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人里の怪しいラーメン屋で味勝負?編

今回は平穏なある日に霊夢と怪しげな妖怪の店主がちょっと変わった勝負をするお話


 「……そういえばもうすぐハロウィンかぁ……」

 太陽の光を反射し宝石のように輝く湖を眺められる〈紅魔館〉のテラスで空になったティーカップを右手で弄びながら、レミリア・スカーレットは呟いた。 彼女の背後に佇んでいたメイド長の十六夜咲夜はその呟きに一瞬だけ怪訝な顔をした後に「ああ!」と納得した顔になり言った。

 「”進化論”を唱えた方の事ですか」

 「……はぁ?…………って! それはダーウィンっ!!!」

 短い銀髪の両端を編んだメイドの少女の言葉に今度はレミリアが一瞬怪訝な顔になり、そして高速で咲夜の方へと振り返ると突っ込みの声を上げた。

 「……では黒魔術師殿?」

 「……それはオ〇フェン!」

 「0083の准将?」

 「それはコ〇ウェン!!……つか、”ン”しかあってないじゃないの咲夜ぁぁぁあああああああああああっ!!!!!」

 ついには椅子を蹴っ飛ばして立ち上がったレミリア、咲夜はそんな主人に感心した顔でパチパチと手を叩く。

 「流石はお嬢様です、今となっては何人が知ってるやらという古いネタやマイナーキャラまでスラスラと出てくる……まさに”永遠に幼く紅い突っ込み”に相応しいです!」

 「勝手に変な二ツ名付けるんじゃないわぁぁぁああああああっこのアホメイドぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!!!」

 自分がからかわれたと分かったレミリアの怒声が〈紅魔館〉に響くのは、まったくもっていつもの日常の光景なのが幻想郷物語これなのであった。 だから、咲夜の指令でお茶菓子のお代わりを持って来た妖精メイドのフェア・リーメイドは、いきなり響いた怒声を聞いても「……今日も〈紅魔館〉は平和ですねぇ……」としか思わなかった。



 〈守矢神社〉の巫女である少女の東風谷早苗は、洗濯物を取り込んだ後に何気なく空を見上げて「……もう十月かぁ」と呟いた。 幻想曲物語このカケラではそうドタバタした事件は起きないものの、気がついてみると時間があっと言う間に過ぎ去っている。  歳をとっていくと時間の流れを早く感じるようになるとは聞くがと考えて、すぐにブンブンと頭を振ってその考えを打ち消す。 自分はまだそんな歳じゃない、きっと日常の家事やら信仰を集めるための方法をあれこれと試行錯誤していて、何だかんだと忙しい日々を送っているからだと思いたい早苗だ。 

 「今日もがんばってるわねぇ~」

 急に頭の上から聞こえた声に顔を上げると、一人の鴉天狗の少女が舞い降りてきて早苗の側に着地した。 最初は社命丸文かと思ったが違った、ウェーブのかかった長いツインテールで手に持ったカメラも文の《一眼レフカメラ》ではなく《カメラ機能付きの携帯》だ。

 「あら。姫海堂たてさんじゃないですか。 こんにちは」

 「ああ、こんに……って! ちぃいまていっ!!!! 誰がほたてか~~~!! あたしはたてっ!! 貝類じゃないわ~~~~!!!!」

 早苗の間違いを危うくスルーしかけたたてだったが、すぐに気が付き目を吊り上げて怒鳴りつけた。

 「あんたもだ~~~この書き手どあほ~~~~~~~~!!!!!!」

 天に向かって吠えたはたてはゼェゼェと息を切らす。 そして、「悪いんだけど、水を一杯もらえるかな?」と呆気にとられている巫女の少女に言った。

戸惑いながらも「……あ……は、はい……」と家の中に向かう早苗の後姿を見送りながら、ほたては幻想曲物語これでの自分の扱いの方向性が決まったように思えて少し鬱な気分になり「……はぁ……」と溜息を吐くのだった。

