渡さなかったから終わったのか、渡しても終わっていたのか
※少しだけ大人向けの恋愛の話です。
伝えなかった気持ちと、伝えなかったから残ったものを書きました。
部屋の奥から、それは出てきた。
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古い箱の中、何冊かの本に紛れて、一通の封筒。
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見覚えがあった。
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開けなくても分かる。
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自分で書いたものだから。
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ラブレターなんて、今どきらしくないと思う。
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でも、そのときは、それしかなかった。
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スマホで送るには軽すぎて、
言葉にするには重すぎた。
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だから、書いた。
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書いて、書いて、書き直して。
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何度も消して、何度も残して。
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そのくせ、最後まで“好き”とは書かなかった。
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逃げ道を残したまま、封をした。
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結局、それを渡すことはなかった。
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理由は、はっきりしない。
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タイミングがなかったのか、
勇気がなかったのか、
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多分、その両方だった。
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あのときの関係は、曖昧だった。
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友達以上、とは言えない。
でも、他の人とは違う距離だった。
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よく一緒にいたし、
よく話したし、
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帰り道も、自然と同じ方向になっていた。
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それでも、決定的な何かはなかった。
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「これって、どうなんだろうね」
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一度だけ、そんなことを言われたことがある。
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「どうって?」
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分かってて聞いた。
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「分かってるでしょ」
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そのとき、何も言えなかった。
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何か言えば、変わってしまう気がしたから。
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変わるのが怖かった。
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だから、そのままにした。
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そのままにして、
何も起こらないまま、終わった。
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気づいたら、会うこともなくなっていた。
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特別な別れがあったわけじゃない。
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ただ、連絡が減って、
予定が合わなくなって、
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気づいたら、いなくなっていた。
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ラブレターは、そのあともずっと持っていた。
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捨てる理由もなかったし、
残す理由もなかった。
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ただ、そこにあった。
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今さら渡すこともできない。
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相手がどこで何をしているのかも、知らない。
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結婚しているかもしれないし、
もう名前すら思い出されていないかもしれない。
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封を開ける。
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紙の匂いが、少しだけ昔を連れてくる。
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文字は、思っていたより幼かった。
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遠回りで、言い訳みたいで、
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それでも、ちゃんと残っていた。
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一部だけ読む。
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全部読む気にはなれなかった。
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あのとき言えなかったことが、
そのまま残っている気がして。
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手紙を折り直す。
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封筒に戻して、少しだけ考える。
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捨てるべきか、残すべきか。
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どっちでもいい気がした。
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もう、何も変わらないから。
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それでも、
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ゴミ箱には入れなかった。
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意味はない。
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ただ、
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ここまで残っていたものを、
自分の手で消す理由もなかった。
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箱に戻す。
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少しだけ、位置を変えて。
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次に見つけるときは、いつだろうと思う。
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そのときも、多分、同じことを考える。
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渡していれば、何か変わっていたのか。
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それとも、
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渡しても、何も変わらなかったのか。
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答えは、きっとずっと出ない。
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だから、
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このままでいいと思った。
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出せなかったラブレターは、
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出さなかったからこそ、
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ここに残っている。
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——あなたなら、あのとき、渡していましたか。
読んでいただきありがとうございます。
この話は、
「伝えなかったから残ったもの」と
「伝えていたら変わっていたのか」
をテーマに書きました。
もしよければ、
・渡すべきだったと思うか
・渡さなくてよかったと思うか
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