脅威の刺客? ダーク・レイム再び編
今回はまたもダーク・レイムの刺客が紅魔館を襲撃?する話。
遥か上空に浮かぶは完全に満ちた真ん丸の月、その月明かりが照らす下には漆黒の脇巫女装束に身を包みし暗黒の脇巫女、ダーク・レイムである。
「だぁ~~~~~~このアホ文士ぃ~~~~!!!! 暗黒の脇巫女とか言うなぁぁぁああああああああああああああああっ!!!!!!」
「ちょ……落ち着いて下さいダーク・レイム様! この書き手に言っても無駄ですって っ!!!」
ダーク・レイムの側に立つ蒼いツインテールの少女が言うとダーク・レイムは咳払いをひとつしてから「そうね、エリカ」と平静に戻る。 白と青のという巫女服に身を包んだこのエリカという少女はダーク・レイムの部下で、本格的にこの幻想曲物語で行動を開始するために連れて来たのである。
「さてと、まずはサクッと〈紅魔館〉を攻略してきなさいエリカ」
「……〈紅魔館〉? 〈博麗神社〉ではないんですの?」
意外そうな顔をして聞き返すエリカにダーク・レイムは「そうよ」と言い薄ら笑いを浮かべた、別に〈博麗神社〉でもいいのだが幻想曲物語において博麗霊夢よりも圧倒的に優遇されている紅魔館組を潰す方が面白いだろうというのが暗黒の脇巫女の考えであり、その説明を聞いた変態少女は納得し頷いた。
「だぁ~から~~~暗黒の脇巫女とか書いてダーク・レイムとか読むなぁぁぁああああああああああっ!!!!」
「誰が変態少女と書いてエリカですくぁぁぁああああああああああああああっ!!!!」
月明かりに照らされる深夜の〈幻想郷〉に少女達の怒声が響き渡った……。
「……眠い……」
まだとろんと目を半分閉じた顔でダルそうに台所へと向かいながら博麗霊夢は言う、毎朝起きてから朝食を作るというのは、それが日常と慣れたものではあっても眠くてだるいというのが朝というものである。
しかし、幼少の頃から早起きし修行や神社の掃除などをしてきた習慣が身に染み付いている霊夢には、昼頃まで布団でごろごろというだらしない生活をしてみようとは思えないのは、仮にも神社の巫女としての最低限の自覚がある故だ。
「……昨日のおかずの残り……あったけかな……?」
まだ完全起動していないぼーーっとした頭で、そんな事を考える霊夢だった。
吸血鬼であっても……いや、吸血鬼であるからこそ朝という時間は眠くだるいレミリア・スカーレットではあるが、十六夜咲夜を始めとするメイド達の前でそんな姿を見せる訳にはいかないのが辛いところである。 それは彼女らの主人としてのけじめであり、誇り高きスカーレット家の吸血鬼としての威厳を保つためである。
「……あら? お嬢様……?」
食堂へ向かう途中で向こうからやって来た咲夜が驚きの声を出す、おそらくは朝食の準備が出来た事を知らせに自分の部屋へ来るところだったのだろうと分かり、何となく少し勝った気分になるレミリア。
「おはようございます、お嬢様」
「ええ、おはよう咲夜」
足を止めて恭しく会釈をするメイド長に主人らしい威厳を持たせた表情であいさつを返す、それから再び歩き出し咲夜の脇を通り過ぎれば彼女は黙ってその後に続く。 〈紅魔館〉ではもう何百回、何千回と繰り返されたであろう光景は、この先の未来も更に何万回と続いていくのだろう。
そんなごく日常の中にいたレミリアには、この時はまだ〈紅魔館〉に危機がすぐそこに迫っている事など知る由もなかった。
その〈紅魔館〉の危機に最初に気が付いたのは門番である紅美鈴だった、黒い雲に覆われていなければ日も昇って空が明るくなってきたであろう時刻になっても〈紅魔館〉を訪れる客というのはほとんどいない。 ましてや数十人規模の団体客などありえないだろう。
「……どう考えても不審者ですよねぇ……」
そう判断するのに対して時間は掛からなかった、パンパンと両手で自分の頬を叩き眠気を振り払い気合を入れると相手の正体を確かめるべき目を凝らして、ぎょっとなった。
