表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/106

過去と未来、聖夜の夜に邂逅編


 十二月の二十四日、街はすっかりクリスマス一色という風である。

 喫茶店の窓越しにそんな町並みを眺めながら、ふと左手首に巻いた腕時計をちらりと見やってから「……いつもの事だけど……遅いわねぇ……」と呟いた少女の名はマエリベリー・ハーン。

 これから女の子の友人と二人である場所に出かけようというのであるが、世間ではクリスマスというこの日というのを思うと私達って何をやっているんだろう?と少しは空しくならないでもないのは、年頃の女の子であるという自覚はあるからだろう。

 そんな風に思っているとパンという手を叩く音がしたのに意識が現実に引き戻されて、やっと来たわねと振り返ってみれば……。

 「……ドーモ、メリー=サン、レンコです」

 ……と手を合わせてオジギをする友人の宇佐見蓮子の姿があった。

 「……え~と~……ナンデ?」

 サークルの仲間であり友人の少女の奇行の意味が分からないマエリベリーは、思わずポカンと口を開きその金色の瞳を点にしてしまった。



 世間ではクリスマスであっても神社の巫女である博麗霊夢には何の関心もない……はずだったのだが、ここ最近は何がしかイベントのある度に〈紅魔館〉を根城とする吸血鬼のレミリア・スカーレットが神社の境内を使い宴会を開くので嫌でも関心を持たざるを得ない。

 霊夢とて宴会で妖怪と酒を飲むのを嫌いではないが、それもお賽銭に影響のない程度という付帯条件が付く。 ”楽園の素敵なシャーマン”とも呼ばれ妖怪退治を生業とする神社の巫女と妖怪が仲良くドンチャン騒ぎをしていたとなれば里の人間らがいっそう寄り付かなくなってしまうだろうくらいは簡単に想像出来る。

 しかも、レミリアはあえてそれを狙っての嫌がらせ目的もあるのである。 だから、メイド服を身に着けた十数人の妖精らが忙しそうに夜からの宴会の準備をしているのを、両手を腰に当てて怨めしげな視線で見つめる黒髪の後ろを赤いリボンで結んだ霊夢としては何としても追い出したいのであるが、それをできない理由が二つある。

 ひとつはこの〈博麗神社〉の取り決めの為である、この神社の敷地では妖怪は決して人間を襲ってはならないというルールでは、このルールを守っている間は霊夢からも手を出せない。

 そうしてもうひとつが前回――”対決、博麗の巫女vs妖精メイド?編”での勝負に負けたために、このクリスマスと次の新年の宴会は黙って見ているしかないのである。

 「く~そ~~、こうなったらあいつが破産するほど食いまくって飲みまくってやるわよ……」

 せめてもの反撃にとそんな事を思い付いたといえば聞こえはいいのだが、要するにヤケ食いヤケ酒であるが、そんな事実は些細な問題に過ぎない。

 「うふふふふ……見てなさいよ、レミリア・スカーレット! あんたが”二度とこの神社で宴会はしないから、もう許して~”って泣いて謝るまで食って飲んであげるわ~~~!」

 その光景を頭に思い描く霊夢は、実際邪神めいた笑いを浮かべていた。


 

 秘封倶楽部という名の不良サークルに所属――と言うか、二人しかいないのだが――のマエリベリー・ハーンと宇佐見蓮子は新幹線の座席に向かい合って座り駅で買った弁当で昼食中であった。

 「……そう言えばさ蓮子、喫茶店でのあれは結局何だったの?」

 「……ふぉへ……ふぉふぉっ!!?」

 口に入れた弁当の卵焼きを飲み込む直前に声を掛けられて反射的に答えようとしてしまい喉に詰まらせてしまった、苦しそうに涙目になりながら慌ててお茶を手に取りそれを詰まった卵焼きと一緒に飲み込んでようやく落ち着く黒い髪の大学生。

 「もう……何やってるのよ……」

 マエリベリーはそんな仲間を心配するより呆れ顔になり、蓮子も「あははは……ついね……」と少し照れたような顔で苦笑いしたものである。

 「……で、何だっけ?」

 「だから、さっきのあれよ、妙な挨拶みたいなのよ」

 「あ~~、あれね。 あれは見たままのアイサツよ、メリー」

 「……はぁ?」

 確かに挨拶と言われればそうは思うが、あんな奇妙な挨拶の仕方など日本へ来てから一度とて見た事も聞いた事もなかった。 それを言ってみると「まぁ……日本語って言うか”ニンサツゴ”だしねぇ~」という答えが返ってきて、ますますわけが分からなくなってくる。 

