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番外 ウルトラハクタク編

今回はいつもの幻想曲物語とは似てるようでちょっと違うカケラの物語、東方と某ウルトラヒーローをくっつけた特撮風味のお話。



             宇宙怪竜ドーラゴ登場



 〈幻想郷〉史上最大の危機は何の前触れもなく訪れた……。

 漆黒の宇宙空間より飛来し宇宙怪獣は、その圧倒的な破壊力を持ち暴れだしたのである。 この危機に立ち上がったのは我らが博麗の巫女の博麗霊夢だったが、全長五十メートルを超える怪獣とのサイズ差はいかんともし難く、あっけなく敗北してしまった。



 「全員退避しなさいっ!!!」

 湖の湖畔に建つ紅い洋館、〈紅魔館〉の主たるレミリア・スカーレットの命令により住人である妖精メイド達が大慌てで逃げ出していく。 レミリアも〈紅魔館〉を放棄するのは非常に遺憾だが、霊夢ですら敗れた全長五十メートルはある巨大な生物相手ではとても勝てるとも思えなかった。

 「美鈴! あなたも早く避難ししなさい!」

 「……咲夜さん!?……で、でも……むざむざ〈紅魔館〉を……」

 伝説上のドラゴンを思わせる緑色の巨体が迫りつつある中で、炎の様な赤い髪をした門番の紅美鈴があくまでも門の前に立ち最後まで守ろうとするのは単に職務に忠実なだけでないのはメイド長たる十六夜咲夜も分かっているし、彼女とて気持ちは同じである。

 「分かってます! しかし、お嬢様の命令なのですよ。 聞き分けなさい美鈴っ!!」

 「…………」

 お嬢様の命令という言葉を出されてはそれ以上は抗う事は出来なかった、悔しそうに唇をかみながら怪獣を睨みつけ、観念したように俯いた美鈴の態度を見た咲夜は「行きますよ!」と最後通告のように言った。

 「……ちょっ……レミィ!! まだ〈大図書館〉には私の大事な薄い本コレクションが~~~~~~!!!!!」

 「お姉様ぁ! あたしのゲームソフトやセーブデータ~~~~~~!!!!!」

 その時、レミリアと小悪魔にに引きずられる形でパチュリー・ノーレッジとフランドール・スカーレットが屋敷から出てきた。 主人であっても真っ先に自分だけで逃げ出す事はせずに最後まで残り住人達の避難の完了を確認するのは彼女らの上に立つ責任と義務ゆえである。

 「「お嬢様っ!!?」」

 門の前にいた従者二人の驚きの声に「ちょうどいいわ、二人ともこの馬鹿娘達を運ぶのを手伝って頂戴!」と返す、彼女らが頷きあい駆け寄る間にも口論を続く。

 「私の薄い本~~~!!!」

 「いい加減にして下さいパチュリー様!! 薄い本と命とどっちが大事なんですか!?」 

 流石の小悪魔も怒りの表情で大声を出す。

 「あたしのゲーム!!」

 「んなもん、また買えばいいでしょうがっ!!」

 「馬鹿言わないでよね、お姉様!! 長い時間をかけて鍛えてきたレベルや苦心して集めてきたレア・アイテムはお金じゃ買えないのよっ!!!」

 そんな事も分からないと言う妹に一瞬だけ呆気に取られたレミリアは、次の瞬間にはその小柄な身体をワナワナと震わせあらん限りの声でフランドールを叱り付けた。

 「んなもん知るくぁぁぁああああああっっっいい加減にしなさいこの狂人ゲームオタぁぁぁあああああああああああああっっっ!!!!!!!」 




       ……この危機に対し、ついに彼女ら・・・が動き出した……



 そこは〈幻想郷〉にはあまりにも不釣合いな機械で埋め尽くされた部屋だった、中央に配置された円形の台は個人用の端末が設置されていて、それらを操作する人間用の椅子が置かれている。

 そのひとつに円形のしめ縄を背負った藍色の短い髪の神様、八坂神奈子は座していた。

 「くっくっくっくっくっ。 ついに我らの起つべき時が来たようであるな」

 〈幻想郷〉の危機であるにも関わらずに、神奈子は満足そうにも思える不敵な笑みを浮かべていた。 その視線の先にはひときわ大きなモニターが設置されていて、〈紅魔館〉を破壊しつくし天に向かって雄叫びを上げる怪獣ドーラゴの姿が映し出されている。

