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未知との遭遇、メイド対UMA編

幻想郷で家畜が襲われるという事件が発生、その調査を咲夜に命じたレミリアの真意は?

そして咲夜は紅魔間の総力を結集して犯人の捕縛に挑む……?

今回は幻異変ではなくちょっとした事件の解決に挑むメイドさんのお話。

            東方幻想曲物語 未知との遭遇、メイド対UMA編


 その日は綺麗な満月の浮かぶ夜だった、〈幻想郷〉に住む笑点野歌丸しょうてんの うたまるさん(60)は飼っている馬の異常な鳴き声が聞こえたので慌てて家を飛び出すと裏手にある馬小屋へと向かった。

 「…………!!!?」

 彼が馬小屋へと来た時には月が雲に隠れて、更に鳴き声も止み不気味な静寂が支配していた。 それを不気味に感じつつも慎重に入り口へと向かおうとした瞬間に”それ”が飛び出してきた。

 「……ひっ!?……うわぁぁぁああああああああっ!!!?」

 


 「……闇夜に光る不気味な紅い目ねぇ……」

 レミリア・スカーレットはつまらなそうに呟きながら《文々新聞》をベッドに上に放り投げるとゴロリと横になった。 それを十六夜咲夜は「お行儀が悪いですよ」と言いながらテーブルの上で空になったティーカップを片付け始める。

 「そうは言うけどさぁ……パチュが面白い記事があるって言うから見てみたけど……」

 そう言いながらレミリアは咲夜に《文々新聞》を放り投げた、それが見当違いの方向であったにも関わらず咲夜がキャッチ出来たのは、時間を止めてのだろうことは彼女の立ち位置が一秒間で数メートル移動していた事から分かる。

 「……馬小屋にいた馬は二頭共に殺害、目立った外傷は無く首筋に二本の細い穴ですか……」

 そして血液を残らず抜き取られていると書いてあった、これだけ見ると犯人は”あれ”しかないと咲夜には思え、かつ紅い目となれば……。

 「お嬢様、いくらお腹が空いたからといって馬を襲うのは……」

 「襲うかぁぁぁああああああああああああああっっっ!!!!!!」

 大声で怒鳴るレミリアは「言うんじゃないかと思ってわよ、このボケボケメイドめ!」と付け加える、真顔の咲夜を見れば冗談か何かではないのは分かる。

 「まったく……私は誇り高き吸血鬼なのよ? 人間以外の家畜なんて襲う惨めな真似なんてすると思う?」

 「……幻想曲物語このシリーズではほとんど血を吸っておられませんゆえ、とうとうなりふりかまないようになったのかと……」

 「なるくぁぁあああああっ! 給料下げるわよこのアホメイドぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!!!」

 今にも襲い掛からんばかりの勢いでツッコミをしながら、このまま本当に咲夜の血を吸ってやろうかとちょっとだけ思ったレミリア。

 減給は流石に困ると思ったのか、咲夜はシュンとしながら「……申し訳ありません」と頭を下げて謝罪した。

 「……まったく」

 やれやれという顔で小さく息を吐きながら、この咲夜みたく変な勘違いをした人間達に変な噂を立てられるのは面白くないわねと考えた。 濡れ衣ははともかく、自分が家畜を襲うような惨めな吸血鬼だと思われるのは非常に癪に障る。

 

             ――――レミリアの脳内妄想開始――――

 「……聞いたか? やっぱりあの事件の犯人はレミリアみたいだぞ?」

 「だろうなぁ……以前も異変を起こしたし、やっぱり吸血鬼は吸血鬼なんだな」

 人里の道のど真ん中で人々がそんな事を話し合ってるところにやって来たのは霊夢と魔理沙だった。 二人は里の人々がそう言うのが聞こえて顔を見合わせた。

 「……やっぱりレミリアなんだな?」

 「多分そうでしょうね、他に考えられないもの」

 そして霊夢は「ふっ★」と笑うと、魔理沙に対して他人を馬鹿にする黒い笑いを浮かべた。

 「あはははは、何が永遠に幼く紅い月よ? 家畜を襲うなんて〈紅魔館〉のレミリア・スカーレットも地に落ちたものねぇ~~~~★」

              ――――妄想終了――――

 

