のツカサも当初はすぐに瀕死状態に陥っていたもだが、今ではすっかり歴戦の戦士となり頼もしくなってきたものである。

 「……ふふふふふ、次はどれにしようかしら……」

 何やら悩ましげ表情で絡み合うチルノと大妖精のイラストが描かれた表紙の本を閉じると、テーブルの上に山と積まれた薄い本を物色していくのであった。 


 

 冬の日が傾くのは早い、そんな時刻にもなれば昼間よりもずっと冷え込んでくる。

 そんな中で咲夜と美鈴の二人は〈紅魔館〉の門の前で並んで立っている、その従者コンビの視線の先にあるのは正月飾りである門松であった。

 「これを見ると、お正月がきた~て感じがしますねぇ~」

 「そうね、美鈴」

 一部の住人――と言うか、レミリアである――からは洋式の建物に門松とか違和感ありまくりという不評はあるが、もすっかりお正月の風景であると咲夜も美鈴も感じていた。

 「……さて、だいぶ冷え込んできたけど、もうちょっとがんばってね。 もう少しすれば年越し蕎麦も出来上がるから」

 レミリアら主人格の分はもちろん咲夜自らが作るが、それ以外の従者達の分は料理担当の妖精メイドに任せているのである。 ゲーム本編はともかく、この小説ではそれなりに仕事をこなす能力は妖精メイドにはあり、咲夜もずいぶんと助かってはいるものである。

 「はい! お任せ下さい、咲夜さん!」

 立場的には後輩でありながらもメイド長という自分よりも上の立場にいる人間の少女を妬む事はしない美鈴は、おどけた様子で敬礼してみせた。


 

 大晦日のテレビ番組もずいぶんと様変わりしたものとレミリアはふと思う、ニンゲンからすれば昔と比べて……とでもいうのだろうが、五百年は生きるこの幼い容姿の吸血鬼少女にしてみれば少し前という感覚である。

 「……今年も本当に終りねぇ」

 自室の液晶大画面のテレビで、今回で何十回目である紅白の歌合戦のフィナーレを飾る”蛍の光”を聞きながら誰にともなく呟く紅魔のお嬢様と、そのお嬢様の傍らに控えて「そうですねぇ……」と頷く銀髪のメイドさん。

 ニンゲンの歌に取り立てて興味もないが他に興味を引くような番組もなければ、何となく定番のものを眺めていようかというところである。 そして、一人で視聴するの何となくつまらないので咲夜を呼び一緒に観ていたのである。

 「しかし……今年も何だかんだでドタバタした一年だった気がするわねぇ……」

 サイド・テーブルに置いてあったリモコンを取りスイッチを切ると一瞬の静寂がレミリアの部屋に訪れる。

 「あら? お嬢様は何の変哲もない平穏な日常がお望みですか?」

 クスリと笑いながら言う従者の少女に「……ふふふふ、どうかしらねぇ?」と意味ありげな言い方で返した、その時にゴ~~ンという鐘の音が響いた。

 「……除夜の鐘、〈命蓮寺〉ですね」

 「そうね、寅丸星かナズーリンあたりが突いているのでしょうね」

 その光景を想像してみて、この寒い中でご苦労な事だと思いクスリと笑いを浮かべるレミリアである。

 「……さて、あなたももう休んでもいいわよ、咲夜。 明日も早いのでしょう?」

 「はい、承知しました。 それではお嬢様、失礼致します……」

 そんな素振りはまったく見せていないが、実は少し眠気に襲われていた咲夜は素直に主人の言葉に従う、恭しくお辞儀をして顔を上げてから穏やかな笑みを浮かべて言った……。





    「それでは、おやすみなさいませ……良いお年をお迎え下さい……」




 

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