 「何にしても怪獣の〈人里〉への接近を許すわけにはいかん! 早苗隊員、諏訪子副隊長! 準備はいいか?」

 『もちろんです、神奈子様……じゃなくて神奈子隊長!』

 個人用端末のモニターに映し出されている蛙の髪飾りを付けた緑の髪の少女が自信たっぷりに応える、彼女は防衛用戦闘機《モリヤ1号》のコクピットに河城にとり隊員と乗り込み出撃命令を待っている。

 『こっちも犬走椛隊員と鍵山雛隊員と一緒に〈人里〉へ急行中だよ神奈子! 上白沢慧音隊員と合流後に地上からの攻撃行動にはいるよ!』

 〈人里〉で寺子屋の先生もしている慧音は常時この〈妖怪の山〉にある地下基地にいるわけではない、寧ろ不在の方が多いくらいなのだが明日を担う子供たちの教育と〈人里〉とそこに住む人々を守りたいという彼女の想いはどちらも尊いものと考える神奈子隊長により教師と防衛チーム隊員という二足の草鞋を認められていた。

 「うむ! これよりあの怪獣はドーラゴと呼称する!」

 二人の頼もしい応えに満足した神奈子隊長は頷き、即席で便宜上必要な名前を付けた。

 「幻想警備隊、行動開始である!!」



 怪獣の出現は妖怪の脅威に慣れているはずの〈幻想郷〉の人々であってもパニックを引き起こさせた、妖怪とは桁違いの巨体に言葉を発せずただ破壊のみをし突き進んでくる不気味さ、何より博麗の巫女が敗れたという事実が彼らを不安に陥れていた。

 「皆さん早く! 早く〈命蓮寺〉へ避難して下さいっ!!」

 この事態にいち早く動いた〈命蓮寺〉の寅丸星とナズーリンの二人が必死に避難湯動してはいるが、彼女らも避難する側の市民も避難訓練など受けた事もないので避難は遅々として進んでいない。 逃げねばならないと思ってもどこへどう逃げたら良いのか、何を持ち出し何を置いていけば良いのかまったく分からないのだから。

 そんな大混乱な〈人里〉を放置して行くのを慧音隊員はひどく気が引けるが、何よりも怪獣を退治するのが第一と割り切り飛行する。 その手にはにとり隊員以下河童の技術者が開発した《霊子ガン》が握られている、使い手の霊力ないしは妖力をエネルギーにしてビームを放つこの銃を使う日がこなければいいと内心思っていた慧音隊員ではあったが、こうして眼前に脅威が迫れば躊躇っている場合ではない。

 「……もう戦闘が始まっている!?」

 怪獣の進行速度が予想より速かったのか、自分と合流するはずの諏訪子副隊長らがすでで交戦状態となっているのが見て焦る。 一気に加速しを上げ怪獣との距離を詰めるとすかさず《霊子ガン》を放つ、銀の銃口から白い閃光が跳びだし怪獣の胴体に命中する。

 「慧音隊員!」

 「遅れてすまない諏訪子副隊長!……ちっ! 効いていないか!?」

 分厚い熊の毛皮や筋肉を貫通し一撃で倒す威力のある《霊子ガン》であったが、怪獣の身体に傷ひとつ付けられた様子がない。 心の中で舌打ちしながら二撃目を撃つ慧音隊員に対しうるさいハエを追い払うかのように振るわれたドーラゴの太く巨大な右腕を回避し、それで接近しすぎは危険と分かり大きく距離を取る。

 「こいつ……大きすぎる!」

 「泣き言を言わないで椛隊員! 〈人里〉を守るためにもこいつを行かせるわけには!!」

 思わず弱音を吐く椛隊員を叱咤する雛隊員の顔も今にも泣き出しそうだった、先程からこちらがいくら攻撃してもドーラゴは積極的な反撃に出ることもないというのは、雛隊員らは怪獣から見れば”敵”にも値しない程に力の差があるという事実に絶望しかけていた。

 だが、その時響いた激しく空気を振動させるジェット音に雛隊員だけでなく全員の顔に僅かに希望が戻った。

 「《モリヤ1号》! 早苗隊員とにとり隊員!!」

 諏訪子副隊長が名を叫ぶ、その戦闘機のコクピットで操縦桿を握る早苗隊員は始めてみる怪獣の大きさと迫力に驚愕していた。

 「……これが……本物の怪獣……」

 〈外界〉出身の早苗隊員にとってはテレビや映画などで馴染みのある怪獣という存在は、しかし実物を目にすればそれらが所詮は作り物であり作り話であったと思い知る。 着グルミとはまったく違う生命感に満ちたそのリアルな巨体の圧倒的な存在感に呑み込まれそうになった早苗隊員は、「何してるの! ビーム砲を使ってっ!!」という後部シートのにとり隊員の声にはっと我に返った。

