表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/106

大雪の日は大変だね編


 厚く黒い雲に覆われた〈幻想郷〉の空、そこから激しく降り注いでいるのは対照的な白い色をした雪である。 すでに厚く積もった雪の中を、ヒトの身であれば出歩くのも一苦労であるそんな中を楽しげに歩く少女、それは彼女がニンゲンではなくレティ・ホワイトロックという名の雪女だからである。

 そのレティがふと立ち止まり向けた視線の先にあるのは〈紅魔館〉と呼ばれる西洋風の屋敷である、周囲すべてが自然の白で染まった世界にあって血のように紅い人工の建築物があるのはどこか歪にもレティには感じられた。

 その〈紅魔館〉の主人である”紅色のノクターナルツッコミ”ことレミリア・スカーレットは自室の窓から外を眺めていたが、唐突に「だぁぁぁぁあああああっそのワンパターンはやめいと言ってんでしょうがぁぁぁああああああああっっっ!!!!!!!」と大声で叫び背後に控える銀髪のサイドを編んだメイド服の少女に驚いた顔をさせた。

 もっとも、その”完全で瀟洒な従者”こと十六夜咲夜という名前のこの屋敷で唯一の人間の少女が驚いたのはやはり突然の大音量にであり、すでに日常の光景となっているピンク色の服に身を包んだ吸血鬼のお嬢様の奇行に対してではない。

 「……まぁ、いいわ。 それにしても咲夜、よく降る雪ねぇ……」

 昨夜未明から降り続いているらしい雪は朝食も済んでから数時間経過した今になっても止む気配がない、これだと相当に積もっているだろう。

 「はい、お嬢様。 しかし、天気予報では午後までには止むだろうとの事です」

 「ふ~ん、そうなの?」

 洗濯物など家事に関わってくるため天気予報はきっちりチェックしている咲夜とテレビを観ている時にやれば多少は気にする程度のレミリアである。 この雪では〈人里〉も大変だろうと何となく思うのは本当に思うだけであり、心配などはしない。

 「ともあれ、天候が回復したら屋根の雪下ろしをしませんとね」

 「ん? ああ、そうね」

 雪の重み程度で屋根の潰れるほどにやわな〈紅魔館〉ではないとも思う屋敷の主人ではあっても、従者達がやろうというのは止める気もない、何よりそんな事も冬になればすでに当然の光景ともなっていた。 

 レミリア自身がやるでもなくどこか他人事であっても、テレビのニュースなどで顔も知らないニンゲンがやっている光景は気に止めなくとも、咲夜ら従者がやっているのを見ていれば大変な作業だとは感じる。

 「まあ、がんばりなさい。 でも、あなたも妖精メイド達も怪我には十分注意しなさいよ?」

 だから、こんな風に気遣いをしてしまうのは咲夜も妖精メイドも飛行能力は有してはいても、それは決して落下事故を起こさないという事ではないからである。 外見的には自分より年下の、しかし、生きてきた時間は数十倍はある主人のそんな気遣いに「承知しております。 私もメイド達もお嬢様に心配をかけるような事は致しませんわ」と穏やかに笑ってみせる従者。

 「……な……ち、違うわよっ! そう! あんたらが怪我をしたら治療費もかかるし屋敷の労働力が減っちゃうからよっ!! この私、レミリア・スカーレットが従者ごときの身体を心配するわけないでしょうっ!!!」

 少し頬を赤らめて焦った様子で声を上げるレミリアを「はいはい、分かっておりますわ」と微笑ましげな笑顔で見つめる咲夜であった。




 午後になるとそれまでの大雪が嘘のように青空が広がっていた、そんな空の下にある〈人里〉もすっかり白く染まっている。 その〈人里〉に中にある貸本屋の〈鈴奈庵〉の前では店の娘である本居小鈴が雪かきをしていた。

 「まったく……よくも積もったものよねぇ……」

 愚痴と共に吐き出した息も白い、毎年のことではあっても小柄な少女のする仕事にしては重労働であるには変わりなく、怨めしげな目で店の前の道に積もった雪を睨みつけてみた。

 どのような文字でも読み取り”判読眼のビブフィリオ”とも呼ばれる少女であっても、それ以外は空も飛べず戦闘を出来るだけの身体能力があるわけでもない普通の少女であるのが小鈴なのだ。

 「……はぁ~~……ちゃっちゃとやっちゃうかぁ……」

 



