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対決、博麗の巫女vs妖精メイド?編 



〈幻想郷〉……人ならざる者と人が共に生きる世界である、その〈幻想郷〉のとある湖畔に〈紅魔館〉という名の紅い洋館が建っている、建物全体からどこか禍々しい雰囲気を放つこの屋敷の主人はもちろんニンゲンではない。

 白いテーブルクロスの敷かれた広い食堂のテーブルで背後に白と青のメイド服の少女を控えさせ、朝食後の紅茶を堪能しているピンク色の服を纏った青みがかった銀髪の少女、”紅色のロリターナルデビル”の二つ名の通りに幼い容姿の彼女こそレミリア・スカーレット、”永遠に紅く幼いツッコミ”や”紅色のノクターナルツッコミ”などの名でも呼ばれ人々に恐れられる?吸血鬼少女である。

 「んなんで名で恐れられるかいぃぃぃいいいいっっっこのドアホ文士がええかげんにせんかいぃぃぃいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!!!」

 仕える主人の突然の叫び声に驚くキョトンとした顔になったのも僅かな時間、すぐに微笑ましげな笑顔を浮かべて、今日もお嬢様は朝からお元気でなによりですねと思うのは十六夜咲夜。 この〈紅魔館〉で働くメイド長にして”完全で瀟洒な従者”の二つ名を持つこの屋敷で唯一の人間である。

 「……てか、何よ、この私の咲夜の扱いの差は…………」

 中身を飲み干して空になった陶器の紅茶カップをコースターの上に戻しながら不機嫌そうな顔で小さく呟いた言葉は、咲夜には聞こえなかった。 「……何かおっしゃいましたか?」と聞いてくるのに「……何でもないわ」とやはり不機嫌そうに返したレミリア。

 どう考えても作中で従者の方が扱いが良いのは面白くない事実ではあっても、決して咲夜に責任があるわけでもないので八つ当たりも出来ない、そんな器の小さい存在になるつもりもない。

 そんな彼女の心中を知ってか知らずか、つまらないことでふてくされる可愛い子供を見ているかのような顔の咲夜であったが、ふと何かを思い出した風にパンと手を叩いた。

 「ああ、そうでした……先程、にとりから電話があったのですが例の物の修復と改装の作業が完了したそうです」

 「……例の物……って、ああ、あれね」

 一瞬だけ怪訝な顔になったのはすぐに思い出せなかったからであるが、すぐに顔が納得したという物に変わり更に渾身の悪戯を思いつた子供めいた笑みを浮かべた表情へとなる。

 「そう……うふふふふふ♪」

 彼女の親友であるパチュリー・ノーレッジが偶々ネット・オークションで見かけたそれをレミリアが大枚を叩いて落札したのは、〈博麗神社〉の巫女である博麗霊夢への嫌がらせに使えるなと考えたからである。

 「咲夜、すぐに取りに行かせなさい」

 「はぁ……ですが、にとりはすでに宅急便で送ったと……」

 さっそく計画を開始しようと指示を出したレミリアはサイドを編んだ銀髪の従者の返事に「……はぁ?」と素っ頓狂な声を出していた、そして……。

 「……って!! 送れるのっ!? あれが!? 宅急便でっ!!!?」

 驚愕の様子で信じられないという声を上げたのであった。




 気がつけば今年ももうひと月を切ったのだと〈守矢神社〉の巫女である東風谷早苗が思ったのは、居間でくつろぎながらテレビを観ていた時だった。

 「そろそろお正月の支度を始めませんとね……」

 「ふむ、そうであるな」

 巫女の少女にこの神社に祀られる神の八坂神奈子が頷く、どっしりとあぐらをかいて座布団に座る様子はさながら母親めいた威厳があった。 そしてもう一人の神である洩矢諏訪子は神奈子の娘かと言っても通用するとも思える幼い外見であるが、実際にはちゃぶ台を囲む三人の中では一番の年長者である。

 「あーもうそんな時期かぁ……歳をとると時間の経つのが早いな~」

 だから、そんなセリフが出るのも当然なのだが、知らぬ者が聞けば首を傾げるであろう。 彼女の相棒とも言える神奈子は「ふふふ、そういう事はヒトも神も変わらぬか」と笑う。

 仕える緑色の神の巫女の何十倍という時間を存在してきた彼女らの時間の感覚は決してニンゲンのそれとは一緒ではないだろう、すでに自分の年齢すら数えるのをやめて久しい二人の神にとってはニンゲンの決めた一年という節目などそれこそ一瞬のようなものでしかない。

