紅魔館のメイドさんのお仕事編
紅魔館の妖精メイド達の何気ない日常と咲夜の秘密?の話、
〈紅魔館〉の妖精メイド達に間ではちょっとした噂があった、だがその噂を彼女らは滅多に口にする事がないのは、それを口にした者の名がメイド長である十六夜咲夜に知られれば消され闇に葬られると言われてもいるからである。
それでも好奇心というものは妖精にもあるものでラーカ・イラムもその一人である、だが同時に妖精と言えでも命は惜しいので進んで噂の真相を調査しようとまでは思えない。
だから同僚達との雑談の話題にしてみるラーカ。
「……でさ、フェアはどう思う?」
「どう思うって言ったって……」
メイドの食堂兼休憩室でお茶を飲みながらお菓子を摘むフェア・リーメイドは、友人の問いにどう答えたらいいのかも分からずに困惑する。 ラーカがその事を口にするのはメイド長が〈紅魔館〉を留守にしているのを知っているからではあるが、フェアはそれでも彼女がどこかで聞いているような気がしてならない。
無論、そんな事はありえないのだが、それ程に恐ろしいという事だ。 フェアが聞いた噂ではその事を口にした者は《銀のナイフ》で急所を外して滅多刺しにされると聞いていたから、「ラーカ、その事は言わない方がいいと思うよ」と忠告する。
「……う~~そうだよねぇ……」
フェアの心配そうな顔にラーカもその噂を思い出して口をつぐむ事にした。
そのフェアとラーカいる廊下の窓を外からふわふわと飛行しながら拭いているのはナーム・サンとキキ・キーリンの二人だ、飛行が出来ると言っても重いバケツを持って飛ぶという力仕事をしようと思わなければ、結局は雑巾を洗うために下まで降りねばならないので面倒な作業である。
だからナームとキキは〈紅魔館〉のすべての窓を掃除しようという気もなく、日が暮れるまでに出来るだけをやるつもりでしかないのは別に彼女らだけに限った事ではない。 そんな妖精メイド達の態度を咲夜はもちろんレミリアも承知しているが何も言わないのは、〈紅魔館〉の妖精メイドの数に対し屋敷が広すぎるのを理解しているからである。
その広い屋敷の倉庫となっている部屋の前でチャウ・ネーンはフランドール・スカーレットとばったりと出くわしたのだった。
「おや? 妹様やないですか。 どないしはったんですか?」
「あーあんたチャウ・ネーンだっけ? 単四電池ってある?」
妖精メイドの区別があまり付かないフランでも関西弁をしゃべるチャウだけははっきり覚えている、そのチャウはいきなり単四電池と言われて首を傾げた。 単三電池ならよく使うが単四電池を使う物が〈紅魔館〉にあっただろうかと考える。
「ねえ! あるの? ないの?」
金髪で赤い瞳のフランの顔がぐっと迫り驚いたチャウは反射的に「す、すぐに探してまっせ!」と言っていた、その答えに満足したフランは「なら、見つかったらあたしの部屋まで持ってきて頂戴ね」と言い残し去っていった。
しばらく唖然となっていたチャウだったが「しゃーないな……」と呟きながら乾電池のストックを確認するために倉庫に入っていった。
今日も今日とて〈香霖堂〉のカウンターで小説を読んでいた森近霖之助は「香霖はこういう胸の大きな女の子が好きなのか?」という霧雨魔理沙の声に顔を上げると、魔理沙は何やら水着姿の女の子の写真の載った本のページを開きながら見せてくる。
店内の商品を漁っていて見つけたのだろうその本がグラビア雑誌とかいったかなと思い出しながら、「別にそれは僕の趣味じゃないよ」と短く答えた。 外の世界から流れてきた本の中に紛れていたのをこういうものをほしがる人もいるだろうと置いておいた物をずっと放置しておいただけであり、彼自身は最初に軽く目を通して以来触ってすらいない本である。
