最大の危機?の決着編
すでにゾンビ軍団の九割は壊滅していた、後方から観戦していたトーホ・マッポにしてみれば、これはありえないはずの状況であった。
「圧倒的な物量差があんなくだらないチートめいたやり方で覆されるのかよっ!!!!?」
激しい苛立ちを天にぶつけるかのように叫んだ時には、ゾンビ軍団は全滅していたのであった。
事前に偵察をして準備を整えたりと一見すると頭の良さそうな風を装っても、結局は数による力押しを選択しているあたりはこの男に戦略や戦術の才が乏しい事を物語っている。
故にそれが覆された時に撤退し態勢を立て直そうという判断も出来ぬままにこのザマなのだった、無論そんな事を自覚して反省も出来るはずもない。
「……ともあれ、ここは出直すのが得策か……」
ましてや軍団が全滅してから自分だけが撤退する事を恥じることもしないで立ち去ろうとしたトーホ・マッポの視界に、不意のメイド服の少女の姿が出現したのにギョッと目を見開いた。
アンブッシュされたらどうにも出来ない状況であったが、少女は「ドーモ、十六夜咲夜です」とオジギをすれば、トーホ・マッポも内心で安堵しつつアイサツを返した。
「ドーモ。咲夜=サン。 トーホ・マッポです」
いつの間にと思うのはナンセンスであろう、この人間の少女の【時間を操る程度の能力】を使えばこういうテレポートめいた現象も可能であるのは、東方プロジェクトのファンなら実際常識である。
「だが、一人とはな……」
《サーベル》を出現させて右手で握る、何の飾りもないシンプルなデザインの武器であるが人間はもちろん妖怪に対しても十分な攻撃力を持っている。
「ええ、あなたくらいなら私一人で十分……と、言うと思いましたか?」
クスリと悪戯っぽく笑いながらスカートの中に右手を入れ、そして取り出したのは”レミリア・スカーレット”だった、それは実際手品めいた奇怪な光景だ。
「「…………ナンデ?」」
地面に尻もちをついたような格好で呆然となっているレミリアと、何が起こったのか理解できずに唖然となるトーホ・マッポの声が重なる。 両社の疑問に対して「さて? 何でしょうねぇ?」と答えた銀髪のメイド少女の笑顔は実際無邪気なものであった。
「…………まあ、話は後でゆっくり聞かせてもらうわ……」
ゾンビ軍団が全滅したと思ったらいきなりボスが目の前という状況を理解した”永遠に幼く紅いツッコミ”の吸血鬼少女は、その事は敵を目の前に今はどうでもいいかと頭を切り替えて立ち上がる。
……というよりは、こんな事を気にし過ぎていてはこの小説の主人公はやっていられない。
「主人公と書いてツッコミ役とか読むんじゃねぇぇぇええええっ!!!!」
しかし、瞬時にして切り替えた思考も消し飛ばし天空へと咆哮した、その姿にトーホ・マッポが忌々し気に顔を歪めたのを咲夜は見逃さなかった。
「成程、あなたはお嬢様の……”レミリア・スカーレット”のファンというわけですか?」
従者の言葉に「……はぁ?」と怪訝な様子で首を傾げたレミリアは、しかしすぐにその意味するところに気が付く。
「ああ、そういう事。 それで私……てか〈紅魔館〉を真っ先に狙ってきたわけね」
原作ゲームの”レミリア”好きな者としてここまでイメージを崩された二次創作というのは許容出来ないのであろう。 実際原作ゲームにも多少は子供っぽい部分もあり、またこの小説はギャグである事は承知はしても、それでもなのだろう。
「そういう事だ! 故に私は貴様のような存在を許さぬっ!!!!」
叫ぶと同時に先手必勝とばかりに切り掛かっていく、両者の距離はタタミ二枚分程で彼にしてみれば必殺の間合いだったのが、レミリアと咲夜も左右に跳び回避してみせるという素早い反応をしてみせた。
