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博麗神社の例大祭?編

今回は例大祭ネタで……というほどたいしたものでもないですけど


 雲もあまりない青空が広がり暖かな昼下がりに大きな風呂敷包みを抱えた稗田阿求は〈鈴奈庵〉の暖簾を潜り「こんにちは」と言えば、本棚の整理をしていた本居小鈴はそれに気がついて振り返り「いらっしゃい~」と笑顔で返した。

 阿求がこの〈鈴奈庵〉に来るのは大抵は自らが執筆する本の資料を借りるためではあるが年に数回は特別・・な本の製本の依頼もあり、今日はおそらくその依頼だろうと彼女の抱えた風呂敷を見て小鈴は思った。

 「小鈴ちゃん、店主はいるかしら?」

 「あ~~お父さんは今は出かけちゃってて……」

 小鈴の父を指名してくるのは、阿求の特別な本は子供には見せてはいけない類のものらしいからで、いわゆる”十八禁”というカテゴリーに入る。 小鈴同様にまだあどけなさを残す顔立ちの通りに年齢はまだ十代前半という阿求だが、転生を繰り返す彼女は精神年齢はとっくに十八を超えているので問題ないと言うのが阿求の持論である。

 どちらにしても小鈴に預けるというわけにもいかず、阿求は店主が帰って来るまで待つ事にし、その旨を伝えた。

 「はい、じゃあ私お茶を淹れてきますね~」

 カウンターの側に置いてある椅子に座って待っているように勧めてからそう言って店の奥へと駆けて行く小鈴の後ろ姿を、まるで元気な小動物に思えて微笑ましい気分になる。

 九代目の稗田阿求サヴァンとして知り合った彼女こすずは私的な付き合いはほとんどないが、こうして〈鈴奈庵〉に来るたびのお茶を飲みながら話をしたりと楽しい時間を過ごしていた。 

 転生者とは言えひとつの肉体では三十年足らずしか生きられない阿求なので小鈴との付き合いも後十年程度であろうかと考えると少し残念に思う、その意味では藤原妹紅と近い立場であるが、親しき者の死を見取る事の出来る彼女と先に逝き次の代ではいなくなっていて死別の悲しみを実感しない立場ではどちら良いのだろうかという答えには正解はないだろう。

 「……ふぅ~~」

 ついそんな事を考えてしまっている自分に少し呆れた阿求は小さく溜息を吐くと椅子に深くもたれ掛り、そろそろ小鈴が戻って来ないかと店の奥へと視線を向けた。



 「……ふふふふふふふ」

ランプの明かりが照らす暗い〈大図書館〉でパチュリー・ノーレッジが木製のテーブルの上に置かれた一冊の本を見つめて薄ら笑いを浮かべているのは、怪しげな魔道書を手に入れてあくどい事を企む魔女のそれだとレミリア・スカーレットは思った。

 「……”博麗神社例大祭”……ねぇ……」

 親友の好む薄い本とは異なるが、しかし誰がどう見ても魔道書の類でもない絵の描かれた表紙の本のタイトルを読み上げて困惑の表情を浮かべる。 名前だけ見ればまた博麗霊夢さいせんみこがお賽銭集めに妙な行事でも考えたとかとも思えるが。パチュリーの説明によると東方とは関係あっても実在の?〈博麗神社〉とはまったく関係ないらしい 

 「……どうレミィ、あなたも偶にはこういう所に行ってみる?」

 「遠慮するわ……」

 昨年の冬コミとやらに連れて行かれた紅美鈴と小悪魔の帰って来た時の惨状を思い出しながら、きっぱりとレミリアが拒否をするとパチュリーは「……そう、残念ね」と言う。

 彼女の紫の瞳に大きな落胆が浮かんでいるところを見れば冗談ではなく本気だったのは分かる、できれば親友同士趣味を共有ししたいと思うのは妖怪も同じである。

 だが生憎とレミリアにはこの手の事に首を突っ込む気はない、ただでさせこの幻想曲物語おはなしではボケボケな面子に囲まれ突っ込みの達人などとされているのにこれ以上色物キャラになって堪るかと真面目に思うのは、二次創作まがいものと言えどもレミリア・スカーレットであるという彼女なりの矜持である。 

 「だいたい、その手の薄い本とかってパソコンのネット通販とかでも手に入るんでしょう? あんたが直接行かなくたっていいじゃないの?」

 現にパチュリーの手元にある博麗霊夢と霧雨魔理沙を中心に何人かの東方キャラの絵がかかれたカタログとかいう本は、ネット通販で調達したものである。

 戦闘に行くのでもないから喘息持ちとはいえ妖怪のパチュリーに万が一があるとは思わないが、何もそんなに無駄な労力を使い疲れる様な事をしなくてもいいのではと思える。

 パソコンだのネット通販だのが〈幻想郷〉にあるというのもどうかとも思うが、あるものは有効利用すればいいだろう、だがパチュリーはそんなレミリアに呆れた顔をしてみせると「……レミィは分かってないわねぇ……」と溜息を吐いた。

 「……こういうお祭りは参加する事に意味があるのよ、現地に行き得られる高揚感……目的の本を探し歩き回る充実感、そして会場全体を満たすオタク達の瘴気……〈紅魔館〉に引き篭もっていては絶対に味わえないものよぉ?」

