放課後の不確定要素、あるいは三宅さんと歩く境界線
まぁ神様の行動をひかえさせましょうかね
校門を抜けると、いつもの見慣れた駅前通りが広がっていた。
でも、今日の空気は少しだけ違って見える。神様が提示した「完璧な脚本」を破り捨てた後の世界は、どこか輪郭がはっきりとしていて、それでいて危うい。
「……ねえ。あなたいつも、放課後は真っ直ぐ帰るの?」
三宅さんが、歩調を合わせながら訊いてきた。
彼女の白いブラウスが、夕方の風にふわりと揺れる。
「いや。たまに寄り道して、安いコーヒー飲んだり、古本屋を覗いたりするくらいかな。三宅さんは? 塾とか、ピアノのレッスンとかあるんだろ」
「今日は、全部キャンセルしたわ。……今の私には、一人で鍵盤に向かうよりも、やるべきことがある気がして」
彼女がチラリと僕を見た。その視線に、心臓が跳ねる。
あいつ――神様は、今頃どこかでこれを見て笑っているんだろう。
『ほら見ろ、効率が悪い。寄り道なんて人生の無駄だ。僕なら一瞬で君たちを最高級のレストランに招待してあげられるのに』
そんな皮肉な声が空から降ってくる気がして、僕はあえて空を見上げずに、隣を歩く彼女だけを見つめた。
「……じゃあさ。もしよかったら、少し歩かないか? 三宅さんが絶対に行かなそうな、効率の悪い場所があるんだ」
僕が案内したのは、駅の裏手にある寂れたゲームセンターだった。
三宅さんは入り口で足を止め、信じられないものを見るような目で中を見つめた。
「……ここ、何? 騒がしいし、空気も悪いし。……計算外の場所ね」
「だろ? ここは『正解』がない場所なんだ。コインをいくら入れても、何も手に入らないかもしれない。でも、その無駄な時間に熱中するのが、人間なんだよ」
三宅さんは眉をひそめたが、僕の袖を掴んで中へと足を踏み入れた。
クレーンゲームの景品を見つめる彼女の横顔は、真剣そのものだった。物理法則を計算し、アームの角度を測る。
神様の力を使えば、景品なんて勝手に落ちてくる。でも、三宅さんは何度も失敗して、その度に「もう一回」と悔しそうに財布を開く。
その必死な姿は、どんな100点のテスト用紙よりも輝いて見えた。
「……取れた! 見て、取れたわ!」
小さなぬいぐるみを掲げて、三宅さんが子供のように笑った。
それは、彼女が自分の力で、自分の意志で手に入れた、世界に一つだけの「無駄な宝物」だった。
空の向こうで、誰かが舌打ちした気がした。
いいざまだ、神様。
僕たちはこうやって、お前の知らない「喜び」を一つずつ拾い集めていくんだ。
神様は見ています。二人がどれだけ無駄な時間を過ごし、どれだけ非効率な喜びに浸っているかを。
でも、その「無駄」こそが、神には決して理解できない人間の美しさです。
三宅さんが手に入れたぬいぐるみは、どんな魔法のアイテムよりも彼女を笑顔にしました。
皆さんは、最近「無駄だけど最高に楽しいこと」をしましたか?