 「……って! だから~~ほたてって言うなぁぁああああっ!!!!」



 〈紅魔館〉や〈妖怪の山〉ではそんな平和な時間が流れていた頃、〈人里〉ではちょっとした騒動が起きていた。

 それは先日〈人里〉にオープンした一軒のラーメン屋に〈博麗神社〉の巫女である博麗霊夢と彼女の友人である霧雨魔理沙が押しかけたからである。 ”万里のピラミッド”という看板のかかっているその店に《お払い棒》と《ミニ八卦路》を手に突入した二人の少女がラーメンを食べに来たというわけがない。

 この店の店主が妖怪だからである。

 「はははははははははっ!!!! ようこそ我が〈万里のピラミッド〉へ!! 私は主のファ・ラ王、人は中華の達人ツタン・ラーメン王と呼ぶっっっ!!!!!!!」

 「「………………はいっ!!?」」

 待ち構えていたとばかりに仁王立ちで腕を組んで少女達を出迎えた男の姿に巫女と魔法使いが思わず目を見開き口をぽかんと開けてしまったのは、彼の出で立ちが中華風の民族衣装にエジプトの黄金仮面の様な物を被るというあまりにも奇妙なものだったからであった。

 だから、一見お客が一人もいない店内の隅っこの席に長い金髪をいくつかに束ねた女性がラーメンを啜っている事に気がつかなかった。

 「…………え~~と……あんたが……店主の妖怪……?」

 危うく《お払い棒》を落としそうになった霊夢がそれを言うのに五秒は掛かった。

 「うむ……ん? そういうお主は博麗の脇巫女の博麗霊夢か? それにそっちの白黒は

霧雨魔理沙だな?」

 「脇巫女言うなっっっ!!!!!」

 「白黒じゃない! ”普通の魔法使い”だってのっ!!!!」

 揃って怒鳴る少女二人にファ・ラ王は「ははははは、どっちでも良いであろう」と笑う、妖怪退治の専門家が武器を手に押しかけてきたという状況は分かっているはずなのに怯えた様子もなく呑気なものだ。

 「……ま、まあ、いいわ。 とにかくあんた! 妖怪のクセに〈人里〉で商売をするなんて何を企んでいるの!?」

 「そうだぜ! 素直に白状しやがれってんだっ!!」

 気を取り直して《お払い棒》と《ミニ八卦路》を向けて問いただす二人にファ・ラ王は心外そうな顔をした、無機質な金属のマスクが表情を変化させた事を霊夢達は気味が悪いと思ったが、驚く事はないのはこの男が妖怪だからである。

 「企むとは失礼な……私は料理人だぞ? 旨い料理を作り、それをお客に振舞う……それ以外に何があると言うのだ?」

至極全うな意見ではあるのだが妖怪の言う事なので素直に信用する事を霊夢も魔理沙も流石にしない、「怪しげな薬を料理に混ぜるとか、店に来た人間をとって食うとかあるでしょう!」と言い返す。

 「失礼な! 料理人の誇りに賭けてそんな事はせんっ!!!!!」

 少女の無礼な言いように流石に大声で怒鳴るファ・ラ王、博麗の巫女が妖怪を警戒するのは理解出来ないでもないが、それでも言っていい事と悪い事はあるだろう。 しかし、だからといってすぐに暴力に訴える事もしないのもまた彼の料理人としての誇りである。

 「ならば、我がラーメンを食してみるがいい巫女に魔法使い!」

 ファ・ラ王の意外な提案に「……は?」となる霊夢と魔理沙、何の冗談かとも思ったが彼の表情?は到って真剣なものだった。 当然、何かを企んでいるのだろうと警戒しファ・ラ王の顔を見据える。

 百戦錬磨の妖怪退治の専門家のそんな探るような視線に対しても怯むことなく、ファ・ラ王は不敵な笑みを浮かべて見せた。

 「安心せよ、当然お主らには厨房での調理に立ち会ってもらう。 もしも私が変な真似をしたらその場で退治してしまえば良かろう?」

 くだらないと一笑する事も出来たが、こうも挑戦的な口調でこられれば拒否するのも逃げるようで面白くなく、受けて立ってやろうと思ってしまう二人である。

 「面白いわね。 いいわ、もしあんたのラーメンが美味しかったら”博麗の巫女”があんたの店の〈人里〉での営業を認めてあげるわ! ただし、もしも不味かったら即刻〈人里〉から出て行ってもらうわよ!」

