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小悪魔に名前を付けてみよう編

こういう事をしていいのかどうかと多少迷うとこはありましたが、とりあえず書くだけ書いてみた。


 〈人里〉から湖畔に不気味な赤い洋館である〈紅魔館〉の地下にある〈大図書館〉にはおよそ普通の人間には縁のないであろう魔道書や薄い本が収められていた、その薄暗い室内に〈大図書館〉の主であるパチュリー・ノーレッジの「……あ……くぅ……はぁ……」という艶かしい喘ぎ声が響いている。

 「……パチュリー様のここ・・、ずいぶんと固くなってますねぇ……」

 「……痛っ……も、もうちょっと力を抜きなさいよ……」

 「あ! す、すません……」

 そのパチュリーともう一人、彼女の配下の小悪魔の声も聞こえた。 その次の瞬間に入り口にある金属製の扉が吹き飛ぶ破壊音と少女の怒声が響き渡った。

 「人ん家の地下で何をやっとんじゃいぃぃぃいいいいっあんたらはぁぁぁあああああああああああああああああっっっ!!!!!!!」

 叫び声と共に勢いよく飛び込んで来たのはレミリア・スカーレット、この青みがかった銀髪でピンク色の衣装を纏った幼い外見の少女はこの赤い洋館を支配するおそるべき力を持った吸血鬼であり、”永遠に幼く紅い突っ込み役”の二ツ名でも呼ばれている。

 「どぅあれが”突っ込み役”かぁぁぁああああああああああっ!!!!! 私は”永遠に幼く紅い月”よっ!! この書き手あほがぁぁぁあああああああああああっっっ!!!!!!」

 オリンピックの体操選手のような動きで着地してみせるや否や天井に向かい意味不明な叫びを上げるレミリアを、椅子に座ったパチュリーとその彼女の肩を揉んでいた小悪魔は唖然と見つめるのだった。



 いかに天気は良くとも十一月も半ばとなれば風も冷たいと、〈博麗神社〉の境内を掃除している巫女の博麗霊夢は思う。 〈魔法の森〉を抜けた先という元より気軽に来れる場所ではないが、こうも寒いと参拝客おさいせんの足も余計に遠のくと思うと、ついそんな想いを口にしながら溜息のひとつも吐き出す。

 「だから、参拝客と書いてお賽銭とか読むなよな……」

 友人である巫女の手伝いをするでもなく掃除で集めた落ち葉やゴミを燃やしている焚き火にあたっていた霧雨魔理沙はそんな事を言いながら、心の中ではどうせ暑かろうが寒かろうが参拝客なんて来ないだろうにと呆れていた。



 「……まったく、レミィともあろう者が何をやってるのやら……」

 親友の少女が扉を壊してくれた入り口の方を見ながら言ったパチュリーは小悪魔の淹れた紅茶を一口啜った後でその白いティーカップを机の上の置く。 隣に座っているレミリアは「……悪かったわって言ったじゃない……」と小声で言う。

 「……とにかく、あの扉はちゃんと直してよ?」

 「分かってるわよ、ちゃんと修理するってば……妖精メイドが……」

 本編ゲームとは違い幻想曲物語こっちの妖精メイドはそこそこスペックがあるので扉の修理もやって出来ない事はない、しかもエミィ・ヤーシロというこの手の事に達者な妖精メイドもいるので彼女に任せれば今日中には直るだろう。

 「……妖精メイドと言えば……」

 お茶請けのクッキーを運んできた小悪魔が主人達の会話に入ってくるのは珍しい事である、だからかパチュリーは少し興味ありげな顔で「……何かしら?」と先を促す。

 「……私って、どうして名前がないんでしょう?」

 「「………………はぁ?」」

 小悪魔の意外な発言にパチュリーとレミリアは思わず素っ頓狂な声を揃えて出してしまった。

 この場合の”小悪魔”の意味とは固有名詞ではなく”人間”や”妖怪”といった種族を示す言葉であろう。 が、東方界隈においては半ば〈紅魔館〉に住むこの少女個人を表す単語となっているのもまた事実である。