 しかし、こうしてヒトと共に生きている以上はそうしたヒトの営みを無意味という気は神奈子にも諏訪子にもなかった。 

 「まぁ、ともあれ慌てる事もないであろう。 〈幻想郷〉はとは違いそんなに慌ただしい場所でもないでな」

 何気なくという口調ではあったが、早苗の緑の瞳を見据えて言う神奈子の薄茶の瞳には、真面目でがんばりやであるがそれゆえに時に暴走しがちな彼女を戒める意味で言っているのだろうと思えるものがあった。



 〈鈴奈庵〉……〈人里〉にある貸本屋で、店内のカウンターで本を読んでいた店のの娘である本居小鈴が「……〈外界〉には本当に妙な物があるわねぇ」と呟いたときに来客を知らせる入り口の鈴の音が鳴った。

 「お邪魔するわよ、小鈴……製本を頼みたいんだけれど店主はいるかしら?」

 入って来たのは風呂敷包みを抱えた紫のセミロングの髪の少女である、稗田阿求という名前の、店の常連で小鈴の友人でもある少女を「……ん? ああー阿求か」と顔を上げて出迎える。

 「あーーお母さん達は今は留守なんだよねぇ……」

 言いながら立ち上がるのは、おそらくは「じゃあ、少し待たせてもらうわ」と言うだろう阿求の為にお茶でも淹れてこようという事であり、実際のそのように言いながら来客用の椅子に腰掛ける阿求であった。

 しばらくしてお茶の入った湯飲みをお盆に載せて戻って来た小鈴は、ふと思い出したように「そういえばさ……」と話しかけた。

 「……ん?」

 「阿求は”MS少女”って知ってる?」

 「はい?」

 小鈴がそんな事を聞いたのはこの”幻想郷の記憶”の少女が本業の妖怪や異変に関しての資料の執筆の傍らで趣味の薄い本を作っているのを知っているからであり、その”判読眼のビブロフィリア”の小鈴に阿求が素っ頓狂な声で返してしまうのは彼女の口から出るには少々意外だったからでる。

 「いやさぁ……さっき読んでいた本なんだけど……」

 そう言いながらカウンターの上の本を指差した、そこにあったのは《MS少女イラスト集》というタイトルの本だったのに、「あーそういう事ね」と納得する阿求。

 「そうねぇ……簡単に言えば某ロボットアニメの中に登場する巨大ロボットの擬人化と言えばいいかしらね。 メカと美少女、燃えと萌えの融合……ある種の男のロマンってやつね」

 ゲーム本編の彼女であれば絶対に口にしないであろう単語も何でもない事のようにスラスラと出てくるのがこの小説カケラの稗田阿求なのである。 そんな阿求の説明も小鈴にはよく理解出来ず「はぁ……何よそれ……?」と胡散臭げな顔になる。

 「う~ん……どう説明したら小鈴にも分かるかしらねぇ……?」

 唸りながら腕を組み考え込み始めた阿求であった。

 



 太陽も沈みすっかり暗くなった時刻に博麗霊夢、”楽園の素敵な脇巫女”とも呼ばれる黒い髪の少女である。 その霊夢は今は〈幻想郷〉のとある場所に居た、周囲に建物もなく人気もまったくないこんな場所に彼女が愛用の《お払い棒》を手に佇んでいるのは、レミリア・スカーレットから届いた挑戦状の指定した場所だからである。

 「脇巫女言うなって何度言えば分かるのよっ!! このアホ文士めっ!!!!」

 天に向かって怒鳴ってから「まぁ……言うだけ無駄ね……」と諦めきった顔で溜息を吐いた。

 「……さてと……」

 気を取り直して表情を引き締めた、流石に奇襲などをしてくるとまでは思わないが何を企んでいるか分からな以上は適当に相手をして楽勝で勝てるとも思っていない。

 何しろ今回の勝負はレミリア側が勝った場合はクリスマスと新年の宴会を許可し、負ければ今回は諦めるというもので、その勝負の相手は妖精メイドなのである。 どう考えても霊夢が負ける要素などありえないのではあるが、あのレミリアが挑んできたとなれば彼女には十分な勝算があるという事である、少なくとも無策ではないだろう。

