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唐傘と狸、深夜の墓地での飲み会編

 今回は小傘とマミゾウが墓地で酒を酌み交わすお話です。

 



 今夜は月明かりもない新月の夜……外界ではありえないだろう数の星が輝く夜空の下にある〈命蓮寺〉の墓地に多々良小傘はいた、提灯の付喪神のぼんやりとした明かりに照らされる水色の髪の少女は当然だが墓参りなどをしているわけではなく、この墓地が彼女の棲み家であるからだ。

 死者が眠り、先祖の墓参りに人の訪れるこの場所に妖怪が棲みついているというのは、ともすれば厄介事の種になりそうなものだが小傘は人を驚かす程度で特に危害を加える事はしない妖怪なので、聖白蓮もあまりやり過ぎないようにと釘を刺すに留めて小傘の居住と行いを容認している。

 「新月の夜は人を驚かせるには絶好の日なんですけどねぇ……誰か来ないでしょうか……?」

 誰かの墓石の上にちょこんと座る提灯の付喪神に小傘がそうぼやくように言う、ところどころ穴の開いた古い提灯に手足の生えた程度の下級の付喪神に人間並みの知能があるはずもないので彼女の言葉を理解出来ないのだろう、まったくの無反応でただ周囲を照らしているだけだった。

 もちろん小傘もそんな事は承知でぼやいてみただけでそんな提灯に怒る事はないが、それでも「む~~」と多少は不満げな表情をしてみせた彼女の仕草は可愛く墓場に棲みつく妖怪というには正直につかわしくない。

 仮にこの場に誰かがやって来たとしても小傘に驚く事はないだろうと思える。

「……明かりが見えたから誰かと思えば……化け傘の多々良小傘か?」

「ほへ?……二ッ岩マミゾウさん?」

 頼りない明かりしかなくても頭の上に狸の耳を生やして葉っぱを乗っけている妖怪を間違えはしない、そのマミゾウがこの暗闇も苦にならない様子で提灯も持たずに真っ直ぐに小傘に向かって歩いて来れるのは流石である。

 「〈外界〉の良い酒を手に入れたので今夜は誰かと飲み明かそう思っておったのだが、こういう時に限って誰もおらんと来たものだ」

 小傘に右手で持っていたガラスで作られた一升瓶を見せつけてぼやく、一人で飲むのもつまらないが用事があったり眠っているのを起こして無理矢理に酒の席に誘う気はマミゾウにはなかったので、誰か手ごろな相手を探してブラブラとしていてこの墓地に来たのである。

 暗く不気味な真夜中の墓地に誰かいるかも知れないという発想が思い浮かぶのは妖怪ならであろう、そんなわけなので「どうじゃ、わしと一杯やらんか?」と水色の唐傘少女を誘うマミゾウ。

 「……はぁ、私は構いませんけど……」

 



 「……ちょっ……!!?……魔理沙、やめ……」

 季節はずれの風邪をひき自室の布団で寝込んでいたしていた博麗霊夢に少し興奮した顔の霧雨魔理沙が突然襲い掛かった、掛け布団を勢い良く剥ぎ取ると白い寝巻き姿の霊夢を上から強く押さえつける。

 「へへへへへへ……流石のお前も風邪をひいてちゃ力が出せないみたいだなぁ?」

 「ま、魔理沙……?」

 自分のすぐ間近にある彼女の顔の視線が自身の顔ではなく僅かに下に向けられていると気が付き、それが僅かに寝巻きのはだけた胸元と分かりドキリとなる霊夢の熱で赤い顔が更に赤く染まっていく…………というところまで読んだパチュリー・ノーレッジは薄い本から一旦目を離すとテーブルの上に置かれたミルクティーのカップを手に取った。

 「……うふふふふふ。 豊作、豊作……」

 誰にともなく呟くとカップを置き再び読書を再開する。

 とある妖怪退治に出掛けた魔理沙が逆にその妖怪に乗っ取られてしまい、彼女の裡に秘められた欲望のままに霊夢にあ~んな事やこ~んな事をしてしまうというストーリーのその薄い本は、もちろん十八歳未満は読んではいけない類の本だ。

 ランプの明かりが照らす〈大図書館〉で、パチュリーは例大祭で購入してきた戦利品うすいほんを木製の机の上に積んで読書タイム中だ。

 そんな腐女子パチュリーの背後には、彼女に用があるのだが読書?に夢中で時折不気味に笑うパチュリーに声をかけれずに困っている小悪魔がいたのだった。



 「……しかし、お主もがんばるのぉ」

 墓場の通路に胡坐をかいているマミゾウはそう言って杯の酒を呷る、彼女の前にちょこんと正座をして酒をちびちびと飲んでいる小傘と他愛のない世間話をしていれば、小傘が今日も今日とて人間を驚かそうとして失敗していた話になった。

