特別編:神様の観測ノート、あるいは愛すべき愚か者たちの記録
これは特別編で神様視点です。
やれやれ。
僕は天界の雲の上に寝そべり、黄金のリンゴをかじりながら、下界のモニター――いや、僕の被造物たちが蠢く現実を眺めている。
あいつだ。あの生意気な少年。
僕が提示した『十億円』も『魔法のチョコ』も、ゴミ箱に捨てるような顔で蹴り飛ばした変わり者。
「……信じられないね。あんな酸っぱいだけの飲み物で、あんなに幸せそうな顔をするなんて」
三宅とかいう女の子が作った、計算違いのレモンティー。
僕なら、一口飲んだだけで細胞が若返り、永遠の美しさを約束する神の雫に変えてやれるのに。あいつは「これがいいんだ」と言い張って、悶絶しながら飲み干した。
理解不能だ。
僕が用意した『完璧な脚本』通りに動けば、三宅は挫折することもなく、少年は苦労することもなく、二人は永遠の幸福を手に入れられたはずなんだ。
なのに、あいつらはわざわざ『失敗』を選び、わざわざ『遠回り』を楽しみ、挙句の果てにはゲームセンターなんていう、確率に支配された混沌の場所で、安っぽいぬいぐるみに一喜一憂している。
「非効率。非論理的。そして、救いようがないほど……美しい」
僕は指先を動かし、少しだけ天候のパラメータをいじってみようかと考えた。
突然の雨を降らせて、二人の仲を無理やり進展させる『イベント』を発生させるのは簡単だ。
だが、僕は止めた。
あいつに「余計なことをするな」と睨まれるのが癪だからじゃない。
……あいつが、自分の頭で考えて、自分の足で三宅の元へ駆け寄り、自分の言葉で彼女を雨から守る――その『プロセス』とやらを見てみたくなったからだ。
「チート(正解)を与えないことが、これほど面白い観測対象になるなんてね」
僕はリンゴの芯を放り投げ、再びモニターに目を戻した。
神様である僕が、たかだか数十年で消える人間の、たかだか数分間の寄り道に、これほど心を動かされている。
認めよう。
僕の書き換える余地のない、あいつらだけの『不完全な物語』。
それは、退屈な永遠を生きる僕にとって、最高の贅沢品だ。
「さあ、次はどう動く? 僕の予想を、また『考えて』裏切ってみせてくれよ」
神様は、少しだけ楽しそうに唇を歪めた。
空の上から、けれど決して干渉はせず。
世界で一番口の悪い「最初の読者」として、彼は二人の行く末を見守り続けることにした。
【あとがき:神様より】
君たちは、僕の誘惑に勝てるかな?
楽な道と、苦しいけれど自分の道。
ほとんどの人間は楽な道を選ぶ。でも、まれに現れるんだ。あいつのような、面倒くさくて暑い奴がねーーー
??? もう登場させませんからね
さて、地上では雨の匂いがしてきたよ。
傘を持っていない彼らがどう動くか……。僕の脚本なしで、君ならどう結末を書く?