 「……そ、そうですね! え~~と……安全装置解除、ターゲット・ロック・オン……発射っ!!!」

 シャープな銀のボディに青いラインの入った機体の両翼に装備されたビームは《霊子ガン》とは段位違いの威力を持つ、そのビームが命中すると同時に怪獣が悲鳴らしき声を出したのに、にとり隊員はこれならいけると思えた。

 「良し! 早苗隊員、味方に当てないよう注意しながらどんどん撃っちゃって!」

 「はいっ!!」 

 《モリヤ1号》の機体をドーラゴの正面へ旋回させてから、味方を斜線上に入れないようにしつつ操縦桿のトリガー・ボタンを押しビーム攻撃を浴びせる。 それに勢いを取り戻した椛隊員らも《霊子ガン》で怪獣への攻撃を再開した。

 その攻撃の激しさにドーラゴの顔が怯み僅かに後さずったがそれも一瞬の事、突如として怪獣の口がカッと開かれたかと思ったら深紅の光が《モリヤ1号》へと放たれた。

 「えっ!?……きゃぁぁぁあああああああっ!!!?」

 「うわぁぁぁあああああああっ!!!?」

 反射的に回避行動を取れたおかげでコクピットへの直撃は免れたものの閃光が掠めた右翼部分が火を上げ、機体のバランスが崩される。

 「《モリヤ1号》が……」

 初めての実戦だったとは言え切り札たる戦闘機があっけなくやられたのに愕然となって呻く雛隊員の見つめる先でキャノピーを開き脱出する早苗とにとりの両隊員がパラシュートも付けていないのは飛行能力を有する彼女らには必要もないものだからである。

 二人の脱出を確認し安堵する諏訪子副隊長だが、眼前には依然として怪獣の存在があり、主力となる戦闘兵器を失ったという事実が彼女に再び絶望をもたらす。 そのせいで神奈子隊長に連絡をし指示を仰ぐという事も忘れていたが、彼女もまた副隊長としての初陣であれば仕方ないといえる。

 『……わこ……諏訪子! 聞こえないのか、諏訪子!?』

 「……神奈子!?」

 それでも戦闘の状況をモニターしていた神奈子隊長から通信が入る、相方である神であり今は上官である神奈子の声に安堵するものを感じ、それから「神奈子! どうしよう!? このままじゃ……!!!」とすがるような声で携帯用通信機に向かって叫ぶ。

 『分かっておるわ! とにかく現状は不利すぎる、体勢を立て直す必要があるであろう!』

 大火力ビームを備えた《モリヤ2号》の完成が遅れていたのが悔やまれるが、今はそれをどうこうしても仕様がない。 ましてや隊員の少女らを不甲斐ないと責める事は絶対にしない、モニター越しであっても敵の強大さは肌で感じ取れるし、何より全員が怪獣という未知の敵との初めての実戦なのである。

 『だが、それよりも〈人里〉の人間達の人命が第一である。 そこで慧音隊員は〈人里〉まで後退し市民の避難を手伝う、残りの者は全力でドーラゴの足止めをするのだ! 私ももう一機の《モリヤ1号》の整備が終わりしだいそっちに行く!!』

 まがりなにりも防衛チームとしての形はしている幻想警備隊ではあったが、その装備や人員の錬度はまだまだと言うしかない。 未完成の《モリヤ2号》もそうだし《モリヤ1号》も充分な数が稼動できるとは言い難い、今回の怪獣出現に際して早苗達の使った一機をどうにか飛ばせたというのが現実なのである。

 だが、それを悲観し弱気な態度を隊員に見せられるはずもない。 だから、通信機の向こうにいる彼女らに「分かったな?」と強い口調で問う。

 「…………」

 諏訪子副隊長は一旦顔を上げると隊員達の顔を見渡す。 早苗、にとり、椛、雛、慧音……隊員達は黙って、しかし力強く頷く。 

 「了解っ!!!!」


 