 「当然ですよ! だって私にとっては死活問題なんですから!」

 「ふむ……そういうものであるか」

 唐傘お化けの小傘は人間を脅すと満たされて、脅せないでいるとひもじいらしいというのマミゾウは思い出した、要するに人間の驚きという感情が栄養という事なのだろう。

 だから、死活問題というのも決して大袈裟な話ではない。

 茄子の様な色だったため人間に使ってもらえずに付喪神となりその恨みを晴らすために人間を驚かす、しかしその小傘の容姿も性格も人を驚かすにはだいぶ不向きなものである。

 今は畳まれて彼女の膝の上においている茄子色の唐傘は、開けば一つ目と口から跳び出した赤く長い舌がいかにも唐傘お化けという形ではあるが、それすら愛嬌を増している要素にしかなっていないのが多々良小傘なのだ。

 それをマミゾウが指摘してみると、「う~~~! そんな事ないもん!」と頬を膨らませれ拗ねた顔で睨んでくる姿すら可愛く見えてしまっている。 子供達には面白い妖怪と好かれて、大人達からは迷惑がられてもいるがそれは悪ガキの悪戯に困っているというようなものであって、決して嫌われたり恐れられているわけではない。

 人間に化けて人里に赴いた際に耳に入ってくる小傘の評判は概ねそんな感じであり、マミゾウもその人間達の評価は間違っていないだろうと思っている。

 「そうは言うがのぉ……自分を正しく評価するのも大事なのであるぞ?」

 「う~~~……」

 杯に新しく酒を注いでから言うと小傘がそう唸るのを見ると、多少は自覚があったようである。 だからこそ、あれこれと工夫をしてみてはいるのだろうが、傍から見ればそれすら健気に思えて可愛さを増す要因になっている。

 人間を脅したいのに人間から好かれてしまうという一見すると矛盾する様にも思えるが、それが小傘の……いや、付喪神という妖怪の本質なのではないかとこの狸の妖怪は考える。

 自分達を捨てた人間を恨みはするが、それは人間に最後まで使ってほしいと願う気持ちの裏返しである。 だから、嫌われたくはない、好きになってほしいという想いが多々良小傘という妖怪の形を創り上げたのかも知れない。

 「……まったく、難しいものよのぉ……」

 「……?」

 マミゾウが思わず苦笑しながら発した呟きの意味が分からない小傘は、不思議そうな顔で彼女の顔を見つめた。 



 最近は少しずつ暖かくなり真面目に仕事をしていれば汗もかくようになってきた、そのため仕事の後のひと風呂はとても気持ちがいい。 そして、風呂上りの熱った身体に〈紅魔館〉の廊下のひんやりとした空気は余計にそう感じさせる。

 「ふ~~~、それにしても今日は疲れましたね~~」

 メイド用の大浴場を出た後で、そう言って腕を伸ばすフェア・リーメイドに隣を歩くラーカ・イラムとチャウ・ネーンも「そうだね」「せやな~」と同意した、その彼女らがすでに勤務外なのにメイド服姿なのは、単に〈紅魔館〉の妖精メイドのほとんどが私服というものを持っていないからである。

 元から広く長い廊下は深夜ともなればランプの明かりが照らすだけの薄暗さと不気味に静まり返っている、慣れない者なら怖がるだろうそんな廊下も彼女らにしてみれば見慣れたごく当たり前の風景でしかない。

 「そう言えば……もうすぐ梅雨の時期だねぇ……」

 「ああ、せやったなラーカ。 今年ももうそんな時期かいなぁ~……」

 「梅雨時はお掃除が大変になるので嫌ですよね、チャウ……」

 〈幻想郷〉にもやはり梅雨というものが存在する、連日の雨で外出もし辛くなり湿気でジメジメするその時期を好きと言う妖怪もいないことはないが、それでもやはり嫌いだという者が大半だろう。

 そして、メイドという家事を仕事とする彼女らには更に大きな問題になる。 まず連日の雨と湿気により洗濯物がなかなか乾かなくなり、下手に掃除を怠るといたるところにカビが生えたりもする。

 更に湿気のジメジメによる不快感でレミリア・スカーレットらの機嫌も悪くなったりするのである。

 「「「……はぁ……」」」

 ここ数年の梅雨の時期を思い出してして気が重くなった妖精メイドの三人は、揃って溜息を吐くのだった。



 「肝試し……ですか?」

 「うむ。 〈外界〉にはそういう習慣があってな」

 人間がわざと怖い場所に行き度胸を試すその行事は、〈幻想郷〉には馴染みはない。 それは下手な場所に行けば本物の危険な妖怪に出くわすかも知れないとなれば当然の事である。

 「でも……〈外界〉の人達はお化けとか信じてはいないんじゃないですか?」

 「概ねはその通りなのじゃがな、そう簡単な話でもないのが人間の心なのであるぞ小傘よ」

 科学の発展に伴い神や妖怪の存在を否定し忘れ去ってはいても古から闇を恐れ神を崇めてきた記憶は彼らの心の奥に刷り込まれているのだろう、この先百年、千年と経とうとも彼らの心から闇への恐怖は消える事はありえないだろう。 あるいは、その闇への恐れを忘れようとした結果が二十四時間電気の光の消える事のない大都会の姿なかも知れない。

