第二十章:静寂の食卓、あるいは家族という名の断絶
リビングには、場違いなほど穏やかな笑い声が響いていた。
再婚を控えた父さんと、三宅さんの母親。二人の間には、温かな未来への期待が満ちている。
けれど、その対角線上に座る僕と凛の間には、絶対零度の沈黙が流れていた。
「律くん、これ、凛の好物のハンバーグなんだけど、口に合うかしら?」
「……あ、はい。美味しいです」
味なんてしなかった。
隣に座る凛は、一口も箸をつけず、ただ自分の膝の上で拳を握りしめている。
学校で見せる「鉄面の美女」ですらない。ただ、世界から拒絶された子供のような、痛々しいほど小さな背中。
「……あの、お母さん」
凛が、震える声で口を開いた。
「……私、まだ心の準備が……。如月くんと家族になるなんて、そんなの、急すぎて……」
「あら、凛。学校でも仲良くしてるって言ってたじゃない。律くんなら、きっといいお兄さんになってくれるわよ」
「いいお兄さん」。
その言葉が、僕の胸を深く抉る。
神様を否定してまで欲しかったのは、そんな肩書きじゃない。
僕は、隣で今にも泣き出しそうなこの少女を、「一人の男」として支えたかったんだ。
凛がガタッと椅子を引いて立ち上がった。
「……ごめんなさい。気分が悪いので、先に失礼します」
彼女は僕と目を合わせることなく、逃げるように部屋を出て行った。
バタン、と閉まったドアの音が、僕たちの関係に終止符を打たれたような気がして、僕はただ、冷え切ったハンバーグを口に運ぶしかなかった。