「ふ~~~ん? 本当かぁ~~?」
「……本当だよ?」
疑うと言うよりからかうような魔理沙の視線を気にもせずに淡々答える、幼馴染みのそのつまらない反応に魔理沙が「ぶ~~!」と口を尖らせるのはいつもの掛け合いである。 この大抵の事では動じなさそうなこの男を何とかうろたえさせてみせようと多少意地になっている自覚のある魔理沙だが、それは下手な異変を解決するより難しいのではと思い始めていた。
「ふ~ん?……じゃあ、香霖の好みのタイプってどんなんだよ?」
「僕の好みねぇ……」
霖之助はしばらく思案してみるがこれといって思い浮かばない、分かるのは少なくとも目の前のお金にならない幼馴染みのお客ではないという事くらいだ。 彼も自分自身女の子に興味がまったくないとも思わないが、こうしてのんびりと商売をする事以上に関心も持てず、寧ろそういった状況を面倒としか思えないのが今の自分なのだろうと考える。
「どうなんだよ?」
「……さてね、僕にもよく分からないかな魔理沙?」
「……はぁ? 何だよそれ?」
自分の事だろうにと呆れる魔理沙だったが、そう言った霖之助の表情が真面目なものだったので適当にはぐらかされたわけではないと気が付き、まあ、そういうものなんだろうなと思った。
炎の様な赤い長髪の門番、紅美鈴は〈紅魔館〉の門の鉄格子に寄りかかって大きな欠伸をしていた、昼食とその後の休憩を終えた直後のこの大きな眠気が襲ってくる時間は彼女にとっては侵入者相手以上に過酷な戦いの時間である。
ましてや来客の一人も来ず話し相手もいないとなれば、双剣を持って温泉の村を脅威に陥れる嵐の竜を相手にするほどの過酷な戦いにもなるというのは、美鈴にとっては大袈裟な喩えではない。
「…ふぁぁ~~~~……眠いですねぇ……」
いつもであればとっくに居眠りしていてもおかしくないのだが、今日は咲夜が出かける際に「私が帰って来た時に居眠りなんてしていたら容赦なくナイフの弾幕を浴びせますからね?」と笑顔で言われたので必死に堪えているのである。
それも流石に限界が近いと感じた美鈴は少し身体でも動かしてみようかなと考えた、僅かに腰をかがめて右脚をすっと前に出し構えをとると丹田に気を集中させる、そして「はっ!!」という気合の掛け声と共に右腕を突き出せば、シュッという空を切る音が発せられる。
「はぁっ! たぁっ!! やぁぁぁああああああっ!!」
左右の腕を交互に突き出した後に勢いよく振り上げ蹴りも繰り出すが、きちんとズボンを穿いているので白い物がチラリと見えてしまうようなことはない、脚を降ろした美鈴は「はぁぁ」と呼吸を整える。
そして今度は両腕を素早く連続で繰り出し始めた。
「あたたたたたたたたたたたたぁぁぁあああああああああっ!!!! 【紅魔百裂拳】っ!!!!!」
十秒程その動作を繰り返してから不意に後ろへ跳んだ美鈴は右手の人差し指を何もない空間にまるで誰かがそこにいるかのように突き付けると不敵な笑みを浮かべて言う。
「……あなたはもう……死んでいる……な~んちゃって~……」
流石に少し恥ずかしかったのだろう彼女は、いつの間にか自分の目の前に妖精メイドがいた事に気が付き「え?」と硬直した。
「…………」
「……ち、ちちち違うんですよっ!? こ、これはですね……その、眠気覚ましというか……!!!」
何か外での用事を終えて戻って来たのだろうそのメイドの名はミタ・ニコーキ、自らをメイドではなく家政婦であると自称する変わった妖精である、つまりこの現状を言葉で言い表すのならば……。
家政婦のミタは見たっ!!!!!!