 天狗達が暮らす〈妖怪の山〉にも当然の如く雪は積もっている、その山頂にある〈守矢神社〉の屋根の上でスコップを手に「……何で私がこんな事を……」と愚痴っているのは犬走椛、”下っ端哨戒天狗”の二つ名を持つ白狼天狗の少女である。

 「……って、そっち!? ”山のテレグノシス”でいいでしょうっ!!!!」

 愚痴を溢したかと思えばいきなり大声を出した椛の奇行に、彼女と同じように屋根の上でスコップを手に雪下ろし中の”八坂神奈子は「そんなものはどっちでも良いわ、書き手アホへの文句なんかより手を動かさなぬか」と言う。

 この〈守矢神社〉の祀られる神である神奈子はそのトレードマークとも言える背中の注連縄は外していた。

 「それにどうせ暇をしていたのであろう? 良いではないか」

 「暇って……まぁ、そうなんですけど……」

 〈妖怪の山〉を哨戒し外敵があれば撃退するのが任務の椛ではあるが、さりとてそんな事が滅多にあるほどに物騒な〈幻想郷〉でもなかった。 それ自体は別に好戦的な性格でもない彼女にとっては悪い事でもないが、そのために神社の雪下ろしのような事をさせられるのは問題だとは思う。

 ちなみにこの神社に暮らすもう一人の神である洩矢諏訪子は境内の雪かきを、巫女である東風谷早苗は夕食の買い物に出かけていた。 

 神として威厳を損なってはいけないが、家のすべての仕事を巫女の少女に任せて偉そうにどっしりとしているつもりは神奈子にも諏訪子にもなかった。 それぞれに分担しするべき事をするというのが〈守矢神社〉におけるルールのようなものであり、神と巫女の関係でもあった。

 そんなカミとヒトの関係も悪くもないのだろうとは思う白髪の天狗少女。

 「ほれほれ、さっさと手を動かさぬか。 ぼけっとしてると日が暮れてしまうぞ?」

 「はいはい……分かりましたよ……」

 神奈子の茶色っぽい赤眼に睨まれ、渋々という顔で作業を再開する椛だった。

 


 〈紅魔館〉の地下にある〈大図書館〉主であるパチュリー・ノーレッジはこの冬の寒さとは無関係であったのは、ストーブの傍に置いた机で暖かい紅茶を飲みながら”博麗神社例大祭”の戦利品うすいほんを鑑賞中だからだ。

 「……うふふふふふふ……」

 ランプの明かりに照らされた顔で薄ら笑いを浮かべる様は実際悪事を企む魔女のそれである、そんな主人の様子を不気味に思う小悪魔のツカサである。 彼女はパチュリーの読んでいる本の中身が気にはなっていたのは、表紙に書かれたイラストがほとんど下着姿の小悪魔じぶんだったからだが、それを知るのも怖い気がして聞くに聞けないでいたのであった。




 「…………で、何でこの私がここにいるのかしら?」

 レミリアがその赤い瞳で従者である銀髪のサイドを編んだメイド少女を不機嫌そうに睨みつけたのは、彼女の暮らす紅い屋敷の屋根を白く染めた雪の上であった。 その周囲ではフェア・リーメイドら三人衆を含む十人程の妖精メイドがせっせと雪下ろし中である。

 「何でも何も……”咲夜、テレビも面白いのやってないくて暇なんだけどさぁ~何かいい暇つぶしないかしら?”とお嬢様がおっしゃったのですが?」

 メイドの少女こと咲夜は何を今更という風な顔で答えた。

 「だぁ~~~雪下ろしがいい暇つぶしかぁぁぁああああああっ!!? てか、どこの世界に自分ちの雪下ろしをするお嬢様がおるかぁぁああああああああっ!!!!」

 「はぁ……ですが、立ってる者はオジョー=サマでも使えというコトワザが……」

 「だからぁぁぁぁああああんなもんあるかぁぁぁあああああああああああああっっっ!!!!!」

 従者のボケボケ発言に目を吊り上げて叫ぶレミリア、そんな主従漫才もすっかりいつもの事となっている妖精メイドらは多少は苦笑を浮かべつつも、あまり気にすることなく作業を続けていた。

 「……しかし、お嬢様とメイド長も飽きずによくやりますねぇ……」

 「まったくです……」

 「まぁ、ええんやないか? あれがあのお二人のスキンシップなんやろうし」

 そんな中で、ふとそんな事を呟くフェアに同僚のラーカ・イラムとチャウ・ネーンは同感という風に頷くと、三人同時にやれやれと溜息を吐いたのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