(5)
目の前には石造りの大きな壁と木の門がそびえている。
恐らくあれは「旅立ちの街アルコトス」だろう。
地面には草花が繁っていて、空は青く雲が動いているし、遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。
雲からのぞく太陽の光は暖かく、まるで春だ。
……正直、ここまで現実に近いとは。
アルゴ社の技術を見くびっていたかもしれない。
現実に近いような異世界に俺は今来ているのだ。
格闘の技能を選んだ為か、白い道着をまとっていて、格闘家っぽく見える。
周囲をそれとなく見回すと、俺と同じように色んな服装で突っ立ってる人たちがいた。
恐らく俺と同じテストプレイヤーたちだろう。
さて、いつまでも呆けてはいられない。
早速技能の確認といこう。
まずは格闘から。
シャドーボクシングをするかのように、握り拳を作って何度も突いてみる。
【ステイルが能力:「突き」を習得しました】
頭の中に感情のこもらない女性の声が響く。
よし、まずは一つ目だ。
次に同じように今度は蹴りを出してみる。
【ステイルが能力:「蹴り」を習得しました】
【ステイルが称号:見習いの格闘家を獲得しました】
おお、見習いとは言え格闘家の称号までゲットできるとは。
習得した突きと蹴り、見習い格闘家の称号をセットしておく。
見習い格闘家の効果は……AGIとDEXが1%アップか。
見習いならこんなものだろうか。
次は採掘だな。
目の前に生えてる野草を摘もうとしゃがんで手を伸ばしたらすり抜けてしまった。
石ころくらいは拾えるんじゃないかと思ったけど、どうやら甘かったらしい。
気を取り直して、詩吟にいってみよう。
と言っても何を歌えばいいのかが分からん。
とりあえず、小さい頃覚えた童謡を小声で歌ってみた。
【ステイルが能力:「陽気の歌」を習得しました】
【ステイルが称号:見習いの吟遊詩人を獲得しました】
……何だ陽気の歌って。
効果を確認してみると、味方一人のLPとSPを少し回復させるらしい。
さっき歌った童謡が明るい感じのものだったから……な訳はないよな、いくら何でも。
見習いの吟遊詩人の特殊効果は特になし。
念の為にセットして次に踊ってみる事にした。
……まだ周囲には人がいるので、こそこそと人目につかないように距離を取って踊り始めた。
毎年、地元の夏祭りに皆で踊るアレだ。
【ステイルが能力:「陽気な踊り」を習得しました】
【ステイルが称号:見習いの踊り子を獲得しました】
……一人で適当にやったら「陽気な~」系統の能力を覚えるのかもしれない。
他人から見れば確かに頭が陽気に見えるんだろうけどな。
さて、陽気な踊りの効果は……味方一人のSPを少し回復させるのか。
陽気な歌と被ってるな。
見習い躍り子の効果はSPとAGIが1%とアップだった。
セットしてからステータスを確認するとAGIが2%、SPとDEXが1%アップしている。
称号同士の効果は重複できるのか。
五つまでしか同時にセットできないのも道理だし、称号、技能、能力をノーリスクで変更できるのも納得できる。
いちいちリスクを用意してたらクレームの嵐になりそうだ。