……であろうか。
「……って! 上手い事言ってる場合ですかぁぁぁあああああああああっ!!!!!」
「……?」
羞恥で顔を真っ赤にしパニックになっている美鈴の叫びにミタは不思議そうな顔をして「……誰に言っているんですか?」と小声で言うが、慌てふためいている門番は気が付いた様子もないので小さく溜息を吐くとさっさと〈紅魔館〉の中に入って行った。
トントントンという音をたてながらまな板の上で大根を切るのは紅白の脇巫女服の上に白いエプロンを付けた博麗霊夢だ、〈博麗神社〉には彼女の他には住む者もいないので炊事洗濯は自分でやるしかない。 霊夢もそういった事が嫌いというわけでもないが面倒と思うことはあって当然である。
「……はぁ、うちにもメイドとかいたら楽でしょうねぇ……」
窓の外の日が傾きオレンジに染まった空を見つめながら溜息を吐く霊夢だった。
しばらくやっていなかっただけでこうも腕が鈍るという事にフランは驚く、小さな液晶画面の中で双剣を携えて濃い紫色をして身体に緑の粘膜のようなものを付けたモンスターと戦闘中の”フラン”はすでに体力ゲージが三分の一を切っていた。
「や、やばい回復しなきゃ~~~~って! もう一体も来た~~~~!!!?」
アイテムを使い回復するために一旦エリアチェンジしようと思った矢先に”フラン”の進路上からもう一体の同じモンスターが現れて挟み撃ちにされてしまう。
「うき~~~!! まだよ! まだ終わらないわよ~~~~~!!!!!」
チャウに持ってきてもらった単四電池を換えたばかりの拡張パッドを付けて少し重く感じる携帯ゲーム機を必死で操作するフランには、夕食の準備が出来た事を知らせになってきたフェア・リーメイドのノックの音は聞こえてもいなかった。
一風呂浴びてさっぱりしたレミリア・スカーレットは自室のソファで寛ぎながら、十六夜咲夜の用意したグラスを受け取った。 春の陽気も強くなったこの時期の風呂上りに熱い紅茶を飲もうと思うはずもなく、咲夜に用意させるのは冷たく赤いドリンクである。
夜更かししても平気……と言うより本来夜が活動時間な吸血鬼である彼女は、何気なく付けたテレビで左遷同然の有能警部とその相棒の活躍する刑事ドラマがやっているこの早い時間ではまだ寝巻きに着替えるつもりはなく普段の格好のままである。 そのレミリアはグラスに入った赤い液体をしばらく見つめてから一気に飲み干した。
「……って! トマトジュースくぁ~~~~~~~い!!!!!」
「はい、吸血鬼のお約束ですので」
大声で叫ぶ主人の少女吸血鬼に、傍らに立つ咲夜はにっこりと笑顔で答えてみせた。
「お約束って言うか、古典的にも程があってレベルでしょうがぁっ!!!!」
大きく開けた口から覗く二本の白い牙で噛み付かん勢いで突っ込むレミリアにも動じないで微笑む咲夜には、そんな仕草も可愛く見えている。 そんな思いが見て取れるメイドの顔を睨みながら「せめて赤ワインにしなさいよね!」と文句を言うレミリア、別に嫌がらせをしているわけではないのは分かっているがもう少しは主人の気持ちを察してほしいものである。
空になったグラスをソファの前のテーブルに置きながら、このままでは面白くないのでこのボケボケメイドをおちょくってやろうという気になったレミリアは「ねえ、咲夜ぁ?」と口元を歪めて話しかけた。
「……何でしょうか、お嬢様?」
「そういえばさぁ、あなたのその胸ってPADって本当なのかしら?」
「……は?」
突然の事に怪訝な顔になった咲夜は少し考えてから、「……ああ」と納得したように頷く。
「帰って来た光の巨人の防衛チームですか……?」
「……はぁ?…………って! それはМAТよぉぉぉおおおおおおっ!!!」
「……では六番目の弟の方でしょうか?」
「それはZATぉぉおおおおおっ!!!!……つか、あんたわざとやってるでしょう?」
大声で叫び少し息を切らしたレミリアに睨まれた咲夜は「あ! バレましたか?」といたずらっぽく笑う。 その咲夜を「あんたって子は……」と更に睨みつけながら、内心ではどうして昭和の特撮作品の知識があるのかしら疑問に思うレミリア。
もっともそれにきっちりと突っ込めるレミリアも同じではあるのだが。
「黙りなさい! 私は適当にス〇パーとかで見たのを何となく覚えていただけよ、このアホ文士めっ!!!」
「お、お嬢様……?」
いきなりどうしたのですか?というような咲夜の声に「……はっ!?」と我に返ったレミリアは、またやってしまったと後悔しながらも、咳払いをして「何でもないわ」と言っておく。
「そうですか……まあ、とにかく私がPADかどうかは別にお嬢様のご想像にお任せいたしますわ」
笑顔を崩さないまま言う咲夜にレミリアは少し肩透かしを食らった気分になった、大抵の二次創作では、このPADネタに対して過剰なまでにむきになり否定するというのが”十六夜咲夜”というのが相場なのである。
しかし、それも当然といえば当然なのかも知れない。 女の子の胸の大きさなど所詮は男共の関心ごとでしかなく、当人からしてみれば大きかろうが小さかろうがそれで何が変わるわけでもないのだから。
無論、自らのプロポーションを気にするのも女性として当然と言えるが、それも人それぞれで咲夜はそこまで気にしないというだけの事である。 だから、そう思いたければ勝手に思っていても構いませんよという反応になるのだろう。
「うふふふふふ……そうね、私の勝手に想像させて貰うわ」
意味ありげに笑うレミリアがどんな想像をしているのかは、誰も知る由もなかった。




