第十五章:氷の再構築、あるいは完璧という名の孤独
翌朝、教室の空気は昨日までと明らかに違っていた。
登校してきた凛を一目見て、クラスの連中がわずかに息を呑む。
ポニーテールはいつもよりきつく結い上げられ、制服の着こなしも指先一つ乱れていない。その瞳には、親しみやすさの欠片も、グミを食べていた時の年相応の緩さもなかった。
かつて名門・翠ヶ丘で、周囲との間に高い壁を築いていた**「鉄面の美女」**が、そこにいた。
「おはよう、三宅さん」
僕が声をかけると、彼女の歩みが一瞬だけ止まった。
けれど、こちらを向くことはない。
「……おはようございます。如月くん」
「如月くん」。
昨日の夕暮れまで、あんなにもどかしく、そして大切そうに呼んでくれた僕の名前は、他人に聞かせるための記号へと戻っていた。
昨日、彼女を追いかけなかった。それが彼女のプライドを、彼女が守り抜きたい聖域を尊重する唯一の方法だと信じた。けれど、実際に目の当たりにするこの距離感は、心に鋭い楔を打ち込まれたように痛む。
休み時間。いつもなら僕の席の近くに来て、カバンに隠したお菓子の話を振ってくるはずの彼女は、ただ静かに参考書を開いていた。
「三宅さん、昨日の数学のノートなんだけど……」
「……ごめんなさい。今、計算中なの。後にしてくれる?」
氷のような声。周囲で僕たちの噂話をしていた連中が、「なんだ、やっぱり二人の仲なんてデマじゃん」「三宅さんが下の名前で呼ぶなんて、あり得ないよね」と、手のひらを返したように囁き合う。
凛はその噂さえも、聞こえないふりをして完璧に無視している。
それが彼女なりの、世界から自分を守るための戦い方なのだ。
楽な道はいくらでもあったのかもしれない。でも、僕は自分で選んだ。
自分の力だけで、彼女の本当の笑顔に辿り着くと。
だから、耐えるしかない。
この、喉の奥が焼けるような沈黙を。
放課後。一人で図書室へ向かう彼女の背中を見送りながら、僕は自分の拳を強く握りしめた。
氷の壁は、以前よりもずっと分厚く、高くなっている。
それでも僕は、壁の向こう側で息を潜めているはずの「本当の凛」を、絶対に見捨てたりはしない。
律が昨日あえて追いかけなかったことで、凛さんは「あ、如月くんもやっぱり私を『特別』だとは思っていなかったんだ」という誤解と、あるいは「自分を守ってくれた」という感謝の狭間で揺れているのかもしれません。←なぜ筆者がわからないのでしょうか。
「如月くん」と「三宅さん」。呼び方が戻ってしまったこの重苦しい空気を、どうやって打破しましょうか。