 慧音隊員がドーラゴより早く〈人里〉へ辿りつけたのは仲間達の足止めのおかげと思いたいが、実際には巨大な翼を持ち恒星間飛行する出来るのであろう怪獣がわざわざ徒歩で移動しているというやる気のなさ故だというのは明白であった。

 怪獣の心理学など知らない慧音隊員はその理由は分からないし知りたいとも思わない、大事なのは人間達の命であり彼らの暮らす〈人里〉の平穏である。 だから、その〈人里〉の避難があれから一向に進んでいないという状況に絶望する。

 「……くっ! このままでは……」

 振り返れば怪獣はすぐそこまで来ている、仲間達の必死の抵抗があってもおそらくは三十分はもたないだろう。 このままでは〈人里〉はあの化け物に蹂躙され瓦礫の山の中に人々の無残な遺体が転がる地獄の様な光景を作り出すに違いという想像に身震いする。

 「……そんな事を……させるわけにはいかない」

 拳を強く握り締めながら呟くと、何か覚悟を決めたような表情で〈人里〉のへと向かって走り出す、そして〈人里〉の怪獣の迫り来る方角にある出入り口付近に誰もいないのを確認すると、スッと右手を掲げた。

 次の瞬間、慧音隊員の身体が激しい光を放ち、あっという間に全身を包み込んだ……。



 何が起こったのか理解出来なかったのは諏訪子副隊長だけではなかった、早苗達他の隊員も突然としてまばゆい光に視界を奪われ、やがてその光が収まった時に彼女らのと怪獣との間に巨大なヒトが立っていたのである。

 全長はおよそ五十メートル、まるで身体にぴったりと吸い付くボディースーツにも思えるグリーンの身体には銀色の線が模様のようであり、女性である事を窺わせるふくらみのある胸にある青い半球体には赤いリボンを思わせる装飾があった。

 薄く緑がかった長髪の頭部からは二本の角が伸び、顔面は人間の様に肌色を覗かせる口元以外を覆う銀色の仮面でも付けたように赤くガラスの様な二つの目。

 「……き、巨人……?……諏訪子副隊長!」

 呆然とした顔で呟いた早苗隊員は指示を求めるように諏訪子副隊長に向かい叫んだが、彼女とて何がどうなっているのかまったく理解できずに、呆然と巨人を見つめているしかなかった。

 「……はっ!!」

 掛け声と共に巨人が怪獣に対して格闘技の構えをとる、対するドーラゴも長い首の先にある頭部を少し下げて巨人を威嚇するかのように睨みつけた。 それで少なくともこの巨人は怪獣の敵であり、今すぐに自分達に敵対するものではないと思う早苗隊員。

 しばしの睨み合いの後に先に動いたのは巨人だった、勢いよく地を蹴り跳び出すと一気に距離を詰めてドーラゴの胴体に拳を叩き込んだ。 鈍い音がし竜の怪獣が悲鳴の様な声を上げたが、巨人は更に蹴りを見舞い怪獣の巨体を吹き飛ばしたそのパワーに早苗達は驚愕する。 しかし、ドーラゴもその程度ではやられるはずもなく、素早く身体を起こすと巨人に体当たりを仕掛けたのを、巨人は両手を前に出しそれを受け止めた。

 「はぁっ!!」

 更に突進の勢いを利用し転倒させる、大質量の体躯が転がり大地を振動させるが空中に浮いている幻想警備隊員達には、それを感じ取る事は出来ない。 

 再び身体を起こした怪獣に跳び蹴りを放ち、それからも反撃の隙を与えない程にパンチやキックを繰り出していく。 このまま巨人が押し切るかに思えたが、不意に開かれた怪獣の口から怒りの咆哮と共に《モリヤ1号》を撃墜した赤いレーザーが放たれた。

 「……!!!!?」

 回避も防御も出来ずに左肩を直撃し、苦痛の呻きと共に数歩後さずる巨人。 そこへドーラゴのその長い尻尾を振るう打ちつけてこられ、今度は巨人の方が地に倒れる。

 「見て! 巨人の胸が!」

 雛隊員が指差す先には、先程まで青かった半球体が赤へと変わり点滅していた……。



 巨人――ウルトラハクタクのエネルギーは地球上では約三分間しか持たない。

 更に放たれた【レーザーブレス】を左に転がる事で回避してから立ち上がったウルトラハクタクは、焦りを感じならもしっかりと相手を見据えて反撃の隙を窺う。

 〈人里〉を守るためにはここで撤退という選択肢はウルトラハクタクにはなく、ならばこそ確実に必殺の攻撃を叩き込み、この怪獣を倒させねばならないのだ。 

 五秒程の睨み合いの後、またも口が開かれ【レーザーブレス】が発射されたのを、両腕を前に出しガードした。 激しい熱さを両腕に感じながらも、それを堪えて間髪いれずにダッシュしドーラゴの両肩を掴む。

