ハロウィン・パーティーとメイドさんのバトル編
時刻は草木も眠るウシミツ・アワー、黒い夜空にいつにも増して星々が輝いて見えるのは、今夜が新月だからであろう。 そんな空の下にある〈博麗神社〉の主にして”楽園の素敵な脇巫女”こと博麗霊夢も当然、自室の布団の中で就寝中である。
「……どぁれが~脇巫女かぁ~~~~~~……」
畳の敷かれた和室の中で霊夢のそんな寝言が聞こえる、その直後に彼女は唐突に出現した。
「……博麗の巫女と言えども就寝中は何とも無防備な事で……」
暗闇の中、青と白のメイド服姿の少女が小声で呟く。 今でこそメイドであってもかつては幾多の吸血鬼を狩ったベテラン・ハンターであり、今でも必要があれば戦闘もこなしているこの少女は気配を消す術にも長けているし、その彼女の特殊な能力を使えば歴戦の巫女であっても住居に侵入されてしまうのも止むを得ないだろう。
別に霊夢の寝姿を鑑賞するような趣味もないメイドの少女は、夜勤手当も出ないこの仕事をさっさと済ませてしまおうと霊夢の布団にそっと忍び寄ると、どこからともなく紫色の板状の物体を取りだして霊夢の頭の脇辺りにセットした。
するとバチバチと放電現象が始まり、その直後に寝返りを打った霊夢の頭が上に乗っかった、すると……。
「……ムニャムニアイェェェエエエエエエっ!!?」
まるで激しく感電したかのような衝撃に一気に意識の覚醒する霊夢であったが、状況を把握するどころか自身の身体が痺れて動かないと認識する暇もなかったのは、メイド少女が投げた野球ボール程の二発の赤い球体のために、再び、しかし今度は更に深い眠りへと墜ちてしまったからであった。
「……博麗霊夢捕獲クエスト、達成ですわね」
当分は目を覚まさないであろう黒髪の巫女の少女をそのブルーの瞳で見下ろしながら、満足げに言うメイド――十六夜咲夜だった……。
僅かに満ちただけの月の下の〈博麗神社〉に何十人もの少女達が集っている、そしてその大半は人外の存在だ。 その中で数少ない人間である”極めて普通のマジシャン”の霧雨魔理沙は、幼馴染みで兄貴分でもある青年の森近霖之助と一緒に居た。
「しかし……〈紅魔館〉のレミリア主催のハロウィン・パーティーかぁ……まあ、ここじゃいつもの事っちゃいつもの事だけどさ、香霖がいるのもめずらしいよな?」
咲夜や妖精メイドによって用意されたのであろういくつものテーブルの上には、やはり彼女らの手による料理や酒などがすでに乗っていた、主催による開始のあいさつを待つこともせずにすでに何の遠慮もなしにワインをグラスに注いで飲みながら魔理沙は言う。
「まぁ、僕もこういう場は苦手だからね。 ただ、とある狩猟用のアイテムをいくつか調達してくれたお礼に是非と言われたのでね」
「……狩猟用アイテム?」
何の事か分からずに怪訝な顔で首を傾げる亜麻色の髪の少女に、兄貴分の青年は「そうだよ、魔理沙」とだけ怪しげな笑顔で答えた。 そんな様子にこれは聞いても答えてはくれないなと思った魔理沙である。
だから、今度は「そういやさ、霊夢はどこだ? 今日は一日あいつの姿を見てないんだが?」と話題を変えた。
「霊夢? ふむ、そういえばさっきから姿を見ないな?」
周囲を見渡してみれば集まった少女らが思い思いに談笑などをしてはいるが、その中に紅白の巫女服姿の彼女はいないようだった。 美少女と言っていい少女らの中に男が一人という、ともすれば羨ましがられるような状況にあってもそれを意識するような事がないのは少女らが妖怪だからたというのは理由ではない、単純に森近霖之助という半妖の青年の朴念仁ぶり故というだけである。
そんな二人は、「何々? 霊夢の居場所が知りたいの?」との背後からの声にギョッと驚き、振り返ってみればこの宴会の主催者であるレミリア・スカーレットの妹であるフランドール・スカーレットが無邪気な笑い顔で二人を見つめていた。
「フラン……?」
「……君は霊夢がどこに居るのか知ってるのかい?」
その直後だった、不意にフランドールの紅い瞳から光が消えた、それだけで無邪気子供の様だった彼女の笑顔が一瞬にして悪魔めいた恐ろしいものへと変貌して魔理沙と霖之助は周囲の物音が消失し空気が一気に氷点下まで冷え込んだような感覚に襲われたのである。
