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ゴールデン・ウィーク? でも、そんなの関係ねぇ編

 幻想郷にはゴールデン・ウィークはないだろうけどゴールデン・ウィークネタ……というほどのものでもないです。

 

 外界でゴールデン・ウィークと呼ばれる五月の大型連休も〈幻想郷〉の住人にはとんと縁のないものであるが、それでもテレビをつけているとこの時期になれば嫌でもゴールデン・ウィーク関連のニュースが目に付くのが幻想曲物語この世界カケラなのである。

 「……まったく、何がゴールデン・ウィークよ……」

 畳の上にだらしなく手足を広げ寝転がる博麗霊夢は、テレビから聞こえてくるゴールデン・ウィークのお勧め旅行スポットの特集に対しつまらなそうな顔で呟く。 別に毎日アクセク働いてるわけでもないが、他人が大型連休を遊ぼうと浮かれているのを見るのは面白い気分にはなれないのは、大きな異変でもない限りは刺激の少ない日常を送るしかないこの脇巫女としては多少は妬ましくも思う。

 「……だから脇巫女言うんじゃないわ」

 今日は書き手このアホに文句を言うのもかったるいと思う霊夢がテレビを消そうとしないのは、〈博麗神社〉にあるテレビがリモコンもない旧式で、スイッチを切るために起き上がるも今は面倒だからである。

 開けっ放しになった襖から見える青い空をぼうーっと眺めながら「……夕飯なんにしようかしら?」と考える霊夢だった。

 


 紅美鈴の仕事は門番であり門の前を掃除する事ではない、だから門によりかかりながらフェア・リーメイドら三人の妖精メイドの掃除の風景を眺めていた。

 「外界じゃぼちぼちゴールデン・ウィークの時期かいなぁ……ほんま羨ましいわ」

 箒を使いゴミを集めながらぼやくチャウ・ネーンにフェアとラーカ・イラムも「そうよねぇ」と同意するが、彼女らも別に仕事をしているのが嫌になっているというわけでもない。 しかし、労働者であれば年に一回や二回は長期休暇がほしいと思うのは妖精も変わらない。

 もちろん〈紅魔館〉の主のレミリア・スカーレットと一週間程度の休暇もくれないほどにメイドを酷使したりはしない、現に彼女らも長期休暇をこれまでに何度も貰っているわけだがゴールデン・ウィークの様なイベント的なものには憧れもするのだろう。

 そんな彼女らの気持ちは美鈴も理解出来るので、「もしゴールデン・ウィークに遊びに行けたらどこに行きたい?」などと楽しそうに話すフェア達を微笑ましげに眺めながら、自分ならどこに遊びに行きたいのだろうかと考えてみる。

 外界には大勢で遊びに行くようなレジャー施設がいくつもあると聞き、そんなところにレミリアやパチュリーや咲夜らと行くのもいいかなと思いつき、その光景想像してみて思わず「ふふ……」と笑みを漏らした。

 「……どないしたんや美鈴はん?」

 それに気がついたチャウが尋ねてくるのに美鈴は「何でもありませんよ」と微笑みながら答える。

 美鈴やフェアらの主人であるレミリア・スカーレットとその親友のパチュリー・ノーレッジにも当然と言うべきかゴールデン・ウィークなど無縁であるのは、仕事にも学校にも言ってないからであり毎日が休日のような生活では日曜や祝日のありがたみはまったくない。

 妖怪おばけには学校も仕事も何にもないとは言ったものである。

二人で豪華なソファーに腰掛けてティータイム中の二人の背後に控える十六夜咲夜にも当然ゴールデン・ウィークなど無縁なのはメイド長という役職がら何日も続けて休みなどとれないからだ。 それは彼女の代わりになる優秀なメイドがいないからである、レミリアもその状況は何とかしたいと思っても咲夜の代理になるほどの人材はそうそういるはずもない。

 「……お嬢様、紅茶のお代わりはいかがですか?」

 彼女のティーカップが空になったと見るやすかさずそう言う咲夜に「まだいいわ」とカップをコースターの上に置く、主人達の方をジロジロと見てティータイムの気分を害さぬよう遠くの壁でも見つめてるようでいてさりげなくその様子を伺っている事をしてみせるのがこのメイド長だ。

 「……そう言えばレミィに咲夜、GWと言うと何を連想するかしら?」

 「……?……ジーダブル……?」

 「GW……ですか?」

 今日は珍しく分厚い魔道書を読んでいた親友の唐突な一言に怪訝な顔で後ろに立つ咲夜を振り返ったが彼女も意味が分かりませんという風に首を翼に振った、なのでとりあえず真っ先に思いついた「ゴールデン・ウィークかしら」と言ってみる。 