 「【ウルトラ・ヘッドバッド】っ!!!!」

 勢いよく振り下ろされたウルトラハクタクの額が怪獣の脳天を打ちつけバギッ!と鈍い音を響かせた、目を見開き苦痛に鳴き声を上げるドーラゴに更に肘鉄を食らわせてからバック転で間合いを開き、拳を握り締めた右腕を大きく掲げた。

 肘から上が青と赤の交じり合った光を放ち始め、その光は一気に膨らみ光球となった。

 「【アマテラス光線】っ!!!!」

 一気に腕を振り下ろし拳を開く、腕を覆っていた二色の光は文字通りの光線に形を変えてドーラゴの胸部へと命中し、数秒でまるで中へと吸い込まれていくように消えた。

 そこからワンテンポ遅れて光線の命中した箇所から爆発が起こり、それはすぐに怪獣の巨体を粉々にするほどの大爆発を引き起こしたのだった。

 しばしの静寂……そして怪獣の死を確認したウルトラハクタクは両腕を掲げると、信じられないという表情で未だに身動きひとつ出来ない幻想警備隊の前から飛び去って行った……。 



 「……ふぅ~」

 ウルトラハクタクから人間の姿に戻った慧音隊員は、疲れた顔で大きく息を吐いた。 本来であればすぐに仲間と合流しなければならないのだが、慧音隊員は少し〈人里〉を巡ってみる事にした。

 歓喜に沸く者、未だに何がどうなったのか理解しきれずに困惑する者など様々だったが、誰もが自分や自分の大事な人たちが助かったという事に安堵していた。 その彼らが自分達を助けてくれた巨人に感謝の言葉を口にする事はなくても慧音隊員は構わなかった。

 彼女は人間に感謝されるために戦ったわけではない、ましてや何の代償も求めようとは思っていない。

 その頃、ようやく怪獣が倒され〈幻想郷〉の危機が去ったという事を理解出来た早苗隊員らは、疲れた顔で地面に座り込んでいた。

 「……あれは何だったの……かな?」

 最初に口を開いたのは諏訪子副隊長だった、その問いは答えが返ってこないのを承知で放ったものだったが、意外な事に早苗隊員が応えてきた。

 「……ウルトラのヒーロー……」

 「ウルトラ……?」

 聞き慣れない単語に怪訝な顔になるのは雛隊員だけではなかった。

 早苗隊員がまだ〈外界〉に居た頃に見た事のある特撮ヒーロー番組、男の向けであるその番組は、まだ小さな女の子であった早苗でも面白いと惹かれるものがあった。 先程の巨人はそれを連想させるものがあり、子供じみた考えだと思いながらも彼女は私達の味方ヒーローなのではないかと考えていると言う。

 確かに子供じみているとは椛隊員も思う。 彼女は確かに怪獣を打ち倒しはしたが、それがどんな理由によるものかもまったく不明である以上は無条件に味方と結論づけれるものではない、だが不思議と彼女が敵という気がしない。

 「ふ~~ん……じゃあ、ウルトラハクタクかぁ……」

 「……は? それは何なのにとり隊員?」

 「ん? あの巨人だよ雛隊員。 ほら、あの巨人の角って慧音隊員のハクタクの時のにそっくりじゃん?」

 二人の会話に早苗隊員は、確かに言われてみればそうだと思えた。 いくらなんでも慧音隊員本人という事もないだろうが、あの巨人が何か特殊な種類のハクタクである可能性はありえる。

 「ウルトラ……ハクタクかぁ……」

 早苗隊員は次にまた怪獣が〈幻想郷〉に出現した時にもきっとウルトラハクタクは来てくれるだろうと信じている、だが決して彼女だけに頼りきってはいけないのだろうと自分を戒めた。

 かつてテレビの中で視たヒーロー達の様に、彼女もきっと自分達が全力を尽くしてこそ力を貸してくれるのだろうという、そんな風に思いながら青く澄んだ〈幻想郷〉の空を見上げる早苗隊員だった。

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