「避けたところでっ!!」
トーホ・マッポは迷う事なくレミリアへ向かいもう一度跳躍したその動きは、少女達には実際読み通りのものだ。
「別にあんたに認められなくともいいわよっ!!!!」
その追撃も回避し反撃に蹴りを見舞ったが、トーホ・マッポもそれを避けてさらに左に跳ぶと、その直後に彼の立っていた場所に二本の《銀のナイフ》が突き刺さる。
「その程度の連携は分かるさっ!」
今度はすぐに反撃しようとはせずに更に跳び少女らに対し大きく間合いをとるのに、「……まぁ、そこまで単純でもないですか……」とたいして落胆した様子もなく呟く咲夜である。
「ですが……お嬢様を侮辱する者の存在を許すわけにもいきませんのでっ!!」
氷めいた冷たい青い瞳で忌むべき男を睨み付けると今度は十本もの《銀のナイフ》を投擲した次の瞬間には咲夜の姿がそこから消えた。
「ニセモノなどいくら侮辱したところでっ!!」
直線的な軌道のナイフなど容易すく避けたトーホ・マッポの背後に咲夜はいた。
「そういう傲慢はっ!!!!」
躊躇なく投擲した五本のナイフが銀色の閃光めいてトーホ・マッポを襲うが回避された、流石に予想されていたようだ。
「傲慢と言うか!!」
「自分が認めないものに価値はないっていうのが傲慢って言ってんのよっ!!!!」
だが、間髪入れずやってきたレミリアの攻撃は避けきれなかった、血の色めいて紅く塗られた鋭い五本の爪が左の二の腕を斬り裂き藍色の布の切れ端を宙に舞わせた。
「二次創作のニセモノが言う事かっ!!!?」
「二次創作はニセモノではありませんよっ!!」
痛みに顔を歪めながらも言い返したトーホ・マッポの背中に一本の《銀のナイフ》が突き刺さり、「ぐわぁぁあああっ!!?」と悲鳴を上げさせた。
「二次創作は確かにオリジナルにはなれません……ですが、ファンが創っているものである限り作品の……セカイの一部である事を知りなさいっ!!!!」
オリジナルの存在ありきではあっても、それを個人個人がそれぞれに受け取り解釈する、そして自分の中の東方のセカイを心の中に創り上げるのだ。 それらが形になったものが二次創作であり、決してニセモノではない。
東方の名前を使えば売れるだろうという邪な考えのものならばともかく、東方のセカイが好きでいる者達のそれがニセモノであろうはずがない。
「ニセモノはニセモノだろうがっ!!」
「オリジナルでなくても私はレミリア・スカーレットよっ!!!!」
レミリアの鉄拳が顔面にヒットした、小柄な少女のものとは思えないパワーに無様に「がはっ!!?」ふっとび仰向けに倒れるトーホ・マッポが握っていた《サーベル》を咲夜が勢いよく蹴り飛ばした。
「そして私は十六夜咲夜です!」
クルクルと回転しながら宙を舞った《サーベル》が地面に見事に突き刺さった。
咲夜が見下ろすトーホ・マッポの顔の半分ほどが”東・警”と文字の刻まれたメンポで覆われていても、焦りと恐怖がはっきりと見て取れた。
「さあ、ハイクの時間ねぇ?」
残酷に笑うレミリアのその幼い顔は、実際人間を殺す事に何の慈悲もない残酷な吸血鬼少女だと実感させるものであった。 それは普段はコメディーチックであっても、ちゃんと”レミリア・スカーレットの本質”がこの少女に備わっていたと証明している。
「……こ、こんなに呆気なく……?……」
彼には今の自分の状況を現実と受け入れられない、実際悪夢の中にいるかのような感覚である。 足元に死神めいて立つ惨忍な笑いを浮かべる少女とこれから人を殺そうとしてるとは思えないにこやかな笑みのメイド服の少女が、実際死神めいているのもそう感じさせた。
「どんなに強くてもやられる時はそういうものよ?」
