紅魔館のありふれた一日編
〈幻想郷〉、そこは結界の中に閉ざされた小さな世界である。 そこでは人間と人間以外の生き物、更には外の世界では空想の産物とされる妖怪や神なども当たり前のように存在していた。
そんな〈幻想郷〉にある大きな湖の湖畔には一軒の不気味な紅い洋館が建っていて、そこには”永遠に幼く紅いツッコミ”の異名を持つレミリア・スカーレットを頂点として人ならざるもの達が住まう恐ろしい屋敷である…………。
「だぁぁぁあああああああああああっっっ!!!!! せっかくタイトルも変えたんならそのワンパターンなネタをいい加減にやめんかいぃぃぃいいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!!!……てか、私も今気がついたけど”永遠に幼く紅い月”じゃなくて”永遠に紅い幼き月”だったわぁぁぁあああああああああああああっっっ!!!!!!!!」
静かな朝食の時間に広い屋敷内を文字通り震撼させて響く親友のツッコミの叫びに「……朝からうるさいわよ、レミィ」とは”七曜の魔法使い”パチュリー・ノーレッジ、紫の長い髪の先端をリボンで纏め薄紫のゆったりとした衣装に身を包んだ彼女は、冷めた紫色の瞳でレミリアを見つめている。
「……まあ、実は私にも”七曜の魔法使い”という二ツ名はないんだけどね」
「あら……そうだったのですか、パチュリー様……?」
淡々とした口調のパチュリーに少し意外そうな顔で応えたのは十六夜咲夜だ、短い銀髪をサイドで編んだこの少女はその身を包むメイド服が示す通りにメイドさんであるが、単なる平メイドではない。 この〈紅魔館〉で唯一の人間にして妖精メイドを指揮するメイド長の立場にあった。
「……何となく気になってウィキで調べたんだけどね。 まあ、私は【火+水+木+金+土+日+月を操る程度の能力】なわけだし、どこかでそんな言い方もあったのかもね」
人気作であればツッコミをしてくれる読み手もいたのであろうが、この書き手の小説にそんなものは期待するものではない。
東方キャラが自分の事をネットで調べるという適当さ加減はタイトルが変わった程度でなくなるものではないが、それでも「調べたんか~い!!」とツッコミを入れてしまうレミリアの性癖も同様だった。
「ヒトの思い込みとは怖いものですからねぇ……」
「人間の咲夜が言うと微妙に説得力あるわね……」
「……そうね、レミィ……」
レミリアとパチュリーの二人で食事をするには大きすぎる白いテーブルクロスの敷かれたテーブルの上には白いご飯の盛られた茶碗と皿の上に乗ったハム・エッグ、そしてジャガイモと豆腐の入った味噌汁が並べられて、ツッコミで乾いた喉を潤そうとする吸血鬼少女の手にした湯飲みの中身も緑茶であった。
この西洋風のお屋敷というより日本人の一般家庭に並んでいそうなメニューは、咲夜曰くお嬢様達の健康を考えての事らしい、その事はレミリアであっても今更ツッコミをしない程に日常的な光景なのが、この世界の〈紅魔館〉だったりする。
そして、こっちはこっちで東方プロジェクトのゲーム本編ではありえない日常を送っている妹様ことフランドール・スカーレット。 地下にある彼女の自室にはファンシーなぬいぐるみ達……ではなく、ゲームソフトやゲーム雑誌などがそこかしこに積まれていて、天蓋つきのベッドの上には何台かの携帯ゲーム機が転がっている。
そして、この部屋の主である骨に色とりどりの宝石を釣り下げたような奇妙な翼を持った金髪の少女は、机の上に置かれたデスクトップのパソコンに向かい一心不乱でキーボードを操作していた。
「ぎゃ~~~~~”大和”が大破したぁ~~~~~~!!!?」
唐突に宇宙船艦……ではなく、実在した旧日本軍の戦艦の名前を叫び頭を抱えるフランドール。 だが、彼女の見据えるモニターに映るのは無骨な鋼の艦ではなく個性豊かな美少女達だったのは、昨今の〈外界〉で大人気のオンライン・ゲームのアカウントを最近になってようやく取得できた彼女は、ここ一週間程まともに睡眠も取らずにやりこんでいるからである。
何はともあれ、今日もまた〈紅魔館〉の一日は始まったのであった。