全身を黒いタイツのようなもので包み何やら気味の悪い仮面を付けている、額から伸びた二本の角の様な物が見えるので鬼の面だろうか。 そんな格好をした数十人ほどの集団がふらりとした足取りで真っ直ぐに〈紅魔館〉へと近づいて来る、まだ数百メートルの距離はありそうなのに彼らから離れる不気味な気は、美鈴には妖気でも霊気でもなく瘴気と呼ぶに相応しいものだと感じ取れる。
その禍々しいまでの瘴気は、美鈴であっても説得してお帰り願おうと試す気さえ失わせた、「……やるしかありませんね」と戦闘態勢をとった時に背後から「ちょっ……!?……あれは何~っ!!?」という声がした。
それがフェア・リーメイドのものだとすぐに気が付いた美鈴は彼女の方を振り返らずに「ちょうどいいところに! あなたはすぐに咲夜さんにこの事を知らせて下さい!」と叫んだ。
「え?……え?……あ! はいっ!!」
状況が分からずに戸惑っていたフェアも非常事態である事を悟り慌てて屋敷の中へと飛び去って行く、その間にも不気味な集団は〈紅魔館〉の門へと接近してきていた。
「さてと、とりあえずは時間稼ぎでしょうかね?」
不気味な黒タイツ達がすでに眼前に迫っているのに冷たい汗が額に浮かぶのに気が付きながらも、あえて何でもない事のように呟いてみせる紅美鈴。
「……紅美鈴、行きますっ!!!!」
勢い良く地を蹴って敵陣へと踏み込んでいく、それに対して黒タイツの化け物達は「うぉぉおおおおっ!!!」と不気味な咆哮を上げて彼女を迎え撃つ。
「はぁっ!!」
集団の先頭にいた数人を蹴り倒し、更にもう一人の腹部に拳を叩き込んで倒す。 どうやら個体戦闘能力は高くないようだと分かり少し安心する、「……め~~りんちゃ~~ん~~~!!」と掴みかかってきた相手の突進を、不意に名前を呼ばれたことに驚きつつも
回避しその背後から蹴りを入れる。
「私の名前を知っているっ!?……こいつらはいったい!?」」
「……牡蛇鬼……ダーク・レイム様が異界より召喚し妖怪化させたオタク共ですわ」
門の前での戦闘を観戦しながら〈紅魔館〉の屋根の上のエリカが誰にともなく言った、当然だが美鈴の声がこの位置で聞こえるはずもないので傍から見れば唯の危ない中二病という風である。
「だ~~~この書き手め!! 中二病とか言うんじゃありませんわぁぁぁあああああああっ!!!」
唐突に分厚い黒雲が覆う天空を見上げて意味不明な叫び声を上げるエリカは、やはりどこからどう見ても唯の痛い子であった。
「ぐぬぬぬぬ……!!……まあ、いいですわ」
しばらく悔しそうに顔を歪めていたが、何を言っても無駄だと悟ったのかやがて咳払いをして不敵な笑みを浮かべる。
「ともかく……じきに十六夜咲夜や妖精メイド達、それに上手くすればパチュリー・ノーレッジも牡蛇鬼迎撃に出撃するはずですわ。 そうなれば後は手薄になった〈紅魔館〉内部に潜入してレミリア・スカーレットを討つのみ……」
割とよく使われる陽動作戦ではあるが、それだけに手堅く効果のある手段である。 問題はエリカにレミリアを倒せる実力があるかどうかというところではあるが、設定上のスペックで言えば、レミリアの戦闘力を百とするならエリカのそれは百二十と彼女が上回っていた。
ちなみに、フランドール・スカーレットの名前がないのは彼女が最近はまっているオンライン・ゲームの時間限定クエストに合わせて襲撃を行ったために彼女が出ては来ないだろうという見積もりだ。
「そういう事ですわ、楽勝……とはいかないでしょうけど一対一の戦闘なら負けはしませんわよ読み手の方?」
言いながら頭上へと掲げられたエリカの右手が光ったかと思うと次の瞬間に一振りの巨大な鎌が握られていた。
「そう……この《幻想を狩る鎌》で……って、あぎゃぁぁぁああああああああああっっっ!!!!?」
その時に突如として天が眩しい光を放ち、続いて轟音が響いた。 そして物言わぬ黒い塊と化したエリカだったものが〈紅魔館〉の屋根から落下して逝った……。
