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夏の暑さと謎の食材編


 照りつける夏の日差しの下で神社の境内を箒で掃きながら「……暑い」とぼやくのは紅白の脇巫女こと我らの博麗霊夢である。

 「……いい加減に脇巫女言うのやめい……」

 汗をかいただるそうな顔でもきっちりと言い返す。

 この夏の最高気温なんじゃないかと思えるようなこの日であっても日課の掃除をするのは、家の中に居ても結局は暑いのには変わらないからであるが、外に出たら出たらで太陽の暑い日ざしが無い分だけ室内の方がマシなんじゃとも思ったりする黒髪の巫女である。

 「ホント……クーラーとかほしいわ……」

 ぼやきながら賽銭箱へと近づいて、その中身を確認した霊夢は「……それも夢のまた夢ねぇ……」と大きく溜息を吐くのだった。



 真夏であっても〈紅魔館〉がひんやりとした空気に包まれているのは湖の畔に建っているからだけではない、人ならざるものが住まう一種の不気味さ故であろう……が、その屋敷の主人たる吸血鬼の少女のレミリア・スカーレットが涼しく快適な昼食の時間を過ごせるのは文明の利器たるクーラーのおかげである。

 「……ごちそうさま。 美味しかったわよ、咲夜?」

 「お粗末さまです、お嬢様」

 背後に控えるメイド長の十六夜咲夜への言葉が合図だったかのように妖精メイドのフェア・リーメイドとラーカ・イラムとチャウ・ネーンの妖精メイド三人衆がレミリアと、そして同席している彼女の親友である”七曜の魔法使い”のパチュリー・ノーレッジの食器を片付け、それと入れ替わりに咲夜の淹れた食後の紅茶が二人の少女の前に置かれた。

 たった二人で食事をするには広すぎるテーブルの白いテーブルクロスの上に置かれた紅茶からは白い湯気が立ち上っている、アイスティーも良いが食後はやはり熱い紅茶に限るとレミリアもパチュリーも思っているし、ティーポットをキャスターの上に戻しているこの”完全で瀟洒な従者”の二つ名を持つメイド長もそれをよく分かっている。

 「……ところで咲夜?」

 「何でしょう、パチュリー様?」

 「……さっきの昼食の中にあったフライ、あれは何なのかしら?」

 一口啜った紅茶カップを置いたパチュリーの疑問に咲夜が答える前に「何って……エビじゃないのパチェ?」とレミリア。 確かに味だけをみればエビなのだろうとは思うのだが、あの食感はどうにも肉の揚げ物のようにしか思えなかったのだ。

 それを指摘すると、レミリアも「そういえば……」と不審そうな顔になる。 そして咲夜の方へと顔を向けると銀髪の少女は悪戯っぽい微笑を主人である少女に返し、答えた。

 「あれはツイ〇テールです、お嬢様」

 「……ツイン……テール……?……何で伏字……?」

 従者の口にした単語にレミリアが思い浮かんだのは女の子の髪型だ、だからわけが分からないという顔をする。 だが、パチュリーの方はしばし怪訝な顔をした後に何か思い当たるものがあったのか、はっ!?という表情になり「……まさか」と咲夜へと顔を向けた。

 それに対し咲夜は、そのまさかですよとでも言うようににっこりとした笑顔を返してみせた。 

 「…………はぁ」

 何も言い返す気が起きずに呆れ顔で大きく溜息を吐くパチュリーは、いったい何の事やら分からずに不思議そうな顔をしている親友に言ってあげるべきかどうか悩むのだった。



 「……ではこんな物騒な巨大生物が暴れる事もあるなんて怖いですねぇ……」

 「……は?」

 〈鈴奈庵〉、〈人里〉にある貸本屋では店主の娘である本居小鈴の唐突な発言に店の常連客である二ッ岩マミゾウが思わず本棚の本を物色する手を止めてしまっていた。 また妙な本でも見ていたのかと思えば案の定、カウンターの机の上にあったのは《ウ〇トラ怪獣大図鑑》というタイトルの本であった。

 「小鈴よ……それはだな、特撮といってあくまで架空の話であるぞ?」

 人間に敵対的ではない化け狸のマミゾウであっても流石に〈人里〉に赴く時は人間に化け人間に振りをしている、だから「へ? そうなんですか……?」と驚いた顔を向ける少女は、マミゾウが妖怪だとは想像もしていない。

 「そうじゃ。 まあ、それを言ったら妖怪とて〈外界〉では空想の産物に過ぎぬのじゃがな……」

 ましてや、その妖怪の姿がおどろおどろしい化け物ではなく可愛い少女の姿などとは想像も出来ていないだろう、そんな事に心の中で苦笑しながら一冊の本を手に取ると、それは《ゴジ〇誕生》というタイトルだった。

 「…………」

 そう、確かに”東方幻想曲物語の外界”に怪獣はいない……が、本当に怪獣がいる世界カケラ――平行世界はどこかには存在するだろう。 そしてそんな世界カケラからも時として妙な物が流れ着くというのがこのいい加減な小説なのである。

 



