泉3
土曜日。私は鈴花の家の前にいた。
私は毎週欠かさず、鈴花の家に遊びに行っている。小さい頃はよくお互いの家にかわりばんこで遊びに行った。鈴花はいつも、母親が作ってくれたというお菓子やパンを持ってきていた。私はそれがすごくおいしかったのをよく覚えている。
しかし、今の鈴花はあの頃の鈴花と違っていた。私が家に訪ねても、鈴花は受け入れてくれず、いつも鈴花のお母さんに追い返される。ひどい時には、二階の部屋から目覚まし時計やガラスのコップが落ちてきたこともあった。
また今日も追い返されるに違いない。
私は鈴花の家に背を向けて帰ろうとした。その時、
「泉!」
鈴花の声だ。
私は後ろを振り返ると、鈴花が二階の窓からこちらを見ていた。鈴花はパジャマ姿のままだった。
「泉、上がってきてもいいよ・・・。」
私は何ヵ月ぶりかの鈴花の部屋にびっくりした。部屋の扉を開けた瞬間、辺り一面がゴミの山だったからだ。
食べかけのスナック菓子やチョコレートがテーブルの上に置かれ、チェックや花柄のパジャマがそこらへんに脱ぎ散らかしてある。お菓子の袋やジュースの空き缶が入ったビニール袋からはひどい悪臭が漂っている。不思議なことに、机の上だけが綺麗に片付いていて、一台のパソコンが起動しっぱなしだった。
「適当に座っていいよ。お菓子もあるから、食べていいよ。」
そういうと鈴花は、私の前にポテトチップスの袋とペットボトルに入ったコーラを置くと、鈴花は布団の中に潜り込んだ。
「鈴花?具合でも悪いの?」
「夜遅くまでパソコンやってて寝不足なの。しばらく寝かせて・・・。」
布団の中から鈴花のか細い声が聞こえてくる。私は仕方なくコーラを一口飲んだ。その時、
「ピロリーンッ」
パソコンの方からなにやら音がした。鈴花は布団から跳ね起き、すぐさまパソコンに向かった。パソコンのキーボードをカタカタと打っている鈴花は、どこか不気味な笑みを浮かべていて、私はゾッとした。
「鈴花、何してるの?」
「怨みネットっていうサイトの掲示板に書き込みをしてるの。」
「怨みネット?」
「怨みや憎しみの感情をこのネットに書き込んで、ネット仲間とこうしておしゃべりするの。」
鈴花は私の顔を見ずに、パソコンの画面に夢中だった。
私はパソコンの画面を見た。そこには画面いっぱいに書き込みがされていた。中には『○○死ね』や『あの女、許せない!』など、恐ろしい書き込みも書かれていた。
「泉もやる?面白いよ。」
鈴花が私の方を向いた。今日初めてちゃんと見た鈴花の顔は恐ろしかった。パソコンの光のせいでもあるが、目にはくまがくっきりとできていて、顔色も悪く、とても不気味だった。
「いい。私、こういう怖いものは苦手だから。」
その時、足に何か当たった。下を見ると、それは電池パックが外れた鈴花の携帯だった。
「鈴花、携帯どうしたの?これ、電池パック外れているよ?」
鈴花はすでに自分の世界に入っているため、返事を返してはくれなかった。
「・・・私、帰るね。また、遊びに来るから。」
私は鈴花の母親に挨拶をして、木崎原邸をあとにした。