 その素晴らしさを表現するかの様に両手を広げるパチュリー。

 「……いや、そんな風に言われても……てか、普段引き篭もってばっかのパチェが言うこと?」

 親友の言ってる事がまったく理解出来ずにジト目を向けるレミリア、彼女もお祭りに参加する楽しさまで理解出来ないわけでもないが、問題はこの腐女子パチェの口から出てくる単語の数々である。

 「……だいたいね、〈幻想郷〉は外界に比べてオタク文化は百年以上は遅れていると言われているわ! あなたは問題だと思わないレミィ!?」

 「……だから、私に言われても困るってパチェ……」

 と言うか、別にそんなもの遅れたっていいじゃないのと心の中で突っ込む。 普段は物静かな彼女がこの手の事になると別人の様に熱く語り出すのにはレミリアでも偶に気圧される勢いがあった。



 「どう? 似合うかしら?」

 〈八雲邸〉の一室で紫のブラウスに短いスカートという服装に着替えた八雲紫は式である八雲藍の前でくるりとその場で一回転して見せた、畳の上に正座して主人の脱いだ服を綺麗に畳んでいた彼女が「はい、よくお似合いですよ紫様」と言うのはお世辞ではない。

 「しかし、本当にその……例大祭でしたか?……その様な所へ行かれるのですか?」

 藍はこう言うが別にこれから行こうという事ではない、イベントの日はまだ先だがせっかく試着したのだから今日はこの格好で過ごそうというだけである。

 「ええ、この前会った時に稗田阿求に勧めらたしね。 まあ、ちょっとした気まぐれよ」

 少し不安そうな藍に笑いながら返す紫がこうして外界の服を調達しているのは、パチュリーから最初にコミケに参加した時に普段の格好で入場しようとしてコスプレは専用の場所でお願いしますよと注意されたらしいからである。

 まさか本人パチュリーとは想像もしないその場にいた係員も他の参加者には、彼女の普段着も”パチュリー・ノーレッジのコスプレ”にしか見えないのも無理はない。 そんなわけで会場で”八雲紫のコスプレ”と誤解されて無用なトラブルを避けるためにこうして外界の服を調達したのである。

 「しかし……東方キャラわれらが東方プロジェクトのイベントに参加する……相変わらず書き手このアホのやる事はいい加減ですね……」

 外界でと言うのもの妙な表現だが、とにかく主人の事が心配な藍もその怪しげなイベントに付いて行きたいのではあるが、彼女の腰に生えた九本の尻尾はどうしても目立つし、着替えて隠せるものではない。

 かと言って橙を代わりに行かせるという選択肢はない、話ではかなりの数の人間が集結する場所という事であり、まだ未熟で子供っぽい彼女ではいろいろな意味で心配なのである。 もちろん、紫がパチュリーや阿求の様な変な趣味に走るはずないのは理解しているが、それでもである。 「それも今更ね、私も偶には書き手このアホにまともな東方二次創作ものがたりを書いてみなさいよと言いたいけどね」

 「それも望み薄でしょうねぇ……」 

 互いの顔を見合わせてから、二人揃って「やれやれ……」と大きく溜息を吐く八雲家の主従コンビであった。




 河城にとり、〈妖怪の山〉に住む河童の妖怪は今日も自宅の工房で作業中だ。 素人にはいったい何に使うのだろうという部品や工具が乱雑に置かれた狭い室内は、それらのせいで余計に狭く見える。

 「う~~ん……難しいなぁ……」

 油か何かで水色の作業服を少し汚した緑色の髪のにとりは、”それ”分解をしていた手を止めて唸る。 黒光りした金属で出来ているそれが銃という武器であるのはにとりも知っているのだが、問題なのはそれが彼女の知識にある火薬を使い弾丸を撃ち出す物とは構造がまったく違うという事である。

 この銃を拾った際に試しにトリガーを引いてみたところ、予想していたような火薬の爆ぜる轟音は響かずにヒュンという音と共に白い光が銃口から放たれたのであった。

 「これはきっと凄い貴重品かも知れないなぁ……ひょっとしら宇宙に四丁くらいしかない凄腕の戦士が持つ武器かも知れないぞ……」

 この見立てに根拠はなく長年のエンジニアとしての勘とでも呼ぶべきものであるが、それもおそらく間違いではないだろうという気がする河城にとりだった。



 「……ねえ、私達って主人公ヒロインよねぇ……魔理沙?」

 「……ああ、あたしら間違いなく主人公ヒロインだぜ霊夢……」

 〈博麗神社〉の縁側に並んで腰掛けている紅白れいむ白黒まりさが手に湯飲みを持ちながら、青い空を見上げつつ言い合う。 普通であればこんな陽気のいい日に縁側でお茶などしていれば気分もよくなるものだが、今の二人の胸の中は釈然としない想いである。

 それもこれも、主人公なのに出番も少なく扱いがぞんざい過ぎるという書き手アホへの不満だった、もっとも所詮はそれだけの事ではあるのだが。

 「それだけの事で済ますんじゃねえぞぉぉぉおおおおおおっ!!!!!」

 「そうよ! こんな事してるとね! いつかちゃんとした東方ファンから苦情のメッセージが届くわよぉぉおおおおおおおおっ!!!!」

 そんないったい誰に向かって言っているんだろうという主人公コンビの叫びが、三時も回り少し涼しくなってきた〈博麗神社〉に響き渡った。


 

 


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