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フラン大活躍? 幻想郷に台風襲来編






ヒトとヒトならざる者達が暮らす〈幻想郷〉、【博麗大結界】で〈外界〉とは隔離された世界であっても台風はやってくる、分厚く真っ黒い雲が空を覆い、激しい雨が大地や建物を打ちつけ暴風が木々を揺らし葉っぱ等を舞わせている。

 そんな台風の中でどこかホラー映画のワンシーンめいた雰囲気をかもしだしている紅い洋館があった。 それもそのはず、湖畔に建つ〈紅魔館〉という名のその屋敷はレミリア・スカーレットという吸血鬼の少女を主人としたヒトならざる者達の住家なのだから。

 そのレミリアが自室の窓から何気なく外の様子を眺めていると「アイェェエエエッ!!!?」と悲鳴を上げながら空を飛ぶ……いや、明らかに風に飛ばされて逝くチルノが視界に飛び込んできた。

 「…………」

 水色の髪と同じ色の服を身につけ氷の結晶の翼を持つまるきゅ~……でなく氷の妖精であるチルノの事だから、この嵐の中を出歩いて強風に飛ばされたのだろう。 嵐というものはどこか子供心に興奮しはしゃぎたくなるものであるのは、レミリアにも分からない事ではない。

 青みがかった銀髪の頭にピンクのナイトキャップを被り同じ色の衣装に身を包んだ彼女の容姿は人間であれば十歳前半くらいの幼さである、そんな事から”紅色のロリターナルデビル”の異名を持つ少女ではあるが、台風ではしゃぐほどに精神的に子供ではない。

 「だぁぁぁああああああああっ!!! 誰が”紅色のロリターナルデビルかぁぁぁああああああああっっっ!!!!!! またみょうちくりんな二ツ名を思い付きおってからに……そのうち本当に全国のレミリア・ファンから苦情がきても知らないわよ、この書き手ドアホォォォオオオオオオオオオッッッ!!!!!!」 

目を吊り上げて怒鳴りながらも、苦情がくる程の人気がこのアホ文士の小説にあるはずもないとも思ってはいるレミリアである。

 このレミリアのツッコミの怒鳴り声を十六夜咲夜が聞いた彼女の部屋に入るためにノックをしようとした瞬間であった、屋敷を打ち付ける雨音すらかき消す程の音量に一瞬だけ驚き身体をビクッと震わせたが、すぐに微笑ましげな顔になる。

 「……お嬢様は今日もお元気なようで、何よりですわ」



 〈幻想郷〉きっての大妖怪である八雲紫の式である九尾の狐、八雲藍が妙だと思い始めたのは昼を少し回った頃である。 台風であればいい加減に通り過ぎても良い頃なのだが一向に風雨が弱まる気配がない。

 「…………妙な妖気とかは感じないとは思うのだけど……」

 見た目は人間と大差ないが狐の妖怪である事を象徴するかのような九本の尻尾を生やした藍は、玄関の戸を開けて空を見上げつつ少し自身が無さそうに呟く。 こういう時は主人に相談するべきであろうが、その主人は〈外界〉へ出かけていて留守なのである。

 しばらく思案していた藍であったが、こうしていてもどうにもなるものでもないので家の中に戻ろうとして、その前にもう一度空を見上げた時だった……。

 「アイエェェェエエエッ!!? 誰か~~助けて~~~~~~!!!」

 助けを求める叫び声とと共に茄子色の唐傘を持った少女が宙を待ってるのが視界に飛び込んで来た、その少女――多々良小傘は、藍が呆気に取られている間にいずこ飼えと消え去って逝った。

 その同時刻の〈紅魔館〉の地下ではフランドール・スカーレットの部屋の室内電話が鳴っていた、パソコンで新作ゲームの情報収集をしていた部屋の主である金髪の吸血鬼少女は面倒そうに立ち上がると壁に設置された電話へと向かう。

 「……はい、もしもし……」

 どうせメイドの誰かだろうと思いながら取った受話器だったが、次の瞬間に聞こえた声はフランドールの予想外の声だった。

 『……ドーモ、フランドール=サン。 ダーク・レイムです』

 「あ! ドーモ、ダーク・レイム=サン。 フランドールです」

 



 この台風は流石に怪しいとレミリアも思い始めていた、自室に咲夜と親友である魔法使いのパチュリー・ノーレッジを呼び話し合いを始めた。

 「……まあ、この台風がこれだけ長い時間留まるのはちょっと異常ね」

 気圧配置によっては自然にもありえないとも言えないのかも知れないが、先程ニュースで見た天気予報の天気図を思い出しつつ意見を述べるパチュリー。

 「……つまり、これは異変であると?」

 部屋のソファーに並んで座るレミリアとパチュリーの背後に立つ咲夜、ソファーにはもう一人くらいは座れないでもないので「あなたも座ったら?」とレミリアが薦めても、メイドとしての立場をわきまえて丁重に辞退する銀髪のメイド長だ。

 「そう思うわ。 問題は誰が起こしている異変かという事だけど……」

 真剣な顔でレミリアが言うのに咲夜とパチュリーは怪訝な顔をした、彼女が異変を気にする事は不思議でもないが、まるで積極的に解決に乗り出そうかというかのような様子であるのは珍しい事だ。