レミリアはそう言ってやると咲夜へと視線を向けた、それに対し彼女は承知という風に頷くと《銀のナイフ》を構え、倒れている男の目をジッと見据える。
「……お嬢様、やはりトドメはお嬢様が刺されるべきですわ」
そして唐突にそんな事を言ったのに「……はぁ?」と従者の顔を見上げるオジョー=サマ。
「この戦いが始まってからお嬢様が何をなさっていたのか、思い出して下さいな?」
それに対し油断なく《銀のナイフ》を構えながら答える。 意外な展開にどうにか逃げ出せないかと隙を探すトーホ・マッポだが、迂闊に起き上がる事も出来そうにもない。
「……何をって……?」
こんな時に何をと疑問に思いつつも思い出そうとしてみる、もちろんトーホ・マッポに対しても出来るだけ警戒は疎かにはしないが、それでも咲夜を信頼していなければしない事ではある。
それはともかく、実際にレミリア=サンのしてた事というと……。
咲夜にツッコミ……
フランにツッコミ……
パチェにツッコミ……
美鈴にツッコミ……
小悪魔にツッコミ……
ついでに書き手にもツッコミ……
「……って!!! 私ツッコミしかしてねぇぇぇえええええっっっ!!!!?」
まるで落雷の直撃を受けたかのような衝撃を受けて絶叫するオジョー=サマの頭の中からは、現在の状況はキレイサッパリと消えている。
「……と、そういうわけですのでトドメはお嬢様が刺されるべきかと。 やはり最後の最後くらいメイン・ヒロインらしいとこを見せておきましょう」
実際悪意のカケラもない純粋な表情の従者の少女にレミリアは「ほっとけやぁぁぁぁああああっ!!!!」と、実際余計なお世話と言わんばかりに怒鳴る。
そんな主従漫才は、実際絶体絶命なトーホ・マッポには逆転のビック・チャンスに思えた。 半ば衝動的に起き上がると「うわぁぁぁあああっ!!!!」とヤバレカバレな奇声を上げると、咲夜ではなくレミリアに襲い掛かった。
「……あ……!?」
これは咲夜も予想外の行動だったらしく投擲した《銀のナイフ》は空しく地面に突き刺さった。
予想外なのはレミリアも同じであったが、それでも反射的に防衛行動をとれたのは、キューケツキ・防御本能であった。 そしてその防衛本能はこの危機に際して彼女に新たなる力を目覚めさせた。
「…………はい?」
ワン・インチ距離まで迫って来たトーホ・マッポの鉄拳を後ろに跳んで回避し、間髪入れずに反撃の【スピア・ザ・グングニル】を放つべく集中させた妖気は、紅い光弾ではなく別の形を成したのだ。
それは誰がどうみても実際紅く輝くハリセンだった、振り上げられたレミリアの右手に具現化した光のハリセンに当人は「……へ?」と目を点にし、トーホ・マッポも驚きに目を見開いた。
この新たなるレミリアの力、その名は……。
【ハリセン・ザ・グングニル】っっっ!!!!!!
「なんじゃそりゃぁぁぁあああああああああっっっ!!!!?」
絶叫しながら振り下ろしたハリセンは見事にトーホ・マッポの脳天を直撃しすぱこ~~んと心地よい音を響かせ、その後に「ぐわ~~~!!!?」という男のむさ苦しい悲鳴を響かせた。
「……こ、こんな事で……サヨナラ~~~!!!」
そしてトーホ・マッポの断末魔の叫びをかき消すレミリアのツッコミが怪獣王の咆哮めいて響き渡った。
「つーか! いつか使おうと思ったネタを無理やりにねじ込みやがったなぁぁああああああっこの書き手がぁぁぁあああああああああっっっ!!!!!!!!!!」
そんなこんなで、トーホ・マッポは目的を達成する事もなく〈幻想郷〉に散ったのであった…………ナムアミダブツ……。
こうして、この〈幻想郷〉の最大の危機?は実際呆気ない結末で幕を下ろしたのだ……。




