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開幕、紅魔の妖怪対トーホ・マッポ編


「……今日はやけに暇な日ねぇ……」


〈鈴奈庵〉という名の貸本屋の娘である本居小鈴が、カウンターの机の上に突っ伏しながらぼやいたのは、昼食を食べてから一時間くらい経った頃だった。

 今日は天気も陽気も良い日だったが、午前中の早い時間に一人来客があったくらいで、この時間になってもお客がまったくやって来ない。 店番をするようになってこんな事はこれまでにもあったようにも、初めてなようにも思えていた。


 「……まぁ、偶にはのんびりするのもいいか」


 呟きながら身体を起こすと、「う~~ん……」と思いっきり伸びをした。



 不気味な紅い色に染められた〈紅魔館〉の門の前で「……まさか、こんなやり方をしてくるとは……」と険しい表情の紅美鈴だ。 その彼女の隣には十六夜咲夜とパチュリー・ノーレッジにフランドール・スカーレット、そして”永遠に幼く紅いいマナイタ”こと我らがツッコミリア・スカーレットもいた。


 「この期に及んでまだ言うかぁぁあああああっ!!!?」


 ……と、いつものツッコミが響く間にも、”そいつら”はどんどん近づいて来る。

 一見すると人間のように見える”そいつら”だが、ボロボロになった服を身に着け土気色の生気の感じられない肌は、とても命を持った生き物に見えない。 しかも、それが数百体とも数千体とも思える数が迫って来るさまは、実際バイオでハザードな映画の中の光景めいて実際絶望的である。


 「……あいつらは私達を喰らうつもりなんでしょうね?」


 流石に緊張した様子の咲夜の問いに、パチュリーは「……ええ、この〈紅魔館〉ごとね」と答える。 おそらくはあのゾンビめいた連中に喰われるとヒトであれ物であれ小説セカイから消滅する、まさに小説セカイを喰う魔物だ。


 「あれだけの数……流石に実際ヤバイわ……」


 フランドールも不安そうだ、いくら彼女でもこの事態に呑気に地下でゲームをしている場合ではなかった。

 

「……そうね、もっとも……」


 ”知識と日陰の少女”は”悪魔の妹”にうなずいた後で「……まともに戦えばだけどね?」と不敵に笑ってみせたのである。


 「……ええ、そうですわね」


 ”完璧で瀟洒なメイド”の少女も先ほどとは打って変わった自信ありげな笑みを浮かべて答えれば、”中華華人”の門番も同様の表情をした。

 唯一レミリアだけは従者達や親友の変化の意味が分からずに「……はい?」と素っ頓狂な声を出してしまう。

 そんな会話は、ゾンビの群れの後方に浮かぶトーホ・マッポにはもちろん聞こえてはいない。 ”東・警”という文字の刻まれたメンポで顔の下半分は覆われた彼であるが、それでもその目や目元を見ればニヤリと不敵な笑みを浮かべているだろうとは分かる。


 「……戦いは数。 名言だな、ふふふふふ……」


 所詮は紛い物の連中とはいえ侮る事をしたりはせずに用意したゾンビのすべてをまずは〈紅魔館〉へと投入する、まずはこの小説セカイの中心たる〈紅魔館〉を喰らってからこの紛い物の〈幻想郷〉とそこに住まう者達を消し去ってやるつもりなのだ。


 「さあ! 行くがよいわ、ゾンビ共っ!!」


 門の前に立つレミリアらに気が付くほどに近づいた紅い館を見据えながら、トーホ・マッポは右手を前にかざし号令を発した。



 ゆっくりと白い雲が流れる青い空を、八雲紫は自宅の縁側で見上げていた。


 「……紫様、〈紅魔館〉へ行かなくて本当によろしいのですか?」


 背後から声を掛けて来たのは彼女の式である八雲藍であった、わざわざ振り返る事をしなくても心配そうな表情しているのだと察しはつく。

 ”境界の妖怪”とも呼ばれる〈幻想郷〉きっての大妖怪である紫がトーホ・マッポの動きに気が付かない通りもなく、考えられうる事態に対処すべく藍とも話し合っていた。

 そして先程、主人からトーホ・マッポが〈紅魔館〉襲撃に動き出したようだと聞かされたのだ。


 「もしもレミリア達が敗れれば、トーホ・マッポはすぐにでもこの〈幻想郷〉を消しにかかるでしょう。 ここは私達も援護に向かい奴を打倒するのが得策なのではありませんか?」


 人間の少女の姿をしていても、九尾の狐である事が分かる尻尾を持ったこの従者の言っている事は間違ってはいないと紫も思う。 正義のヒロインを気取るつもりもないが、〈幻想郷〉を愛する者としてトーホ・マッポの所業は決して許せるものではない。


