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紅魔のお嬢様とメイドさん物語【終焉】編

 「……寒いなぁ……」


 不意の冷たい風に身体を小さく震わせたの少女の名はマエリベリー・ハーンといった、〈博麗神社〉へと続く石の階段を上る彼女の数段下には、友人である宇佐見蓮子が「まあ、冬だしね」と笑っている。

 こんな日に無人で廃墟同然の〈博麗神社〉を見に行こうと言い出した友人を恨めしそうに見つめながらも、反対もせず賛同していた自分を不思議に思う。 誰かに呼ばれていた……気のせいであろうが、そんな風にも今は思えていた。


 「……〈博麗神社〉……か……」


 何となく足を止めて神社の古ぼけた鳥居を見上げようとして、何故かその視線はその上の空を見ていた。

 雲のほとんどない冬のすっきりとした青い空、十二月の最後の日に、”境界の妖怪”こと八雲紫は庭に立ち空を見上げていた。


 「……〈幻想郷〉滅亡の危機になったかもしれない事件も、終わってしまえば呆気ないものね?」


 独り言のようにも聞こえる彼女の問いかけに「そうね。 でも、物事は大概そういうものじゃないかしら」と答えたのは縁側に座る薄紫の着物姿の少女だ。

 西行寺幽々子という名の彼女は、”天衣無縫の亡霊”の二つ名を持つ通りに実際亡霊の少女であり、紫の古い友人でもあった。 一般的なイメージの亡霊とは異なり肉体を持った存在である幽々子は答えた後に手に持っていた小さな饅頭を口の中に放り込んだ。


 「そうね、そういうものかもね……」


 微笑みを浮かべながら答える親友の顔がどこか寂しげにも見えたのは、きっとこの〈幻想郷〉にも……いや、東方プロジェクトにも終わりがやって来る時もきっと案外呆気ないものなのではないかと思っているのだろうと、幽々子には分かった。


 「どんな事でも必ず終わるの……だから、楽しい祭りはその時を思いっきり楽しんでおけばいいのよ。 そういう事じゃないかしら紫?」


 お盆の上から湯呑みを取りながら言うと紫は一瞬キョトンとなったが、「ふふふ、確かにね幽々子」と可笑しそうに笑った。 それから水色の陶器の湯呑みに入った黄緑の液体を見つめた……。


 

 「……どうしました神奈子様?」


 何気なく湯呑みに注がれた緑茶を見つめていた”祀られる神”の八坂神奈子は、巫女である少女に声を掛けられて「……ん? ああ、今年ももう終わりだなと思ってな?」と答えた。

 すでに新年を迎える準備は終え、畳の敷かれた和風の居間に三人でちゃぶ台を囲んで菓子を撮みながら談笑しながら年の瀬のひと時を過ごしていた。。

 神奈子を母親とするならば早苗と諏訪子が彼女の娘姉妹にも見えなくもない光景でがあるが、カエルの目玉めいた飾りの付いた帽子を被っている諏訪子は実際には早苗の遠いご先祖様であり、この神社の本来の神様でもあるのだ。


 「そうだね、早いものだねぇ……」


 言ってから、この言葉って毎年言ってるよねと心の中で笑う諏訪子だった。     

  「……まったくですね」


 〈紅魔館〉の門番である”中華華人”の紅美鈴は買い物から戻ったメイド長の十六夜咲夜の「今日は寒いわねぇ……」というぼやきにそんな相槌を打った。

 冬が寒いのは当然だがそれにしても今日は一段と寒い、天気が天気なら雪でも積もりそうである。 


 「大丈夫とは思うけど……風邪には気を付けてね?」


 咲夜がそういってずっと外で立ち仕事との仲間を気遣う言葉をかけて門を潜って行くのを、美鈴は「はい、分かってますよ~」とおどけた敬礼をして見送った。



 神社の境内の掃除で集めた落ち葉を燃やし暖を取りながらも、”楽園の素敵なシャーマン”の博麗霊夢の表情は実際険しいものである。


 「……もういい加減に諦めろっての……」


 霊夢にそんな風に言ったのは”極めて普通のマジシャン”こと霧雨魔理沙である、霊夢の友人と言って差し支えないくらいには交流のあるこの亜麻色の髪の少女は、掃除を手伝ったわけでもないがちゃっかり焚火の前で温まっている。

 