「きひひひひひひ……霊夢はねぇ~”転校”しちゃったんだぁ~~~♪」
ゾッとするような金髪の吸血鬼少女の声に、この時期にいるはずもないひぐらしのなく声が聞こえたような気がした……。
そんなこんなで、やがてレミリア・スカーレットによる宴会開始のアイサツも済めば、皆が料理に手をつけたり仲間同士で談笑したりと思い思いにパーティーを楽しみ始める、「だがぁっ!! 楽しい宴会はそこまでだっ!!!!!」という空気を読んでいない男の声が響いたのはその時だった。
その声に驚き、声の発生源にである神社の屋根にその場の全員の視線が集中し、すぐに「……はぁ?」と目を点にしたのは、そこに居たのはカボチャの頭にサルの様な胴体という奇怪な生命体だったからである。
「私の名はジャック・オランウータンっ! ダーク・レイム嬢の指令により貴様らのハロウィン・パーティーを邪魔しに来た転生チート戦士だっ!!」
高らかに名乗り目的を宣言する男を見上げる少女らの中に混じっていたレミリアは冷めた呆れ顔で「……今回はどうも話の展開が速いと思ったら……こういう事だったのねぇ……」とぼやけば、「そのようですねぇ……」と傍らに控えている咲夜も苦笑した。
「……で、どうするのレミィ?」
小皿に乗せたパンプキン・ケーキを手にしたパチュリー・ノーレッジが淡々とした口調で言うのに、こいつは戦う気ゼロだなと分かるレミリアである。
「……フランは?」
「はぁ……数分前に”PS〇2の緊急クエがどうだとか、ダーク・ファル……何とかの歯医者がどうだとか言いながらお帰りになられましたが……」
銀髪のメイド長のその答えは半ば予想はしていたが、それでも「あのゲームオタの妹が……」と溜息を吐く吸血鬼少女。 今回は大魔王モンバーンのスケジュールが合わず紅美鈴は門番として留守番であり、この物語中でツカサの名前を持つ小悪魔も〈大図書館〉の整理でこの場にいない。 たかだか転生チート者とはいえこの場に連れてきた妖精メイドの戦力では厳しいだろうとも思う。
もちろん、宴会の主催者としてゲストを戦わせるなど論外である。
「……咲夜、行きなさい」
結局この結論になるのであった、〈紅魔館〉でただ一人の人間の少女は「はい、お任せ下さいお嬢様」と頷いてからお客である少女らの前に進みでる。
「……まあ、妥当な展開か……」
自身が戦いたくてうずうずとはしていたが、とりあえずは客の一人として主催達の反応を見ていた”四季のフラワーマスター”の風見幽香は少し残念そうに呟くとお手並み拝見とばかりに腕を組んでまずは見物を決め込む事にしたのだった。
自分と戦おう前に進みでる十六夜咲夜の姿にジャック・オランウータンは愉快そうに口元を歪めて嗤いながら武器である銀色の《金属バット》を取り出した。
「あらあら《金属バット》とは……そうきますか、では私は……」
言いながら咲夜もメイド服のスカートの中から武器を出す、それは少し古びて刃のかけた伐採用の《鉈》であった。 当然、次の瞬間には「スカートの中に《鉈》!!? ナンデッ!!?」というレミリアのツッコミの声と「……最早、東方なのに弾幕バトルとかする気なしなのね、あの書き手は……しかも、この武器の組み合わせって……」とパチュリー。
その間に咲夜は軽く地を蹴って神社の屋根へと跳び上がった、正確には飛び上がってから屋根の瓦の上に着地したのだが、そう表現するのがぴったりな光景であった。
「さてと……」
咲夜とジャック・オランウータンとの距離は五、六メートルというところだ、互いに油断なく《鉈》と《金属バット》を構えつつ相手を見据えている。
「ふふふふ、相手は咲夜さんとはね。 光栄だよ、私は咲夜ファンなんだよ」
「あなたの様な方に好かれても嬉しくはありませんね」
「そういう強気なところもいい。 君を倒して私の彼女に……いや、嫁にしてあげるよ」
まるでナンパでもしているかのような相手の言い様にうんざりした顔になる咲夜、外の世界で誰が自分のファンをやっていようが興味も無いが、流石にこういう類は遠慮したいものだと思った。
「まあ、倒してしまえばいい事です!」
その言葉と共に先に咲夜が仕掛けた、勢い良く瓦屋根を蹴り一気に間合いを詰めて振り下ろされた《鉈》は、しかし敵の直前で《金属バット》とぶつかり甲高い金属音を響かせた。