 「ま、メリーもそのうち知る事もあるよ、きっと」

 愉快げに笑う蓮子に「……知りたいような知りたくないような……」と言いながら窓の外へと顔を向けた直後だった、唐突にマエリベリーの周囲から音が一切消えたのは……。

 「…………では、紫様は今夜のクリスマス・パーティーに行くのですか……」

 「ええ、そうよ、藍」

 〈八雲邸〉の居間で二つの湯飲みと空になった食器が置かれたちゃぶ台を挟んで会話しているのはこの屋敷の主人にして”境界の妖怪”こと八雲紫とその式神である””すきま妖怪の式”の八雲藍である。 

 クリスマス・パーティーという建前ではあるが、参加する妖怪達にとっては忘年会的な意味合いの強いイベントであり、主催のレミリアもそれは承知しているだろう。 そして、紫もそういう風に考える妖怪の一人である。

 「そうね、どうせなら橙も呼んであげなさい藍」

 「はい、紫様がおっしゃるのであれば……」

 あくまで命令に従ったという風な態度の藍ではあるが、彼女しきの式であるあの猫娘を内心ではすでに誘うつもりだっただろう事は見抜いていた。 二次創作によくある溺愛しているという程ではないにせよ、多少は橙を自分の娘のように可愛がっている面もあるのがここ・・の八雲藍という九尾の女狐なのであるから。 

 「ふふふふふ……」

 そんな藍に微笑ましげにも妖しげにも見える顔で笑ってからふと顔を上げた紫の視界には、見慣れた我が家の居間ではなくまるで外の世界のありふれた町並みが、まるで電車に乗っているかのように流れていたのであった。

 だが、それも一瞬の事で、「……紫様?」という声に我に返った紫の金色の瞳が視ていたものは畳の敷かれた居間であった。



 湖の畔に建つ〈紅魔館〉の門の前に立つ紅美鈴は青く澄んだ冬の空を見上げながら、「……流石にそうそう毎年は雪は降りませんねぇ……」と誰にともなく言った。

 門番としては雪が降るのは好ましくはないのだが、せっかくのクリスマス・パーティーをするのであれば雰囲気も出るし悪くはないとも考えもする。

 その時に、「寒い中ご苦労様、美鈴」と声をかけてきたのは、青と白のメイド服を纏ったメイド長の十六夜咲夜であった。

 「咲夜さんは〈博麗神社〉へ?」

 「ええ、屋敷内の家事も一通り片付いたしね」

 もちろん遊びに行こうというのではない、メイド長として宴会場の最後のチェックをするためである。 妖精メイドらを信用してないというわけでもないが、レミリアが主催する以上は彼女に恥をかかせないためにも完璧に会場をセッティングする、それが例えどんなに些細なものであってもである。

 それが、〈紅魔館〉で唯一の人間であるこの少女の律儀なとことであった。

 従者の少女らがそんな風に話をしている頃、地下にある〈大図書館〉の主である魔法使いのパチュリー・ノーレッジは自室のパソコンの前で「……うふふふふふ」と実際怪しげな薄ら笑いを浮かべていた。

 「……冬コミのアイテムもだいぶ出揃ってきたわねぇ~」

 インターネットのサイトを巡り、もう数日先に迫った大イベントで配布される品々のチェックに余念のないパチュリーであった。

 


 日も落ちすっかり暗くなった空に冬の綺麗な星空が広がっている、その夜空の下にある古ぼけ廃屋と化した神社の鳥居の前にマエリベリーと蓮子は立っていた。 何十年いう永い時間を人の手が加えられずに放置されてきた神社は不気味にホラーめいた雰囲気を醸しだし、そこいらの木の幹にはウシノコク・マイラーの残したわら人形でもあるのではないかと二人に思わせる。

