(8)
「次にネットマナーみたいなものだけど。プライベートに関わる事は言わない、聞かない。
これは自衛手段でもあるんだ」
「あ、それは知ってます」
「インターネットでもそうですよね」
二人は頷きあっている。
「そっか。じゃあ女の子ってだけでナンパの対象になるって知ってる?」
「ええ!?」
「……い、言われてみれば何回か声かけられました」
モミジがギョッとして叫び、クレアがハッとした表情になった。
どうやら俺に声をかける前に既にナンパされていたようだ。
MMOはナンパの温床になっているという事を念入りに教えておく。
「親切に声かけるだけなら迷惑行為にならないしね」
「そういうものなんですね」
「……初心者に優しい人は限られてるという情報だったのに、変だと思いました」
なるほど、そのネットでの情報を信じていたからこそ、俺以外の男についていったりしなかったんじゃないだろうか。
ある意味でファインプレーだな、ネットの住人たち。
しかし、ネットの情報を鵜呑みにするのは危険だって教えた方がいいだろうか?
どうやら俺はある程度信用されてるみたいだし、ネットの情報もある程度は信用できると考えてそうなんだが……。
「後、俺みたいにそれとなく敬語やめたりする奴にもご用心かな」
「え?」
「あ」
さりげなく牽制を放ってみると、二人ともどうやら気づいてなかったらしく、びっくりした顔をしてこちらを見返してきた。
「えと、ステイルさんは信用できますよ?」
意外な事に、クレアがきっぱりと答えた。
引っ込み思案なタイプじゃないかと想像してただけに驚いた。
芯は強いタイプなのかも。
「そうそう、女の子って視線には敏感なんです。ステイルさんは私たちの事、下心のある目で見てこないし、悪ぶってもダメですよ」
モミジも朗らかに笑い、俺の試みを粉砕してくれた。
どうやら俺の負けらしい。
両手を挙げて降参を示すと二人は楽しそうにクスクス笑った。
それにしても仮想体なのに、人物観察の目と女を品定めする目が区別できるのか。
女って怖いな。
「後は実際にやりながら説明した方がいいと思う。俺も知らないと言うか、公開されてない情報もある事だし。よければ一緒に進めようと思うけど、強制はしないよ。どうする?」
俺の提案に二人は視線を交わした。
「ご迷惑でなければお願いしてもいいでしょうか?」
と、モミジ。
「よ、よろしくお願いします」
とクレア。
俺は新しい知り合いを増やす事に成功した。