 亡霊となった死者の世界であるのが〈冥界〉であり、その世界を管理している亡霊の西行寺幽々子が従者の魂魄妖夢と住む屋敷が〈白玉楼〉である。 その〈白玉楼〉にクーラーがないのは純和風な屋敷に西洋風の機械が似合わないと主人らが思っているからではなく、ここが生者の世界の夏の暑さとは無縁な場所だからである。

 そんな〈白玉楼〉に八雲紫がやって来ているのは、純粋に友人と話をしてみたいというのもあるが、暑い自宅にいるのも嫌で涼みに来たという理由もなきにしもあらずである。

 そんなわけなので幽々子と妖夢、そして客人である紫の三人は畳みの敷かれた客間でちゃぶ台を囲みお茶の時間となっていた。

 「……紫様もいい加減にご自宅にクーラーを設置すればよろしいのに……」

 いかにも霊魂という風な白い半霊体を傍らに浮かせた妖夢が言うと「私はあーゆーのは嫌いなのよ」と返す紫と、相変わらずねとでも言うようにクスクスと笑う幽々子である。

 「何て言うか……無理矢理に作られた不自然な涼しさって言うのかしら? あれは嫌のよねぇ……」

 「はぁ……そういうものなのですか……?」

 あまりクーラーの効いた場所にいる事もない妖夢には分からない感覚である。 〈紅魔館〉へ赴いた際には、そこの住人達は「やっぱり文明の利器は偉大よねぇ」などと言っていたし、〈博麗神社〉の巫女などは何とかしてクーラーを買いたいなどと言っていた気がする。

 要するにヒトそれぞれなのかも知れない。

 「でも暑いのも嫌なんでしょう、紫?」

 「当然でしょう、幽々子!」

 薄紫の髪の友人に答えながらちゃぶ台の上の皿から蜜団子を取ろうとして、三人で食べるには多すぎだったそれがすでになくなっていた事に唖然となる。 今更考えるまでもなく談笑している間に団子はほとんどがほんわかした笑顔の幽々子の腹の中に納まっていたという事である。

 「…………はぁ~……」

 「え~~と……おかわりをお持ちしましょうか……?」

 いつまでも変わる事のない旺盛な食欲と、友人の為にいくらかは残しておこうという気遣いをしない亡霊の少女に対し呆れ顔で盛大に溜息を吐いてみせ、苦笑を浮かべている短い銀髪に黒いリボンを付けた半霊少女に「ええ、頼むわね」と頷いた。

 食べるという事は生きている証、生きようという意思の現れであるとどこかで聞いた覚えがあるが、それは間違いなのだろうかとふと思う。 何しろ亡霊である彼女は当然すでに”死者”なのだから、それとも亡霊となってなお”生きよう”という強い意思があるのだろうかとも思いつく。

 聞いてみたくもあるが、仮にそうだったとしても当人に自覚があるのかも怪しいものでもある。 それに生者と死者というのも所詮はヒトがヒトのモノサシで定めたものにすぎない、こうして肉体を持ち笑ったり泣いたりという感情を、心を宿している存在は生きているとは言えないなのだろうか?と。

 まあ、それもどうでもいいことなのかも知れない。 何であれ彼女は、西行寺幽々子という存在は大事な友人である事に変わりはなくそれが生者だろうが死者だろうが関係ない。

 そんな事はつまらないグループわけで差別や迫害を繰り返すくだらないニンゲン達の理屈である、自分の頭で価値を測る事も出来ずにブランド名で価値のあるなしを判断しているような愚かなニンゲンの価値観である。

 どれ程の時が経ち姿形やそのありようが変わったとしても、立ち上がり厨房へ行こうとする従者に「あ~ついでに私の分もお願いね~」と催促している少女も、そして今はもう共にいる事はない彼女・・八雲紫じぶんにとって大事な親友であるという事が変わることはないのだから。



 日も沈み夜の闇が支配する時刻にもなればセミの鳴き声も止んで昼間の暑さも幾分か和らいでくる、そんな中で満月の月明かりに照らされた〈紅魔館〉が佇み、その主のレミリア・スカーレットは自室に一人でのんびりとテレビ観賞中であった。

 大型の液晶モニターに映っているのは昔の特撮ヒーロー番組である、もちろん彼女が特撮マニアという事はなく、単なる暇つぶし程度というだけの事である。

 そのレミリアが怪訝な顔になったのは、オープニングテーマの最後の今日登場する怪獣の名前が表示された時だった、やがて番組が進みにつれて驚きに目を見開き、そして爬虫類的な黒い翼を生やした小柄な身体をワナワナと震わせて、ついには「だぁぁぁああああああっ!!!!!」と勢い良く椅子から立ち上がった。

 「ちょ……ツインテールって、まさか……くぉぉぉおらぁぁぁあああああああっ咲夜ぁぁぁああああああああっっっ!!!!!! 紅茶や料理に怪獣を混ぜんなって何度言ったらわかるのよぉぉおおおおっあんたはぁぁぁああああああああああああああああああああっっっ!!!!!! つか、ツイ〇テールはエビの味とかいうネタなんて今時の若いもんが知ッとるくあぁぁあああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!」

 このレミリアの怒りを込めたツッコミの叫びは、湖畔に建つ月下の紅い洋館を文字通りに振るわせたのであったとさ。      

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