 「へえ~面白そうだな。 あたしも霊夢に乗ったぜ!」

 更には勢いに任せてまるでどこかの料理漫画のような味勝負まで仕掛ける始末である。 「……良かろう、その挑戦を受けてたとう!」

 冷静に考えれば、例えラーメンが旨かったとしても霊夢と魔理沙が不味いと言えばそれまでのファ・ラ王にとってはかなり不利な勝負ではあるが彼はそれでも受けてたった。 それは己の腕に自信があることの現れであり、挑まれた勝負は真っ向から受けてたつというのがファ・ラ王のポリシーだからである。

 「あらら、これは良い所に来たのかもねぇ~~」

 〈万里のピラミッド〉の暖簾を潜った姫海堂はたては、いきなり聞こえてきたそんな会話ににやりと笑みを浮かべた。 〈守矢神社〉でしばらく早苗と世間話をしから記事になりそうなネタを求めて〈人里〉へやって来たが、小腹が空いたのでどうせならと新しく妖怪が始めたという店に立ち寄ってみれば何やら面白い事が始まりそうな気配である。

 自分の幸運に感謝すると同時に、こんな時に居合わせることの出来ないライバルの烏天狗、射命丸文の不運を笑う。

 「……これが若さなのかしらねぇ」

 この時に店内にいた唯一の客である八雲紫は、特に興味も無さげな顔で呟くと両手で器を持ち中に残ったスープを飲み干した。


 

 貸本屋〈鈴奈庵〉の娘である本居小鈴は迷っていた、それは目の前にある〈万里のピラミッド〉といういかにも怪しげなラーメン屋に入ろうか否かである。 妖怪の書き記した《妖魔本》など集めている小鈴だけに、妖怪の作った料理というものにも少し好奇心ををそそられるものがあった。

 しかしながら、やはり妖怪の店に入るというのも勇気のいるのは〈幻想郷〉の人間であれば至極当然な事である。 

 そうして三十分は店の前をうろうろしていたが、ついに覚悟を決めて入り口の暖簾を潜ろうとした瞬間だった、突然店内から眩い閃光が発し「う~~ま~~~い~~~ぞ~~~~~~~!!!!」という女性の声が響いてきた。

 「……ひゃっ!?……ちょ……何っ!?」

 驚いた小鈴は反射的に数メートル程後退してから怯えた小動物の様な顔で入り口を見つめる時にはまるで店内で【マスタースパーク】でも炸裂したかのような閃光はすでに収まっていたが中の様子を伺おうと近づく気にはなれなず、さりとて何が起こったのか知りたいという好奇心から立ち去る事も出来ずに十五分程して入り口からはたてが出てくるまでそうしていた。



 「……無様っていうか情けないっていうか……」

 リビングのソファーで呆れた顔になっているレミリア・スカーレットの手にあるのは姫海堂はたて書いている新聞の《花果子念報》だ。 そこには〈人里〉のラーメン屋で昨日起きた事件の顛末が書かれていて、床に無念そうに両手の膝をついた霊夢と魔理沙を見下ろす怪しげな黄金マスクを被った男の写真が添えられている。

 「それって〈人里〉のラーメン屋ですかお嬢様?」

 「ん? ええ、そうよラーカ」

 ティータイムにレミリアの後ろに控えるのが十六夜咲夜ではなく妖精メイドのラーカ・イラムなのは、彼女が用事で留守にしているからである。

 「フェアやチャウとこの前そこに食べに行きましたけど、すっごく美味しかったです」

 その時の味を思い出しているのか幸せそうな顔になっている妖精メイドに「へぇ~」と返しながら少し興味を覚えるレミリア。 〈紅魔館〉の主をしていれば咲夜の作る料理意外を食べる機会はほとんどなく、偶には外食をしてみても良いかも知れないと思う。

 親友のパチュリー・ノーレッジが薄い本を求めて〈鈴奈庵〉へ行く時のように人間に変装をしていけば騒ぎになる事もないだろう。

 あの霊夢を負かした程のラーメンというのがどんな味なのかと、楽しみになるレミリア・スカーレットだった。  



 ちなみに、この《花果子念報》により博麗の巫女公認となった事が〈人里〉中に伝わり〈万里のピラミッド〉は妖怪の店でありながらそれなりに繁盛するようになったそうである……。

  

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