 「やかましいわ! 最後の最後くらい絶対に阻止してみせるわっ!!」


 霊夢が言うのは、レミリア達〈紅魔館〉の連中が何かに付けてこの神社で宴会をする事である。 おかげで賽銭が激減したというのが霊夢の弁だが、魔理沙からすれば激減する程もとからないだろうである。

 その事を口にしようとした刹那、禍々しい気配を感じ取った彼女は反射的に神社の屋根へと視線を移していた、それは霊夢も同様であった。

 そこには全身を黒い鎧で覆ったかのような男が立っていた、彼は少女達の視線に気が付くとパン!と両手を合わせると、「ドーモ、初めまして。 ダークなニンジャです!」とオジギをする。


 「「ニンジャ!? ニンジャナンデッ!!? アイェェェエエエエエエエエエエエエエッ!!!?」」


 ミコとマホーツカイの少女の絶叫が、年の瀬の〈博麗神社〉に響き渡った……。




 「…………はい、そうですか……ありがとうございました。 はい、報酬は約束の口座にきちんと振り込ませていただきますわ……」


 おやつのカステラと紅茶を持って来た十六夜咲夜が不意に鳴った携帯電話に出たのに、フランドール・スカーレットはいつのまに買っていたんだろうと驚く。 そして通信を切った後で「……誰から?」と尋ねてみた。


 「明日の宴会のための準備を依頼した方ですわ、うふふふ……」


 怪しげな笑いを浮かべながら答えるメイド長の様子にこれ以上は聞かない方が身のためだと感じたので、再びパソコンの画面に向かうフランドール。 そこには擬人化された艦船をコレクションするソーシャル・ゲームのものである。

 ”悪魔の妹”などとも呼ばれる金髪の少女だが、この小説セカイではゲーム・オタの引きこもりな少女であり、このゲームはここ数年ではもっともプレイしているものの一つであった。


 「明日かぁ……」


 普段であれば正月元旦であっても外に出るより部屋にこもってゲームというフランドールなのだが、行こうかな?と少し考えようという気にもなっていた。

 その頃、同じ地下にある〈大図書館〉では、部屋の主たるパチュリー・ノーレッジがコミケの戦利品である薄い本を机の上に山積みにしているのは、小悪魔ツカサには毎年の光景であった。


 「そういえばパチュリー様、今回はずいぶんと『睦月』や『如月』関連の本が多いですねぇ……」


 この手の事には興味はあくても、この主人に仕えていると自然と覚えてしまうものだ。


 「……ん? ああ、そうね。 そういう気分だったという事よ?」


 ”知識と日陰の少女”は従者の顔をチラリと見た後、すぐにまた薄い本に向かうが、その本にはその『睦月』と『如月』が顔を赤らめて見つめ合うというイラストの表紙であったが、ツカサはそれがお子様厳禁の物ではなく一般向けなのがめずらしいなと思った。

 それから、もしかしたら一か月前くらいに見に行った劇場版の影響かな?と、そんな事を考えたのであった。



 「……また一年が終わりかぁ……」


 ”九代目のサヴァン”こと稗田阿求が自宅の庭にある桜の木を見上げながらため息を吐いた。 友人曰く”仰々しいお屋敷”らしい広い庭に植えられたその木には、もちろんこの時期に花は咲いてはいない。


 「……現在いまが楽しく、そして幸せなのはいい事なのだろうけどねぇ……」


 輪廻転生で幾多の時代を渡って来た彼女にはそれが時に重荷にもなる、人の半分以下の時間でこの時代を去らねばならないからだ。 充実した時間を過ごすほどにそれが失われるのは寂しく、怖くもあった。

 どこぞのサイトのありふれたネット・小説のように転生がお手軽であり、また転生前の人生を簡単に切って捨てられる程に薄っぺらな人生を歩んでいた主人公達のようになれればいっそ楽だろうとも思ってしまう。


 「……まぁ、やっぱりそんなのお断りよね」 


 友人である少女の顔を思い浮かべながら、阿求は呟いた。

 その友人である本居小鈴は常連客でもあり、自身の憧れの人である女性から渡された本を閉じて「はぁ~……」と小さく息を吐いた。


 「……どうじゃ? いくらくらいになるなのぉ?」


 人間に化けてはいるが、れっきとした妖怪である二つ岩マミゾウが期待した様子で問う、今日の来訪の目的は偶然に手に入れた《外来本》を売りに来たのである。 

 原作コミックではまだだが、この小説セカイではその正体は小鈴に知られてはいても、〈人里〉を妖怪の姿でうろつく気はない。


 「そうですねぇ……」


 彼女の提示した額はマミゾウの予想よりやや安い金額であり多少がっかりとはしたが、この娘が言うならそれが適正な価格なのだろうとは納得もする。 だから、「案外安いものじゃの?」と聞くのは単に理由が知りたいからである。


