表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

泉2


二階の女子トイレの個室。洋式の便器の蓋の上に座る私は、鈴花からのメール返信を待ち続けた。私は、携帯の蓋を何度もパカパカ開いては受信ボックスを確認した。



しかし、私の期待とは裏腹に、鈴花からのメールは一向に来なかった。


授業終了のチャイムが鳴った。私はトイレから出て、教室に戻った。これで授業をサボったのは今日で五回目だ。



教室に戻ると、真崎さん達が上田さんの周りをぐるっと囲み、チョークの粉で真っ白に汚れた黒板消しを投げ続けた。上田さんの紺色の制服はチョークの粉で真っ白になっていた。



私は真崎さんに気付かれないように、こっそりと自分の席に戻ろうとした。しかし、真崎さんはそんな小さなことも見逃さなかった。



真崎さんは私の肩を掴み、私の耳元でこう言った。



『ねぇ、流川もやろうよ。』



全身から冷や汗がどっと出た。


思いも知らない事態に私はどう対応したらいいかわからなかった。そんな私のことはそっちのけで、真崎さんは私の腕を引っ張り、上田さんの前まで連れていく。上田さんは捨てられた子犬のように怯え、今にも泣きそうな目で私を見る。



『上田さん、汚れちゃったから綺麗にしてあげて。』



真崎さんは取り巻き達に目配せをすると、取り巻きの一人がどこからか水の入ったバケツを持ってきた。真崎さんの指示で、取り巻きは持っていたバケツを私に渡した。


やれと言われていることはわかった。この水を上田さんにかけろということだった。



『どうしたの?早くやりなよ、流川。』



真崎さんは私の背中を小突く。



『そんなことしちゃいけない。いじめなんて卑怯なことしちゃだめ!』



『やらないと自分もいじめられるんだよ。それでもいいの?』



今、私の頭の中では二つの思考が戦っていた。一つは、いじめをしてはいけない心。もう一つは、刃向かえば自分もいじめられてしまうという心。どちらも選べなかった。



私はふと、上田さんの顔を見た。いじめられていた頃の鈴花とだぶって見える。



私は怖くなった。もしかしたら、明日からのいじめのターゲットは私に・・・・。




そんなの嫌だ!!




『うわあああああ』



私はバケツを思い切り降り下ろすと、中に入っていた水は上田さんに命中した。上田さんは全身びしょ濡れで、髪や顎から雫が垂れ落ちる。その中に涙も混じっていた。


真崎さんは私の肩に肘を置く。



『流川。あんたもけっこうやるね。』



私ははっと我にかえった。私の手からバケツが落ちた。



私・・・今・・・何をしたの・・・?



私も・・・いじめをしてしまった・・・。





私は急に涙が溢れてきて、ものすごい勢いで教室を飛び出した。教室から聞こえてくる真崎さん達の笑い声に、私は耳をふさいだ。



再びトイレに駆け込んだ私はトイレットペーパーをガラガラと勢い引っ張り出し、溢れ出る涙と鼻水を拭き取った。そして、自分のしたことに深く傷つき、その場で崩れ落ちる。




私はなんてことをしてしまったたんだ。自分も真崎さんのように卑怯なことをしてしまうなんて・・・。



私は次の授業開始のチャイムが鳴っているのにも気づかず、泣き崩れていた。



授業サボり、これで六回目・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