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さらば、レミリア?編


 人ならざる者が住む不気味な紅い洋館、それが〈紅魔館〉である。 その〈紅魔館〉の地下には大量の書物を納めた〈大図書館〉があり、そこを根城にしているのが七曜の魔法使いである少女のパチュリー・ノーレッジである。

 ある日の昼下がりにそのパチュリーへ届け物があってやって来たのはこの紅い屋敷で唯一の人間であるメイド長の十六夜咲夜だ、彼女は椅子に座り机に向かっているパチュリーが魔道書や薄い本を読んでいるでもないのを珍しいと思い「何をしているのですか?」と尋ねた。

 「……ん? ああ、タロット占いよ」

 言われてみて机の上に並べられているのがタロット・カードだと気がつくが、その絵柄や並びにどんな意味があるのかまでは占いにさして興味のない咲夜には分からない。

 「パチュリー様が占い、初めて見た気がしますわ」

 「……そう? まあ、所詮は嗜む程度だしそう頻繁にやってる事でもないからね」

 銀髪のメイド長に返しながら、そういえば何がきっかけでやり始めたのだったかしら?と考えるも、それもどうでもいい事かとすぐに忘れる。

 「それで、何を占っていらっしゃったのですかパチュリー様」

 「……ん? ええ、レミィの運勢をね……え!?」

 結果を見ながら咲夜の質問に答えようとしたパチュリーがぎょっとした顔になった、怪訝な「どうされたのですか?」と更に問うてから何か悪い結果が出たのではと気がつく咲夜。 それを肯定するかのように彼女に顔を向けたその表情は深刻そうなものであった。

 「……あの子に……レミィに大きな災いが近づいているわ……」

 親友とメイド長がそんな事を話しているとは知る由もないレミリア・スカーレットが気まぐれで湖畔を歩きながら散歩している、今は自らの居城の建つ場所とは反対の位置まで来ていた。 きらきらと太陽の光を反射する湖面の先に見える〈紅魔館〉が思いのほか小さいのに、この湖の広さを感じる。

 ピンク色の服を纏い太陽の光を遮るための白い日傘を差して優雅な足どりでゆっくりと歩むその姿は良家のご令嬢と言えるものであった。

 「偶には一人になって散歩をするのも悪くはないわねぇ……」

 ボケボケな従者や身内に囲まれてどこか気の休む事のできない日々を送っているレミリアは、本気でそう思う。 まだ虫の鳴く声の聞こえる季節でもなく、時折ここらに遊びに来るチルノや大妖精の姿も今日はなければ、本当に静かと言える時間の中にいる事が出来る。

 不満があるとすればこの雲ひとつない晴天であるが、それも許容できる程に今の彼女は機嫌が良かった……〈紅魔館〉にいる親友が占いで不吉な結果を出していると知る由もなく……。

 「……?」

 その時、ふと日が翳ったのを変に思い怪訝な顔で空を見上げたレミリアの顔は、次の瞬間には「……へ?」と大きく目を見開いた驚愕の表情へと変わった。 レミリアの紅い瞳が見据える先には火を噴き黒煙を上げた円盤状の物体が一直線に彼女目掛けて落下して来ていた。

 漠然とではあるがそれが何なのかを瞬時に理解出来たのは、その形状があまりにもテレビで何度も見たそれだからであった。

 「ユーフォー!? ユーフォー、ナンデ!?……アイエェェエエエエエエエエエッ!!!?」

 



 ……唐突ではあるが、レミリアの疑問に答えるためにここで少し時間を遡る……。




 早朝から箒を手に境内の掃除をしているのはこの〈博麗神社〉の巫女である少女の博麗霊夢であり、その霊夢を手伝うでもなく鳥居にもたれかかりながらその光景を眺めつつ時折話しかけるのは霧雨魔理沙だ。

 「しっかし、お前もマメって言うか……別に参拝客なんてきやしないんだから毎日毎日掃除する事もないだろう?」

 明らかにからかっている口調と表情の魔理沙にムッとした顔を向けながら「別に私の神社なんだからどうしようと私の勝手よ」と返す。 確かに霊夢も面倒だと思っていないわけでもないが、さりとてもはや日常的な習慣と化していて掃除をしないと何となく落ち着かないのである。