 「万全を期すならば、そうね……でもね藍、あのレミリア達に援護なんているのかしらね?」


 肩に掛かった金髪の髪を撫でながら、紫はそう答えた。


 「しかし……」


 それでも藍が食い下がろうとするのは、もちろんレミリア達を心配しての事ではなく、主人の愛するこの〈幻想郷〉の被害を少しでも少なくする事を考えての事である。

 しかし、当の本人がまるで何事も起こっていないかのようにのんびりとしているのが、藍にはまったく理解出来なかった。


 「大丈夫よ、藍。 レミリア達にはとんでもない”チート”があるわ」

 「……チート……ですか……?」


 怪訝な顔になる従者を振り返り「そう、チートよ」と愉快そうに笑う。


 「この”小説家になろう”には多くのチートがあるけど、ある意味ではそんなものを遥かに超える最凶チートかも知れないわよ?」


 それはあまりにもくだらな過ぎて仮に思いついても誰もやろうとしないだけの事であるとも言えるが、あの書きアホであれば恥ずかしげもなくやるであろうろと確信していた。



 美鈴がどこからともなく取り出したのは、拳が余裕で通せるくらいの大きさのリングに取っ手が付いた物体だった。 それを左手に持ち、もう片方の手には一枚の紙で作られたカードのようなものを持っている。


 「フジキド=サン!」


 カードに描かれた人物の名を叫ぶとそれをリングの中に通す、するとカードが光の粒子となり、それが彼女の後ろで若い男の形となった。 

 更に「ゲンドーソー=サン!」ともう一枚取り出したカードも同様にすると、今度は老人が姿を現した。


 「ちょ……あれはウル〇ラマンオーブの《オー〇リング》っ!!?」

 「……違いわレミィ、あれは《メーリング》よ?


 驚愕したレミリアのツッコミにパチュリーが冷静に答えた直後に、「ニンジャの力! お借りしますっ!!」と美鈴は《メーリング》を掲げた。 するとどこからともなく「フュージョン・アップ!」という声が響き、二人の男の姿が赤毛の少女に重なっていく。

 そして、次の瞬間には眩しい閃光が発し、それが収まった後に赤黒の中華装束に”中・獄”というメンポを付けた少女の姿があった、その名は……。

           紅美鈴・ドラゴンスレイヤー!!!!

 ……である。


 「アイェェエエエエッ!!? ニンジャ!? ニンジャナンデ!? アイェェエエエエエエッ!!? つーか! ドラゴン・ゲ〇ドーソーとニンジャスレ〇ヤーで”ドラゴンスレイヤーかぁぁああああああっ!!!!」


 レミリアが驚愕の叫びを上げるのと同時に、紅美鈴・ドラゴンスレイヤーは力強い踏み込みですぐそこまで迫ってきていたゾンビの先頭集団に突っ込んでいく、その動きは実際ニンジャ・動体視力のないモータルには捉える事は出来ないだろう。


 「ドーモ、美鈴・ドラゴンスレイヤーです!」


 きちんとアイサツするのも忘れず「イヤ~~~~~!!!」という気合の声と共にカラテの技を繰り出しゾンビを攻撃していく。 普段の彼女を遥かに上回る速さと威力を持った鉄拳は一撃でゾンビをふっ飛ばし、そして次々と「サヨナラ~~」と爆発四散させて逝く。


 「ゾンビ死すべし、慈悲はないですっ!!」


 ポカーンとなっていたレミリアが「……いや、ゾンビは元々死んでない?」と小声でツッコミを入れた刹那、どこからか跳んできた赤みがかった閃光が美鈴を背後から襲うとしたゾンビを貫いた。

 そのゾンビが爆発四散するのと同時に空から舞い降りて美鈴の隣に立ったのは、白い《ビーム・ライフル》と《シールド》を構え、背中に壁めいた金属のパーツを装備したνサクヤであった。

 新たに現れた明確な敵に対して十数体のゾンビが向かって行くが、νサクヤは慌てることも怯える事もない仮面めいた無表情さなのは、彼女が咲夜の姿を模した戦闘用ロボットであり恐怖といった感情とは無縁だからである。


 「ナンデェェエエエエエエッ!!!?」


 またもや叫ぶ……というか、他にリアクションのしようもないレミリアである。

 それに応えたわけでもないが、不意にνサクヤの額に電撃めいた光が走ると背部の”壁”が縦にいくつにも割れ宙へと飛んだ。 

 そしてそれらは折れ曲がりコの字型へ変形し、更にまるでそれぞれが意思を持っているかのように狙いを定めて赤みがかったビームを発射しゾンビを攻撃し始めたのだ。

 そんな光景を呆然と眺めていたレミリアは、やがて我に返ると大きく息を吸い込み、そして「……って! やっぱあれフィン・ファ〇ネルなのかぁぁああああっ!!!!」と某怪獣王めいた咆哮ツッコミをしたのであった。

 そんなこんなで、〈紅魔館〉対トーホ・マッポの戦いは幕を開けた。




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