突如として響いた激しい雷鳴に怯んでいる余裕は美鈴にはない、次々と迫ってくる敵を拳や蹴りや【気弾】まで使い迎撃しているが、彼らは倒しても倒しても蘇ってくる。 その様を美鈴は、前に視た危険なウイルスが世界中に蔓延したという映画の中に登場したアンデットの様だと思えていた。
「まったく……しつこいですよっ!!」
流石の美鈴も鬱陶しげな声で叫びながら倒した相手が起き上がろうとするその腹を踏みつけた、するとそいつは「グヘッ!?」と潰されたカエルのような悲鳴を上げた後に「もっと……もっと踏んで~~~めーりんちゃん~~♪」と多少興奮している様な大声を発したのに背筋がゾクッとなって反射的に身を退いてしまった。
「捕まえた~~~!」
「……しまったっ!!?」
その直後に背後から羽交い絞めにされてしまった、振り払おうとしたが戦闘能力の割りにパワーだけはあってそれが出来なかった。
「ぐふふふふ……め~りんた~ん」
「めーりんは……俺の嫁~~~!」
そこへ気味の悪い言葉を発しながら黒タイツ数人が迫って来る、「ひっ!?」と悲鳴を上げた美鈴が感じた恐怖は死に対してではなく貞操の危機に対するそれだ。 不気味な鬼の仮面の下にある見えないはずの彼らの素顔が常軌を逸した変態の顔になっているのが美鈴に何故か見えた気がした。
「……くっ!……えっ!?」
彼女が覚悟した次の瞬間に自分を襲うとしていた黒タイツの眉間に次々と《銀のナイフ》が刺さり悲鳴を上げたのに驚き、そして援軍が来たのだと悟り安堵した。
ナイフが刺さった黒タイツはあっという間に全身が砕け散り、黒い霧状になって霧散していく。
「咲夜さん!」
「大丈夫、美鈴!」
更に投げた《銀のナイフ》が美鈴を羽交い絞めにしていた黒タイツの後頭部に刺さり怯んだ隙にそれを振り払い一旦後退した彼女は咲夜と合流する。 その門番の少女が大した負傷もしていないのに安心した咲夜は、この気味の悪い集団を一気に殲滅しようとする。
「〈紅魔館〉メイド長、十六夜咲夜参りますよ! 時よ止まれ、【ザ・ワールド】っ!!!!」
咲夜の宣言の叫びの次の瞬間に何十本という《銀のナイフ》が黒タイツの集団に降り注ぎ次々と刺さっていく。 知らない人間にはどんな魔法でも使ったのかと思えるこの現象は、【時間を操る程度の能力】を使った種も仕掛けもない咲夜のマジックである。
「咲夜さ~ん! はぁ……はぁ……」
「俺……咲夜さんのナイフになら刺されてもいい~~!」
この攻撃で更に数体が消滅したが彼らは仲間がやれても気にしないという様子で、しかも気色の悪い言葉を発しながら二人に迫って来るのには、流石の咲夜も思わずぞっとなり更に《銀のナイフ》を投げようとした手を止めてしまっていた。
「何て連中……こんな奴らを〈紅魔館〉に入れるわけにはいかないわ、美鈴!」
「はい、咲夜さん!」
咲夜の声を受けた美鈴は僅かに腰をかがめ、そして黒タイツの集団めがけて跳び込む。 当然黒タイツ達は彼女に襲い掛かるが咲夜の投擲による援護射撃が行われ数人が倒れる、彼らは頑丈ではあっても不死身ではなく急所への攻撃や許容以上のダメージを与えれば倒す事が出来る。
「はぁぁぁああああああああっ!」
美鈴自身も襲い来る相手を蹴り飛ばしつつ体内の気を練り上げていく、その気が高まっていくと彼女の身体を微風が纏い長い赤髪がまるで炎のように揺らめいている。 そして気が最高潮まで高まった瞬間にそれを一気に開放する。
「【彩虹の風鈴】っ!!!」
解き放たれた気は敵を撃ち抜く七色の弾丸となって全方位に撃ち出される、何百発ものその鮮やかな弾丸を避ける事も出来ず被弾する黒タイツの集団は次々と黒い霧となり霧散して逝く、その光景を遠目に見れば美鈴が放った虹色の闘気に触れた邪悪な者達が浄化されていくようにも見えただろう。
「〈紅魔館〉門番、紅美鈴を甘く見ないでくださいねっ!!」
敵の姿がすべて消失したのを確認した美鈴が言い放つのに満足げに微笑む咲夜、普段は居眠りしたりとどこか頼りない印象の彼女であっても〈紅魔館〉を守るという気持ちは自分に引けをとるものでなく、その気持ちに見合うだけの力を有しているのを咲夜は理解している。