 「え~と……中身はどうやら小説っぽいんですけど、内容が薄っぺらいというか何というか……明らかに売れてないだろうなって感じで……」


 困った風に答える小鈴に「ああ、お主が悪いわけではないからよいぞい」と言いながら、最初にチラっと目を通した時に小説っぽい感じではあったなと思い出す。

 それから手に取りもう一度見直してみて、某ネット・小説投稿サイトの名を見つけて、そういうわけかと納得するのであった。


 「……つまりね、テンプレもいいけど工夫がまったくもって足りてないのよねぇ~~~」


 そう力説するのは、妖精メイドの一人であるラーカ・イラムであった。 現在彼女のいる休憩室には同僚のフェア・リーメイドとチャウ・ネーン、それに三人の上司でもあるメイド長の咲夜もいる。


 「工夫ね……」

 「わてにはよー分からんわな……」


 仕事の合間にネット・小説を読むという趣味を、この同僚がいつの間にと少し驚きながら相槌を打つ。

 数人で集まってお茶の時間をするには十分な大きさのテーブルを四人で囲むその部屋には、他に洗い場や食器棚や冷蔵庫も備え付けられている。


 「そうね、私は小説は書かないけど料理も同じね」


 大衆に好まれる食材を使うという発想自体は悪いものでなくとも、それをただ見様見真似で鍋に突っ込んで料理したところで本当に美味しいものは作れまい。 ただ、出来がそこそこであれば味が好みであるため食す者は少なくはないではあろうと、咲夜は言った。

 そこそこの味でありお腹が満たされればそれで満足というのは、美食家でもない一般大衆の偽らざる本質というものであろうと咲夜は思ってる

 

「まあ、そういうもんやろうねぇ……」


 チャウが少し考えてから同意すると、フェアとラーカもそんなものかもねという気がしてきた。

 その”妖精メイド三人衆”を眺めていた咲夜はふと窓の方を見て、外の景色が暗くなっているのに「……あら、もうこんな時間ね。 そろそろトシコシ・ソバを茹でないと……」と言いながら立ち上がったのであった。



 すっかり闇に包まれた〈迷いの竹林〉、僅かに欠けた月の明かりなど何の意味もない漆黒の世界で二人の少女が対峙していた。


 「ドーモ、カグヤ=サン。 モコウ・ニンジャです!」


 炎めいた紅いニンジャ装束に”輝・殺”と刻まれた少女が合掌しオジギをするれば、相対する月光めいた黄色のニンジャ装束の少女もオジギをする。


 「ドーモ、モコウ=サン。 カグヤ・ニンジャです」


 こちらのメンポには”紅・殺”であった。


 「さあ、最後なんだし今日こそお前を殺してやるよカグヤ=サンっ!!」

 「それはこっちのセリフよ、モコウ=サン!!」


 二人の少女はジュー・ジツの構えを取り戦闘態勢に入る、そして互いの隙を伺うかのようなにらみ合いがしばし続いたが、不意の風で周囲の竹が揺れたのが合図だったかのように両者同時に地を蹴って跳び出す。


 「「イヤァァアアアアアアッ!!!!」」


 二人の掛け声が闇の竹林に響くが、その戦いの様子を常人が観戦する事は出来ないのは夜の闇のためではなく、ニンジャ動体視力なくては彼女らの動きを捉えるのが不可能だからである。

 その最中に不意にモコウ・ニンジャが地面に落ちていた”何か”を勢いに任せて蹴飛ばす。 直径一メートル程の銀色で丸いその物体はカグヤ・ニンジャのニンジャ動体視力で汚れている金ダライだと認識できた。

 カグヤ・ニンジャはそれを鬱陶し気に蹴り上げた、ベコンという鈍い音を立てて夜空へと消えていく金ダライをカグヤ・ニンジャはもう見ていなかったのは、予想通りモコウ・ニンジャが地獄めいたチョップ突きを仕掛けて来たからだ。