 実際のところ境内だけではなく〈博麗神社〉の中も綺麗に掃除が行き届き整理整頓もされているところから、少なくとも霊夢自身の身の回りに関しては割と綺麗好きなのかも知れない。

 「……って言うかさ、あんたも偶には自分の部屋でも掃除したら?」

 何度か尋ねた事のある魔理沙の家は、まったく掃除がされてないとまではいかなくとも素人には何に使うのかまったく分からない様々な道具が乱雑に置かれている。 そんな様子にやっぱりあの〈香霖堂〉の店主である森近霖之助の幼馴染みの妹分であると納得しないでもない黒髪の巫女である。

 「まあ、そのうちな」

 絶対にやる気ないなと分かる態度である、別に自分には関係もないしどうでもいい事だけどねと呆れ顔で掃除を再開した霊夢がはっと振り返って神社の屋根の上を見やったのは誰かに見られていたような視線を感じたからであるが、そこにはヒトどころか鳥一匹すらいなかった。

 「……どうしたんだよ、霊夢?」

 どうやら魔理沙は何も感じなかったらしいのに「……気のせい……?」と呟きながらも、釈然としない霊夢だった。



 〈鈴奈庵〉、〈人里〉にあるこの貸本屋では店番の娘である本居小鈴がカウンターの椅子に腰かけて本を読んでいるのが日常の光景である。 もちろんお客が来ればその相手をする、そして今やって来ているのは小鈴の友人でもある稗田阿求である。

 幻想曲物語このしょうせつでは本編ゲーム同様に ”九代目のサヴァン”として〈幻想郷〉で起こる異変や妖怪に関する書物を執筆する傍らで彼女が趣味で薄い本の作成もしているのは知る人ぞ知るところであり、今日の来訪もそっち方面の資料を探しての事である。

 「そう言えばさ阿求、今年もあれ……何だっけ?」

 「ん?……ああ、ひょっとして”例大祭”?」

 「そうそう! それに行くの?」

 「まあね、もっともいつも通りに売り子は他の人に任せるけど」

 店内の本棚を物色する阿求とカウンターでそれを眺めている小鈴がそんな会話をしている、阿求の薄い本には十八歳未満お断りの本もあって、紫色のおかっぱ頭に着物姿のまだまだ幼いと言ってもいい容姿をしている彼女が直接現地で販売するにはいささか問題が生じるのである。

 彼女が転生者である事をあっち・・・の人間が信じるとか信じない以前に、東方キャラが東方のイベントで東方系の薄い本を売るとかナンセンスにも程があるだろうとは思うので事情を説明してみようという気さえない。

 「何なら小鈴も来てみない? あんたの好きな……かどうかは保障しかねるけど、いろんな本があるわよ?」

 めぼしい本をいくつか見つけてカウンターへ持って来た時にそんな風に誘ってみる阿求だったが、小鈴が「う~ん……別にいいわ、店番もあるしね」と首を横に振ったのを残念に思う。

 「……って、そういやあんたはユーフォーとかウチュージンとか信じてるの?」

 「……はい?」

 小鈴が唐突に話題を変えてきたのに思わず素っ頓狂な声を出してしまうが、カウンターの上に”世界のUFOと宇宙人映像”というタイトルの本が置いてあるのに気がつき、なるほどねと納得する。

 「まあ、いることはいるんじゃないの? 私は見たことはないけど」

 宇宙は広いのだし探せばどこかに人間のように文明を持つ知的生命体はそりゃいるだろう、そして彼らの扱う宇宙船をUFOだというのなら地球に来ているかどうかはともかく、存在しているには違いない。

 そう言ってから、「まあ、どうであれそういう存在が【博麗大結界】を越えるのは無理でしょうし、私達が目にする事はないわよ」と付け加えた。

 「ふ~ん……そういうもんかなぁ……」

 友人の少女の考えに納得するものを感じながらも、それはそれでつまらない話だなぁーと思う小鈴であった。



 「トコロガドッコイ! コエラレタリスルンダナコレガ。 ワレラ”ショーテーン星”ノテクノロジーヲナメテハイカンゾッ!!!!」

 〈人里〉の遥か上空の雲の更に上に浮かぶ円盤、そのブリッジで自信満々に大声を上げているのはウタマルである。 身長一メートル程の灰色の身体にアーモンド形の巨大な目は典型的なグレイ・タイプの宇宙人だ。