 「確かに私は本編ゲームでも名前はないんですけど……ほら、幻想曲物語こっちだと妖精メイドにも名前があるじゃないですか?」

 「……あるわねぇ……書き手あのアホの趣味って言うか、何て言うか……」

 レミリアが答える、別に妖精メイドAとかBでも良いのだろうがそれでは少し味気ないとでも思ってでもいるのか時には1シーン限りのチョイ役にもみょうちくりんな名前を付けるのが書き手このアホなのだ。

 「……あなたもああいう名前がほしいの?」

 「いえ、パチュリー様……流石にああいうのはちょっと……」

 主人の問いに苦笑する、名前はほしい気はするがあのようなネーミング・センスは勘弁してほしい小悪魔。 例えばフェア・リーメイドは妖精フェアリー・メイドだし、ラーカ・イラムは某ロボットアニメの戦艦で、チャウ・ネーンに到っては”ちゃうねん”である。

 本編キャラとの差別化だったり、その方が読み手の印象に残るのだろうという狙いはあるのであろうが、それにしてもだ。

 「……と言いますか、ネットで調べたらにも”こあ”とか”ここぁ”とか名前があるらしいじゃないですか?」

 「調べたのっ!?」

 「……あなたそれでこの前、私のパソコンを貸してほしいって言ってきたのね。 まあ、二次創作ではそういうのもあるらしいわね」

 パチュリーが腐女子らしい知識をみせると、「そうなんですよ! だから、私もどっちで呼ばれてもいいのではないでしょうか!?」と力強く言ってみせた。

 「……どう思うレミィ?」

 「……いや、どうって言われても……ねぇ?」

 親友に話を振られて困惑の表情を浮かべるレミリア。 彼女としては小悪魔は小悪魔でも問題ないのではあるが、直属でないとはいえ名前で呼ばれるのを希望する部下を冷たくあしらうのもヒトとしてどうかとも思う。

 「……まあ、お嬢様は人ではないですが」

 不意に背後から聞こえた声に三人がギョッとなって振り返るといつの間にかメイド長である十六夜咲夜がにっこりと笑みを浮かべて立っていた。

 「さ、咲夜っ!!?……い、いつの間に!?……てか、私の心を読んだっ!!!?」

 驚愕するレミリアに咲夜の向ける笑顔は、まるで「お嬢様の考える事など私にはすべてお見通しですよ?」とでも言っているようであった。



 「そ~なのか~~~」

 〈紅魔館〉の門を守る紅美鈴は、ふと聞こえたそんな声に頭上を見上げてみるとちょうど黒い塊が通過したところだった。 

 「……ルーミアかぁ」

 その黒い塊の中にいるであろう闇を操る少女の名を呟きながら、何がそ~なのか~~~なのだろうと疑問に思った美鈴であった。



 レミリアとパチュリーという主人格がティータイムであればその従者は後ろに控えているのが本来ではあるが、今日は咲夜と小悪魔も同席する事となったのはレミリアの気まぐれである。

 「……そうですね、〈紅魔館〉において……いえ、東方プロジェクトには小悪魔はあなた一人のみですからね。 公式にない以上は小悪魔で通そうというのもひとつの方法でしょう」

 それが咲夜の意見だった、もちろん”妖精メイド同様に小悪魔も複数いるという説の世界カケラ”もあるのだろうが、少なくとも幻想曲物語このカケラにおいては彼女一人である。

 「それは……そうなんでしょうけど……」

 要するに小悪魔という単語が半ば名前となっているのは当人も分かってはいるし、世の中には本名不明で役職などがそのまま名前となっている人物キャラがいないわけではないのも知っている。

 最近で言えば某勇者と魔王の物語あたりがそうだろう。

 「そうね、私も今更”こあ”とか”ここぁ”で呼べって言われても、ちょっと違和感があるわね」

 従者の話を聞き言うレミリアに「……私もね」とパチェリーが同意すると、小悪魔は「う~~~」と唸り声を出す。 所詮は使い魔に過ぎない彼女は主人にそう言われてしまえば返す言葉がない。