何故なら、紅美鈴を門番に任命したのは咲夜が全幅の信頼を置くレミリア・スカーレットなのだから。
本来であれば太陽が高く上った青い空は、今日は厚く黒い雲に覆われ激しい雨が大地を討ちつけている。 その空の下にある和風の屋敷、〈八雲邸〉の書斎で家主の八雲紫は音楽を聞きながら書き物をしていた。
先日パチュリー・ノーレッジに誘われて出掛けた例大祭というイベントで彼女に勧められて購入したこのCDは、東方の”ネクロファンタジア”というゲーム音楽をベースにした女性ボーカルの歌で紫はそれなりに気に入って偶にこうして聞いている。
「……紫様、少しよろしいでしょうか?」
「藍? どうしたのかしら?」
紫の式である九尾の狐の八雲藍の声がし外の雨音に負けないように大きくしていたCDプレイヤーのボリュームを下げてから彼女を招き入れた、襖を開けて「失礼致します」と入って来た藍は畳みの上に正座をした。
九本もあるふさふさの尻尾が邪魔そうに思えてそういう素振りもないのは流石は藍というところであろうか。
「それで、どうしたの?」
「はい……」
藍の話は今日未明に〈紅魔館〉が謎の妖怪に襲撃をされたらしいという報告だった、謎
のという慎重な表現はしたが、手口からしておそらくはダーク・レイムの仕業だろうと検討をつけているのだろうとは分かる。
すべての東方の世界に破滅をもたらそうと言っていたとは博麗霊夢から聞いた話ではなるが、紫自身はそれは嘘だろうと思っている。 世界……とは東方プロジェクトだけとってみても空に浮かぶ星の数はあり、それらすべてをどうこうしようというのはどう考えても現実的ではなく、やさぐれたとは言え霊夢にそれが分からない道理はない。
だから、東方幻想曲物語に干渉してきたのは嫌がらせ程度の騒動と混乱を引き起こそうというものだろうと考えていた、それを藍に言うと彼女は少し考えてから「成程……」と答える。
ちょっかいをされる側にしてみればいい迷惑だとは思うが、ダーク・レイムの件はしばらくは様子見というところだろうと紫は決めていた。 別世界の霊夢がもたらす騒動がこの〈幻想郷〉にとっていい刺激になり得るのかも知れないからだ。
〈黒博麗神社〉……それはダーク・レイムが幻想曲物語の世界の拠点として某所に建てた神社であり、黒く不気味に塗装されてはいるが〈博麗神社〉と基本的に変わる所はない。 ただ、その地下には〈祭具殿〉と呼ばれる特殊な場所が存在する、ダーク・レイムの与えた任務に失敗した者に制裁を与えるために誂えたその地下室の天井からロープで縛られて吊るされているのは蒼いツインテール少女のエリカだ。
「……まさか、レミリア・スカーレットと交戦する事もなく失敗するなんてねぇ……」
「ひぃぃぃいいいいいいっ!!? お許しをぉぉぉおおおおおおっ!!!!」
十数本の蝋燭の明かりだけが照らす薄暗い木造の部屋にエリカの懇願の叫びが響くが、ダーク・レイムは呆れた顔でエリカを見上げている。 今回は勝敗は問わないつもりではあったが、これではそれ以前の問題だ。
それでも初陣なので大目に見てソフトなお仕置きで済ませてあげようと考えながら手にしたリモコンのボタンを押す、するとエリカの真下の床がスライドし大きな水槽の様な物がせり上がって来た。
それを見た彼女が「どひぃぃぃいいいいいっ!!?」と更に悲鳴を上げたのは、水槽の中に満たされていたのが水でなく白くヌメヌメした小さな生き物――ナメクジだったからで、言うなればナメクジ風呂とでも形容すべきものだったからだ。
「じゃ、ポチッとな♪」
「あぎゃぁぁぁあああああああああああっ!!!?」
躊躇する事なくダーク・レイムがスイッチを押すとエリカの身体を吊るしていたロープがプチッと切れて、後は重力に従い下へと落ちて逝く……。
「……おじ……ひをぉぉおおおおおおおっ…………」
必死に手を伸ばし救いを求めるエリカの叫びもすぐに白くヌメヌメしたナメクジの中に沈んで逝くのを眺めながら、次はどういう手で行こうかと思案しているダーク・レイムであった。