 そんな場所にいるのは似つかわしくない二人の少女が上を見上げ手に持った懐中電灯で照らした場所には、”博麗神社”という名前が刻まれていた。

 しばらくして、境内の中に入って行こうと顔を下ろして歩みを進めようとした、その瞬間だった……。

 (博麗神社と刻まれた鳥居の下を潜った紫がふと足を止めた理由は、後から考えても自分でも分からなかった、誰かに呼ばれたような気がしたとも単なる気まぐれであったようにも思えた。  

 その瞬間に、〈幻想郷〉きっての大妖怪が驚きに目を見開き硬直した……)



 「あなたは誰……?(メリー……マエリベリー・ハーン!?)」



 マエリベリーの目の前に紫のドレスを纏い長い金髪を端で束ねた女性が金色の瞳に驚きの色を浮かべて自分を見つめていた、その顔をマエリベリーは始めて見たようにも思えたし、良く知っている顔のようにも思えた。

 だが、彼女の後ろにいる二人は確実に知らない。 白い服に狐の尻尾を何本も生やした女性と猫の様な耳と尻尾を持った幼い少女……三人ともおそらくはニンゲンではないだろうと思えた。

 それだけではなかった、更にその向こうにはランプのものと思われる明かりに照らされた少女達が思い思いに談笑し笑い合う、そんな彼女らの背後にぼんやりと見える〈博麗神社〉は、実際そこに管理者でも暮らしてるかのように手入れが行き届いているように見える。

 (紫の眼前には顔に驚きと警戒の色を浮かべた少女、その少女の後ろでキョトンとしている黒髪の少女も含めてよく知っている。 もっともその黒髪の少女には自分の姿は見えていないだろう事も分かる)

 そして、ふと周囲を見渡せば案の定と言うべきか何十年と人の手が入っていない廃屋となった〈博麗神社〉の姿である)

 「……え!?……え!?……どういう事……!?(ふむ……これは……)」

 「れ、蓮子は!?……蓮子はどこっ!?(私とメリーとの境界がなくなったとでもいうのかしら……)」

 何が起こっているのか分からずにパニックに陥るマエリベリーの中で冷静な思考をしてもいた、何が起こっているのか冷静に考えながらも混乱状態という口調で叫んでいる紫……。

 体感的には一瞬とも永遠にも感じられたその現象が収まれば、マエリベリー(紫)の眼前にあったのは古ぼけた(見慣れた)〈博麗神社〉の鳥居であった。



 「……紫……様……?」

 我に返った紫に最初に聞こえたのは心配そうな金髪の妖孤の声であった、観れば彼女の隣に立つ幼い容姿の猫娘も不安そうな顔で見つめている。 二人から見れば、自分が突然にぼーっとなっていたとしか見えなかったのだろうから当然ねと思う。

 「ん? ああ、何でもないわよ。 ちょっと……ね」

 そう言って微笑んで見せたが紫であるが、式の少女らにはどうしても意味深な笑いに見えてしまっているのは、八雲紫という妖怪の日ごろの行いのせいであろう。

 二人の表情からそんな事も分かってしまう紫は心の中で苦笑した。 しかし、この二人に未来ゆかり過去メリーの境界がなくなり僅かな時間ひとつになっていたなどと説明しても理解出来まい、そもそも紫とてどうしてこんな現象が起こったのか理解出来ていないのだから。

 そう過去と未来だ、どっちが現在ではなくどっちも現在である。 そのヒトが今を生きている時間こそ現在なのだから。

 クリスマスの……聖夜の奇跡なんてオチはないだろうとも思うが、それが一番に納得出来る理由な気もした。

 「本当に何でもないから気にしない……これは命令よ」

 主人らしく僅かに厳しい表情で言うと「……はい」「……分かりました」と藍と橙、あまり褒められた行為でもないが一番手っ取り早い方法である。

 式であってもただ命令された事をするだけのロボットになってほしいわけではない、命令された事を自分の頭できちんと考えて理解した上で行動する……それが八雲紫の理想とする式神だ。 なので今回はやむを得ないが、命令という形で無理矢理に納得させるのはしたくないのである。

 「いつか話せる事があれば話してあげるわよ、だから今日はもう宴会を楽しみなさい二人とも」

 〈幻想郷〉の創世にも関わった大妖怪は、出来るだけ優しげな笑い顔を作って言うのであった。




 ……この日、八雲紫という名前の妖怪の身に起こった、この奇妙な出来事など誰一人として知る事もなくヒトならざる少女らの宴会は盛り上がり、夜は更けていった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