 「……うがぁぁああああああっ腹立つぅぅぅぅううううううううううううっ!!!!」

 「……お、お嬢様?」

 突然に意味不明の叫びを上げたレミリアに咲夜はキョトンとした顔をした、その咲夜の表情に気がついたレミリアは咳払いをして妄想の中の邪悪な顔の霊夢を追い出す。

 「……と、とにかく咲夜。 あなたは大至急この事件を調べなさい」

 「……私がですか……?」

 意外だと咲夜は首をかしげた、正体不明の怪物に家畜が襲われたのは異変とは言わないまでも事件ではあろう。 しかし、それだけとも言えるし博麗の巫女よりも早くレミリアが動く必要もないと思える。

 「そうよ、家畜を襲うなんて吸血鬼の風上にも置けないわ。 ひっ捕らえて私のところへ連れてらっしゃい、もちろん死体でも構わないわよ?」

 残忍な笑顔を浮かべながらも、自分の妄想で腹が立ったからとは言えずにもっともらしい理由を口に出来た事に安堵するレミリアの心の内を知る術の無い咲夜は、「承知いたしました、お嬢様」と恭しく一礼したのだった。

 

 

 レミリアの命令を受け出発したはいいが、事件の事を調べるといっても結局のところ人里で聞き込みをするくらいしかなく、それで分かった事といえば同じように馬や牛といった家畜が襲われているという事くらいだった。

 「事件が起きているのは夜中……これは当然ね」

 吸血鬼ならば太陽は苦手であろうし、そうでなくともわざわざ人目のある昼間に堂々とする事はしないだろう。 要するに目撃者がほとんどいないので情報不足なのだ。

 ならば夜中に見張っていればとも思うが、人里の家畜は少ないわけでもなく一人で見張るのは無理だろう。

 そうなれば結局は応援を要請するしかない、そう考えた咲夜は一旦〈紅魔館〉に引き返すことにした。



 「……お姉様……」

 三分経ったカップラーメンを啜りながらフランドール・スカーレットがジト目で言う。

 「……ふぁひほふぃふぁふぁいふぇふふぁん――※訳 何も言わないでフラン――……」 

 一方のレミリアはカップうどんの油揚げを咥えながら妹に答える。

 戻って来た咲夜はレミリアに紅美鈴や妖精メイド達を総動員したいと申し出てきた、犯人を捕らえるためならばと許可を出したレミリアは、その時に重大な事を忘れていたのである。

 咲夜以下メイドがいなければ、レミリア達には夕食を作ることすらままならずに厨房の奥にあった賞味期限ギリギリのカップ麺を探してお湯を入れるのがせいぜいであった。 最新型テレビだのパソコンだのとどうでもいい物はあるのにどうして肝心な物コンビニがないのかと文句を言いたくなるレミリア。

 「……まったく咲夜も……」

 せめて夕飯を作ってから行けばいいのにどこか抜けている子である、しかし自分で事件を調べろと命令した手前彼女に文句を言う事も出来ない。

 スカーレット姉妹がそんなわびしい夕食をしている頃、咲夜達は準備万端で犯人の現れるのを待っていた。

 「……様子はどう?」

 『……こちらA班の美鈴と小悪魔、異常ありません。 どうぞ』

 『B班のマドカとマミ……異常なしです』

 『……C班のサクラとトモヨです、異常なしです』

 人里の中央辺りにある広場で咲夜が無線機に呼びかければ、人里の家畜小屋の傍で張り込みをしている美鈴達に続き妖精メイド達からも応答がある。 援軍と言っても美鈴はともかく妖精メイドを戦闘時の戦力としては期待してはない、犯人の出現を知らせてくれればそれでいいのだ。

 「……さて、それでもそろそろ来るかしら……あ!」

 月が真上に差し掛かろうとするのを見上げた咲夜は、その時になってようやくレミリア達の食事を用意してくるのを忘れていたのを思い出した。 しかし今から戻るわけにもいかず、確かカップ麺も残ってたし大丈夫でしょうと自分を納得させ任務に集中する事にした、最悪一食抜いたくらいで死にはしない。

 『……こちらE班フェア・リーメイド……現れました!』

 その時に入ってきた通信に、咲夜の顔に緊張が走る。 そして冷静にフェアの担当の場所を思い出しながら【時を操る程度の能力】を使った。

 フェアの担当箇所に到着するのに要した時間はおよそ十分間、しかし咲夜以外のものにはそれは一瞬の事で、咲夜が瞬間移動して来たと表現してもいいかも知れない。

 「……あ、メイド長。 あそこです……」

 咲夜の能力を承知しているフェアはそんな事に驚くことも無く冷静に咲夜に馬小屋の入り口を示すと、その入り口に入ろうとしている二人の姿に咲夜はギョッとなった。 身長はおよそ一メートル程で衣服は身に付けておらず灰色の肌を晒しておる、何より特徴的なのは大きなアーモンド形の真っ赤な目であった。

