筋トレ男子がママと言っていいですか?
休日の朝。
「今日、ユージくんとお母さんが来るのよね。お父さんじゃないよね。」
「ん?いや、あれ?どっちだったかな?」
「頼りにならないわね。」
「テレビ、どこに置いて貰おうかしら。」
「あ、サイズ聞いてない。」
「え、じゃあ、台に置けなければどうするの?」
「テーブルに置こうよ。」
「呆れた。あなたをガサツに育てたつもりはないわよ。」
とか、言いながら、持ってきてくれるテレビを待つ奈央子はソワソワしてる。
「フー」
ユージとその母を待つ奈央子は落ち着かない様子。
ピンポーン
10時過ぎに川伊家2人、ユージと母の美香がテレビを持ってきた。
「水島さん、ご無沙汰しています。いつもユージがお世話になっています。」
「こちらこそ、ありがとうございます。本当に助かります。」
一人で軽々とテレビを抱えて、部屋に入ってきたユージ。
「おばさん、こんにちは。どこに置く?」
「ちょっと待って。家のテレビの倍あるわ。スペースは有るけど、台が小さいわね。」
「おばさん、待っててよ。アキラ一緒に来て。」
「川伊さん?」
奈央子はユージの母美香を見る。
「フフ。台も持ってきたから、気に入ったら使っていいですよ。」
2人で台を持ってきた。
「サイズも壁の雰囲気も、ピッタリだ」
4人で拍手した。
「川伊さん、、」
お礼を言おうとした
「気になさらないでください。ほんとにユージがお世話になって。この子、昨日からソワソワして。いつも、アキラくんに会ってるのに、どうしたのかしら?」
ユージは母の言葉が、冷やかしに聞こえた。
自分はソワソワしてる自覚がないのに。
「ママ、うるさいな。そわそわなんかしてないよ。」
ん?
ママ?
アキラと奈央子は、ユージを見た。
しまったぁと真っ赤になるユージ。
人前では、おやじ、おふくろと言っていた。
なのにママ。
朝から筋トレしているストイックな男がママ。
スポーツマンと呼ばれることを何よりも誇りにしている男がママ。
アキラが、笑いを堪えて、奈央子に言った。
「ママ、いいテレビだね」と言いかけて、爆笑してしまった。
川伊家の子育ては、押しつけをしないである。子どもであろうとなんであれ、子どもにも自我があり、それを大事にする。親の役目は見守りと応援。道を外れたら、軌道修正するだけだ。
ある時期が来ると、ママ、パパという呼び方を直す家庭もあるが、それをしなかっただけ。
それだけのことである。
恥ずかしくも何ともない。それでいいのだ。
でも、ユージは顔が赤くなった。
「アキラ、頼む、内緒な」
「ヤダ」
「じゃあ、テレビ返せ」
「やだよ」
凄まじい速さでオトナになったのは身体のほうで、まだまだ子どもか。
テレビの設置も無事終わったところで、奈央子が切り出した。
「何かお礼をさせてください。」
「いえ、こちらこそ処分に困っていたテレビなの。お互い様です。」
「それでは申し訳なくて気がすまないの」
美香はうーんと言う表情を浮かべ、
「だったら、そろそろ愛知県の予選が始まるのでユージのストッキングを一緒に見てほしいの。」
「アキラはニヤニヤし、俺買ったから、2人で行きなよ。ママ、良いよね」
「アキラー、テメー!!」
「ユージくんがよければおばさんはいいわよ。」
少しはにかみながら、ユージを見る。
「うん、おばさん、お願いします」
冷静に奈央子を見れば、ユージに想いがあるのはわかりそうだが、ユージの母はまだ気がついていないようだ。それもそのはず、肝心なユージ自身が自分の気持ちに気がついていないのだから。なんとなくだが気がついているのはアキラである。
愛知県予選は来月の抽選会を経て、月末に1回戦が始まる。
ユージにとって、辛く試練の夏が始まる。当然ユージがそれを知る由はない。
つかの間の奈央子との甘いデートは次の章で。