 「イッタイ、ダレニイッテルンデスカ……ウタマル=シショウ?」

 「フッ! キニスルナ、ヤマダ=クン」 

 偵察から戻ったばかりのヤマダ・タカオに言ってから、正面の大型モニターに映る〈幻想郷〉の景色を見つめる。 彼らショーテーン星人の目的は一言で言うと地球の征服であり、その第一段階としてこの〈幻想郷〉を制圧し前線基地を築くのがウタマルらの任務であった。

 調査の際に偶然発見されたこの地への侵入は彼らの技術を持ってしても困難を極めたが、逆に言えばこの地に拠点を築けば地球人に攻撃される心配がまずないという事である。 もっとも、その為に地球時間で一九九九年の七月に予定していた侵攻計画は大幅に遅れる事になったわけだが。

 「ソンナコトヨリモ、ハヤクホウコクヲセヨ。 スデニエンラク=サンラノジュンビハトトノッテ、アトハコウゲキメイレイヲダスダケナノダ」

 「ア……ハイ……」

 その時に「……そういうわけにはいかないわよ」という声が聞こえてギョッとなる宇宙人の二人、いつの間にかブリッジ内に地球人の少女が立っていた。 黒い髪をこれまた黒いリボンで結び、身に纏っている装束も白と黒の二色で構成されている。 その少女の顔にヤマダが驚愕したのは、先の偵察中にジンジャで目撃した少女のそれだったからだ。

 「キ、キサマハ……」

 「別に〈幻想郷〉を守る……とかは言わないけどね。 あんたらみたいなのに好き勝手されるのも面白くないのよ、悪いけど邪魔させてもらうわ……この、ダーク・レイムがね!」

 ヤマダの言葉を遮りなが一歩前に進みでて右手に持った《お払い棒》を構える、そして直後に「「アイエェェェエエエエエエエッ!!!?」」という悲鳴が円盤のブリッジに響く。 そしてその後も何度も悲鳴が船内に響き、やがてそれが聞こえなくなると円盤の機関部が激しい音を上げて火を噴いた……。



 ……と、こんな事があって浮力を失った侵略宇宙人の円盤が奇跡的な確率でレミリアのいる湖畔へと墜落してきたのである……。

 「……って!! なんじゃいそりゃぁぁぁあああああああああああああっっっ!!!!?」

 逃げるどころかろくにツッコミをしている暇もなかった、絶叫するしかないレミリアの姿はあっと言う間に円盤の下へと消えて、次の瞬間には大爆発を起こして激しい閃光を放ち轟音を響かせたのであった……。

 「サ・ヨ・ナ・ラなのか~~~?」

 偶々通りかかってその光景を目撃した黒い塊こと、闇に包まれたルーミアが誰にともなくこんな事を言いながらいずこかへと飛び去っていった。

 「ナムアミダブツなのだ~~~~♪」



















 ちなみに、誰がどう考えても死んでいるだろうと思われる状況にあってもレミリア・スカーレットが奇跡的に生還したものの、その後はしばらくベッドの上で吸血鬼少女ではなくミイラ少女と化していたのであった。

 「いやはや……何はともあれお嬢様がご無事で良かったですわ」

 「本当ですねー。 流石はお嬢様、黒い悪魔並みのしぶとさですわ♪」

 レミリアの自室の天蓋付きのベッドの脇で咲夜と美鈴がそんな事を言い合うところへパチュリーと

フランドール・スカーレットがやって来る。

 「……あれ並みって言うか……単にギャグキャラ化による不死身補正じゃないかしら……」

 「きゃはははは~♪ それは言えてるわね~パチュリ~~♪」 

 淡々と言うパチュリーに上手い事言うわねという感じで笑うフランドール、そんな身内の好き勝手な言いようにベッドの上のミイラ女レミリアは身体をワナワナと震わせ、ついには上半身を起こして叫んだ。

 「だぁぁああああああああっ!!!!! どこが無事かぁぁぁあああっ!!!!! てか、あれと一緒にすんなぁぁぁああああっ!!!! てか、誰がギャグキャラくぁああああああっフランも笑うなぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!!!!!!」

 どんな状況にあっても決してツッコミの切れが衰えることのないレミリアであった……。 



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