〈人里〉から少し離れた〈妖怪の森〉を抜けた先に〈博麗神社〉はある、その神社の巫女である博麗霊夢は朝食の後片付けを終えて縁側で少しのんびりとしていた。
「…………今日もまだ暑くなりそうねぇ」
青い空を流れる白い雲をぼんやりと眺めながら呟く霊夢、もちろん真夏に比べればずいぶんとマシになってはいるが、まだ涼しくなったと言える程でもない。 妖怪相手の異変解決とは違い力づくでどうにかできる問題でもないのではあるが、早く涼しく出来るものならそうしたいものだと思った。
〈紅魔館〉の門番を勤めるのは中華風の民族衣装を纏った赤毛の少女で名前を紅美鈴という、その美鈴が少し眠そうな顔で眺めているのは三人の妖精メイドの掃除風景だ。
「……それじゃ、妹様はずっとまともに寝てないの?」
箒でゴミを集めているフェア・リーメイドに「ああ、そうらしいで」とチャウ・ネーン、そして「……妹様のゲーム好きもそこまでいくと尊敬に値するよねぇ……」と呆れ顔のラーカ・イラムの三人は通称”妖精メイド三人衆”と呼ばれている。
彼女ら三人は仕事に対して一心不乱になる事はないが、さりとて怠けてばかりという事もない。 適度に手を抜きつつもそれなりに真面目には仕事をこなしているのは、他の妖精メイド達と同様である。
「今日も平和ですねぇ……ふぁ~~……」
つい欠伸をしてしまうのは、門番と言ってもここ数日は侵入者も来客も訪れないからというわけではなく、美鈴の性分のようなものだ。 そんな彼女にレミリアが門番を任せて、咲夜やパチュリーも何も言わないのは有事の際にはやるべき事はしっかりやる女だと分かっているからである。
美鈴もそんな彼女らの期待には応えようと思っているしいざとなれば命を懸けて戦う覚悟もある、とはいえ何事もなく平穏ならばそれが一番だとも考えている。 生きていく上で戦うべき力は必要であっても、それを無闇に振りかざしては無益な争いを生み自分や仲間を危険に晒さすだけである。
強い力を持つ者は自らを制するだけの強い心を持つ必要がある、強い心もなしに他者から力だけを与えられた者はやがて破滅への道を歩むだけである。
そんな事を考えて、ちょっと自分らしくないかな?と思っていると不意にぐぅ~……とお腹の音が鳴ったのが聞こえて、途端に空腹を感じてきた、ふと屋敷の時計塔を見れば十二時を少し回った頃である。
「美鈴はん! 美鈴はんもそろそろお昼にせんか?」
その様子で察したのだろうチャウが声をかけて来るのに、「……ん? ええ、そうですね」と応える美鈴だった。
レミリアが午後のティータイムを満喫するのは大抵は庭園だったりリビングだったりするが、半ば気まぐれで自室でする事も偶にはある。 そして今日もそんな気分になったのゆったりとくつろいだ様子で椅子に座る彼女の前にあるクッキーと紅茶を用意した咲夜は主人の傍らに控えていた。
適当に付けていた液晶の大型テレビで流れているワイドショーの内容などにレミリアの関心をひくような事もなく、チャンネルを変えようかと思いつつ優雅な仕草で白いティーカップを取りゆっくりと口に運び、そして中身である琥珀色の液体を口に含んだ瞬間……。
「大変っ!! 大変よぉぉおおおおっお姉様ぁぁぁああああああああっ!!!!!!」
興奮した叫び声続き入り口の扉が盛大な破壊音と共に吹き飛んだの驚き、思わず紅茶を噴出してしまったレミリアの額に破片が命中し「アイェエエっ!?」と声をだす彼女からは数秒前の優雅なお嬢様という雰囲気は消失している。
「……妹様? いかがなされたのですか……?」
いきなりの事に呆気にとられた咲夜がその青い瞳で金髪の吸血鬼少女を見据えながらもそう言う、主人である少女が少し赤くなったおでこを手で押さえながらちょっと涙目になっているのには当然気がついているが、別にその程度で死ぬわけでもないのでとりあえずこの場はあえて気にしない咲夜である。
「あ、咲夜っ! 大変なのよ、私達の――東方のゲームがプレ〇ステーション4、略してプレ〇テ4で出るんだってっ!!!!」
「……は?」
「……へ?」
フランドールの口から飛び出した言葉の意味が二人にはすぐに理解出来ずに素っ頓狂な声を出してから互いに顔を見合わせた。
「……それは間違いでもないけど、少し違うわよフラン」