 「……戦車とか戦闘機でも持ち出してくるのかしら」

 もちろん、ハンデはつけさせて貰うわという文章からそんな風に予想してみて、それでも自分なら戦い方はあるだろうとも考える。

 その霊夢の耳に近づいて来る轟音が聞こえたのはその時だった、それがジェット・エンジンから発せられられるものだとすぐに気がつき、本当に戦闘機でも持ち出したのかと音の近づいて来る方向へと視線を動かし、次の瞬間に驚愕に目を見開いたのは、全長十七、八はありそうな巨大なレミリア・スカーレットが背部のバーニアを吹かして飛んで来るからであった。

 「ちょ……ななななな……!!?」

 驚愕しながらも相手を観察しているのは歴戦の戦士の霊夢である、鎧のようなというよりアニメにでも出てくるようなロボットのパーツを着込んだような身体や、明らかに人工的な光を放つ紅い瞳から、それが生身のレミリア本人が巨大化したものでないと判断してみせる。

 そして何より目立つのは、巨大レミリアの口元から生えた白いヒゲのようなパーツであった。

 「てか、ヒゲ!? 白いヒゲ!?……ヒゲのレミリアっ!!?」

 『その通り! ドーモ、私は妖精メイドのアム・ローレイ! この機体、∀レミリアのパイロットですよ、レイム=サンっ!!!!』

 外部スピーカーを通しての声を響かせて霊夢の数十メートル先に着地した∀レミリアだが、それでも霊夢の身体がよろめいた事からその重量の大きさをうかがわせた。

 「……た、ターンエー……レミリアですってっ……!!?」

  


 「……しかし、あのデザインはどうにかならかったの咲夜?」

 その同時刻の〈紅魔館〉の自室の椅子に座り寛ぎながらそんな事をぼやく主人に、背後に控えていた咲夜は「あら? そうでしょうか……私はとても素敵だと思いますよ、お嬢様」とにこやかな顔で答えた。 それは本気で言ってるとも、レミリアをからかっているという風にも聞こえたが、少なくとも従者としての薄っぺらなおべっかではないだろうとは分かる吸血鬼の少女である。

 東方プロジェクトとはまったく関係のない人型の戦闘兵器をこの”なろう”でも使えるような外見と名前にするようにとこの銀髪のメイド長に命じたのはレミリア自身ではあるが、まさかこのような結果になるとは予想外であった。

 もちろん、にとりの独断ではなくこの咲夜があれこれと注文をつけた結果であろうというのは、このしっかり者でありながらどこか天然ボケボケのメイド少女に確認するまでもない事である。

 「…まぁ……いいけどさぁ……」

 これ以上はもう考えても仕方ないと小さく溜息を吐くと、窓の方へと顔を向けてすっかり暗くなった外を見る、人間の目であれば暗闇しか映らなくてもでも吸血鬼である彼女の紅い瞳は昼間と同様とはいかないまでも、活動にまったく支障のないレベルで見通せるのである。

 「……今更あれだけど、アムは勝てるのかしらね?」

 「心配はご無用ですわ、お嬢様。 この〈紅魔館〉……いえ、〈幻想郷〉であの∀レミリアを一番上手く扱えるのがアム・ローレイですわ」

 僅かに不安がよぎっているレミリアに自信たっぷりに答えてみせる咲夜である、何を根拠にとも思わないでもないが、自分に対していい加減な事を言う彼女でもない。

 「……まぁ、一応は期待して待っててあげるわ……?」

 咲夜の方を見ずに窓の外を眺めたまま紅魔の館の主人らしい不敵な笑みで言ってみせたレミリアの顔が怪訝なものに変わったのは、虹色の蝶の羽根のようなものが遥か遠くに見えたからであり、アムと霊夢が決闘をしている辺りだと分かったからである。

 「……お嬢様?……ああ」

 その表情の変化に咲夜も窓の方を見てその顔が納得したというものになる、人間にしては夜目が効く彼女でも主人の少女程ではなくとも、虹色の蝶の羽根は見る事が出来た。

 「アムが【月光蝶】を使いましたわ、おそらく勝負ありでしょう」

 「……【月光蝶】……?」

 そんなものの話は聞いてないわよという風な顔のレミリアに「はい、【月光蝶】ですわ、お嬢様」とさわやか笑顔を見せる咲夜だった。

 その彼女も言葉通り、この一時間後に帰還したアムから勝利の報告をレミリアは聞く事となる、そして役目を終えた∀レミリアはにとりら河童の技術者の手により某所に封印されて永い眠りにつくことなるのである。




 ちなみにこの決闘でボコボコにされた霊夢ではったが、奇跡的に命には別状はなく、数日後にはメチャクチャ不機嫌な顔で神社の境内を掃除していたのであったとさ。 

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