 そんなこんなで、少女ニンジャらの発する掛け声や戦闘音は一時間程続いた……。


 「…………やれやれ……ですね」


 八意永琳は仰向けに倒れて気絶している主人とそのライバルの少女の実際情けない姿を見下ろして溜息を吐いた。 誰がどう見ても実際相打ちで両者共にグロッキーダウンと分かる光景だ。

 こんな年の瀬まで仲が良くはしゃぐのもいいが、それでも少しは周りの迷惑も考える事も覚えてほしいとも思う。

 主人である輝夜はもちろんだが、妹紅もこんな寒空の下に放置も出来ないので二人を介抱すべく一歩踏み出した永琳がすぐに止まったのは、ゴ~ンという小さい鐘の音が聞こえたからであった。


 「……今年もいよいよ終わりですね」


 

不意に覚醒した意識の中に、最初に聞こえたのは遠くからの鐘の音であった。

 それから自分が厨房にある作業用の机の上に突っ伏していたと気が付き、ゆっくりと上体を起こした。


 「…………いつの間にか眠ってしまっていましたか……」


 呟きながら壁掛けの時計を見やると、今年が終わるまで十分を切ってたのに紅白の結果を見損ねたと気が付く。 今更興味もないが、何となく結果は気になるのである。


 「まぁ、明日お嬢様にでも聞けばいいでしょう」


 そして椅子から立ち上がって歩き出した直後、咲夜以外のすべての世界が灰色に染まったのは、【時間を操る程度の能力】を使ったからだ。  

 洗い場の蛇口から漏れた水滴が空中で静止している事から時間をほぼ完全に停止させているのが分かるだろう、その水滴がシンクの上に落ちて砕けた時には、咲夜の姿は庭園にあった。


 「……今日は十六夜ですか」


 空を見上げて、浮かぶ月が自分の苗字と同じ名の日であったと分かった。

 この〈紅魔館〉に仕えるメイド長となっていったいどのくらいの時間が過ぎ去ったのか、もう何十年と経ったようにもまだ数日くらいにも感じられる。 そんな事を考えた自分が年寄りめいていると思えて、ふと自分を笑った。

 自分など主人である少女の十分の一も生きていない若輩者なのである、だが主人と同じ年齢まで生きる事は絶対にありえないのである。 それを運命と受け入れていても、時には残念に思う事ともないではなかった。


 「いつか終わりがあるのは必然なら、今という時間を精一杯過ごす……それだけですわね」


 自分の能力でも時間を永遠に止める事は出来ない、ましてや後ろに戻す事など決して叶わないであろう。

 しばし物思いにふけっていた咲夜であったが、やがて屋敷の中へ戻ろうとして、ふと思いついてスカートの裾を撮みながら優雅な仕草でお辞儀をした。


 「これが最後になりますね。 それでは皆様、良いお年を……」


 ここにはいない誰かに別れのものとも思える挨拶をしてから、彼女は改めて歩き出し、そして人気のなくなった庭園には夜の闇と静寂の中に時折響く除夜の鐘の音だけが残された。

 こうして一年の終わりと共に、ひとつの物語も終わるのであった…………。






















 「…………ってっ!!!!ちょっと待てやぁぁぁぁああああああああっっっ!!!!!」

 

 ……はずだったが、不意にその静寂を切り裂いたのは、オジョー=サマことレミリア・スカーレットの実際モンスターの咆哮めいた叫び声であった。


 「最終回に主人公ヒロインであるこの私が出番ないとかありえないだろうぉぉおおおおおおおおおおっっっ!!!!! ザッケンナコラ~~~~!!!!

 そう、お気づきだろうが今回オジョー=サマの出番がどこにもなかったのであるが、その代わりに真の主人公ヒロインである咲夜=サンの出番はあったのでまったくもって問題はない。


 「スッゾオラ~~~~ッ!!!! こんなん認めらるか! やり直しを要求する……つか、命令するやり直せやこのドクサレが~~~~~~!!!!!!」


 …………という事で、奇麗に終わろうとしていた”紅魔のお嬢様とメイドさん物語”だったが、 レミリアの実際理不尽なモノイイにより後一話だけ続くのであった…………。

 「どこが理不尽だぁぁあああっ!!!! 当然の事だろうがぁぁああああああああああっっっ!!!!!!」

 

 


 

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