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パチュリーご立腹、その理由は?編


 毎年の事ながらじきにこのジメジメした梅雨の時期が明ければ一気に暑さがくるものだと、〈守矢神社〉の巫女である少女の東風谷早苗は境内を箒で掃いていた手を止めて青い空を見上げてみて思う。

 〈幻想郷〉にやって来てから……いや、早苗がこの世に生れ落ちてから幾度も経験してきたサイクルで、それが当たり前の事となっていても多少は憂鬱になるものである。

 「ずっと春とか秋くらいだといいんだけどなぁ……」

 そんな事を呟きながらも、それはとても不自然な事だと思う。 仮に進んだ科学技術や強大な神の力で地球の気候を人間の過ごすのに適した一定の水準に出来るとしても、そんな歪んだ事をすべきではないと早苗は考える。 

 「……さて、早く掃除を終えて買い物に行かないとね」

 結局のところ考えてどうなるものでもないと掃除を再開しようとして何気なく西の空を見上げれば青い色が続く途中から黒い雨雲が覆っているが見え、夕方くらいからまた雨になるのかなと思う巫女の少女であった。



 レミリア・スカーレットが〈紅魔館〉の主であるのは間違いない。 だが、そのレミリアが自らの赤い屋敷の中庭のテラスにある白テーブルで居心地が悪そうにしているのは、同席している親友である”七曜の魔法使い”のパチュリー・ノーレッジの冷たい視線が原因である。

 「…………何かしら、パチェ……」

 午後のお茶会が始まって何度目かになる問いに長い紫の髪に薄い紫を基調とした服を纏った少女は「……別に……」とそっけなく返事をするのみである。 この明らかに機嫌の悪い友人をどうしたものやらと思案しながら、こういう時に限って用事でこの場にいないメイド長の十六夜咲夜を怨めしく思う。

 このお茶会の支度をしたフェア・リーメイドとラーカ・イラムの二人の妖精メイドも仕事が残っているからとすでにおらず、パチュリーと二人きりで気まずい空気の中にいるのも限界なのだが、さりとて親友の不機嫌の原因ははっきりとしていてそれが自分にあるだけに癇癪を爆発させる事も出来ないでいる。

 「……って言うか、この書き手ドアホのせいなのに……」

 身も蓋もない事を言えば書き手アホがパチュリーの日をすっかり忘れていたのであるが、さりとて作中ではレミリアが忘れていた扱いになってしまうのが登場人物キャラクターの悲しい宿命であるのは、何も幻想曲物語このおはなしに限らないだろう。

 そんな事に理不尽さを感じるレミリアが心の中で誰か何とかしてと助けを求めながら紅茶を一口啜ろうとティーカップを手にして、それがすでに空っぽだった事に愕然となる。

 そんな風に主人である銀髪の吸血鬼が気まずい空気の中にいる頃、廊下を掃除中の妖精メイド三人衆の一人であるチャウ・ネーンがフェアとラーカに「そういや、六月九日はパチュリー様の日やったんやて」と切り出していた。

 「え? そうだったの?」

 「そやて、フェア。 わても美鈴はんから聞いて知ったんやけどな」

 「でもさ、お嬢様は何もしなかったよね?」

 怪訝な顔で首を傾げるのはラーカだ。 

 キャラの記念日のようなイベント、それも親友の関係となれば〈博麗神社〉でお祝いの宴会をしてもおかしくはないのがここのレミリア・スカーレットであるはずだが今回は何もなかったのである。 

 「要するにあれやな、お嬢様が忘れてたってことやろ?」

 手にしたモップの先をバケツに入った水で荒ながらチャウが言うのに「あーそういう事ね」と納得するフェアは、先程ラーカと二人でテラスへお茶と茶菓子を運んだ際にパチュリーがどこか不機嫌だった事を思い出し合点がいく。

 その時はそんな事は知る由もなく本当に仕事が残っていたのでテラスから離れたわけだが、それが幸運だったなと思うと同時にお嬢様は災難だなと思うフェアとラーカが特に言葉を交わすでもないのに同時にモップ掛けのスピードを緩めたのは、なるべく時間を稼いでお茶会の席へ戻らなかった言い訳にするためである。

 そんな二人の同僚の思考を理解出来る程度には付き合いの長いチャウはやれやれと方を竦めながらも、自身も掃除をする速度を落とすのだった。



 「……結局、何もなかったのか……」

 〈博麗神社〉の境内を掃除中の博麗霊夢にそう言ったのは霧雨魔理沙、〈人里〉からの帰り道にふらりと立ち寄った彼女が霊夢の掃除を手伝おうという気は当然ないし、黒髪の後ろを赤いリボンで結んだこの巫女の少女も魔理沙が手伝う事など最初から期待していない。

 「まあね、パチュリーの日だって聞いたから用心はしてたんだけどね。 ちょっと拍子抜けだわ」

 レミリアが何かにつけて〈博麗神社〉で宴会をしたがるのは純粋に宴をしたいというのもあるが霊夢への嫌がらせを兼ねている、霊夢は霊夢で彼女らと酒を酌み交わし騒ぐのが嫌いというわけでもないがそういった事が信仰さいせんに響くのは許容出来る事ではない。

 「ふ~ん、お前を油断させよって作戦なのかねぇ……?」

 「私もそう思いもしたけど、よりにもよって親友パチュリーの日でそれをするかしら?」

 霊夢にそう言われればその通りだと思う魔理沙は、「そうだよなぁ……」と自分の亜麻色の髪を掻く。 それでも、すっかり忘れていただけだという発想がないのはあの幼い容姿の吸血鬼少女が身内に対しては決して薄情ではないと知っているからである。

 「まあ、理由とかはどうでもいいわ。 私の神社の平穏と信仰さいせんが守られたならそれで十分よ」

 嘘ではなく実際にレミリア・サイドの事情などは知ったことではないのはこの巫女の少女の他者への関心の薄さゆえでもあり、相手が誰であっても何かして来るなら力ずくで叩きのめすだけという自信ゆえだ。 もっともその割にはレミリアにはたびたび出し抜かれて宴会を開かれているというのは面白くない事実であるが。

 「まったく……いい加減に信仰と書いて賽銭って読むのをやめろよなぁ……」 

 呆れ顔でぼやきながらも、結局はこれが霊夢の奴なんだよなと納得出来てしまう自分に苦笑する”普通の魔法使い”の魔理沙だった。



 急に空が暗くなりポツポツと雨が降り出しても〈妙蓮寺〉から〈人里〉へと向かう多々良小傘が困る事はないのは、”愉快な化け傘”と呼ばれる通りに常に茄子色の傘を手に持っているからである。  

 「雨かぁ……」

 小さく呟きながら空を見上げてみるが黒く厚い雲が視界一杯にあるだけである、おそらくこれから雨の勢いは増すだろうとは小傘でも簡単に想像出来る。 大雨の中、しかもこれから日も暮れようという時刻に出歩く人間がいるはずもないと言う事は聖白蓮から説明を受けていて、何も得るものがないとなれば化け傘であっても冷たい雨に打たれていたいと思うものではなかった。

 「……今日はもう帰ろう~っと」

 そんな独り言がかき消される程に雨の勢いが増してきたが、小傘は慌てるでもなくゆっくりとした速度で歩みを進め始めた。 やがて、その姿は更に勢いを増し降りしきる雨の中へと消えていった…………。

 


 今回のはかなり即席で書いたものです、最後を小傘で締めたのは今日が傘の日だからという程度だったりします。

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