(9)
モミジ、クレアの二人とフレンド登録をすまし、予め知り合いに教えられていた場所に向かった。
そこには青色の髪の女性が待っていて、俺たちに気づくとにこやかに手を振ってきた。
「とりあえず、エレンを紹介するよ」
「え、エレンさん?」
二人の反応は明らかにエレンの名を知っていた。
初心者お助け要員として名前が出てたんだろうな。
「初めまして、エレンです」
「「は、初めまして」」
二人の動作はどこかぎこちない。
クレアはともかく、モミジは単に驚いているだけか。
「お二人は知り合いだったんですね」
クレアのつぶやきに俺は頷いた。
「自分で言うのもなんだけど、知名度のある人間同士って大抵面識あるんだよ。仲の良し悪しは別にして」
「そういうものなんですね」
二人は感心したようにしきりに頷いている。
「あの、話が見えないんだけど」
エレンは困惑した表情を浮かべている。
二人の掲示板で情報を得たと説明にエレンは納得したかのように頷いた。
「そういうこと。でも、デマも多いから信じすぎない方がいいよ」
エレンもやっぱりそう思うか。
「え,でも……」
警告された二人は案の定、戸惑っている。
少しの間、お互いの顔を見合わせていたけど、意を決したようにモミジがこっちを見た。
「あの、でも、そういうのって失礼にならないんでしょうか?」
口には出さなかったけど、クレアの方も同じ気持ちのようだ。
うーん、気にしすぎと言うか、いい子すぎだなぁ。
目をちょっと離したらあっという間にカモられてそうだ。
「気にしなくていいよ。ゲームと言っても汚い部分もあるし」
「それは先ほどもうかがいましたが……」
決闘云々の事だろうか。
「俺だって投資する価値がありそうかどうか観察しながら親切にしてるしね」
「ええ! そうだったんですか!?」
俺が悪戯っぽく微笑むと二人組は目を丸くした。
それが俺には意外だった。
「あれ? 俺を得させてくれたらチャラって言わなかったっけ?」
「それはそうですけど……」
モミジとクレアは互いの顔を見合わせている。
なるほど、悪ぶったと解釈してたのか。
さすがに買い被りすぎだが……これは場合によっては利用できるかもしれないな。
と、俺が心の中で色々と修正してたらエレンがからかうような表情で口を挟んできた。
「そうそう。私も初心者という新規顧客を確保したいって狙いがあるのよ」
「「えええ!」」
驚くお二人さんと呆れる俺にウインクを飛ばしす。
エレンは結構お茶目だからなぁ。
それにしても、まさか俺たちが百パーセント善意でやってると本気で思っていたんだろうか。
「まあ、女性プレーヤーならではの悩みは俺じゃ無理だから、エレンにって思って連れてきたわけだけど」
「ステイルとは客層が被らないから紹介しあえるのがいいのよねー」
エレンと笑いあうと、二人は固まってしまってる。
「そうだ、ステイル。今回は自分で作ったアイテムをカスタマイズできるみたいよ」
「ええ! マジで?」
思わず叫んでいた。
公式サイトには掲載されてなかった情報である。
「ほら、このマントの花模様は私が自分で入れたの」
エレンが取り出したのは白地に赤い薔薇の模様が入ったマントだった。
「そうなんだ。……何で公開してなかったのかなぁ」
俺が首をひねるとエレンは苦笑しながら答えた。
「悪戯心じゃない? プレイしてみて初めて分かる事で驚かせるっていう」
「……アルゴ社ならありえそうだなぁ。そしてまんまと思惑通りになってる気がする」
アルゴ社とはそういう会社だった。
少なくとも俺たちはそう認識している。
新作の売りになりそうな事をあえて隠すとか、他の会社なら考えられない事だった。
「ところでステイル、この後はどうする予定なの?」
「んー、取り合えずはこの二人を連れて戦闘とか諸々やってみようかと」
「なるほど、それじゃこれを二人に渡しておくわね」
さっき見せてくれた赤い薔薇の模様の入ったマントを取り出す。
「えっ、受け取れませんよ!」
恐縮して首を振る二人にエレンは言い募る。
「これはお近づきのしるしよ。感想を聞かせてくれたらそれが私の利益なの」
「ここは受け取っておきな」
俺が援護すると二人は躊躇いながらも受け取った。