「私はそう簡単には倒せんよ?」
「……ちっ!?」
間髪入れずに防御態勢をとき反撃に転じたジャック・オランウータンの横薙ぎを後ろへと跳んでかわす、足場の悪い屋根の上であってもしれでバランスを崩さないのは咲夜の技量である。
「……少しは骨のあるという事ですか!」
「当然だよっ!」
再び仕掛けた咲夜の攻撃をまたも防いでみせるジャック・オランウータン、二度も続けば偶然とは思わない、何がしかの武道の心のある者だと判断する。
「こう見えても私は剣道をやっていたのでね!」
今度は逆に咲夜の《鉈》が《金属バット》を受け止めたが、そのまま力で押し込もうとしてくる相手のパワーに驚愕しつつも、力勝負で不利と瞬時に判断しバックステップで下がるという事をした。
「成程……しかし!」
次の瞬間に咲夜の姿がジャック・オランウータンの視界から消えても、彼は慌てることなく回避行動をとった、直前まで彼のいた場所の瓦を振り下ろされた《鉈》が叩き割る。
「避けたっ!!?」
「【時間を操る程度の能力】、知っていればどうとにでもなる!」
二度、三度と互いの武器がぶつかり合う。
「普通はどうとにでも出来ませんけどね!」
敵の攻撃を受け止める度に腕も痺れが増すのをマズイなと感じる、おそらくは剣道有段者の技術と転生先のボディである妖怪化したオランウータンの身体能力が合わさり、これまでの転生者とは違う高い戦闘能力を得たのだろう。
だが、そんな事はどうでもいい。 主人である少女の命令を受けた以上はその命令
を遂行するだけだ、ましてやその主人の前で無様な戦いをするわけにはいかないのである。
「たぁっ!!!」
そんな想いを込めて、いっそう強く握り締められた《鉈》を咲夜は振り、絶え間なく攻撃を続ける。
「……てか、ふつーにナイフ投て戦えばいいんじゃないの?」
そんな咲夜の心のうちを知ってか知らずかレミリアが誰にともなく言うのを隣に立ち聞いていたパチュリーは、「……レミィは分かってないわねぇ」と呆れた声を出した。
何が分かっていないんだかと内心でぼやきつつも、どうせろくな事だとは思わないので親友である少女に声に出して聞く事はしないレミリアだ。 それは僅かな時間ではあったが、その間に神社の屋根の上での戦闘に変化が起こっていた、だんだんと咲夜がジャック・オランウータンを押し始めたのである。
「くっ!……どうして……!!?」
「あなたの動きのパターンは見切ったという事よっ!!」
ジャック・オランウータンの剣術はあくまで部活動によるもの、つまりはスポーツであり命のやり取りを目的とした戦闘術ではない、一方で咲夜の戦闘技術はヴァンパイアと殺し合いをする事を目的とし会得したものであり、その差が出てきたのであろう。
そしてついには防戦一方になったジャック・オランウータンは屋根の端にまで追い詰められた。
「……し、しまった……」
「慈悲はないっ! ハイクを詠めっ! ジャック・オランウータン=サンっ!!!!」
非情な声と共に振り上げられた《鉈》は、「……結局、忍殺ネタかい~~~!」というレミリア=サンのツッコミと同時に敵である男の頭を叩き割って、「さ……さようなら~~~!」との断末魔を発して爆発四散させた。
「な~むあみだぶつ~なの~だ~~~!」
いつの間にか空をクルクルと飛んでいた”常闇の妖怪”のルーミアがそんな声を上げていた…………。
〈幻想郷〉の某所にある〈黒博麗神社〉の主人にして脇巫女であるダーク・レイムは、のんびりと昔ながらの檜の湯船に浸かりながら「……まぁ、今回の男はがんばった方ね」とだけ呟いた……。
「……って、だから脇巫女はやめんか~~!! このワンパターンな事しか出来ないアホ文士がぁ~~~~~~~~!!!!!」
目を吊り上げたダーク・レイムが両手を振り上げて勢い良く水しぶきを上げながら立ち上がる、その彼女の身体にはしっかりとバスタオルが巻かれていたのであった。 そんなこんなで、〈幻想郷〉でもハロウィンの夜は更けていくのであった……。
余談ではあるが、フランドールの言うところの”転校”した霊夢は、翌日には無事に自分の神社へと生還し、妖怪達のハロウィン・パーティの後片付けをするはめになっていたという。