 それを言うと小傘は「そんなものなんですかねぇ……」と首を傾げた、闇と共にあるのが自然の妖怪には人間のそういう恐怖心というのは想像しにくいのだろう。 そしてそういう想像力が足りないから人間を脅す手段を考えるのに、どこか見当違いにズレた事をしてしまうのだろうなと思うマミゾウ。

 それを小傘に言うのは簡単なのだが、彼女も妖怪の端くれだしこういう事は自分で気がついてほしいものだとあえてこの場は言わないでおく事にし、つまみにと持ってきたイカの塩辛を口に放り込んだ。。

 


 「ぎゃぁぁぁぁあああああああああっ!!!!?」

 突如として〈紅魔館〉の地下に響いたのはフランドール・スカーレットの叫び声だった、その声をたまたま聞きつけた姉のレミリア・スカーレットが「ちょっ……何事なの!?」とフランドールの部屋に跳び込むと、そこにはパソコンの画面に向かって両手で頭を抱えている妹の姿があった。

 「うっかり寝落ちしちゃってたぁぁぁあああああああああああっ!!!!」

 「……へ?」

 更に叫んだフランドールの言葉の意味をすぐには理解出来ないレミリアは、とりあえず妹の使っていたパソコンの画面を側に行って覗き込んでみた、それに気がついたフランドールが「……あ、お姉様?」と言ってくるのには答えない。

 パソコンの液晶モニターには砂漠の様な場所に”フラン”が倒れていて、その周囲にはサソリに似た小型のモンスターがうろうろしてた。 だから、また彼女の操作するキャラクターが敵にやられたのだろうと分かる、正確に言えばゲームのプレイ中にウトウトしてそのうちに眠ってしまっていてその間にやられていたというわけだ、流石の彼女も三日連続で徹夜プレイを敢行していてはそれも当然なのだが、それはレミリアの知る由もない事である。

 「……って! と、とにかく”キリト”と”アスナ”にメールしなきゃ!」

 「……はぁ?……”キリト”……”アスナ”……?」

 「そうよ! あたしのフレンドよっ!!」

 わけが分からないという顔のレミリアを無視してフランドールはチャットのログを確認していく、どうやら”キリト”と”アスナ”はギリギリまで”フラン”を援護して蘇生もしていてくれたようだが、いつまで経ってもフランドールが起きないので仕方なく諦めたらしい。

 その事をフランドールはもちろん恨まない、どう考えても非は自分にあるのだから。 なのですぐに謝罪のメールを送るべくキーボードを操作しながら、しつこく「何をしてるのよ?」と聞いてくる姉に多少鬱陶しげな口調でその事を説明した。

 当然だが”キリト”と”アスナ”というのはキャラクター名でありプレイヤーの本名ではないが、ネットゲームでは本名を明かす事はほとんどありえないのでキャラクター名で呼び合うのが通例である、ちなみにこの二つの名前は最近のネット・ゲームでは割と目にする名前のひとつだ。

 「ネットだからってマナーを守らないと孤立してボッチになっちゃうのよ、フレンド同士の人間関係は大事にしないとね……分かる? お姉様?」

 「…………いや、言ってる事は正論だけど……ねぇ……」

 およそフランドールいもうとの口から出るとは思えない言葉の数々にレミリアは唖然となった。 どうやらネット・ゲームによるプレイヤー同士の交流が彼女に他人とのコミュニケーション能力を身に付けさせたらしい、それ自体は良い事であり姉として歓迎するべき事なのであろうとは思うのだが、ゲームによるものであるという一点がどこか不安を感じさせて素直に喜ぶべき事なのだろうかと悩むレミリア。

 フランドールは別に自分の子供ではないが、ゲームばかりする現代っ子の母親が子育てに苦労するのはこんな感じなのだろうかと、少し実感した気がしたのだった。

 


 コトンという音を立てて漆塗りの杯が地面に落ちて転がった。

 「……ふむ? 寝てしまいおったか……」

 話す事もなくなったのかしばらく会話が途切れていたと思っていたら、どうやらいつの間にか小傘は眠ってしまっていた。 眠いなら眠いと言えば良いだろうにと苦笑しながらも、そういうところがこの少女らしいかとも思うマミゾウ。

 「まあ……どのみち、そろそろお開きの時間か……」

 ほとんど空になっている一升瓶を見ながら言うと「よっこらせ」と立ち上がり、小傘を起こさぬようにそっと身体を地面に横たえてあげる事にした。 「すーすー……」と小さな寝息をたてている小傘は、それでも折りたたまれた傘を左手でしっかり握っているのを見て、話には聞いてはいたがこの傘は少女にとっては身体の一部であるのだなと再認識した。

 「……さて、わしも帰って寝るとするかのぉ……」  

 そう言ったマミゾウの身体が一瞬にしてドロンとでも聞こえてきそうな煙に包まれ、数秒でその煙が消えた後にはもう彼女の姿はなかった。 そして暗闇と静寂が支配する墓場でスヤスヤと眠る多々良小傘と、墓石の上から少女を照らす小さな提灯の付喪神だけが残されるのだった……。 



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