 妖怪が当然に存在する〈幻想郷〉にであっても化け物か物の怪と表現するに相応しい姿にゴクリと喉を鳴らしながら《銀のナイフ》を数本取り出し構える。

 「……メイド長……?」

 「……さて、どうしましょうか……」

 姿形で判断するのもどうかと思うが、話の通じる相手には思えない。 ならば、相手の戦闘力も未知数であるし先制攻撃を仕掛けるべきかと考え、実行した。

 「はぁっ!!」

 掛け声と共に飛び出すと一気に地を蹴り跳躍する、その咲夜に気がついた二体の怪物は「……ギギッ?」という声を出して彼女の方へと振り返った。

 「時よ止まれ、【ザ・ワールド】っ!!」

 その瞬間に世界が灰色へと変わり一切の音も消え静寂が訪れる、色を持ち音を発して動くのは咲夜のみ。 ポケットから次々と《銀のナイフ》を取り出しては空中へと投げる、咲夜の手を離れた《銀のナイフ》は刀身の輝きをなくし灰色へと変わり空中に静止していく。

 「一気に決めさせて頂きますっ!!」

 手持ちのナイフのほとんどを放出した咲夜は着地すると同時に化け物の脇を抜け後方へと走りぬくと、素早く反転した。

 「時よ、動きなさいっ!!」

 咲夜の言葉と同時に世界に色と音が戻る、最初に響いたのは「ギギャ~~!?」という化け物の一体・・が上げた悲鳴だった。 運よく《銀のナイフ》の弾幕を潜り抜けて跳躍できた一体に対し、運の無かったのだろうもう一体は全身に《銀のナイフ》を突き刺され倒れて逝く。

 「……ギィッ!?」

 その一体が驚愕したような声を発したのは先程いたはずの人影さくやが消えていたからだろう。

 「こっちですよ、化け物さん!」

 「……ギッ?…………アギギャッ!?」

 着地すると同時に振り返った化け物の眉間に《銀のナイフ》の最後の一本が突き刺さり化け物の大きな目が更に大きく見開かれた、そしてうめき声を発しながら崩れ落ちて逝くのだった……。 




 咲夜の倒した怪物がチュパカブラという名前だとレミリアが知ったのは、〈大図書館〉のパチュリー・ノーレッジからだった、彼女に化け物の正体を調べさせたのである。

 「……ええ、この本によるとね。 おそらく間違いないわねレミィ」

 その本を閉じて〈大図書館〉のテーブルの上に置きながらパチュリーは言う、《決定版、世界のUMA辞典》というタイトルの付いたその本が、どうして〈紅魔館〉の〈大図書館〉にあるのだろうと若干疑問にレミリアは思う。

 「……新種の生物とも宇宙人のペット、エイリアン・アニマルとも言われてるけど現在も正体は不明……らしいわ」

 「そんなものが〈幻想郷〉にねぇ……」

 何が紛れ込んできても不思議は無いのが幻想曲物語このカケラの〈幻想郷〉であると言えばそれまでだがなどと考えていると、ふと一冊の薄い本がテーブルの上にあるのに気がつく。

 「……これは?」

 「……あ! レミィ、それは……」

 興味本位でその本を手に取りペラペラとページをめくって見る。

 「……あなたには刺激が強すぎ……」

 「……っ!!!!!?」

 パチュリーの制止も空しく、驚愕の表情をしたレミリアの顔が一瞬の硬直の後にあっと言う間に茹蛸のように真っ赤になり蒸気まで噴出した、薄い本の持ち主であるレミリアの親友は「あちゃ~~……」と手で顔を覆う。

 「……ちょ……私とフランが……は、裸で……こっちは咲夜と……!?……この私がこんな……悩ましげや乱れた顔をするなんて…………」

 パニックになりながらも薄い本から目を離さない……というより離せないレミリア、どうやら彼女は未知の存在と遭遇した時に逃げないといけないと分かっていても好奇心などから逃げ出せないというタイプらしい。

 「ちょっとパチェっ!! 何なのよこれはぁぁぁあああああああああああああああっっっ!!!!!!」

 レミリアの絶叫は、〈大図書館〉の中ではいつも以上に響き渡るのだった……。



 その後、レミリアとパチュリーの間で彼女のコレクションうすいほんの処分を巡って親友同士の大バトルが繰り広げられて、〈紅魔館〉の使用人達が大迷惑をこうむる事になるのだが、それはまた別の話である。


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