キスしているところみた?
ショッピングモールの通路を並んで歩いている2人。
奈央子に袖をつかまれ、振り返るユージのすぐ目の前に、奈央子の顔。
奈央子の目の前にもユージの顔がある。
目が合う。
ユージの胸が、ドクンと鳴った。
「ユーちゃん、そうゆうこと大人の女性に言っちゃダメよ。」
そう言って、人差し指の先で、ユージの唇をそっと押さえた。
ドックン ドックン ドックン
ユージの心臓が大きく振動し、またたく間に身体中へ伝わった。
「あ、お店はあそこね」
あれ?いまユーちゃんって、言わなかったか?とユージは心でつぶやいた。
奈央子は何も考えずにとった行動だが、ユージにとっては、生まれて初めての経験だった。
ユージの奈央子に対する小悪魔的な言動によって、振り回されることが多い奈央子であったが、今回の一撃でユージの女性に対する接し方が変化するかも知れない。
奈央子に話しかけようと、おばさんと言おうとした瞬間、脳がおばさんという言葉を否定した。
ユージの頭の中は、おばさん、違う、奈央子、いや違うとぐるぐる回り、整理がつかないまま出た言葉が、
「奈央ちゃん!」
「!」
「!」
「!」
3人の女性が目を丸くした。2人は女子高生らしき人物。
「あ、何で!なんでリコがいるんだよ!」ユージが叫ぶ。
「ユージ、おばさんのこと、奈央ちゃんって、呼んだ?」とリコ。
そのまま間髪入れずにご挨拶。
「おばさん、こんにちは!」
「あら、リコちゃん!こんにちは」
「そちらの方はお友達?」
「はい!カナと言います!よ、よろしくお願いします。わ、私、ア、アキラ先輩のファンです!応援しています!」
頭を深々と下げる。
「まあ。ありがとう。アキラの母です。」
「めんどくさっ。ラブコメかよ。」
奈央子との甘い時間を邪魔されたユージは面白くない。
「何しに来たんだよ、リコ。」
リコとは、2つ下の妹。もう1人はリコの親友のカナ。兄をユージと名前で呼ぶ。
「ユージ、奈央ちゃんって、誰?」
しつこく聞く。
「奈央子ちゃんだよ」
頭が混乱しているユージ。
リコ「は?」
そこはおばさんだろと心でツッコミをいれる。
奈央子が吹き出しながら、「どうしたの?ユーちゃん」
リコ「は?ユーちゃん?」
奈央子がユージくんと呼ぶのに聞き慣れたリコが光速のツッコミ。リコは頭の回転が早く、とにかく鋭い。
ユーちゃんと言い、しまったと思った瞬間のツッコミだったので、奈央子は一瞬やられたと思ったが、
「最近、ユーちゃんと呼ぶことも多いわね。」
と、その場を取り繕った。
「リコ何しに来た?」
「ママがラーメン半額券あるから、期限切れる前にカナと食べできなさいって。」
勘弁してよ、ママ。よりによってこんなシーンを見られるなんて。リコに見られたじゃん、と心が叫ぶ。
「ストッキング買いに行きましょう。
リコ、お前らあっちに行って好きなもの買え。」
「はーい」
ついてくる、リコ。
リコから離れようと、ユージは奈央子の手を繋ぐ。
「ふーん、なるほどねぇ」とリコ。
「なんだよ!ついてくるな!」
リコが切り返す。
「わたし、ふたりを応援するね!だって、ふたりともさっきから、ちゃん付けで呼びあったり、キスしたり、手を繋いでるもの」
「お似合いです!」
カナが一番ヤバいツッコミ。
「は!なんでだよ。キスしてねえよ!カナも何がお似合いだよ!」
「おばさんがユージの唇を。キャー」
アウトぉと、聞こえたようだった。
はぁ、見られてたか。
奈央子は嬉しそうに笑ってる。
奈央ちゃん、何で否定しないんだよ。と、ユージが奈央子を見る。が、嬉しそうな奈央子は可愛く見えた。
結局、ワイワイ言いながら、ストッキングを無事買った。
奈央子が、もうお昼食べようかしらと提案する。
「ラーメン食べたい」とリコとカナ。
「じゃあ、奈央ちゃん、俺たちは牛丼。リコたちはあっちに行け!」
と、ユージが言いかけて、リコが、
「おい、そこの筋肉だらけのおっさん。牛丼食いたきゃ1人で食え。デートで牛丼食う奴がいるか。だから、彼女ができないんだ。」
「誰が筋肉だらけだ!ラーメンも牛丼も似たようなもんだろ!」
確かに!
まあ、ユージに彼女が出来ないのはこんなところもあるからだが、何かにつけて、ユージ、ユージと名前を呼んでまとわりつくので、見た目可愛いリコを彼女と勘違いする女子もいて、これが彼女が出来ない要因の一つになっていることも付け加えておく。
結局、みんなでラーメン食べた。半額だった。
そして、この出会いがアキラの運命を変えることになる。
「今日、アキラがいるから、これから3人で家に遊びに来ればいいわ。カナさんのこと、アキラに言っておくわね。」
「キャー、ホントですか?お母様!行きます!」とカナが絶叫する。
ラブコメかっとユージの心のツッコミ。
今日二度目である。
「奈央ちゃん、でも家、スペースある?」
大丈夫よ、と奈央子が言いかけたとき、
リコがすかさず、
「相変わらず失礼なことを考えもなく言うなぁ、この脳みそ筋肉は。だから女子にモテナイんだよ。」
リコ、お前に言われる筋合いはない、そしてお前にだけは言われたくはない!と心のなかで叫んだ。
もっと奈央子と2人きりでいたかったと言うのが本音だが、飛び上がって喜ぶカナを見て、コロコロ笑う奈央子のことが、年の差関係なく、可愛らしく思え、そして、カナのためにも、ま、いっかと思うユージだった。
とんだ邪魔が入ったが、ユージと奈央子の距離は、一気に縮まった。
次回は、アキラとカナの運命の出会い。お楽しみに。