 「……まあ、普通はそうなるわよねぇ……」

 だが、返ってきた少し期待はずれという口調のパチュリーにムッとなり、「なら何なのよ?」と言おうとした瞬間にリビングに大声が響いた。

 「GWといえば、あれのウイングでしょうっ!!」

 部屋の入り口の方から聞こえた少女の声にレミリア達三人がそちらを見ると、そこには一人の妖精メイドがいて咲夜が「……アム・ローレイ?」と名前を言う。 妖精メイドの区別はレミリアもパチュリーもある程度はじっくりと見ないと分からないのだが、咲夜は流石はメイド長とでも言うべきか彼女ら一人一人の区別も瞬時につき全員の名前を暗記していると言う。

 「……い、いきなり何なの?」

 「……へぇ? あなたはあれのウイングを知っているのねぇ?」

 呆気にとられているレミリアの隣のパチュリーはアムという妖精メイドの興味を持った様子でそう聞くと、当然ですよと言いたげに胸を張り「あたしはあれのファンですから~」と答えるアム。

 そのやり取りに、アムは白い人型機動兵器が主役のロボットアニメの大ファンだったのを思い出しレミリアに伝える。 聞くところによると初代から最新作のOVAまですべての作品を網羅し給料の六割をそのアニメのグッズ等に使っているという話にレミリアはその紅い目を点にして「……あ~そうなの」とだけ言う。

 ボケボケメイドに腐女子な親友、そして引き篭もりなゲームオタの妹と揃っていれば今更ガ〇オタのメイドの一人や二人いたとしてもいちいち驚く事ではないが、だが類は友を呼ぶという言葉もあり、その中に自分は含まれていないだろうと信じたいレミリアだ。

 「いや~~あの頃ので言えばウイングもいいですがエックスも地味ながらいいですよパチュリー様」

 「……そうねぇ、主人公少年のヒロインへの一途さは私も好感を持ったわね。 打ち切りになったのが惜しいくらいよ」

 アム・ローレイは腐女子というわけではないようだがパチュリーとも通じるものがあるようだった、そのアニメについて熱く語るアムにパチュリーも真剣に聞き入り時折「……そうね」などと頷いたりしているその会話にはレミリアと咲夜はとてもついていけない。

 「……はぁ~~咲夜、紅茶のお代わりを頂戴……」

 呆れた様子で大きく溜息を吐く主人の吸血鬼に「……畏まりました」と恭しく返事をしてからキャスターの上のティーポットを取るメイド長だった。



 〈守矢神社〉のある〈妖怪の山〉は読んで字のごとく妖怪達の住む山であるが、吸血鬼などのように好んで人を捕食するような妖怪でもない限りは東方プロジェクト本編ほど危険度が高いわけではないのがこの幻想曲物語にじそうさくなのだ。

 だから〈妖怪の山〉を哨戒する天狗達も〈守矢神社〉への参拝客に対しては手出しはせず、人の良い天狗ならば道案内をするといった事もある。

 それでも子供が気軽に遊びに行ける様な事もなく、大の大人であっても一苦労という場所にある神社へ足を運んでくれた参拝客には巫女の東風谷早苗はお茶や菓子を振舞ったりしていた。 それには少しでも信仰を得ようという打算もなくはないが、里の人達と世間話をするような時間は楽しいというのも早苗の本心であるのは間違いない。

 今日もそんな参拝客を鳥居の外まで見送った早苗が住居へと戻ろうとしたところへ〈守矢神社〉に祀られる神である八坂神奈子と出くわした。 背に重そうなしめ縄を背負ったボリューム感のある藍色の髪の神は、穏やかな視線を自らの巫女に向けながら「今日もご苦労であったな」と労いの言葉をかけた。

 「いえいえ神奈子様、これも巫女としての重要なお役目ですから」

 笑顔でそう答える早苗、長い緑の神に可愛らしい蛙と蛇のアクセサリーを付けたこの少女は一見か弱い普通の女の子にも見えるが、空を自在に飛び【奇跡を起こす程度の力】を使い手強い妖怪達とも渡り合えるだけの力を持った巫女だ。 しかし決して人間を超越した存在ではなく歳相応の女の子である一面もあり、この神社を一人で背負うにはその双肩はやや華奢であると神奈子には思えている。

 巫女でなければ学校に通い友達と遊んだり恋をしたりと歳相応の青春を送っていたであろうこの少女が己の責務をすべて納得した上で受けいれているのかは神である神奈子であっても分かるものではない。

 「……ふむ? そういえば外界ではそろそろゴールデン・ウィークとかいう時期であったか?」

 「……え?……ああ、そうですね」

 突然の話題に一瞬キョトンとなった早苗だが先程の参拝客の夫婦が帰ったら鯉幟を用意しないとと言っていたのを思い出す、〈幻想郷こっち〉に来てからは休日という言葉とはほぼ無縁だったため忘れていたが子供の日を含めた数日間続く祝日をゴールデン・ウィークというのだった。