 部下のそんな顔がどこか可愛く思えたパチュリーは、次のコミケでは小悪魔の薄い本でも集めてみようかしらと、そんな事を考えた。

 「そうですねぇ……では、”こあ(仮)”とか”ここぁ(仮)”というのはどうかしら?」

 少し可哀そうだろうと思ったのだろう咲夜がそう提案してきたが、「そ、それはそれでどうかと思いますが……」と困惑した顔になる、このメイド長に悪意はないのだろうが、やはりどこかズレた感覚を持った人間だなと再認識する小悪魔である。

「……とは言えねぇ、結局は”こあ”とか”ここぁ”辺りが無難なのよねぇ……あなたを名前で呼ぶなら」

 カップに少しだけ残っていた紅茶を飲み干してたレミリアが咲夜をちらりと見ながら言う、その意味にすぐに気がつき立ち上がりティーポットを持って彼女のカップに紅茶を注ぐのは流石は咲夜と言うべきである。 彼女の十六夜咲夜の名は主人であるレミリア・スカーレットから与えられたものであり、こんな話題を話していればそれが羨ましくも思い自分にもパチュリー様かお嬢様に名前を与えて貰えないかと考えてしまう。

 もちろん小悪魔とて”こあ”や”ここぁ”が嫌なわけではない、”小悪魔”という総称ではなく自分だけを示す名前で呼ばれるのは嬉しい事なのだから、なので自然と期待に満ちた目をパチュリーとレミリアに向けていた。

 従者のそんな視線にやれやれと思いながらもパチュリーは思案してみる、定番の名前を使うは面倒もないし角も立たないのだろうが、それでは少々面白みにかけるとも思う。 どうせ文句がくるほどに幻想曲物語このしょうせつはたいそうなののでもないし、東方本編とは違う世界カケラと言っているのであるから、この世界の小悪魔がそういう名前なだけという言い分も通用するだろう。

 何よりどうせ文句を言われるのは書き手あのアホであり、自分やレミィではない。

 「……ツカサ……」

 そんな事を思いながらふと思いついた名前をポツリと呟くとレミリア達の視線がパチュリーに集中すると、彼女は「……ああ」と小悪魔の方へと顔を向ける。

 「……あなたは〈大図書館〉の司書みたいなものでしょう? だから司書の”司”……ツカサよ」



 「そ~なのか~~~?」

 〈紅魔館〉の側に広がる湖の上を飛行していた”愉快な化け傘”こと多々良小傘が唐突に聞こえた声に左を向くと、すでに視界いっぱいに黒い塊が迫ってきていた。

 「……へ?……わきゃっ!!!?」

 「……ぎゃっ!!?」

 両者は勢いよく衝突してそのまま体勢を立て直す事も出来ないまま湖へと落下し、ふたつの水しぶきが上がったのだった。

 「…………????……あれは多々良小傘にルーミア?……何をやってるの?」

 そんな光景を目撃した通りすがりの姫海堂たては、いきなりの出来事に呆気にとられたという顔をした。

 「……って!! だからほたてって言うなぁぁぁあああああああああっっっあたしは姫海堂たてだってのぉぉおおおおおおっっっ!!!!!」


 


 深夜の〈大図書館〉で一人で本の整理をしているのは小悪魔のツカサである、壁に取り付けられいるランプに照らされているのその顔は、深夜まで仕事をしていると思えないほどに上機嫌そうだった。

 「~~~~~~♪♪」

 机の上に放置してあった数冊の本を抱えてタイトルを見ながら元あった場所に返していくという作業は、この広い〈大図書館〉では面倒という言葉ではすまない程の大変な作業であっても、今日の彼女は「まったく、パチュリー様も偶には本をきちんと片付けていただきたいですねぇ……」などとまるでだらしない子供の面倒を見るような親の顔でクスクスと笑いながら言える心の余裕があった。

 「パチュリー様に名前を頂いたのが余程嬉しいのねあの子――ツカサは、うふふふふふ」

 妖精メイドのエミィ・ヤーシロから扉の修理が終わったとの報告を受けて具合を確かめに来ていた咲夜は自分がレミリアから”十六夜咲夜”の名を貰った時の気分を思い出しながら、微笑ましそうな顔で小悪魔――ツカサの様子をしばらく眺めていたのだった。


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