冷静で淡々としてた声と共に姿を現したのはパチュリー、親友の妹によって扉が破壊された入り口で呆れ顔で小さく溜息を吐くと部屋へと入って来る。 「いったい何がどういう事なのよ、パチェ?」と説明を求めるレミリアと「え~~~!? 間違ってないよ~~!!」と言い返すフランドール。
「……簡単に言うと東方プロジェクトのゲームがコンシューマ――つまりは商業のゲーム機で発売されると言う事よレミィ。 ただし、原作のシューティング・ゲームではなく二次創作として他者の作ったゲームが移植されてなのよフラン」
ゲームだの二次創作だのという分野に疎いこのピンク色の服の吸血鬼は親友の説明にもまだ要領を得ずに「…………はぁ……?」とその紅い目を点にするだけだったが、彼女のサイドを編んだ銀髪のメイドは少し思案顔になった後で「……ああ、そういう事ですか」と納得した顔になる。
「だから、どういう事なのよ咲夜?」
レミリアの声が不機嫌になってきているのは状況が分からないからだけではなく、従者が理解出来て自分が出来ないのが面白くないからである。 その主人の心理が表情から多少なりとも理解出来る程度には付き合いの長い彼女は、どう説明したものかと顎に手を当てて思案顔となる。
「…………ふぅ~」
そんな様子に呆れ顔で溜息を吐くパチュリー、レミリアは決して頭の回転は悪くないのだが、意味不明な単語の数々に少々混乱しているというところだろうと思う。
要約すれば単に”東方プロジェクトの同人ゲームが商業として発売されるのか決まった”という程度の事ではあり、たいして難しい単語を使ったつもりもパチュリーにはない。
それでもこの手の事に疎い親友には少々難解だったかと反省する、例えば専門家には日常的な言葉も一般人からしてみれば宇宙人の言葉にも等しいほどに未知の単語に聞こえるようなものであり、それに惑わされて話の趣旨の理解が難解になるものである。
そんな風に自分にも反省する所はあったかとは思うのがパチュリー・ノーレッジという魔女であるが、そういう事はまったく考えもしないのがフランドール・スカーレットの方である。
「も~~! 何で今ので理解出来ないのよっ!? お姉様、頭悪いんじゃないのぉ~~~!!?」
「何を~~~っ!!!!」
前半は少し苛立ち気味に、そして後半は姉を小馬鹿にしたようなフランドールのいい様にカチンときたレミリアは椅子から立ち上がって妹を睨んだ。
「あんたの方こそ毎日毎日ゲームばっかしてないで少しは勉強をしなさいっ!! ゲームだのマンガだのの知識なんて覚えたってロクな大人にならないわよっ!!!!
フランっっっ!!!!!!」
「余計なお世話よお姉様っ!!!!! あたしは別に立派な大人になんてならなくたって構わないんだからねぇっ!!!!!」
負けじと睨み返すフランドール、さながら母親のお説教のような言い方が癪に触ったのである。 そして、そうこられると更に頭にくるレミリアで「あんたって子は~~~~~!!!!!」と目を思いっきり吊り上げて吠えた。
そこからは双方とも一歩も譲る事のない口喧嘩の怒鳴り合いを続けていくのを、止める事もその場から立ち去る事も出来ない咲夜とパチュリーは、そんなスカーレット家の姉妹喧嘩が怒鳴り続けた事による疲労と酸素不足――フランドールには寝不足もあった――で両者が倒れて収まるまで呆れ顔で眺めていた。
そして、門番である美鈴には屋敷の中でそんな事が起こっているとは知る良しもない、だから「姉妹喧嘩は犬も食わないのか~~~?」と言いながら黒い闇に包まれたルーミアが頭上を通過しても「……はぁ?……何のこっちゃ?」と怪訝そうに首を傾げるだけであった。
昼間はまだ多少は暑い日もあっても、日も暮れればだいぶ涼しくなって夜風が気持ちよい。
”境界の妖怪”こと八雲紫は自宅の縁側に腰掛けて何気なく夜空を眺めていた、中秋の満月と呼ぶにはまだまだと分かる三日月の夜である
「……ま、タイトルが変わったくらいで何が変わるでもないわね……」
長い金髪を先端で結んだ〈幻想郷〉きっての大妖怪は、その金色の瞳でそんな夜空を見上げながらつまらなそうな声で呟くのであった。
とりあえずタイトルは変えてみましたが……まあ、やはり何が変わるものでもないです。