 「まあ、こちらではまったく関係ない話ですよ神奈子様」

 そう言って苦笑いを浮かべる、ゴールデン・ウィークの様な連休が〈幻想郷〉にもあればそういう時にと参拝客ももっと来るのですけどねと少し残念に思う早苗。 人里の大人達は外界のサラリーマンのように日々仕事に追われているというわけでなくとも、簡単に山登りをして参拝するという時間がとれるわけでもない。 

 人間が生きていくためにはどうしたってそのための糧を得るために犠牲にしなければいけない時間は必要となり、好きな事だけをしてだらだらと遊んで暮らす事は出来ない。 しかし、その犠牲にした時間の分だけ休日というもの幸せだと感じる事が出来るのかも知れない、毎日が休日なレミリアニートのような生活ならば休日はその価値も意味も失うだろう。

 「……まあ、そうなのであるがな……」

 偶には私にもほしいですねくらい言ってもいいであろうにと、この真面目な巫女に呆れたような関心したような気持ちになる神奈子は、どこぞの脇巫女れいむも少しは早苗を見習えば良かろうにとそんな風に思った。




 「レミリアと書いてニートって読むんじゃないわぁぁぁああああああああああっ!!!!」

 〈守矢神社〉で神奈子と早苗が話をしていたのとほぼ同時刻に〈紅魔館〉のレミリア・スカーレットは突如としてソファーから立ち上がり叫び声を上げたのに驚いた咲夜とパチュリーはビクッと身体を震わせた。

 「……お、お嬢様……?」

 「……レミィ……いきなりどうしたの?」

 少し怯えた二人の声に「……はっ!?」と我に返ったレミリアは咳払いをしてソファーに掛けなおすとティーカップを取り紅茶を口に含もうとしたが、カップがすっかり空になっていたのに一瞬顔をしかめたが無理矢理に不敵な顔を作ってみせて言う。

 「……何でもないわ」

 何事も無かったかのようにカップを置くレミリアの額に一筋の汗が浮かんでいたのをパチュリーと咲夜は見逃さなかったが、あえて見ない振りをしてあげるのだった。

 そしてやはり同時刻の〈博麗神社〉でも、だるそうに寝転がっていた博麗霊夢は勢いよく身体を起こして叫ぶ。

 「脇巫女と書いて霊夢とか読むなぁぁぁあああああああああああっっっ!!!!!」




 ゴールデン・ウィークなどと言っても所詮は日本人の、それもごく普通の一般人にしか関係のない話である。 例えば昨今の物騒な情勢を鑑みれば政治家などはとても浮かれていられるものではないと、八雲紫は高層ビルの屋上から同じような建物が並ぶ灰色の景色を見渡しながら思う。

 「……〈幻想郷〉に比べれば何度見ても殺風景な景色ねぇ」

 そんな事を呟きながら太陽が真南を少し過ぎた空を見上げた先にある青い空も、〈幻想郷〉のそれに比べれば濁っている青である。 こんな空の下で毎日をあくせくと過ごし偶の休日に浮かれながら短い生涯を終える人間という存在、充分に満たされているようで大事な何かを失っていると紫が思うのは懐古主義だからではなく、〈幻想郷〉という存在を知れば誰であれそう考えるであろうと思っている。

 「……ま、私が考えても仕方のない事よね」

 そう言うと紫は自分の足元に【隙間】を創り出す、硬いはずのコンクリートの床がヒトが一人入れる程に袋の口を開けた様に開きその中には無数の不気味な目が見える赤い空間が広がっている。 その空間に紫は躊躇うことなく飛び込みその姿を消した……。

 「…………?」

 数秒前まで紫の立っていた高層ビルの真下を歩く大勢の人間の中に一人奇妙な気配を感じて足を止めた少女がいた、セミロングの金髪に白い帽子を被ったその少女は不思議そうな表情でビルの屋上を見つめるが、もちろんそこに少し前まで〈幻想郷〉きっての大妖怪が立っていたなどとは予想もしない。

 「……気のせいだったのかしら……?」

 一瞬感じた気配がすっかり消えうせているのに訝しげな表情をするが、どこかの企業のものであろうビルの屋上に勝手に入るわけにもいかなければここで考えていても仕方ないと判断するしかない。

 何よりこれから友人との待ち合わせがあるのである、いつも遅刻し人を待たせるルーズな友人ではあるので偶にはこちらが遅刻してあげようかしらという悪戯心も起きなくはないが、あの子が遅く来るのだから自分ももっと遅く来ても大丈夫などという風に考えられても困る。

 やれやれと心の中で苦笑しつつ再び歩き出す少女の名はマエリベリー・ハーン、友人の宇佐美蓮子からはメリーの愛称で呼ばれる少女だった。

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