 「……レミィ、誰が起こしてようとも別に霊夢に任せておけばいいんじゃないの?」

 「それは、まぁ……パチェの言うとおりなんだけどさぁ……何ていうか、あの女の仕業な気がしてならないよねぇ……」

 あの女というのが誰の事か咄嗟には分からなかったが、すぐにパチュリーも咲夜もある人物の顔が思い浮かび、そういう事かと納得した。

 その時にトントンとドアをノックする音がし「失礼します。 お嬢様、お手紙が届いていますが……」という少女の声、「フェア?」と咲夜が名前を口にし、続いて「手紙?……いいわ、入りなさい」とレミリア。

 ドアを開き入ってきたのはこの屋敷で働く妖精メイドの一人であるフェア・リーメイド、彼女はレミリアに歩み寄ると手に持っていた封筒を渡した。 白い封筒には”レミリア・スカーレット=サンへ”と書かれているだけで差出人の名前はない。

 「…………」

 「……あの女ね」

 「まぁ……でしょうね」

 しかし、それだけで察しのついてしまうレミリアとパチュリー、それに咲夜だ。

 何となく見ないような方がいい気がしないでもないが、さりとて自分達に無関係であるはずもなく中身を確認せざるをえないのが少し腹立たしいレミリアだ。 僅かな躊躇いの後に意を決して封筒を開き中身を確認すると……。


====================================


  言っておくけど、今回は私は何もしてないわよ



            ――ダーク・レイム―― 


====================================


 ……とだけ書かれていた。

 「…………って!!!! なんじゃそりゃぁぁぁああああああああっっっ!!?」

 シンプルであったがまるでこの場での三人の会話を予知でもしてたかのような文章とタイミングに毎度の如くレミリアの叫び声が響き、パチュリーと咲夜も唖然と顔を見合わせた。

 そこへ今度はラーカ・イラムがやって来る、フェアやチャウ・ネーンと仲が良く〈紅魔館〉の”妖精メイド三人衆”と呼ばれる彼女が持って来たのもダーク・レイムからの手紙だった。

 「今度は何よ……」

 別にラーカが悪いわけではないのだが機嫌の悪そうな目つきで睨むレミリアに怯えた表情で手紙を渡すラーカ。 

 どうせろくな事は書いてないと分かっていても手紙を開いて読まなければいけない理不尽さとスカーレット家当主の立場を恨みなくなるレミリアである 先程と同じように手紙を取り出し開く……。


====================================


 あーちなみに、原因は私じゃないんだけれも放置しとくのもあれなんで、あなたの妹に討伐依頼を出しといたわ。

 この嵐の原因はアマツマ〇ヅチ、某モンハンの世界から紛れ込んだ龍なんだけどこの世界のあたし……博麗霊夢じゃちょいキツイ相手なわけね、それで幻想郷におけるモンスター・ハントのプロフェッショナルのフランドールに討伐を依頼したの。

 自分でやるのは簡単だけど、メンドーだしさ。


           ――ダーク・レイム―― 

====================================  

 「…………」

 最早ツッコミの言葉すら出てこないレミリアが、チャウ・ネーンからフランドールが〈紅魔館〉のどこにもいないと報告を受けるのは、数十秒後の事であった。

 そして、その頃にはすでに〈幻想郷〉のとある場所で、吹き荒れる暴風の中にあってもフランドールはしっかりと大地を踏みしめて立っている。 まるで骨に色とりどりの宝石を吊るしたような翼の少女は、姉と同様の紅い瞳で黒く覆われた空を見据えていた。 まるでその挑発しているかのような彼女の不敵な表情に誘われるかの様に黒い雲の中から”それ”が姿を顕わす。

 「うふふふふふ……まさか、リアル・モンスター・ハンターができる日がくるなって、夢のようだわ~♪」

 まさに東洋の龍を思わせるその巨大な姿にも怯むことなく、寧ろ愉快そうに口元を歪めて笑いさえしてみせるのが”吸血鬼の妹”ことフランドール・スカーレットという少女の本質なのである。

 「さあ! 楽しい楽しい狩りの時間の始まりよっ!!!!!」

 まさに悪魔を思わせる歓喜の表情で、彼女は天へ向かい声を上げた。


 


 一応は営業中の〈鈴奈庵〉であっても台風が襲来していては来客もない、そんな時は本好きの本居小鈴であればゆっくりと読書に集中出来ると喜ぶかと思うかも知れないが、実際はそうでもない。

 いつも通りカウンターの椅子で本を開いてはいるが、時折家を揺らす程の強風にヒヤリとしたり、どこかで雨漏りがして大事な本を濡らしたりしないかと気が気ではない。

 「まったく……早くどっかへ行っちゃってくれないかしら……」

 飴色の髪を鈴の形の髪留めで結んだ小鈴がそんな事をぼやいてみた時、外から聞こえていた雨音や風の音が急激に小さくなって行くのだった。




 嵐が収まり青空の広がり始めた頃、服を泥や雨水で汚してあちこち傷だらけになって〈紅魔館〉に帰って来たフランドールが、何と戦いどのような結果となったのかを語る事はなかった。 口にしたのはただ、一言……。

 「……奴もまた……宿敵ともだったわ……」

 ただ、それだけであったという……。 

 そしてもうひとつ、この日からゲームソフトやゲーム雑誌の乱雑に置かれて彼女の部屋に、砕けた獣の角の一部らしき物が大事に飾られるようになったが、それが《嵐〇の角》と呼ばれることを知るものは少なかった……。


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